養豚経営情報
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子豚のような好奇心と行動力、そして成長力を目指しています。こぶたの学校長・纐纈雄三
妊娠豚グループハウジング(Sow Group Housing)
2013年からEUが、妊娠中期(妊娠後4週間と分娩前1週間以外)での妊娠豚のストール飼育禁止とした時に、主なオプションは4つ、1)床給餌、2)ミニボックス(ストール後半分を切りとって開放した:肩ストールともいう)、3)フリーアクセスストール、そして4)コンピュータ制御給餌器(ESF)でした。ここ数年、5)フリーアクセスESFと呼ばれるフリーアクセスストールとESFを組み合わせた新方式もでてきましたので、ここで妊娠豚グループ飼養システムをまとめておきます。なおこの記事は妊娠豚のグループ飼養を奨めるものではありません。カナダにあるプレーリー養豚研究センターとその関連サイトの記事を主体に紹介します。詳しくは以下HPもご覧ください。https://groupsowhousing.com/ およびhttps://www.prairieswine.com/portfolio-item/group-sow-housing/
フリーアクセスESF製品は、https://jygatech.com/products/gestation/gestal-3g/
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5つのまとめ
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床給餌
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ミニボックス or 肩ストール
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フリーアクセスストール
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コンピュータ制御給餌システム(ESF)
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フリーアクセスESF
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飼育密度
グループ飼養での給餌システム2種類
競争的給餌と非競争的給餌です。システムによって初期費用、必要床面積、グループサイズ、必要労力が違います。競争的給餌には「床給餌」と「肩ストール」があり、非競争的給餌には「フリーアクセスストール」「ESF」「フリーアクセスESF」があります。非競争的給餌では、豚間の攻撃・闘争を大幅に減らせ、かつESFでは個別給餌ができます。しかし、ESFでは給餌器へのアクセスをめぐって競争・闘争があります。そのため競争・闘争を少なくするためには、少飼育密度、ペンのデザイン、複数の飼料給餌器の設置が重要です。また、グループ導入前の豚の訓練も必須です。
床給餌
カナダ・オンタリオ州はよく使用されているシステムです。ただし強い豚と弱い豚ができます。強い豚は飼料摂取量が多く、体重もよく増えます。一般的には、弱い豚は若い豚で体重も軽い豚で、ボディコンも痩せていき、何頭かは別場所に移動して救済しなければならなくなります。救済しなければならない豚は、カナダでは15%はあると言われています。
個別給餌ができないので、できる限りグループ内の飼料摂取量を均等にするために、母豚はできる限り同等にして、競争条件を同等にすることが大切です。つまり産次と体重と背脂肪厚(ボディコン)でグループ分けすることです。同じ種付けグループで区分けをすると、グループサイズは小さくなります。
母豚が同じような背脂肪厚(ボディコン)でシステムに導入するには、妊娠が確認されるまで(通常は種付け後35日)ストールに収容し、その時までにボディコンレベルが同じになるように給餌すると有利です。この重要時期に過度の競争や飼料消費量の低下が起こると繁殖成績に悪影響が出るため、このような「種付け・着床」用のストールの使用は床給餌システムにおいて特に重要です(Spoolder et al., 2009)。
繊維分の多い飼料を使用すると、飼料消費時間が長くなり、常同行動(例:偽咀嚼、ストールの横棒噛みつき)の発生が少なくなりますが、競争・攻撃が増す可能性があります(Whittaker et al. 1999)。繊維分の多い飼料を自由摂取させることで、弱い母豚は給餌時間のピークを避け、通常レベルの飼料を消費することができますが (Brouns and Edwards, 1994) 、総消費エネルギーを制限できるほど嵩が多くなければなりません。写真はカナダNSHCPから引用 https://groupsowhousing.com/
床給餌を成功させるポイント
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産次、サイズ、背脂肪厚(ボディコン)によって母豚を区分け
