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肉質とミート・サイエンス

ポークの品質を考えるには、ミート・サイエンス(食肉科学)の知識が必須です。食肉科学の基礎として、筋肉からお肉への変換についても説明します。またプロ以外の人には残酷と思える記述もありますので注意してください。

  • 肉質とは

  • 脂肪の品質とその測定法、その関連因子

  • リーン赤肉の品質とその測定法、その関連因子

  • 筋肉からお肉へ、食肉科学入門

  • 歩留り

​肉質保持間(Shelf life)とは

​エピソード、米国産ポークは脂身が少ない

参考サイト先

米国PIC社の屠体の総合価値ハンドブック (Total carcass value handbook) 100ページを超える力作 https://www.pic.com/resources/total-carcass-value-handbook

 

米国Pork Getaway https://porkgateway.org/resources/category/pork-quality/

Mabry, J. W., T. J. Baas and R. K. Miller. The Impact of Genetics on Pork Quality (Revised). Pork Quality Facts. National Pork Board. U.S.A.

Canadian Centre for Swine Improvement. 2001. RN Gene Testing in Canadian AI Boars.

カナダ・オンタリオ州農務省・ポーク品質

www.omafra.gov.on.ca/english/livestock/swine/facts/04-083.htm

Humane Slaughter Association 人道的屠殺協会 https://www.hsa.org.uk/humane-slaughter/welfare-at-slaughter

遺伝と脂肪品質、Suzuki, K., M. Ishida, H. Kadowaki, T. Shibata, H. Uchida, and A. Nishida. 2006. Genetic correlations among fatty acid compositions in different sites of fat tissues, meat production, and meat quality traits in Duroc pigs. J. Anim. Sci. 84:2026-2034.

肉質とは

肉質という言葉は広く使われており、多くの異なる肉質の特徴を表すことが多いようです。品質の一般的な定義は、「製品間に差異を生じさせ、エンドユーザーの評価に影響を与えるすべての特性の総体」(Hoffman, 1994)です。

豚肉の品質の場合、エンドユーザーとは、加工業者、卸売業者、小売業者、そして最も重要なのは消費者でしょう。肉質は5つの見方のカテゴリーに分類されます。

  • 衛生と食品安全面の品質、豚肉が安全に食べられるかどうかに影響する食肉処理、ハンドリング、コールドチェーンプロセス

  • 栄養組成面の品質、エンドユーザーにとってタンパク質、脂質、炭水化物などその栄養プロファイルがどのように健康的であるかと認識されている

  • 倫理・福祉面の品質、豚が農場で育てられ、と殺されるまでどのように扱われているか

  • 味覚面の品質、豚肉の実食体験

  • 技術的な面の品質、豚肉の食味や加工適性を予測できる

 

この5つのカテゴリーのうち、衛生・食品安全、栄養成分、倫理・福祉の面は、品質の外せない重要品質と考えることができます。つまり、豚肉は倫理的な方法で育てられて処理され、消費者にとって安全で栄養価の高いものでなければなりません。残りの味覚と技術的な面をこのページでは扱います。なお福祉的によくないと豚にストレスがかかるため、倫理・福祉的要素は食味的・技術的要素と重なる部分があります。これは豚肉の食味にマイナスの影響を与える可能性があります。

 

 味覚とは、製品を消費する際の評価で、食体験で決まります。科学的試験は、官能試験(訓練された評価者)または消費者試験(訓練されていない評価者)のどちらかで実施されます。評価者は通常、1)柔らかさ(tenderness)、2)ジューシーさ(juiciness)、3)風味(flavor)、4)異臭・雑味(off flavors)を評価します。技術的な品質は、豚肉の品質を定義または予測するために科学的な測定法での測定値が使用されます。例えば、肉のpH 、保水力、色、機械的柔らかさ、霜降り/筋肉内脂肪(IMF)、脂肪の質です。

ポーク肉質の味覚と技術的品質は、リーン赤肉の質と脂肪の質の2つに分けられます。そして関係因子は:

  • リーン赤肉の品質に関係するのは、遺伝、栄養、農場での豚出荷作業、輸送、食肉工場での豚の降ろす作業、食肉工場での係留場、屠殺方法、屠殺してから冷却までの処理、屠体冷却

  • 脂肪の品質に関係するのは、遺伝・種豚ライン、豚の日齢と体重、豚の健康状態、飼育密度、熱ストレス、栄養、飼料形態と微量原料

ポーク脂肪の品質

 脂肪の質(「硬さFirmness」と定義)は肉質全体に関与しています。過去 30 年間に肥育豚がリーン赤肉型になるにつれて、ポークにおける脂肪の質は枝肉の価値の重要な形質の 1 つになっ てきています。

 脂肪は豚肉の風味に影響します。スペインのイベリコハムなどでは、脂肪酸のC18:1 (オレイン酸) が高くなるように飼料で調整されています。これにより、豚肉の風味が向上します。逆に、特定の油(魚油、亜麻仁油など)を与えた場合、脂肪酸組成は長鎖(炭素数20以上)の多価不飽和脂肪酸の割合が高くなり、豚肉が「生臭いFishy」匂いや味となる可能性があります。

 脂肪の問題の一つが軟い脂です。軟い脂肪は、しばしば脂肪層の分離を引き起こし、ハムや肩の筋肉の分離に部分的に関与しています。腹部の軟い脂肪は、ベーコンのスライス歩留まりを低下させます。一般に、軟い脂肪は、豚肉を包装する際に製品の外観に問題を生じさせます。脂肪が軟いと、ベーコンが油っぽくなったり、濡れたり、透明になったり、真空包装したときにスライス区切りがはっきりせず、さらに酸化速度が速くなり(酸腐rancidity)ます。また、軟脂はソーセージにおいて製品外観が悪くなったり、ボローニャのような製品において歩留まりを低下させる傾向があります。一般的に、脂肪が軟いと、製品の「作業性」と「外観」が低下し、酸腐の傾向が強くなります。

ポーク脂肪の品質の測定法

  • ヨウ素価(IV): ヨウ素価は脂肪の硬さに負の相関をします。 現在、IVは脂肪の硬さを評価するための「ゴールドスタンダード」です。ヨウ素価の高いものほど脂肪融点が低くなります。不飽和脂肪の測定は、脂肪サンプルに吸収されたヨウ素の量で表されます。脂肪の不飽和度を決定するために使用される脂肪酸中の二重結合の数です。

  • 脂肪酸分析: 異なる脂肪酸の比率は IV に直接関連し影響を及ぼします。特定の脂肪酸は脂肪の硬さの指標として使用することができます。

  • 脂肪色: 脂肪の色は硬さを示し、白い脂肪はより硬く、黄色い脂肪はより軟くなります。リノール酸(不飽和脂肪酸)は、脂肪に黄色い色を与えます。不飽和脂肪酸が多いと、IVが高くなり、脂肪の硬さが減少します。そのため、β-カロテンが増加し、脂肪が白色から黄色味を帯びた色に変化します。したがって、脂肪の色評価により、脂肪の固さを示すことができるのです。脂肪の色は色彩計(比色計)を用いて CIE L* a* b* 値を測定することにより客観的に決定することができます。L* 値が低く b* 値が高いほど、脂肪は固くないことを示します。また日本式豚脂肪基準を用いた主観的な4点システムでも脂肪色を判定することができます(下の写真)。日本ハムソーセージ工業協同組合 http://hamukumi.lin.gr.jp/

