top of page

経営

  • 経営力を測る経営指標

  • 国際間比較で自国を知る

  • 繁殖生産性と肥育生産性の各国比較2022年版

  • 肥育豚1頭当りの生産コストの比較2022年版

  • トン当り飼料価格の各国の比較2022年版

  • 年間母豚当り離乳子豚数と肥育成績の改善率2022年版

  • 世界の中の日本養豚の生産力と収益力

  • 経済合理性を測る経済評価法

  • ​危機管理の実例 

経営指標と経営力

 養豚管理技術だけでなく経営力を上げることが大切です。No measure No controlといいます。経営力を改善するのは測定すること大切です。では経営力は何で測るのか?何をみれば経営力がわかるのでしょうか?

財務成績指標について

 財務成績指標は、総合経営力を測定・評価するために使用できます。さらに繁成績や肥育成績と違い、他業種とも比較可能です。また財務成績は、肥育成績と繁殖成績を含めた総合成績です。

 経営者や農場スタッフの日々の決断で農場は運営され、その成績が肥育成績や繁殖成績に表れ、財務成績となります。まさに経営者と農場スタッフの成績簿でもあります。さらに財務成績は、お金という観点で測定しますので、養豚界だけでなく農業界全部さらに他業種の会社の経営とも比較できます。利益という点で、養豚経営と日本の花形産業である自動車会社経営との比較も可能です。

デュポンの公式

 管理会計の中でよく使用される指標として、デュポン (DuPont) の公式が知られています。デュポン社は化学事業から始め兵器事業や農業分野などで多角経営を行っています。多くの違った産業界に会社をもっていたデュポン社は、さまざまな産業界での自分達の会社の業績を評価する指標として、資本当り利益率という総合指標を発明しました。使ったお金当り、いくら儲けているかを示す指標です。

資本利益率

 この資本当り利益率という指標は、現在では自己資本利益率(ROE: Return on equity)と総資本利益率 (ROA: Return on asset)として、会社四季報でも会社の経営力を比較するのによく使用されています。ROAは総資本(自己資本と他人資本)をどれだけ効率的に使用して利益をあげているかを示し、ROEは自己資本をどれだけ効率的に使用して利益をあげているかを示します。お金の使用効率です。

 資本当り利益率という指標は、現在では自己資本利益率(ROE) と総資本利益率 (ROA)として、会社四季報でも会社の経営力を比較するのによく使用されています。ROAは総資本(自己資本と他人資本)をどれだけ効率的に使用して利益をあげているかを示し、ROEは自己資本をどれだけ効率的に使用して利益をあげているかを示します。

 養豚における財務成績ベンチマーキングでは、総資本利益率 (ROA)をよく使用しています。何か1つ選んだほうが比較しやすかったということと、20年前は、他人資本と自己資本がはっきり分離できていない農家もあったからです。なお総資本は自己資本と他人資本の合計で、他人資本とは銀行などから借りたお金で、自己資本は自分が出したお金です。

ROAは2つの指標である売上高利益率×資本回転率に分解できます。売上高利益率=利益÷売上で、利益は売上-コストです(図1)。そして養豚業では、コストを低くする経営を実施している農場が、利益率を上げることに成功しています。反対に、売上を高くする、つまり高く売る、付加価値をつける経営は、養豚ではコストがかかりすぎる場合が多く、相場変動のなかで利益が上げられない、または赤字になりやすいのです。資本回転率は売上÷総資本で計算され、まさにお金の回転効率です。

利益は、以下のように営業利益、経常利益、当期利益があります。

  • 営業利益=売上-原価-販売管理費(例、営業に関わる経費)

  • 経常利益=営業利益-営業外収支(例、金利)

  • 税引き前利益=営業利益-特別損益

  • 当期利益=経常利益-特別損益-税金

会社四季報では当期利益が使用されています。

ROAのロジックツリー

 ROAには欠点があります。お金を効率よく使う短期間での経営技術の指標としては優れていますが、長期的投資などの経営の長期視点と成長可能性、そして安全性はあらわせません。動物を使った農業である養豚は、長期的な投資が必要です。それで日本経営研究会では以下に述べる営業キャッシュフローと自己資本比率を使用しています。