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ボディコンを均等にするために「種付け・着床」ストールでの時間をとる
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均等に飼料を与えるために、給餌場所を広くとる、または複数点で給餌
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ペン内に仕切り板を入れる
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不適応の豚を他に移動させ飼養する
肩ストール(欧州ではミニボックスともいう)
床給餌に代わるものとして、弱い豚の保護を目的として、肩ストールの使用があります。肩ストールは強い豚が飼料を独占することを防ぐために、弱い豚が自分の取り分を守ることができるようにするものです。それでも強い母豚は下位の弱い豚を肩ストールから追い出し、飼料を手に入れることができます。右下写真は欧州PigCHAMP Pro社のDr. Carlos Pineiroから提供。
肩ストールでも、豚の競争・攻撃予防の管理技術(例:サイズやボディコンによる区分け)を使う必要があります。さらに、施設的な方法も使用します。肩ストールシステムでは、長い飼料槽を使用します。これらの飼料槽は1頭分ずつ分割されています。肩ストールの長さは長ければ長いほど、競争・攻撃が減り、飼料の摂取量が均等になります(Barnett ら、1992 年、Andersson ら、1999 年)。
ストール長さのインパクト
肩ストールでは、弱い豚を完全に保護することはできません。肩ストールでは、強い母豚が弱い豚をストールから追い出そうとした際に、豚の側面に切り傷や擦り傷ができることがよくあります。
もし長いストールが良いのなら、なぜ生産者は短いストールを使うのでしょうか? それは、飼料消費中の弱い豚の保護と使用可能な床面積との間のバランスです。グループ飼養されている豚には、自由に動き回れる十分なフリースペース(ストールの外で)を確保する必要があります。長いストールを使用している場合、この休息し歩き回れる場所を確保するために、ストールの後ろに追加のスペースが必要です。長いストールにするには、床面積の増加が必要で、より大きな土地と資本が必要です。
肩ストールシステムで豚の攻撃性や弱い豚の追い出しを減らすための他の手段は、2つあります。1つ目は豚の食べる速度を上げることで、飼料を消費するのに必要な時間を短縮し、飼料消費中の競争・攻撃を減らすことができます(Andersson 他、1999)。 食べる速度を上げる方法のひとつは、液餌を与えるか、飼料槽に水を入れて与えることです。食べる速度が速くなることで、強い母豚が弱い豚をストールから追い出すことができるようになるまでに、弱い豚はほとんど飼料を食べ終えてしまいます。しかし競争・攻撃や弱い豚の追い出しは減りますが、早食いは常同行動の増加などを増やす可能性があります。
2つ目の方法は、ゆっくり給餌(trickle feeding)です。通常30分程度、長い時間をかけて飼料槽に飼料を出します(Hulbert and McGlone, 2006)。理想的には、飼料供給の速度は、最も食べるのが遅い動物の食べる速度と同じかそれよりも遅くすることです。
2つのストレス
給餌システムで2つのタイプのストレス因子:競争的問題かその他問題があります。もし、問題が若くてサイズの小さい豚に多く影響しているのであれば、それは競争・攻撃性問題である可能性が高いです。痩せている母豚はますます痩せ、太っている豚はますます太ります。痩せ豚/肥満豚症候群と呼ばれます。この場合、給餌中の競合・攻撃を減らすようにする必要があります。
一方、身体の小さいもののも大きいものも同様である場合は、競争以外のストレス因子です。例えば、高温、床材、空気の質または飼育密度が含まれます。場合によっては、両方のストレスが問題になることもあります。例えば、床が悪いために母豚の 10%が四肢障害をおこし、全サイズに均等に分布している場合、四肢障害があり身体の小さい母豚は、飼料の競争で不利になる可能性があります。四肢障害が最初の問題であることを特定し、床を改善することができれば、競争によって引き起こされるその後の問題を修正することができます。
床給餌か肩ストールの選択
どちらのシステムも、非競争的システムよりも安価です。これらのシステムを使用する生産者は、より安価なシステムを求め、より競争・攻撃性と飼料消費量の制御をある程度あきらめる必要があります。床給餌は、すべてのシステムの中で最もコストがかかりません。しかし、豚の競争・攻撃と飼料消費量の制御が非常に困難な場合は、費用をかけ、肩ストールで豚を部分的にでも保護することがよいでしょう。
肩ストールでの成功のポイント