  • 主要カットでの「硬さ」測定: 硬さの評価を主観的にする測定。ベリー部のたるみ・曲がり、ベリー部の厚みを見る。より硬いベリー部はより厚く、曲げたり垂らしたりすることが少ない。基本的には棒の上にベリー部を垂らし、棒の両側でどれだけ垂れ下がっているかを判断します。距離はベリーの両方の端と端の間、または棒の下の標準的な距離で測定することができます。

  • ベーコンのスライス歩留まり: ベリー部が硬いほどスライス歩留まりが良い。なお加工ベリーをスライスする前に十分に冷却しない場合、スライス歩留まりに対する硬さの影響は検出されない可能性があり。

 

脂肪の品質に影響する因子

 遺伝・種豚ライン、飼料原料、栄養、枝肉組成、年齢、体重、性別、豚の脂肪がある身体での場所、成長速度など、多くの因子が 脂肪組成および品質に影響を及ぼします。とくに栄養は脂肪の質に速やかに影響を及ぼすことができる重要な因子です。

豚標準脂肪色

日本ハムソーセージ工業協同組合のHPから

脂肪の品質の科学

 豚の脂肪は、脂肪酸とトリグリセリドまたはグリセロールの組み合わせ、水、およびタンパク質を含む成分で構成されています。脂肪酸は、その化学構造または飽和度により、1) 飽和脂肪酸(二重結合がない)、2) 一価不飽和脂肪酸(二重結合が1つ)、3) 多価不飽和脂肪酸(二重結合が2以上)に分類することができます。脂肪酸の飽和度は、油脂の融点(硬さ)を決定します。高飽和脂肪酸(硬い)は不飽和脂肪酸(柔らかい)より融点が高くなります。

 飼料中の脂肪と炭水化物は、哺乳類における脂肪合成のための長鎖脂肪酸の供給源です。

 飼料中の炭水化物はデノボ (de novo) 脂肪酸合成と呼ばれる過程を経て、体脂肪に変換されます。これによって飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸が形成され、より硬い枝肉脂肪(低い IV)が得られます。豚を含むほとんどの哺乳類では、炭水化物から飽和および一価不飽和脂肪酸を形成することができるだけです。

 飼料中脂肪は容易に枝肉の脂肪に変換されます。枝肉の脂肪は、飼料中脂肪脂肪の一般的な性質を引き継ぎます(飼料中脂肪が柔らかい=枝肉脂肪も柔らかい)。それで、"豚は食べたものでできている "と言われます。また飼料への油脂添加は、デノボ脂肪合成を変化あるいは停止させます。飼料中の脂肪の割合が増加すると、デノボ脂肪酸合成がさらに抑制され、飽和脂肪酸の蓄積が少なくなります (軟らかくなる)。飼料中の脂肪酸組成が飽和度の低いものになると(より軟らかくなる)、豚の体脂肪(つまり枝肉脂肪) も飽和度が低くなります。

融点と脂肪しまり

豚の遺伝子が脂肪の硬度に影響を及ぼすことが研究で示されています。遺伝率の推定値(ある形質に関する集団の総表現型変異のうち、遺伝子の相加効果に起因するも のの割合)がいくつかの脂肪酸について報告されています。これは脂肪酸組成と脂肪品質に遺伝が影響していることを示しています(Suzuki ら、JAS, 2006)。脂肪酸の一部(C16:0、C18:0、C18:1、C18:2)および脂肪の融点の遺伝率は高い(>0.40)ことが判明してい ます。

脂肪酸遺伝率

 種豚ライン間の差は存在し、種豚ライン間の脂肪の固さによる差の大部分は種豚ラインの肥満度に起因すると考えられます。つまり肥満の程度が高くなると、脂肪は一般的に飽和度が高くなり、脂肪は硬くなります。このことは、太った豚はデノボ脂肪酸合成が多く、飽和脂肪酸の割合が多くなることと一致します。つまり痩せた豚と太った豚の差は、脂肪酸組成に大きな影響を与えます。他の研究でも、脂肪とリーン赤肉のレベルが異なる種豚ラインを比較した場合、背脂肪厚が厚い豚の脂肪はヨウ素価が低くなります(硬くなります)。

 脂肪の硬度には豚の脂肪量が大きく関与しているので、豚の性別(雌、雄、去勢雄、免疫去勢雄豚)も脂肪の硬度に影響を及ぼすと予想できます。去勢豚は脂肪が厚く IV は最も低く(脂肪が硬い)、免疫で去勢した豚は雌豚と同程度です。雄豚(去勢無し)は脂肪が薄く IV が最も高く(脂肪が軟らかく)、次いで雌豚です。

 脂肪の体内での位置も硬さに影響を及ぼします。通常、 ほお肉の IV はベリー部脂肪または背脂肪で観察される値よりもIVは高いのです。IV 値を改善するための飼料原料の変更をしても、 ほお肉の脂肪の IV 値は腹部や背脂肪の脂肪ほど変化しないことを報告されています。

 IVの違いは、同じ背脂肪でも内層は外層よりもIVが低いのです。このような差異を考慮すると、ベンチマーキングを行う際には、一貫して一カ所でIVを測定することが重要です。

 豚の年齢・体重の増加が脂肪酸組成に影響を及ぼします。生後 70 日から 220 日までは、飽和脂肪酸が増加し、不飽和脂肪酸が減少することから、豚の日齢が上がると脂肪が硬くなることが考えられます。これは体重が大きくなり、背脂肪が厚くなることと関係していると考えられます。

 その他の要因には、豚の健康状態や豚が飼育されている一般的な環境条件があります。 豚がより高い飼育密度で飼育されている場合、熱ストレスはベリー部脂肪のIVを増加させます(脂肪が軟らかく)。さらに 成長が遅く病気の豚は、成長が速く健康な豚よりも IV値 が高いことがよくあります(脂肪が軟らかく)。 これは、成長の遅い豚の de novo 脂肪酸合成の減少に関連している可能性があります。つまり健康状態の悪い、熱ストレスを受けたグループで成長が遅い豚の脂肪は柔らかくなりやすいのです。

飼料の脂肪品質への影響

 脂肪の多い飼料原料を添加すると、豚の脂肪の品質に 2 つの点で影響します。 第一に、脂肪レベルが増加するにつれて、炭水化物からのデノボde novo 脂肪酸合成 (飽和脂肪酸) が減少します。 第二に、飼料原料中の脂肪の脂肪酸組成が豚の脂肪品質に影響を与えます。 例えば、高度に不飽和脂肪酸を含む油脂添加飼料を与えると軟らかい脂肪になり、より飽和脂肪酸を含む飼料を与えると硬い脂肪になります。

