プロのための養豚アカデミー
Pig School for Professionals
第三者農場査定での米国流福祉度ベンチマーキング
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福祉・動物ベンチマーキング
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福祉・飼育スタッフ
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福祉・施設
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福祉・記録
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福祉・豚の輸送と移乗
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ポークの安全度ベンチマーキング
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農場査定の事前準備
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代表サンプルの頭数の決め方と抽出法
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農場査定の実際
米国ポーク生産者協議会(NPB)は、38ページからなる第三者農場査定標準(Common Industry Audit Standards)を発刊しました。それは、専門動物査定人認定協会(Professional Animal Auditor Certification Organization, Inc.)が作成したものです。養豚の福祉とポークの安全性の向上と農場の群健康を守るためのガイドラインです。第三者による農場査定は米国ポーク品質保証プログラム(PQAプラス®)とのセットです。
この農場査定は、絶対の5条件(5設問で1問でも満たさないと即に失格)以外は、各設問に点数がつきますので、福祉度のベンチマーキングができるようになっています。構成と設問数と配点数は、福祉・動物ベンチマーキング(30問で245点: 51%)・飼育スタッフ(8問で40点: 8%)・施設(10問で50点: 10%)・記録(17問で34点: 7%)・輸送と移乗(9問で75点: 15%)そしてポークの安全度(14問で46点: 9%)です。可能最高得点は490点で100%です。これを可能目標値としてベンチマーキングが実施されています。米国の各項目の平均はどれぐらいなのか興味のあるところです。今回は日本の生産者にも有用と思われる部分、福祉・動物ベンチマーキングの設問を以下に紹介します。
なおウエブサイトは以下です。https://porkcheckoff.org/certification-tools/producer-tools/common-swine-industry-audit/
なお本ガイドでは、科学的代表性を確保するためのサンプル抽出頭数と系統抽出法について詳述しています。農場査察ですべての豚を観察・評価することは難しいということで、統計的サンプリング法で、代表サンプルを抽出し、豚を観察評価することが大切ということです。最後の方に掲載しています。
5つの最重要動物福祉指標
最初に5つの最重要な設問1-5があり、それらには点数はありません(下の表)。もしこれらの設問で、1つでも容認できないものがあれば、その農場は、自動的に失格となります。失格となった場合は、生産者は是正措置の行動計画報告書をまとめ、そのなかで是正済か、将来是正する計画が実施中であることをはっきりさせます。
1)意図的虐待とネグレクトがない(最重要設問1)
ねらい:意図的虐待またはネグレクト(悪意ある無視)が農場査定中に、農場のすべての豚で観察されないこと。意図的虐待またはネグレクトの定義は、正常と容認されている生産の実践の外にあるような、意図的に痛みと苦しみの原因となる以下のような行為です。
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動物の弱い部分、目や耳や生殖器や直腸に意図的に電気棒をあてる
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過剰な電気棒の使用
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動物への容赦ない殴打、拳で動物を殴ること、足で蹴ること、動物を扱う道具(ソート板、ガラガラ棒など)で叩くこと、または固いもので叩き、痛みや出血や外傷の原因になることを含む
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故意に動物用のゲートで挟む
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豚を移動させたり、トレイラーから降ろしたり出荷する時に高いところに追い込む(動物を落ちるように仕向ける)
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動物を体の一部を持って引きずる
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意図的に豚を落としたり投げたりすること
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手や機械を使って、豚を他の豚の上に容赦なく追い上げる
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ネグレクト(悪意ある無視):飼料や水やケアを与えないことで、動物を衰弱や死に至らしめること