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ストールを長くすることにより競争・攻撃性が減少する
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ウェットフードは消費するのに時間がかからず、競争・攻撃性が減少する
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ゆっくり給餌は、遅食いの豚の前に餌の蓄積を防ぐことができる
フリーアクセスストール
妊娠ストールが広く使用される前に使用されていたゲートストールでは、給餌時にのみストールに妊娠豚を入れ、手動で閉めるゲートを備えていました。給餌中に誰かが立ち会う必要性をなくすために、豚自身が制御できるゲート式ストールが発明・開発されました。ゲートはストールの後方のみです。
豚がストール内にいない場合は、ゲートが開いており、どの豚でもストール内に入ることができます。豚がストールに入ると、押しレバー機構によって豚の後ろゲートが閉じられます。ストールの外にいる豚は開けることができないため、攻撃や餌盗みの可能性を防ぐことができます。ストール内の豚は、バックすることによって、レバーが動きゲートが開き自由に出ることができます。
飼料消費量の管理
ゲート式ストールでは、ペン内の全頭が同じ量を食べることになります。このことから、豚の栄養要求量に対応するために、2つの管理方法があります。第一は、望ましい給餌レベルに基づいてグループを形成することです。つまり痩せている豚と肥満気味の豚を分けることです。第二は、より多くの栄養を必要とする豚に、定期的に手給餌で、追加の飼料を提供することです。例えば、痩せた母豚をマーカーで識別し、飼育スタッフは豚が食べている最中に、それらのストールに飼料を補充するのです。
共同フリースペース
フリーアクセスストールは、2つのタイプ:I型配置ペン(上左写真)とT型配置ペン(上右写真)があります。I型配置ペンは、2つのストール列の間にI型のフリースペースがあり、そこからストールに出入りすることができます。スペースの幅は通常3 mです。スペースの長さは、給餌ストールの幅と数によって決まります。T型配置ペンは、I型配置ペンの片方の端に、T型になるように直角方向のワラ敷の床部分を追加したものです。T型は通常、ペン全体の長さに少なくとも3メートル追加されます。藁を敷くために I 字型部分より低くすることがあります。
生産者の中には、2列のストール間のフリースペースの幅を狭める人もいますが、間違いです。フリースペースは高品質にしなければなりません。例えば、適切な床、競争・攻撃を避けるための十分なスペース、ある種のエンリッチメントや飲水器なども用意するなどです。ストールのどちらかの列からも2頭の母豚が、互いを回避することなくストールから出ることができ、攻撃行動を避けることができることが非常に重要です。写真は米国ポーク生産者協議会から。https://porkcheckoff.org/certification-tools/producer-tools/sow-housing/
共用フリースペースの利用を増やす
妊娠豚グループ飼養システムの利点ひとつは、豚の運動量が増え、かつ豚同士の社会活動が増加するということです。例えば、ESFシステムの母豚は、妊娠ストールに比較して骨強度が高く、筋肉萎縮が少ないことが報告されています(Marchant and Broom, 1996)。しかし、フリーアクセスシステムの最大の批判は、ほとんどの豚が長い時間をストール内で過ごすということです。敷き藁なしの床のフリーアクセスストールでは、豚によってフリースペースの使い方が大きく異なるようです(Lang ら、2010)。例えば、豚がストールの外で過ごす平均時間は約4時間ですが、日中全くストールから出ない豚もいれば、20 時間以上出ている豚もいます。ストールの外に出る可能性が低い豚はまだ身体の小さい若い豚で、大型の高産次母豚はフリースペースで最も長い時間過ごします。この理由として、若い豚は大型の母豚に脅かされている、大型の母豚は妊娠ストールの中では落ち着かないのではないか、若い豚は体格や訓練不足でストールのゲートを開けることが難しいのではないか、ということがあります。
豚のフリースペース利用を増やし、運動量を増やすように促すには、2つの方法があります。第一に、ストールの外に飲水器を置き、刻んだ藁や干し草の棚設置などです。この場合、豚がいつでも簡単にストールから出られるという自信を持つことも必要でしょう。前述したように、小さな母豚にはバックしてもゲートが簡単に開けられないという懸念があります。
フリースペースの使用を増やすための第二の手段は、豚の嗜好に対応することです。例えば、豚はストールよりも固い壁で休むことを好み、スノコ床よりスノコ無し床を好みます。多くの T 字型システムでは、そのT字の上部分に藁が敷き詰められています。多くの母豚が T字の敷き藁部を使用します(Nielsen、2008)。
競争はどのような役割を果たすか?