油脂(オイル、ホワイトグリース、牛脂)を添加すると、特に全体的な飼料中脂肪レベルが増加した場合(つまり、他の脂肪源に加えて添加された場合)、脂肪の質にますます悪影響を及ぼします.。また、これらの脂肪源は脂肪酸プロファイルが異なるため (オイルは不飽和で、牛脂はより飽和)、飼料に同じ割合でそれらを追加すると、異なる効果が生じます。

 飼料の形態 (ペレット) が脂肪の質に影響を与えます。 飼料をペレット化すると、ベリー部の脂肪 IV が 平均2.4 IV 単位増加することが示されています。 これは、ペレット化プロセス中に使用される熱処理による脂肪消化率の増加による可能性があります。

 共役リノール酸 (CLA)、カポック油、Lipinate® (NutriQuest®、アイオワ州メイソンシティ) などの一部の飼料添加物は、脂肪の硬さの改善を示します。 これらの製品は、コストがかかるので、脂肪の品質の利点とのバランスを考慮する必要があります。牛脂によっては、脂肪の質を改善できる天然CLAが含まれている場合があります. 飼料に牛脂を追加すると、脂肪の質が改善されるか、少なくとも飼料中エネルギーが増加するにつれて脂肪の質の問題が軽減されます。

 ラクトパミンの飼料への添加は(日本では未許可)、脂肪の質に悪影響を及ぼします。 ラクトパミンの添加により、脂肪 IV値 が 1.8 IV値 単位が増加すると報告されています。ラクトパミンは枝肉の脂肪を減らし、赤身/脂肪レベルは脂肪の質と高い相関があるためです。

飼料中の脂肪の割合が増加すると、de novo 脂肪酸合成がさらに阻害され、飽和度が低くなり、脂肪が軟らかくなります。 飼料中脂肪の脂肪酸プロファイルの飽和度が低く、つまり軟くなると、枝肉の脂肪は飽和度が低くなり、脂肪は軟くなります. 脂肪の質が重要な場合は、栄養上の変化と脂肪の質に悪影響を及ぼすかどうかを判断するべきでしょう。

どうすればいいのか

  • 出荷体重を増加させ脂肪分を増加させる

  • 豚の健康状態を良好にする

  • 熱ストレスを回避できるようにする

  • 種豚ラインを考慮

  • 栄養

 栄養による脂肪の品質の管理は、飼料配合、飼料形態、脂肪質に影響を与える特定の微量成分の含有という3つの方法で実施できます。

飼料配合で、最も一般的なのは脂肪酸C18:2レベルを考慮した飼料配合とヨウ素価積(IVP)を考慮した配合の2つです。C18:2 レベルに合わせた配合は、標準的な原材料を使用し、他の多価不飽和脂肪酸を大きく変化させなけれ ば効果的です。

IVP を用いた配合では、豚の飼料に含まれる一般的な一価および多価不飽和脂肪酸を考慮することになります。IVPを下げることで脂肪の硬度を上げるのです。IVP はIVP = (飼料原料の脂肪のヨウ素価) X (飼料原料中の脂肪の割合) X 0.10.で算出されます。

​DDGS高たんぱく質という原料が米国では入手できるようです。

飼料原料のヨウ素価
油脂原料のヨウ素価

飼料形態と微量原料の利用

 ペレット飼料は、脂肪の品質に悪影響があります。脂肪品質が問題となる場合には、経済的に可能であり、かつ他の栄養面で脂肪品質を改善できな い場合には、マッシュ飼料を給与することを検討すべきでしょう。ただし、マッシュ飼料を給与すると成長成績が低下することを認識しておきましょう。

 CLAやLipinate®などの微量原料(日本で未発売)は、脂肪の質を改善するのに役立ちます。しかし、ほとんどの場合 CLAはコストが高いため、広く使用されることはないでしょう。脂肪品質が重要な場合には、ラクトパミンやその他の枝肉改良剤(リーン肉・赤身の多い枝肉になる、日本で未発売)のような微量原料の使用には注意が必要です。

リーン赤肉の品質

  リーン赤肉の品質は重要です。豚肉のリーン赤肉の品質測定法8分野は以下です。pH; リーン赤肉色;保水力;肉の硬さ;脂肪交雑マーブリング/筋肉内の筋肉内脂肪(IMF)レベル;屠殺後の肉の温度変化;やわらかさ(せん断力と味覚・官能での分析)

 

リーン赤肉の品質の測定法

Ph

筋肉・肉中の酸性度を測定、屠殺後、筋肉や肉に乳酸が形成されると、pHが低下、pHは客観的な指標、pHメーターは世界中多くの器具があります。

MPI pH Meter https://www.meatprobes.com

Frontmatec pH*K21 https://www.frontmatec.com

Hanna HI98163 https://www.hannainst.com

 

リーン赤肉色

リーン赤身の筋肉・肉の色、肉色はミオグロビンレベルとpHに影響されます。色は消費者の製品に選択に重要、豚肉の色は、客観的に測定することも、主観的に測定することもできます。豚肉の色の客観的な測定は、一般的に比色計で測定され 、主観的な測定は、モデル色基準で決定されます。

リーン赤肉色; リーン赤身の筋肉・肉の色、肉色はミオグロビンレベルとpHに影響される、色は消費者の製品に選択に重要、豚肉の色は、客観的に測定することも、主観的に測定することもできます。豚肉の色の客観的な測定は、一般的に比色計で測定され 、主観的な測定は、モデル色基準で決定されます。

米国食肉業界では次の 2 種のLab色空間:CIE L*a*b*,またはハンターの L a bのみが使用されています。これらの3次元色空間は、肉の色を評価するために使用する「L」、「a」、「b」の値を測定します。明度を次元 L で、色度 a および b で表します。

https://www.cocolor.biz/colorlesson/lab表色系〜様々な表色系vol-8/

主観的測定法として、使用されている標準肉食標準は、日本規格と米国生産者協議会(NPB)規格の2つです。日本式はハムソーセージ工業組合で、NPBのものは以下で買えます。https://porkstore.ceprinter.com/catalog/23649/consumer/marketing-resources?Provider_ID=1212782

日本式豚の肉色標準

​上が日本式、下がNPBの米国式です。

米国式豚肉の肉色標準

保水力

 筋肉や肉が水分を保持する能力、筋肉や肉のpHに直接関係、ドリップロスや滲出パージロスが測定方法、加工ロスも保水力の影響を受けます。客観的な指標。商業的な観点からは、保水力は重力以外の外力がない場合のドリップロスやパージロスとして測定されます。ドリップロス は、小売り用のカット(すなわちチョップ)で失われる液量として測定され、パージロスは、真空包装で主要カット(例、骨なしロイン)肉から失われる水分量です。ドリップロス率 = [(初期重量-最終重量) / 初期重量] x 100

肉の硬さ

 筋肉または筋肉群の硬さを測定、硬さは、pH、脂肪組成、温度、重量、主要部カットまたは副カット時の多くの要因に影響を受けます。米国養豚生産者協議会(NPB)は豚肉の硬さを評価する基準を定めています。このスコアリングシステムは、一般的に切り口表面で判定され、以下3点方式を採用しています。なお5点方式もあります。