財務成績ベンチマーキングでは、その養豚企業の成長力と経営努力を評価するものとして利用しています。

  • 枝肉キロ当り・キャッシュフロー=税引き前利益-設備償却-税金

 

なお日本養豚経営研究会では、枝肉キロ当り経常利益×0.6+減価償却で簡易的に計算しています。経常利益から4割くらいが税金等で引かれることを仮定しています。

 

ROAとコスト

 自己資本比率は、自己資本÷(自己資本+他人資本)です。他人資本は借りたお金で、自己資本はその会社の所有するお金です。自己資本と他人資本を足したものが総資本です。総資本のうち何割が自己資本かを表します。50%以上あれば、安全性は素晴らしいと言えます。

 では自己資本比率100%がいいのか、というとそうではありません。農場の将来に向けて、思い切った投資をしていない可能性があるからです。豚舎は経年で劣化し、修理だけでは追い付かなくなります。また増改築や増頭する場合に、豚舎の継ぎ足し継ぎ足しの増改築を繰り返すと動線が悪くなり、労働効率が悪くなります。最近の増頭は、養鶏における増羽のように、思い切った1棟単位での新築が主流となってきました。そのためには手元資金だけでは不足し、思い切った数億や数十億の借り入れが必要になります。そうすると自己資本比率が下がります。まさに経営者の判断です。

 今後はROEも重要になってくると思われます。なぜなら、養豚農場の増設に伴う1頭当り設備費用は増えていることに伴い、資本回転率1.0以下、0.5回という農場が増えてきています。つまり養豚農場では資本の回転効率が低下しているのです。経営者の経営技術の評価としては、いかに自己資本を効率的に使用しているかを評価するほうがよい場合があります。

なおROEは3つの指標である、売上高利益率×資本回転率×財務レバレッジに分解できます。レバレッジは日本語のテコという意味です。財務レバレッジは総資本÷自己資本で表され、自己資本の何倍の総資本をもっているかを示します。

国際間の生産コスト比較

 豚肉を生産するというのは多くの国でおこなわれているグローバルな産業です。養豚はサイエンスと経済性を基礎としていますので、国内の自分達だけの比較で満足していると、いつの間にか、世界の潮流から全く離れた生産になってしまいます。その意味で欧州や米国など海外の養豚先進国と自農場を比較するのは、経営として大切なことです。

 グローバル・ベンチマーキングとは、世界各国のデータを収集し分析することで、各国の生産を比較し相違と共通点を明らかにし、各国から良い点を学ぼうというものです。英国農業開発委員会AHDBが英国と世界各国の比較をしています。AHDBの2023年版報告(データは2022年)を参考に世界各国の生産性とコストについて記述します。

繁殖生産性の国際間比較

 繁殖生産性の指標である年間母豚当り離乳子豚数では、欧州平均が30.1頭です。そしてデンマークが34.1頭で圧倒的に多いのです(表1)。育種改良と卓越した農場管理がデンマーク養豚の強さです。しかしその分娩時生存子豚数の改良ペースは一時より鈍化しています。

 米国は27.8頭と繁殖生産性としては、欧州養豚国との比較では平均以下です。しかし大規模飼育システムで、コストを下げて国際競争力をあげる米国流ビジネスモデルは強いと思われます。なお米国のもう一つの特徴は、年間母豚当りリッター腹数(母豚回転数)が2.4回と多いことです。欧州は養豚福祉の観点から、授乳期間が米国の平均21日より長いために、母豚回転数が多くできません。さらにコストの低さもあって南米ブラジルの伸長が著しい。米国を脅かす豚肉輸出国となっています。なお南アフリカも養豚が伸長しているようです。