もし意図的虐待とネグレクトが、査定者が目撃したら、すぐその状況を中止させるべきです。そして農場の代表者、オーナーと管理者に知らせます。自動的に査定失格となります。
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2)タイムリーな安楽死が実施されている(最重要設問2-5)
ねらい:動物がタイムリーに安楽死されていること。「タイムリー」の定義は、2日間の集中的治療とケアでも応答または改善の兆しがない場合です。以下の場合は即に安楽死させるべきです。
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重傷または歩行不能で回復の見込みのない豚。歩行不能な豚とは、起き上がれない、または支えられ起き上がっても2肢で体重を支えられない豚
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歩行不能でかつボディコンデションスコア1(非常な削痩状態)の豚
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ヘルニアが穿孔(穴が開いた)した豚
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ヘルニア部分が潰瘍化または壊死化した豚
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起き上がった時に、ヘルニア部分が地上にくっつくほど大きくなり、歩行が困難でヘルニアが潰瘍化した豚
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子宮脱・膣脱・直腸脱で治療せず壊死状態になった豚
農場査定では安楽死のプロセスで、動物が人道的に安楽死させられていることを観察すべきです。そして飼育スタッフは、安楽死の方法が使用された後、動物が無感覚になり死ぬことを確認するとことを観察し、その後施設から移動します。査定者に機会がある時は、その農場の安楽死の方法を観察します。農場査定の前に豚が安楽死させられていて、その豚が無感覚だが死んでいない状態であると、査定者が判断すれば、設問5は「失格」となります。
<これ以後の設問は点数が付きます。ワークシートに沿って(表)、繁殖用と非繁殖用に分けて、頭数と該当割合、そして合計頭数と割合を算出します。査定の点数は、合計を基に計算されます。なお繁殖用のみ該当するもの、非繁殖用のみ該当するものあり>
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3)動物の扱い
ねらい:米国PQAプラス®で推奨されているように、日齢と状況に応じて動物が適切に扱われていること
動物の扱いを査定者は必ず観察すべきです。もし査定中に動物の扱いが行われていなければ、査定者は飼育スタッフに、その農場における動物扱いのやり方を見せたり、明らかに示すことを要望するべきです。
動物の扱いでは、豚は正常のペースで歩行させるべきです。一方、攻撃的な動物扱いは避けるべきです。攻撃的な扱いの実例は、電気棒の過剰使用や不適切使用、非常大きな声や音で豚を追い立てる、豚を急速に動かそうとする、1グループで多数の豚を同時に動かす、移動用シュートやランプや通路で豚を過密にする、 荒っぽい身体的コンタクト(ソート板で殴打など) です。
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哺乳豚と離乳子豚の扱い:これらの子豚は群にして動かすか、または両手で一頭ごと抱えて動かしたり、カートに入れたりして動かします。子豚を降ろす時は、飛節の上から後ろ足をつかんでカートや通路やペンにやさしく降ろします。子豚を地面に離す時、子豚は2点の足(例、2本前肢)を地面についていなければなりません。子豚を放り投げたり、耳や尻尾でつまみ上げてはなりません。長い時間、子豚を抱える時は、扱う人の身体にくっつけてあばらの下から抱えるか、両方の手で後肢を抱えるべきです。子豚の安全のためには小さいグループで動かすべきです。左写真はPQA plus®から。

肥育豚の扱い:肥育豚のグループの大きさは、豚が動かなくなっても、取り扱いは容易なぐらいの小さなグループにすべきです。
繁殖用豚の豚の取り扱い:グループとしてコントロールできるぐらいの小さなグループにすべきです。安全で人道的で効率に、ソートしたり動かしたりするための動物扱い用具は、米国では市販されています。飼育スタッフはこういう用具の適切な使用ができることを明確に示す必要があります。雄豚用の首輪や身体締め具は豚のサイズに合ったものである必要あり。
電気棒は動物を動かす時、主要な道具として使用すべきではありません。もしどうしても使用するなら背中の肩の後ろあたりで1秒以内とすべきです。そのあと同じ豚への2回目の使用には5秒以上の時間をとる必要があります。25%を超える豚に電気棒を使ってはなりません。また歩行している豚には3回以上使用してはなりません。
4)飼育密度
ねらい:90%以上の豚が適切な飼育密度で飼育されていること。適切な飼育密度とは、豚が完全に横臥できること、横の豚に重ならない横臥からの容易な立ち上がりです。
特に個別ストールで飼育されている豚は完全横臥できること、そのためには飼料フィーダーの上に頭をのせて休息していないことと、同時に後ろ身体四分の一がストール横面に接していないことです。個別ストール飼育の豚では、ストールの大きさは、豚が外傷を受けないように豚の身体的な大きさに合わせたものであること。なお接触による外傷が明らかでない限り、豚同士の背と背、腹と腹、背と腹が接するのは適切です。
授乳豚とその哺乳豚は1セットとして観察・評価せねばなりません。分割授乳は分娩した室で実施されれば、それは容認できる子豚の仮の場所とされます。
5)ボディコンデションスコア(BCS)