1 = 柔らかいSoft; カット面が柔らかく、表面が歪んで見え、形状が保たれていない。

2=硬い:切断面の歪みが少なく、形状が保たれている。

3 = 非常に硬いVery firm; カット面が非常に滑らかで、歪みがない。

脂肪交雑マーブリング/筋肉内の筋肉内脂肪(IMF)レベル

 脂肪交雑(霜降り)と筋肉内脂肪(IMF)という用語は、しばしば同じ意味で使用されますが、霜降りは一連の基準を用いて主観的に測定され、IMF は化学的に測定されるものです。pHレベルとは関係ないが、遺伝・飼料・性別の影響を受けます。消費者の製品選択に影響する可能性あり。IMFの測定は試料の採取、正確な準備、最終製品を破壊し化学分析のため、より高価でより時間がかかります。

 米国生産者協議会(NPB)はマーブリング基準を策定しています。

このスケールは1から10まであります基準内の各スコアは、ほぼIMF%に相当します(例:マーブリングスコア3はIMFの3%に相当)。

ttps://porkstore.ceprinter.com/Providers/1212782/Files/1/Pork-4036.jpg

豚肉のマーブリング

屠殺後の肉の温度変化

 死後24時間以内に筋肉が肉に変換されると同時に、温度は低下します。温度の低下速度は、死後の代謝とpHの低下を調節する上で重要です。温度は客観的な指標。温度の低下速度は豚肉の品質に直接影響するため、温度低下によって影響を受ける枝肉部分の温度を測定することが重要です。これらの部位には、肩ロースの深部、ハム、ロースなどが含まれます。

 

肉の柔らかさと食味検査

 豚肉の食味を評価するには、機器による肉柔らかさの測定(せん断力)と官能分析で直接評価するのが「ゴールドスタンダード」です。客観的な肉の柔らかさはWarner-Bratzler 法やスライスせん断力器を用いて測定されます。せん断力は豚肉の柔らかさの直接的な指標で、pH・ジューシーさ・風味とも相関あり、客観的な指標です。写真はhttps://www.tallgrassproducts.com/meat_shear_machines

 

 訓練された、あるいは訓練されていない評価者(パネラー)によって豚肉の食味が評価されます。官能分析では標準化された採点方法で、管理された一連の条件下で、評価者が味覚テストを実施、評価者は訓練されたチームまたは消費者(訓練されていない)チームから構成、ほとんどの場合に主観的な測定となるので訓練された評価者チームで主観を減らすことができます。

食味特性には通常、ジューシーさ (juiciness)、柔らかさ (tenderness)、風味 (flavor)、そして雑味(off-flavor)が含まれます。ロット間、サンプルグループ間、あるいはベンチマーキングを行うために、標準的な条件下で官能試験を行うことが重要です。

アメリカ食肉科学協会(AMSA)は、官能的および客観的な柔らかさ測定のための詳細な方法論を以下にまとめています。(https://meatscience.org/docs/default-source/publications-resources/amsa-sensoryand-tenderness-evaluation-guidelines/research-guide/2015-amsa-sensory-guidelines-1-0.pdf?sfvrsn=6

肉の柔らかさ測定

食肉科学入門(Meat Science)

筋肉からお肉への変換

 個々の骨格筋は、何百、何千という筋細胞や筋繊維が束ねられ、結合組織の被膜に包まれています。それぞれの筋肉は、筋外膜(epimysium)と呼ばれる結合組織の鞘に包まれています。そしてfacia外膜(上皮の外側の結合組織: fascia)が、筋の周囲を取り囲み、他の筋肉と分離しています。

 骨格筋は、高度な生理学的条件を特徴とする複雑な組織です。 筋肉に酸素とエネルギーを供給し、pHと温度を調節、筋肉のホメオスタシス(恒常性)を維持するために神経系、循環器系、呼吸器系、内分泌系のすべてが重要です。豚が死亡すると、これらのシステムが恒常性を維持する能力を失い、生きている筋肉は徐々に肉へと変化していきます。死後も限られた時間、エネルギー基質と代謝産物が枯渇するまで、または温度依存性の反応が停止するまで代謝が続きます。

死後硬直Rigor Mortis

 死後硬直とは、エネルギー代謝が停止したときに起こる、筋肉が肉に変わる際の変化です。死後硬直とは、骨格筋を収縮させる2つの重要な要素(筋原繊維を構成するアクチンとミオシン)が結合し(アクトミオシン架橋)、筋肉が伸展性を失った状態です。

 死後硬直には、遅延期、発現期、完了期の3つの段階があります。遅延期には、アデノシン三リン酸(ATP)レベル は比較的一定で、筋肉は柔らかく、弾力性があり、伸展可能です。クレアチンリン酸(CP)は、このプロセスにおいて重要な役割を担っています。酸素無しでの筋収縮のためには、アデノシン二リン酸(ADP)をATPに変換するのに必要だからです。ATPレベルを維持するためにCPが利用可能であれば、酸素がなくても筋肉は遅延期に留まります。

 CPレベルが枯渇した直後、ATPレベルが減少し、硬直の発現期に移行します。筋は非弾性的で伸展不可能な状態になります。ATPレベルが低下し、Ca2+を放出します。その結果、アクチンとミオシンがアクトミオシン架橋を形成するようになります。筋のATPが1 μm/g以下になると、アクトミオシン架橋は永久的なものとなります。この架橋を壊すためにATPが必要となるからです。

 この時点で、筋肉は死後硬直完了の最終段階です。死後硬直中に形成されるアクトミオシン橋は、通常の筋収縮と弛緩のサイクルと同じです。しかし、通常の筋収縮では、結合可能な部位の20%程度が使われるのに対し、死後硬直期にはほぼ全ての結合部位で起こります。

豚の筋肉の死後硬直は通常、死後15分から3時間の間に起こり、死後10時間までにほとんどの筋肉に 硬直が発生します。死後硬直の発生は、筋肉の収縮(ショートニング)が伴うため、肉の柔らかさに直接影響します。

コールドショートニング

 死後硬直が完了する前に筋が7℃未満に冷却され、筋のpHが6.30を超えると、コールドショートニングが起こります。硬直が完了していないため、ATPが利用可能であり、通常は収縮と弛緩のために筋原線維へのCa2+の供給を制御しています。しかし、このよう冷却条件下では、過剰なCa2+により、残存ATPとともに激しい筋肉収縮が起こり、筋肉が短かくなります。そして筋収縮のためのATPが消費され枯渇するため、アクトミオシン架橋が永久に形成されます。

 

 豚肉は死後に pH が急速に低下するため、通常、コールドショートニングは問題とはなりません。死後硬直は通常 は、pH が 6.00 未満で、筋温が低くなる前に起こります。例外はホットボ―ニング(Hot boning)と呼ばれる死後90分以内で死後硬直発現前に解体する時です。

 

解凍硬直

 解凍硬直は、完全死後硬直する前の肉をカットして冷凍したときに起こります。これらの完全に硬直していない筋肉が解凍されると、残留するATP とCa2+によって筋肉が収縮し、最大60%まで筋肉が収縮します(牛肉、羊肉のみ)。この収縮により 水分の損失が大きく、筋肉が硬くなります。豚肉は通常、筋肉が枝肉から切り離される前に硬直が完了するため、解凍硬直はまれです。豚肉で発生した場合でも、骨格構造が筋肉を保持するため、収縮の程度は 60%よりはるかに小さいものです。