肥育生産性の国際比較

 豚肉の生産コストに直結するのが、肉豚期での死亡率と飼料要求率です。死亡率は、子豚期と肥育期ともオランダがそれぞれ2.5%と2.3%と最も低いのです。農場における健康管理・疾病対策がよく行われているせいでしょう。デンマークでは4.3%と3.5%です。米国肥育期の5%と比べて、欧州の各国の死亡率は低いようです。米国は面積当りのコストに敏感で、面積当り豚飼育密度の高いせいかとも思われます。欧州は福祉面から飼育密度に規制がかかっています。例えば米国は体重125キロ以上で、0.74 m2で、欧州だと110キロ以上で1.0 m2です。なお米国でも危機感があり、米国生産者協議会が大型研究費をだし大学研究をサポートしています。

 また欧州スペインは肉豚期飼料要求率が2.43で優れています。スペインは雄豚去勢をしていないため要求率は良くなり、さらにスペインは飼料会社中心のインテグレーターが強いため、ペレット飼料使用など要求率の改善に熱心のせいかと思われます。なおスペインとデンマークは、出荷体重・と体重も軽く、オランダやフランスやドイツやブラジルでは、出荷体重・屠体重も重いのです。

 デンマークの肉豚の1日当り増体1040グラムはすごい。肉豚期の飼料要求率も2.52です。病気のコントロールと育種の力(とくに脂肪の少ない肉)と思われます。肥育豚の豚肉の脂肪蓄積には、飼料からの多くの摂取エネルギーが必要なため、脂肪の多い肥育豚の種豚ラインを使用していると飼料要求率が上がってしまいます。日本のパッカーでは脂肪の厚いものが好まれるために、脂肪が厚くなる種豚ラインを使わざるをえないので、栄養学的に生産コストの面で、日本養豚の大きな不利となっています。日本の消費者が脂肪の多い肉を望んでいるわけではないのですが。

 母豚当りの生産枝肉量(kg)はオランダ・デンマークが重い。年間母豚当り生産枝肉体重は、オランダは3000キロ以上です。なお枝肉は湯はぎです。スペインは出荷体重が軽いせいで、ここが非常に弱い。世界は母豚1頭当り2500キロ以上の時代になっています。

GBM1 (1).JPG

肥育豚1頭当りの生産コストの国際比較

 

 繁殖生産性も肥育生産性も大切です。それは生産コストに直接影響するからです。養豚業で利益を上げるために最も大切なのは、生産コストの低さです。そしてその生産コストの低さが競争力につながります。各国の生産コストを日本と各国を比較するために、各国の枝肉キロ当たりコストを、湯はぎ歩留まり77.5%で生体120キロと換算したコストを算出しました。米国の生産コストは低い。安い飼料コストそして大規模飼育かつ単純システムで生産コストを下げるのが米国流です。そしてブラジルの生産コストはさらに低い。飼料費はそれほど低くないのですが、その他の直接コスト、償却と金融費用、人件費が米国より安いのです。2022年は飼料高騰の影響で、各国ともコストは上がっています。さらに円安でもあり、円換算するとさらに生産コストはあがります。米国は1頭当り26000円台で、ブラジルは1頭当り23000円台で、欧州だと1頭当り27000円から32000円となります。豚肉生産コストの内外格差は一時より少なくなっています。

 

 2021年の日本の肥育豚生産費が発表されました(2023/12)。生体115キロで43520円です。2021年同時期の比較の下図も参照。

 米国やブラジルと比較すると、欧州は生産コストが高いのがわかります。福祉や環境などの規制が多いからでしょう。なお繁殖生産性と肥育生産性では優等生であるオランダの生産コストがそれほど低くないのです。その他の直接費用が高いのがオランダの弱点です。

 各国は飼料費以外のコスト割合は低くなりました。生産コストに占める飼料割合は、米国で72%でデンマークで65%です。日本だと直接生産コスト中の飼料費の割合は平均50%と思われます。日本は飼料以外の直接コストも非常に高いのです。なお欧州では、省力化と精密化を掲げて、IT技術を使ったスマート養豚が強く言われています。