ねらい:豚は栄養要求量(維持と生産のための)を満たし、BCSが不適切にならないよう給餌されるべき。BCS1の豚が1%以下とされます。BCS1で歩行不能な豚は即に安楽死させねばなりません。左図はPQA plus®から

6)四肢問題
ねらい:重症な四肢問題(重症の定義:立ったり歩行する時も、豚は悪い脚に体重をまったくかけない)がゼロであること(右の表)。
重症な四肢問題のサインを示す豚が2%以下であること。査察人は飼育スタッフに手伝ってもらって、立位の時、豚は自分の体重を支えれることを確認するべきです。
2日間の治療で改善が見えない豚は、農場の現行の安楽死の基準に照らし合わせて決断しなければなりません。
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7)外傷
ねらい:皮膚外傷、とくに膿瘍、開放創、尾かじり、肩のただれ傷は、豚が周囲環境に適応しているかを間接的に示す指標になります。
対処法は農場ごと条件によって異なります。対処法には観察、隔離と治療が含まれます。
7-1)膿瘍は、皮膚下で膿がたまり袋状になったもので、皮膚が盛り上がることになります。深い打撲傷や貫通傷や注射の後にしばしば見られます。また腫れた耳は、典型的には血種で、膿瘍ではありません。しかし多くの耳血種が観察された場合は、膿瘍に含めず備考欄にコメントを残し、膿瘍と併発していた豚数も記録すべきです。膿瘍のある豚は5%以下であるべきです。
7-2)開放創は、皮膚を完全に貫通した切り傷、裂傷や開口のある傷です。傷がかさぶたになっている豚は、開放創のある豚の頭数にいれません。開放創のある頭数のみ数えなさい。もし開放創のある場所が、とくに多ければ備考欄に記録。耳の先端壊死と授乳による傷に関連した外傷もここの頭数に入れます。そして備考欄にコメントとして記録します。開放創がある豚は1%以下であるべきです。
7-3)深刻なひっかき傷
ひっかき傷は、皮膚の表面の傷だが、皮膚の真皮の中までは入っていない傷です。深刻なひっかき傷(定義:身体の25%超えのひっかき傷または感染や壊死を伴うひっかき傷)がある豚は2%以下であるべきです(右表)。
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7-4)肩のただれ傷は、肩甲骨を覆う皮膚や組織に供給する血管を、体重で圧迫することによって、組織の損傷と病変の形成を引き起こします。治癒しつつある肩のただれ傷がある豚は数えてはいけません。肩ただれ傷がある豚は5%以下であるべきです。
7-5)尾かじり傷は、被害豚の福祉に悪いインパクトを与える行動です。尾かじりは、開放創、出血、感染にまで発展し被害豚を死に至らせる可能性があります。群の中で尾の外傷、出血または尾の感染を引き起こす尾かじりの証拠に注意して記録します。尾の開放創、出血、または尾の感染の証拠がある尾かじりがある豚は、5%以下であるべきです。
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7-6)ヘルニアは、腹部または鼠径部の筋肉部からの一部腸の突出です。へそヘルニアと鼠径部ヘルニアがあります。ソフトボール大(直径9.7センチ)を超える大きさのヘルニアがある豚は5%以下であるべきです。
7-7)直腸脱・膣脱・子宮脱症は、直腸内膜、膣、または子宮の外転または裏返しです。これらを発症した豚は、さらなる傷を防ぎ、完全な回復の可能性を高めるために、可能な限り迅速に見つけ、隔離または治療する必要があります。子宮脱の豚は即に安楽死させねばなりません。直腸脱・膣脱・子宮脱症がある豚は1%以下であるべきです。
7-8)外陰部外傷は、外陰部の開放創、出血、および感染症を引き起こす可能性があります。繁殖グループ群での膣外傷で、開放創、出血、および感染症を引き起こしてる外陰部外傷を記録しなさい。外陰部外傷を持つ豚は5%以下であるべきです。下写真は欧州PigCHAMP Pro社から提供、コンピュター制御給餌システムでのグループ飼育での外陰部噛みつき傷。

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8)治療管理
ねらい:飼育スタッフは、治療を受けている動物のその後を確認する方法を持っている必要があります。飼育スタッフは、どのような治療が行われたか、そしてその動物がどのくらいの期間治療を受けているかを示すことができなければなりません。また飼育スタッフは、治療の有効性を評価し、必要に応じて、タイムリーな安楽死について適切な決定を下す必要があります。
9)温度快適性/気温
ねらい: 豚が暑すぎたり寒すぎたりすることを示す体温調節の行動を示すべきではなく、豚周囲の気温は生産に適した温度範囲でなければなりません。
気温が生産段階の好ましい温度範囲外であり、豚が体温調節の行動を示している場合。 生産者は、暑さや寒さのストレスを最小限に抑えるために適切な行動をとっていなければなりません。体温調節行動の例として、下図は、3つの異なる気温の環境における10頭の豚の体温調節の横臥姿勢を表しています。画像Aは、気温が低い環境にある豚のペンを示しています。 これらのブタは、ペンの1つの領域に密集した山のように盛って、非常に接近しています。 画像Bは、理想的な気温の環境で、豚は互いに身体的に接触していますが、過度に盛り上がることはありません。 画像Cは、高熱温度の環境にあり、豚はペン全体に広がり、暑いため他の豚との物理的な接触を避けます。
温度快適性に関する査定の点数をつけるための最初のステップは、豚の視覚的評価です。 査定者は豚の周囲気温を測定する必要があります。豚が暑すぎるまたは寒すぎることを示す体温調節行動を示しており、気温が生産のための好ましい範囲外である場合、査定者は飼育スタッフにインタビューして、暑さまたは寒さの変化・ストレスを最小限に抑えるためにどのような措置をとっているかを確認すべきです。
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