筋肉の繊維タイプ

 筋肉は、I型(赤色/酸化型)、II型(混合型、酸化型-解糖型IIaとIIbの混合)、IIb型(白色/解糖型)があります。豚の場合、運動や横隔膜のような連続的な作業に使われる筋肉は、タイプI繊維の割合が高く、筋肉は濃い赤色をしています。例として、肩の半棘筋(ロースの横にある)、下肢の大腿四頭筋です。一方、ロースとハムの一部の筋肉は、タイプII繊維の割合が高いのです。

 IIb型繊維の割合が多い筋肉は、質の悪い肉になるリスクが高くなります。これは 嫌気性代謝が増加し、乳酸のレベルが高くなる可能性があるからです。このため、体内温度が30℃を超えると、筋肉のpHが低下し、筋色が薄くなり、保水力が低下します。

筋肉の3タイプ

肉の品質とは

リーン赤肉の品質は、保水性、色、肉の柔らかさで表わされます。

 

保水性

 肉の保水性とは、肉が水分を保持する能力のことです。保水力の低い肉は食味的に好ましくありません。加工品では、加工のための塩水の主成分である水分を吸収できないため、価値が下がります。肉の保水力を決定する効果は3つ、1) 正味の電荷効果、2) 立体的効果、3) タンパク質分解効果です。正味の電荷効果は、筋肉のpHに直接関係します。pHが等電点(≒5.2)に近づくと保水力が低下し、等電点で最も低い保水力になります。正味の電荷効果は、筋肉細胞内の水分の約 5% を説明します。

 立体的効果には、筋原線維内に水を保持する毛細管力が関与しています。これには、筋原線維内のサルコメア長が広いほど、水を保持する能力が上がります。サルコメア長に影響を与える要因としては、pH、イオン強度、筋の硬直状態などです。

 タンパク質分解効果は、筋肉が肉に変化する際に起こるタンパク質の変性に関連しています。タンパク質の変性が大きいと、保水力が低下します。このタンパク質の変性は、pHレベル とその低下速度に関連します。pHの低下速度が遅いほど、タンパク質の変性が大きくなり、保水力が低下します。またお肉の温度にも依存し、温度が低いほど変性は起こりにくくなります。

肉の色

 新鮮な豚肉の色は、主にミオグロビンの含有量によって左右されます。酸化的(好気的)代謝が行われる場所では、ミオグロビンの濃度が高くなります。タイプIの筋繊維は、より酸化的な性質を持っているためミオグロビンの濃度が高く、色も赤いのです。

筋肉の色は、機能の異なる筋肉間で表れます。また、品種/種豚ラインの中でも違いが生じます。高齢の動物は、若い動物に比べてミオグロビンの量が多くなっています。

 筋肉ではタンパク質の変性が起こります。この変性はミオグロビンにも影響を与えます。この変性によりミオグロビンの溶解度を変化させます。ミオグロビンの溶解度が変化すると、肉の赤色が失われます。筋タンパク質の変性は、光の反射の仕方に影響を与えることで色を変化させます。pHが高いままであれば(pHの低下が遅い)、変性はほとんど起こらず、その結果、色のスペクトルは暗く反射されます(肉色濃い)。一方、pHが低い状態(pHの低下が速い)では、変性が進み、色のスペクトルが明るく反射するため、肉の色が薄く見えます。

 さらに、ミオグロビンに含まれるヘム鉄(Fe)の酸化状態が色に影響を与えます。ヘム鉄がFe2+状態のとき、ミオグロビンは、酸素を含むオキシミオグロビンと酸素を含まないデオキシミオグロビンになります。オキシミオグロビンは鮮やかな赤色で、デオキシミオグロビンは濃い赤紫色をしています。肉切断前のミオグロビンは、主にデオキシミオグロビンの形をしています。

 

 肉が切断されると、デオキシミオグロビンはオキシミオグロビンに変換され 、酸素の存在により鮮やかな赤色に変化します。やがてFe2+が酸化してFe3+となり、メトミオグロビンが生成され、色は灰色や灰褐色になります。メトミオグロビンの形成により、このような灰色や灰褐色の色が発生すると、消費者はその製品を「古い」と認識し、好ましくないと感じるようになります。

肉の柔らかさ

 肉の柔らかさは、全体的な食味に関連する重要な品質特性です。肉の物理的性質と調理温度は柔らかさに影響します。

 肉の物理的特性には、サルコメアの長さ、筋原線維の断片化、結合組織の量、霜降りなどがあります。pHなどの化学的特性も、サルコメア長や筋原繊維の断片化に影響を与えます。サルコメアの長さは、硬直の短縮の程度と関連しているため重要です。コールドショートニングは サルコメア長が非常に短いため、肉の柔らかさに非常に悪い影響を与えます。通常の条件下でも、ある程度の硬直短縮が起こります(コールドショートニングではありません)。これは肉の柔らかさに影響します。筋原繊維の断片化は、肉の柔らかさに重要であり、筋原繊維の断片化を少しずつ継続的に増加させると、肉の柔らかさを段階的に向上させます。

 カルパイン・タンパク質分解酵素は、主に筋原繊維を断片化します。カルパインの活性は、Ca2+の存在に依存します。カルパスタチンはこの酵素活性を阻害します。カルパインの活性には、pH、温度、酸化などが影響します。最適なカルパイン活性はpH7.0で、pHの低下とともに低下します。pHの急激な低下はカルパインの活性化を完全に停止させます。食肉の温度が下がると、カルパイン活性も低下しますが、チルド食肉の温度(4℃)では若干のカルパイン活性が見られます。

 筋原繊維タンパク質の分解が起こる時期が熟成期間です。豚肉の望ましい熟成期間は5日から14日であり、最もよい熟成期間は7日から10日です。筋肉の結合組織(主にコラーゲン)の量が上がると、肉の柔らかさは減少します。コラーゲン量は、筋肉の種類や生理的な目的によって異なります。運動用の筋肉は、コラーゲン量が高く、肉柔らかさが少ない。動物の年齢が上がるにつれて、コラーゲンの架橋の数が増加し、その結果、肉柔らかさが減少します。

 幅広い文献調査で、豚肉の霜降り(脂肪交雑・筋肉内脂肪:IMF)と肉柔らかさに関係一貫しておらず、脂肪交雑は豚肉の柔らかさにわずかな影響を与えるに過ぎないという結論がでています。霜降りによる豚肉の柔らかさの向上は、 肉の pH レベルおよび死後 pH の低下速度が柔らかさに及ぼす影響よりもかなり小さいようです。