GBM2 (1).JPG

トン当り飼料価格の国際比較

 2022年では農場平均飼料価格がトン当り6万円を超えてきました。米国でさえ5万円を超えています。穀物価格は下がっていますので、」今年は下がっていると思われます。飼料価格は国際穀物価格の上昇をもろに受けるからでしょう。デンマークが欧州でも安いのは自給飼料の影響でしょうか。

 肉豚用飼料価格に比して、母豚用飼料価格は各国とも0.9~1.1倍の間です。スペインの肉豚用飼料価格が母豚より高いのは、肉豚用がペレットで母豚用はマッシュのせいかもしれません。その他の国では、母豚用飼料は肉豚用より3から10%ほど高いようです。

 米国の子豚用飼料価格の高さは、肥育用飼料の2.2倍です。米国は授乳期間が平均21日で、欧州より短いため、離乳期の飼料が高いことがあると思います。ただし、米国は予算給餌がされていて、高価な離乳期飼料の使用料は少ないのです。例えば、カンサス州立大学の予算給餌ガイドラインは、5キロの離乳子豚には特別飼料を0.45キロ、フェーズ1飼料を2.3キロとして、できる限る早く肥育用飼料に切り替えるように勧められています。欧州では、肥育用に比して子豚用飼料価格は1.3倍から1.5倍です。なお子豚用飼料の価格がスペインとフランスで2万円も違うのです。子豚用飼料価格は、使用量が少ないのですが、注意すべき価格と思いました。自農場の飼料のコスパは常に試験するべきと思います。

GBM3 (1).JPG

肉豚1頭当り生産コストの改善の国際間比較

 2022年は飼料価格が高騰しました。歴史的には各国とも2013年に生産コストが最高値をつけました。その後、急速に減少し2015年には安値を付け、2020年から上昇しています。2022年は過去一の歴史的な高騰となりました。安かった2015年に比較すると米国で1.9倍、欧州では1.5から1.6倍に跳ね上がりました。なお英国ポンドは140円に固定しています。2024年4月現在の円換算にするとさらに3割上がっています。飼料高騰時への対応策は、栄養セクション​飼料高への対応も参考に。

 2021年の日本の肥育豚生産コストが農水省から発表されましたので、2021年での各国とのコスト比較も下図にのせました。英ポンドは180円としました。生体は115キロとしました。円安の影響で、日本の生産コストも欧米の2倍以となりました。せめて欧州並みのコストを目指したいものです。

GBM5 (1).JPG
GBM6 (1).JPG

年間母豚当り離乳子豚数の改善力の国際間比較

 時系列の推移については、4か国(デンマークとオランダ、スペインそして米国とブラジル)を選び図にしました。毎年の成績も大切ですが、時系列での各指標の改善力(頭/年)が大切です。

 繁殖生産性の高さの順序でいくと、デンマーク、オランダが優れます。両国の繁殖生産性での育種改良を含めた改善力は世界をけん引しています。改善力でもデンマークが優れ、年平均で0.5頭を改善しています。デンマークは2018年前後に急激に離乳子豚数が伸びたのですが、少し改善率は落ち着いてきたようです。分娩時生存子豚数の増加による小さな子豚問題があったせいかと思います。スペインとオランダと米国とブラジルは同等の改善力(0.3~0.4頭/年)となります。

 母豚性能は、種豚会社によって毎年改良され、飼養管理技術も毎年改善されています。ベンチマーキングでの大切なことは毎年の改善です。この毎年の改善力が大切です。

GBM7 (1).JPG

肥育期・飼料要求率の改善率の国際間比較

 肥育期の飼料要求率は、肥育生産性の重要指標の一つです。体重30キロから出荷までの肥育期の飼料要求率を示しました。この指標は欧州3か国と米国を選択しました。

 オランダとデンマークの安定に比して、スペインと米国は凄い改善率です。ともに年間に0.02ずつ要求率を減少させています。ただし米国のここ4年の要求率の悪化は深刻です。とくにスペインとブラジルは飼料要求率がトップなのです。肥育成績は、育種会社は長期計画的に育種改良しています。肥育期の飼料要求率は生産コストを下げる大きなポイントです。毎年改善するのが大切です。