 豚肉の柔らかさには、調理方法が大きく影響します。焼き加減、つまり内部調理温度は食味検査での柔らかさのスコアに影響し、内部温度が高いほど豚肉は柔らかくなりません。米国農務省は、豚肉の柔らかさを最適化し、微生物への食の安全を確保するために、内部温度63℃、3分間の時間での調理を推奨しています。内部温度は重要ですが、カットの種類、調理のスピード、調理方法(例:グリル、ブロイ ル、真空調理)などが、豚肉の柔らかさの最終的なレベルを決定します。

pH低下と食肉の品質問題

死後 24-48 時間の pH 値(pHu: 最終pH)および死後の pH 低下率(ΔpH)は、保水力、肉の色、豚肉の柔らかさなどの肉質形成に重要な役割を果たします。古典的な 4 つの pH 下降パターンが知られています。

  • pHが急速に低下し、低pHu(5.40~5.60)で、PSE(薄、軟、滲出:Pale, Soft, and Exudative)豚肉となる。

  • pH は正常に低下し、低 pHu (5.30~5.50)で、RSE(赤、軟、滲出)または PSE 豚肉となる。

  • pH は正常に低下し、正常なpHu(5.60 - 5.80)だが、RFN(赤、硬、非滲出性)または RSE (赤、軟、滲出)豚肉となる。

  • pH の低下が遅く、pHu が高く (6.50 - 6.80) 、DFD (暗、硬、乾:Dark, Firm, and Dry) 豚肉となる。

pHの低下速度および程度を決定する主な因子は、豚の遺伝、貯蔵筋グリコーゲンの量、屠殺前のストレスレベル、枝肉冷却速度です。

死後時間とpHの変化とPSE

筋肉pHに対する種豚・遺伝子の影響

 選抜育種により、pH に対する遺伝的潜在能力を向上させることができます。筋繊維タイプの違いやストレス感受性は、pHu に対する育種の結果で変化すると考えられます。

 分子遺伝学技術の豚の改良への応用は、1991年に豚ストレス症候群(PSS)の原因となる1点変異を発見したことから始まりました。これは、DNA テスト(HAL1843™; Fuji et al.、1991)の発明につながりました。リアノジン受容体(RyR1)遺伝子(RyR1)の1点変異がPSS肉(または悪性高熱症候群、MHS)の原因となっています。屠殺直前にストレスの多い環境条件にさらされた場合、このホモ接合体である豚は、PSE(白、軟、滲Pale, Soft, Exudative)状態を発症しやすいのです。ストレスが豚に与えられると、筋解糖が増加、グリコーゲンの分解と乳酸の産生が急速に進行します。死後、乳酸の急激な増加により、筋温が高いまま(38℃)pHが急速に低下します。その結果、筋肉タンパク質が過剰に変性し、保水力の低い淡色の豚肉ができます。多くの種豚会社は2000年代初期にはこの遺伝子を取り去りました。

 

 もう一つは、ハンプシャー種に多く見られる肉質に影響を与えるRN- (Rendement Napole)遺伝子です。この優性遺伝子はIIb筋繊維タイプのグリコーゲン含有量を増加させ、筋肉の解糖能が高くなります。グリコーゲンの貯蔵量が多いため、死後の解糖が長く続き、乳酸の産生が増加し、正常な豚よりpHが低下します。PSEは通常、この現象が、pHの低下速度が正常である場合に発生します。しかし、ストレスによりpHの低下速度が速くなると、RSE豚が発生することがあります。

RN- 遺伝子は、豚肉の柔らかさ過剰増加と関連しています。これは、pH が低く、タンパク質が過度に変性する(酸により柔らかくなる)ことが原因であると考えられます。タンパク質の過剰な変性は保水力を低下させ、豚肉の価値を低下させます。多くの種豚会社では、2000年代にハンプシャーからこの遺伝子を取り除きました。

筋肉グリコーゲン貯蔵量のpHへの影響

 乳酸を発生させる好気性条件下では、グリコーゲンが解糖の主要燃料となるため、筋肉細胞に貯蔵されているグリコーゲン量は、pH低下の程度に影響します。

 グリコーゲン量を減らすための最良の方法は、屠畜前に飼料給餌を中止し、かつストレスを低く抑えることです。

実験的に屠殺の 24 時間前に飼料を断つと、グリコーゲンレベルが 20%から 50%減少します。豚が飼料断ちをすると、肉の pH が急激に低くなるのを抑えます。また、ストレスは嫌気性解糖によりグリコーゲンの貯蔵量を減少させ、乳酸を増やします。グリコーゲンを減少させて pH を低下させるためには、 放血前に過剰な乳酸を筋肉から除去するための十分な休息を与える必要があります。

屠殺前ストレスが筋肉pHに及ぼす影響

 豚にストレスがかかると、嫌気性代謝が開始され 乳酸が過剰に生成されます。放血死が起こると、それ以上筋肉から乳酸が除去されることはないので、屠殺直前のストレスは、死後のpHの低下に大きな影響を与えます。

 

 一般に、ストレスはトラックへの移乗作業から始まり、輸送、トラックからの降ろしと続きます。これらのストレスは、屠殺前の係留場で豚に十分な休息を与えれば、死後の pH 低下への影響は小さくなります。

ストレスを生む因子:

  • 環境 ;極端な高温または低温、高温と相俟っての高湿度、空気の質が悪い(換気不足)

  • 豚の動きに影響を与える施設設計の欠陥;過度または不十分な照明、または光源の位置、 豚の動きに影響を与える過度または不十分なスペース、 90°超えるターンを必要とする通路、傾斜を登るまたは下る、長距離の移動、種類の違う通路の床、または丈夫でない通路の床、水分の排泄が不適切な通路、欠陥のあるまたは設計の悪い施設(例えば、豚を乗せるおよび降ろすシュート)

  • 屠殺前に豚の十分な休息を可能にするためのスペース不足

  • 不適切な輸送;過剰な輸送密度

  • 不適切な動物取り扱い; 一度にあまりにも多くの豚を移動させる、速すぎる移動、荒っぽい扱い、不適切な移動ツールを使用

  • 屠殺場での不適切な扱い

pHや肉質の観点からだけでなく、豚の福祉を確保するために、これらのストレス要因を可能な限り軽減することが重要です。

枝肉冷却が肉pHに与える影響

 枝肉内部の温度が35℃以下に下がる前にpH値が6.0を下回ると、肉質が低下するリスクが高まります。逆に、硬直が完了する前に枝肉の内部温度を15℃以下に冷やすと、コールドショートニングcold shorteningが起こり、その結果、豚肉が柔らかくなくなることがあります。

むしろ業界では冷却不良がより一般的な問題です。この結果、pHが急速に、あるいは長時間低下し、豚肉の品質が低下することになります。

放血死時の筋肉の温度は約39℃で、以後24時間までに枝肉温度 は5℃以下に下げるべきです。当初、枝肉の温度は、骨格筋が死後に代謝され肉に変換するため、わずかに上昇します。ほとんどの場合、枝肉は死後30分から45分ほどで冷却プロセスに入ります。

 

豚枝肉の冷却の原理と品質への影響

 

 豚枝肉の冷却は、できるだけ早く行うことが大切です。枝肉を冷却する方法には、主に、従来冷却、スプレー冷却、ブラスト冷却の3つがあります。従来冷却システムは、一般的に-1℃から2℃の温度設定値を使用し、ファン速度は0から3m/秒の範囲です。スプレー冷却は、枝肉に水を噴霧する方法です。世界的には主に2種類の水スプレーシステム(従来型とトンネル型)が使用されています。ブラスト冷却は、非常に低い温度と高い風速の組み合わせで行われます。一般的に、設定温度範囲は-20°C to -40°C、ファン速度は3~10 m/秒で、90~120 分間持続します。ブラスト冷却のもう一つの利点は、枝肉の縮み(高温時と低温時の枝肉重量の差)の減少です。ほとんどの 従来の冷却場では、2%から4%の収縮ロスがありますが、ブラスト冷却では、通常1.25%以下、多くは1%以下の収縮率となります。

 枝肉の間隔が不適切な場合、隣接する枝肉に接触している枝肉のすべての部分の温度勾配が低下し、結果的 に冷却不良となります。

冷やし始めてから1~1.5時間の間に十分に冷やすことができれば(ロース肉の内温は32℃以下)、豚肉の色は一般的に良好です。しかし、冷却のスピードが十分でない場合(ロース肉の内部温度が 4-5時間で13℃以下)、pH が低くなり、RSE 豚肉になることがあります。よい肉色と pH を確保するためには、最初の 4~5 時間を目標温度である 13℃まで冷却することが重要です。

豚のスタニングstunningの原理と肉質への影響

豚のスタニングは、放血死させる前に豚を無感覚にします。3つの許容されている方法には:ボウルト(銃)、電気、およびガス法(CO2 )があります。

 

電気スタニング

 高電圧を流すことによって、豚を意識不明にします。頭部のみまたは頭部と心臓に流す方法があります。頭部だけの電気スタニングは可逆的で生き返りも起こりますが、頭部・心臓へのスタ二ングは可逆的ではありません。それは心室細動(心停止)を引き起こし、通常、放血死する前に死に至ります。豚は、多くの場合、シャワーを浴びます。水は電気をよく通すので、抵抗を減らすことができます。

 オームの法則で、電流とは電圧を抵抗で割ったものです。電流はアンペア(amps)で測定され、1.25アンペアは、効果的な豚のスタニングのために必要とされます。必要な抵抗(オーム/Ω)は、各ブタで異なっています。

 電流が高くなることは、動物福祉の観点からは問題はありません。しかし、豚肉の品質という観点からは、骨折の増加、血スプラッシュ(点状出血、斑状出血)、血溜り・クモ状出血を引き起こし、商品価値を低下させます。血スプラッシュは、スタニングの際に血圧が上昇し、血管が出血しておこります。福祉的な観点と肉質の欠陥を避けるために、高周波スタニングがしばしば使用されます。一般的な電流の周波数は50~60Hzです。高周波電流(1000~3000Hz)は、骨折や点状出血を最小限に抑えることができます。電気スタニングシステムには、固定電圧方式と可変電圧方式があります。可変電圧システムはより望ましいです。電流は3〜5秒間で流す必要があります。スタニング時間が5秒を超えると、骨折、点状出血、血スプラッシュ、血だまりが多くなることがあります。

ガススタニング

 CO2 ガスによる豚のスタニングは、過去30年間で劇的に増加しました。豚は高濃度の炭酸ガスで 意識を失います。多重ゴンドラ方式とディップリフト方式の2種類です。多重ゴンドラ方式は、観覧車の原理を応用しています。複数のゴンドラ(通常4〜7台)を、高濃度のCO2ガスを含むピット内に降下させます。その後、豚は上部に戻り、ゴンドラから降ろされ放血します。ディップリフトは、エレベーターのように作動します。

 CO2スタニングの効果を左右する主な要因は、CO2濃度、滞留時間(ガスに触れる長さ)、周囲温度です。適切なCO2濃度を使用することが重要です。意識喪失の誘導段階は豚にとってストレスとなるため、ガス曝露から豚の意識喪失までの時間を最小限にすることが最善です。95%以上のCO2を使用した場合、約15~20秒後に立位姿勢と発声は通常停止します。CO2ガススタニングは電気スタニングと比較して肉質が向上することが文献で示されています。CO2処理では、電気処理のように血圧を上昇させないため、血スプラッシュの原因となる血管の破裂を防ぐことができます。ほとんどの研究で、CO2によるスタニングは、肉のpH、色、ドリップの減少を改善してます。

放血の原理と食肉品質への影響

 放血の目的は、豚を殺して血を抜くことです。失血は心臓に近い主要な動脈と静脈を切断します。高品質の豚肉を生産するためには、血液をできるだけ除去することが重要です。一般的に、枝肉から取り除かれる血液は50~60%にすぎません。まだ臓器や内臓に血液が残っています。 筋肉や脂肪に血液が残っていると、血液が理想的な細菌の増殖媒体となるため、微生物の繁殖が促進される可能性があります。増加した 微生物の増殖は、豚肉製品の保存性の問題を悪化させる可能性があります。スーパー等では、肉に血が残っていると、枝肉や製品の欠陥とみなされます。

 滞留時間が180秒より長いと、血液が血管内に滞留し、効果的な除去ができなくなり、豚は青班を起こします。これは、死亡後の血液の沈殿と蓄積によって起こる皮膚の赤色から青紫色の変色です。

枝肉歩留まり

屠体歩留まり(%): Carcass yieldともいい、屠体重が生体重の何%かを示す割合で、生産者の利益に直結します。歩留まり=屠体重÷生体重×100です。米国では130キロの生体で屠体重が98.8キロ(湯はぎで皮つき)で平均76%(米国PIC社調査;バラツキ多し)。日本は皮なしなので、平均65%(バラツキ多し)。枝肉歩留まりに影響する因子には6つあります。

  • 遺伝・種豚、性別、生体重 Genetics/sex/weight

  • 出荷前の飼料切り、腸管の内容物量Feed withdrawal/gut fill

  • 栄養Nutrition

  • 体重測定の精度Accuracy of weights

  • 体重測定の場所Location where weights are taken

  • 解体のプロセスCarcass dressing procedures

遺伝・種豚、性別、生体重

 米国PIC社の屠体総価値ハンドブック2021では、合成系統(PIC337)に比較して、歩留まりは明らかにピイエトレイン系統(PIC408)が1.1%多く、比べてハンプシャー系統(PIC327)が0.4%低く、デュロック系統(PIC800)が0.5%低いとなっています。

 性別(雌豚・去勢豚)については、結果は一貫しておらず、4 つの試験で去勢豚の歩留まりが高く、3 つの試験で雌豚の歩留まりが高くなっています。全体として、去勢豚の歩留まりは雌豚よりも平均して 0.10%高くなりました。これは体重と性別の影響があると思われます。

体重が増えると歩留まりが増えます。生体重は、91-182キロの範囲で、体重10キロ増えるごとに、歩留まりは0.4%増えます。体重と性別の歩留まりへの影響では、115キロまでは雌豚の歩留まりが去勢豚より高く、115キロ以降去勢豚の歩留まりが雌豚より高い(Bertol et al., 2015)、一方、別の研究では130キロまでは雌豚の歩留まりが高い(Wagner et a., 1999)と報告されています。