GBM8 (1).JPG

肥育期・死亡率の改善率の国際間比較

 飼料要求率を上げてしまう原因の一つが肥育期の死亡率増加です。死亡率は、農場の健康管理・疾病管理の指標でもあります。とくに肥育期後半での死亡頭数が多いことは経営上の大問題です。オランダは、死亡率が安定して低い国です。オランダは農場の健康管理・疾病管理に優れていると思われます。米国・スペイン・デンマークはこの3年悪化しているようです。

 病気の問題もあるのですが、2000年以降の米国の主流は、離乳期からのウイーン・トゥ・フィニッシュ生産です。この米国の成績は古い農場の可能性があります。

 なお米国のルーエン獣医師は「肥育成績が悪いのは、その子豚を生産した繁殖農場での健康管理・疾病管理に問題がある」と言いきりました。さらにオールイン・オールアウトができない農場は、将来生き残れないとも言い切りました。肥育期の死亡率の改善には、農場における健康管理・疾病対策が大切です。

GBM9 (1).JPG

経済合理性を測る経済性評価

情報に基づいた意思決定を行うためのコストと有益な効果=利益を評価する方法を紹介します。

出典:Silva GS, Linhares DCLら53rd Annual Meeting of AASV, 16-20, 2022.

Lane DMらSwine Health and Production, 5(3):95-102; 1997.

  養豚生産においては、生産コストの管理が非常に重要になってきています。そして動物の健康とパフォーマンスを改善することは、効率的で経済的に持続可能な生産を達成する上で重要な役割を果たします。生産者は、健康、経営管理、投下資本に関する意思決定を継続的かつ迅速に行う必要があります。

  例えばその決定は、生産フローや管理戦略の変更(例、離乳年齢の引き上げ、離乳豚のダブルストッキングへの変更)、病原体を排除するための群閉鎖、または健康問題への介入や変更(例: 雌豚農場での集団ワクチン接種、またはワクチン接種の時間、投与量、ワクチン会社の変更など)があります。生産者と獣医師は、その介入・変更が農場の収益性にどのような影響を与えるかを理解する必要があります。すべての介入・変更にはコストがかかりますが、農場や生産システムの収益性に影響を与える生産性の向上が見込まれます。

  これらの生産性の変化のほとんどは、重要生産指標 (KPI) (1 日当り平均増体量、飼料要求率、母豚当り離乳頭数、高価値の肉豚割合、死亡率など) への影響によって捉えられており、生産データは重要な役割を果たします。 介入による変化が生産性に及ぼす経済的影響を評価します。

  経済性評価法は介入・変更の実施前および/または実施後に使用できる優れたツールです。次の 3 つの側面に対処します: (1) 変化のコストと便益の決定、(2) 変化毎の経済的価値の定量化および (3) インパクト度(感度分析)を実施することで介入・変更の実施前の不確実性の経済性の評価ができます。様々な側面を組み合わせることで、動物、群れ、または生産システムでの意思決定を最適化するという目標を達成できます。

  養豚業界では、投資収益率 (ROI)、費用対効果、ロイック(ROIC: Return on Invested Capital)、損益分岐点、投資回収期間などの主要な経済指標を計算するために経済モデル(経済評価法)を使用しています。養豚産業界で使用される最も一般的なタイプは、部分予算法と費用便益分析とインパクト度(感度)分析です。さまざまなデータを考慮して意思決定を最適化します。

 なおロイックは、農場が投下した資本から得られた利益の割合を示す指標です。日本語では「投下資本利益率」と訳されます。

ROIC(%)=税引後の営業利益÷投下資本×100

投下資本の計算法は2種あります。資産運用からは、投下資本=運転資本+固定資産=(売上債権+棚卸資産-仕入債務)+固定資産

資金調達からは、投下資本 = 有利子負債+株主資本です。

部分予算法 Partial Budget

 

  米国で最も使用されている評価法です。部分予算法は、農場利益の変化の経済合理性を評価します。例えば、繁殖方法 (例、深部注入人工授精) の検討や、病気を排除するための群閉鎖の実施など、経営管理の変更を分析する場合に特に役立ちます。

部分予算法は、収入とコスト×増加と減少の4 つのセクションで構成されます: (1) 増加する収入(2) 減少するコスト(3) 増加するコスト(4) 減少する収入です。(1)と(2)はプラス額で、(3) および (4)はマイナス額です。プラス額がマイナス額より大きい場合に、新しい介入やシステム変更を採用することになります。

実例1は、離乳・肥育出荷一貫生産での PRRSVワクチン追加接種する場合での部分予算法での検討です。わかりやすくするために、豚1,000頭単位にしています。ワクチン追加接種で、死亡率が1%改善、飼料要求率が4%減少すると仮定します。

  • 1)増加する収入、死亡率が1%改善されて出荷できる豚10頭が増え、10頭×4万円=40万円

  • 2) 減少するコスト、飼料要求率が4%減少、飼料300キロ×1000頭×0.04×飼料代7万円=84万円

  • 3) 増加するコスト、ワクチン代は450円×1000頭=45万円、労賃は15円×1000頭=1.5万円、飼料代は10頭分×200キロ×70円キロ=84万円出荷・屠場経費も10頭分×3000円=3万円。小計は63.5万円、なおワクチン代と労賃は米国例の倍で計算しています。ドルは簡便に円としています。

  • 4) 減少する収入、なし

合計は、40万円+84万円-63.5万円-0=60.5万円 1頭当り約600円の利益となります。

PB1 (1).JPG
PB2 (1).JPG

部分予算法の実例2は、繁殖肥育一貫生産農場でのオールイン・オールアウト(AIAO)の実施です。繁殖部門があり、かつ施設の改造があると複雑になります。100分娩腹当りで計算します。1腹当り離乳頭数は11.5頭です。

  • 1) 増加する収入、AIAO に変更して0.23頭増加、100腹×(分娩腹当り11.5頭+0.23頭増)×生存割合6%=70.38頭増加、70.38出荷豚 × 3.0要求率× 0.65歩留×464円実質販売単価=2547千円

  • 2)減少するコスト、死亡するはずだった頭数70.38頭×60 kg ×3.0飼料要求率×70円飼料代=887千円、分娩前後ケア5000時間/100分娩×5割節約時間×3000円/時間=7,500千円、清掃代(600-375時間節約)×3,000円=675千円/100分娩、小計:9,062千円

  • 3)増加するコスト、飼料代;増加頭数70.38 頭×120 kg×3.0要求率×70円飼料代=1,774千円

  • 4) 減少する収入、AIAO実施を実施すると、回転数が落ち腹数2%減少、2腹数×11.5頭=23頭、23頭×90%生存割合×120 kg ×0.65×464円実質販売単価=925千円

合計は、2,547千円+9,062千円-1,774千円-925千円=8,910千円/100腹となります。

 なおこの部分予算法では、AIAOへの転換にともない必要になるであろう豚舎の増設費の償却は含まれていません。逆にいうと、100腹当り(年2.3回転で母豚43頭) 800万円までは施設増設費の償却(何年償却かによって)に使用できるとも言えます。

 さらにAIAO実施に伴う薬品費の減少費や死亡肥育豚の処理費も入っていません。母豚死亡率の減少も入っていません。獣医的だけでなく、部分予算法でみてもAIAO実施は経済合理性があります。1990年代に米国のほとんどの養豚場が、AIAOに変更していった理由です。AIAOは死亡率の減少、要求率の改善そして分娩前後ケアと清掃の時間の節約が大きいようです。

コスト・ベネフィット(費用対効果)比率法

 上記の部分予算法は、金額を評価します。もう一つの評価法は比率%での評価です。コストと有益効果に分け、果たしてコストの何倍、効果があるかを評価します。つまりコストの何倍儲かるか、を示します。上記のワクチン投与の実例だと、コストは63.5万円で有益効果は124万円です。効果をコストで割ると1.95 倍のコストの効果となります。なお例2のAIAOだと効果は11,609千円で、コストは2,699千円で、4.30倍になります。