出荷前の飼料切り

 枝肉重量に含まれない生体重の主な部分は、内臓、生殖器、血液、毛髪、蹄、頭部です。とくに内臓は枝肉重量に含まれない生体重の構成部分としては圧倒的に大きい(約14%)のです。消化管は内臓の大きな部分を占めています。消化管の重量は消化管内の飼料と水の量(ガットフィル)により影響を受けます。計算ではガットフィルが1kg増えるごとに歩留まりが0.60%減少します。

 出荷前に飼料を断つことで、このガットフィルを軽減できます。大規模な農場データによると、飼料切時間24時間までは、飼料を与えない時間が長くなると歩留まりが増加します。詳しくいうと、飼料を与えない時間が、10時間で歩留まりは0.3%増加し、18 時間で1.9%増加し、24時間だと1.6%増加します。つまり飼料を与えない時間が18時間が歩留まりを最大にします。しかし24時間を超えると、体タンパク質の分解が多くなって歩留まりは減少します。

 大規模農場で行った実験で、輸送中 14 時間飼料を摂取しなかった豚より(コントロールとして)、農場で14時間飼料を切った豚は0.6%歩留まりが高く、また食肉工場で 14 時間飼料を摂取しなかった豚は0.5%歩留まりが高かった(つまりガットフィルが少なかった)と報告されています。この違いは、輸送中ストレスにより腸の消化・代謝が停止したためと考えられます。

これらのデータは、ガットフィルを最小限に抑え、歩留まりのために、豚のトラック輸送の前に、ある程度の時間は、飼料を切ることが必要であることを示唆しています。米国PIC社は、豚がトラックへの移乗前の最小6〜8時間の飼料切り、そして豚が輸送後に係留ペンに配置される休憩時間の少なくとも2〜3時間を推奨しています。理想的には飼料切り時間(農場、輸送、食肉工場)は12〜20時間で、24時間以下とすべきです。

 

 飼料切りが豚に与える悪影響も考慮することも重要です。出荷予定の豚を選別することができない状態で、豚舎での飼料切りを実施すると、飼料給餌が仕上げ豚舎全体で停止されます。 これにより、その日に出荷されない豚の飼料が切れてしまいます。

 

 米国の大規模農場の試験では、豚舎最終出荷(クローズアウト)の 2 週間前に飼料を切ると、死亡率が 0.25%増加することが示されました。他の肥育成績には影響 がないのですが。一方、欧州では、豚舎最終出荷の 4 週間前に飼料を切っても、その後の死亡率に 影響はないことが示されています。この違いは、出荷前の死亡ロスの違いです。米国の試験では、平均死亡ロスは 6%以上で、欧州の試験では平均死亡ロスは 2%未満でした。このことから、出荷前に、健康状態を考慮することが重要であることがわかります。

栄養・飼料原料

 飼料に含まれる高繊維質原料のレベルが上がるにつれて枝肉収量が一貫して減少します。コーンDDGSなどの高繊維質原料を含む飼料を給与した場合に腸管の通過速度が遅くなるためです。その結果、豚の屠畜時のガットフィルの量が多くなるのです。

 

体重測定の精度

 体重計のメンテナンスや補正が頻繁に行われないと、重さに誤差が生じ、予想より低い、あるいは高い歩留まりとなることがあります。

より重要なことは、歩留まり計算のための生体重の重量は、通常、トラックロード(すなわち、トラックのスケール)で測られ、枝肉の重量は、別のスケールで個別に測定されます。豚の生体重量と枝肉重量を正確かつ一貫して評価することは非常に重要です。

 

体重測定の場所

 豚の生体重を測定する場所は、枝肉収量に大きな影響を与えます。食肉工場内で測定した場合、輸送前や輸送中に測定した場合よりも高い歩留まりとなります。これは、豚が輸送中に体重を失うからです(「輸送収縮」)。通常は1%〜2%の範囲です。例えば、農場で豚を測った時は125キロ、それが食肉工場に到着したときに、123キロの重量になると、1.6%輸送収縮ロス(2÷125)となります。

 

解体のプロセス

 米国では枝肉重量を測定する前に、枝肉から頭を取り除きます。頭部は豚の生体重の 4-5% を占めます。一般的な頭部有りの歩留まりは 79% から 81% で、頭部無しの収量は 74% から 76% です。収量に影響を与える可能性がある他の体の部分は脂肪、腎臓、蹄、および皮です。解体工程での過度のトリムロスは枝肉重量を変化させることがあります。

 過度のトリムロスは個々の枝肉に大きな影響を与えますが、損失が1豚に限定されている場合、全体の負荷の収量への影響は顕著ではありません。最大の影響は、出荷豚群の全体が何らかの形で病気や問題(例、虫刺され)があるときに起こります。

肉質保持間(Shelf life)とは

品質保持期間 (Shelf life)とは、最大許容細菌量、食肉製品の許容できない臭気、風味、物理的外観からくる食肉の商品価値が失われていくまでの時点と定義されています。Shelfは食棚と言う意味ですから、肉のスーパーや小売店の棚に陳列しておける期間です。海外ではよく使われる肉の品質関係の用語です。

品質保持期間 (Shelf life)の改善は、消費者の購買意欲に影響を与えることにより、食品廃棄物を減らし、豚肉産業の持続可能性を高める機会を提供します。

品質保持期間は以下の因子に影響されます:

  • 管理の因子:栄養、屠殺前のストレス、遺伝

  • 製品の因子:pH、ドリップ、赤身と脂肪のテキスチャー、赤身の色

  • 加工の因子:細菌数、加工技術、細菌の二次汚染

  • 環境の因子:温度、包装の種類、照明

 

品質保持期間 (Shelf life)に影響を与える因子は時間の経過とともに変化し、豚肉製品に対する消費者の認識や受容に影響を与える可能性があります。例えば、小売店の条件下では、豚肉の色がくすみ、茶色く変色することがあります(写真1)。

肉色は、消費者が食肉製品の健全性を評価するために最初に使うサインです。時間が経つにつれて、より急速に褐色になったり、色がくすんだりする製品は、消費者の購買決定や豚肉に対する全体的な受け入れに影響を与える可能性があります。

種豚メーカーは、肉質に相関する形質(ドリップロスや鼻による官能検査など)に対する遺伝子選択の実施、育種の中核種豚群の肉におけるpHや色などの形質の定期的なモニタリングをしています。また生産者に対して、と殺前の豚の取り扱いや栄養のアドバイスもしています。

 

トピッグス社(Topigs Norsvin)のHP以下から引用。

ttps://topigsnorsvin.maglr.com/online-magazine-progress-spring-2023-partner-for-processors/maximizing-shelf-life

豚肉の品質保持時間

エピソード、米国産ポークは脂身が少ない

 米国のAnimal Agriculture Alliance (動物農業連合会)が提供している情報です。20年前に比べて、今の豚は16%も脂肪が少なく、27%も飽和脂肪酸が少ないとなっています。飽和脂肪酸を食べ過ぎると、血液中のLDLコレステロールが増加し、循環器疾患(例、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血)のリスクを増加させることが示されています。つまり昔より飽和脂肪酸が少なくなったということは、より健康的になったというわけです。なお飽和脂肪酸ゼロが体にいいわけではありません。

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