PB3 (1).JPG

インパクト度(感度)法 Sensitivity Analysis

 インパクト度(感度)法により、コストが上下したときの、収益性への影響を評価できます。1 つの条件(市場価格やワクチン代など) が、残りの変数を保持したまま、可能な範囲の値で変化する場合のインパクト度を考慮できます。追加ワクチンの例だと、豚の生体販売価格が3.6万円から5万円の範囲で、販売価格が2000円(と体キロ25円)上がるごとに費用対効果は、0.03倍づつ上昇します。販売価格のインパクト度がわかります。

PB4 (1).JPG

費用対効果比率法とインパクト法の組み合わせ

  上記の豚販売価格の変動とワクチン価格の変動を組みわせて、費用対効果比率の変動を見る方法です。ワクチン代が350円から550円に変動し、豚販売価格が3.6万円から4.4万円を変動した場合の費用対効果比率の変動が評価できます。ワクチン代が50円下がるごとに比率は0.15~0.16倍上がり、一方、豚の販売価格が2000円(と体価格で25円)あがるごとに比率は0.027~0.038倍上がるわけです。

PB5 (1).JPG

危機管理におけるリーダーシップ 

米国パイプストーンのDr. Gordon Spronkが、ASSV2021meetingで、危機におけるリーダシップについて話した要旨があります。米国養豚会の未曾有の危機を乗り越えた経営者の静かなる魂の記録です。簡単に紹介しておきます。出典:https://www.aasv.org/library/proceedings/ 会員のみです。

 

危機とは、激しい困難、トラブル、または危険の時。

危機とは、自分が間違っているときに現実に遭遇する時であり、善を行い、行動を起こし、再び生きる準備をする機会です。

 

すべての危機は異なりますが、すべての危機には共通の要素が含まれています。

それは予期せぬ緊急なものであり、正確な情報と即時の重要な決断が必要です。常識、知恵、洞察・判断力は非常に必要で、危機をうまく乗り越えて希望を取り戻すためにも大切です。

実例:コロナ禍で屠場と食品工場閉鎖、養豚産業界の未曾有の危機

 2019-2021年、養豚産業の危機は、市場価格の下落から始まり、その後に続いた食品工場のスタッフから新型コロナウイウイルスが分離されました。その結果、ウイルスの循環を阻止し、労働者の安全を確保するため、食品工場が閉鎖されたのです。

 食品工場の閉鎖により、混乱した配送スケジュールを管理するために農場での生産介入を緊急に実施する必要が生じました。 豚をタイムリーに食品工場に出荷できないので、動物を生産するチェーンが止まってしまいました。食品工場閉鎖の不確実性とそれに対する反応はまさに危機でした。

 最大の危機の中心は、スペースのない豚には、何らかの介入が必要であるという現実です。考えられるすべての代替案を検討した後、残された唯一の方法は安楽死でした。この決断の現実は、何千頭(何万頭?)の豚を安楽死させるという道徳的ジレンマを抱えたのです。農場や生産会社を含めて、オーナーやリーダーとそのチームは、これまで直面したことなどなかった危機です。この真実で、スタッフはうちのめされ圧倒され、組織を麻痺させたのです。「現実、知識、真実」は、危機における3つの重要な要素です。

 この養豚産業の危機の間に、私たちのチームは、意思決定に対する通常のビジネスアプローチやコミュニケーションを中断する必要がありました。 意思決定とコミュニケーションの大きな変更が必要であり、行動が即必要でした。これらの変更と必要な行動は以下です。

  • 農場と会社スタッフの当面のニーズを満たす

  • 危機の定義を明確にし、それに対応する行動をとり

  • 毎日の上級管理チーム会議

  • 毎週のスタッフへのメッセージ送信

  • 会社スタッフ、顧客、国のリーダー、および農家とのコミュニケーションの増加

  • 最後に行動リストに責任者と締め切りを記載

危機時の行動の概要 (コロナ禍での食品工場停止)

  1. 認識-この危機は初期の突然の豚価格の落ち込みから始まった。4月の市況の落ち込みはその後急速に工食品場閉鎖に発展し、豚出荷の大混乱となった

  2. 危機と影響の察知-生産者と食品工場と養豚産業の存続

  3. 行動計画を策定-責任者そして期限を決める。この場合は食品工場への豚の出荷を遅らせるために、豚の成長を遅らせる、またはより多くのスペースを作り、または豚を安楽死させる。

  4. 計画を実施-工場を再稼働させ豚を出荷できるように、そして各農場が生き残るための経済的援助を提供

  5. コミュニケーション-問題と実施している計画、そして関係するあらゆるレベルの問題に対応と説明

  6. 協力・協働-すべての人にとって最良の結果を達成するために、仲間のグループ、州および国のリーダー達と協力・協働する

  7. 計画を吟味-行動計画を毎日見直す

  8. 計画変更-必要に応じて、状況の変化に応じて計画を変更

  9. 修正した計画の実行-新しい状況と情報に基づいて修正された計画を実行

  10. 注意-予期せぬ事態が発生する可能性があるため、波及効果に注意

危機の期間に学んだこと

  • 危機についての早期の認識が最重要キー: 正確、タイムリー、偏見のない情報と知識。知識とは、適切な思考と経験に基づいて、対応する問題をあるがままに表現する能力(考え、話し、議論し、取り扱う)です。

  • 最大の敵は麻痺: 麻痺してしまって行動することを拒否すると、人も組織も去ります。

  • 「成し遂げる」ことに価値を置く組織のリーダーシップを大切にしましょう。

  • 危機は人や組織を弱くするのではなく、単に弱さを露呈させるだけなのです。誰にでも、それまでは計画があったのです。

  • 些細なことを切り離して棚上げし、主要なことに集中。大切なニーズを満たすことです。

  • 援助を申し出て、助けましょう:たとえ見返りがない場合でも。小さなことでも素晴らしくしましょう。

  • リーダーは貴重ですが、それに従うフォロワーも同様です。 よいリーダーなりたいなら、まずよいフォローになる方法を学びましょう。

  • 簡単なコミュニケーションの重要性を決して過小評価しないでください。例えば、はい、いいえ、助けて、ありがとう、すいません、すごい、もう十分などです。

  • 難しい会話もしましょう。 より早く直接伝えることが最も親切なコミュニケーションです。

  • 戦いの塹壕の中には無神論者はいません。祈り方を学びましょう。

危機の後で学んだこと

意見を言う人ではなく意思を決定する人を大切にしましょう

「もめごとの上をかすめ取る」のではなく、積極的に取り組むスタッフを大切にしましょう

生涯にわたる以下の個人の習慣を大切にしましょう

  • 急いではいけない。「焦るのでなく、素早く行動しましょう」

  • 執拗に質問する。「真実という知識を求めてください」

  • 永遠を常に追求する。「より高い目的を持つ人は、人生のどんな危機も乗り越えるのです」

 

危機に関する個人としての生涯の教訓

1. 許しの教訓: すいませんと言う力。

2. 決断の教訓: 行動を起こす力。 それはVIMつまり展望、意図、手段。

3. 死と永遠の教訓: 魂を回復する力。

 

締めくくり

経営危機は現実の究極の形態であり、あなたとあなたの組織が自分自身とあなたの組織の目的と向き合う機会です。現実が危機になるまで、誰もが「口先だけで話す」ことができます。

  • いつの時代も今日も根本的な問題の解決策は常に「知識、自己規律、徳」です。

  • 危機においては、魂も現実も麻痺するような戦争状態「魂の闇夜」です。

  • 行動する能力が、本当は生き残る人と、本当に絶望する人を分けます。

  • 闇夜の美しさの魂の経験は、回復への道へ魂とともに目覚める機会です。

bottom of page