フリーアクセスストールは、すべての群飼システムの中で最も競争・攻撃が少なく、豚は給餌ストールに入るだけで保護されます。しかし、ペン内の他の競争は残っています。飲水器やワラ棚、エンリッチメントがフリースペースにあれば、強い豚が優先的に利用することになります。強い豚は、フリースペース壁際でも、ワラやゴムマットのある場所でも、好きに横たわる場所を利用するようになります。弱い豚はスノコ床の上に追いやられるため、四肢障害や膿瘍などの発生率が高くなります。いくつかのグループでは、強い豚が独裁者のようになり、他のすべての豚を攻撃することがあります。集団全体を混乱させないような新たなヒエラルキーを確立するために、独裁者的な豚を排除することが有効になる場合があります。下右写真は欧州PigCHAMP Pro社 Dr. Carlos Pineiroから提供。
フリーアクセスストール成功のポイント
本システムは、人による管理よりも、そのデザイン力によって目的を達成するシステムですが、いくつかの管理方法はシステムの円滑な運用に貢献します。
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ストールから出るときに、すべての豚が後ろにあるゲートを簡単に開けられるようにゲートを常に修理・修繕する。新しい豚のトレーニングは有用。
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十分なスペース、水、繊維源、床など豚が使用しやすいフリースペースを作る
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産次でグループ分けして、若い豚がフリースペースを使用できるようにする
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フリーアクセス内で他の豚を常に攻撃するような独裁者的な豚を違った場所へ移動する
システムはどのように作動するか
ESFは、給餌器(給餌ステーション)1台当り豚40〜60頭の大きなグループからなります。時には複数のステーションもあります。40-60頭の豚が、同じ給餌ステーションから、順次食べなければなりません。豚が給餌ステーションに入ると入口ゲートはロックされ、豚は耳標ID(トランスポンダ)によって識別されます。ESFは、その豚用の飼料量を飼料ボウルに、数分かけて分配します。飼料が落下している途中およびその後の数分間、入口ゲートは他の豚が入らないようにロックされたままとなります。豚はいつでも退出でき、出ていくと飼料分配が止まり、次の豚のために入口ゲートのロックが解除されます。
コンピュータは、各妊娠豚に分配された飼料量(実際に食べた量ではない)を記録し、システムは日単位で循環し、飼料の新しい分配量は24時間ごとに各豚に利用できるようにされています。システムは毎日の分配量を食べていない雌豚についてのフィードバック記録を発信します。このフィードバックは、各24時間サイクルの終わりに飼育スタッフに「要注意リスト」の形で、ケアが必要な豚を知らせるために使用されています。下右写真2枚はカナダのNSHCPの母豚群飼育HPから。https://groupsowhousing.com/
飼料消費量のコントロール
ESFは、個別給餌ができる群飼育システムです。雌豚は、最初にシステム(ペン)に導入される時、飼育スタッフは、システムにその豚のためにカスタム化した飼料プログラムを入力します。雌豚が毎日消費する飼料量を設定し、妊娠の進行に応じて増加させることができます。雌豚の年齢、体重、ボディコンや背脂肪値をベースにすることができます。また、多くのESFでは、各ステーションに2つの異なる飼料を給餌することができ、雌豚は2つの飼料の一方または他方を消費するようにプログラムされています。2つの飼料はまた、個々の母豚に適切なタンパク質とエネルギー量の組み合わせを達成するためにブレンドすることができます。なお何頭かの豚は、分配された量をまったく食べない日があります。しかしESFは、豚に分配された飼料量を記録しています。
豚はどのように行動するか
ESFシステムでは、豚は順番に給餌器に入って食べるので、グループ全体が同時に活動することはほとんどありません。最も豚の行動が活発になるのは、ステーションが給餌を開始した直後です (Hodgkiss et al., 1998)。多数の豚が入口ゲートに近づき、一番に食べようと競争します。給餌サイクルが終わりに近づくと、弱い豚だけが残されています (Strawford et al., 2008)。
給餌ステーションでは、母豚は1日に平均 3 回給餌器を通過し (Cornou et al., 2008)、ペンに複数のステーションがある場合は、決まったステーションを強く選好します (Eddison,1992)。中程度の飼育密度であれば、ほとんどの母豚は最初の給餌ステーションでの通過でその日の分配量を全て食べてしまいます (Eddison,1992; Cornou et al.,2008)。給餌ステーションにいるとき、母豚は素早く食べ、食べているのと同じくらい早く飼料が落ちてこないと、飼料分配器を頭で叩いたりします。食べ終わると、母豚は素早く退出します。給餌ステーションを出た後、雌豚は飲水し排尿または排便することがあります。日中何度も給餌ステーションを循環する少数の豚がいるのは、飼料ボウルから飼料が床に落ちたり、ボウルに残ったりするように設計されている場合です。
母豚同士の競争は顕著です。より強い母豚(通常、年上で体格が良く、集団の中で上級)は、給餌サイクルの早い段階で給餌ステーションに入ります。そのため、ステーションの入口付近で攻撃的になり、攻撃された豚の外陰部が外傷で腫れあがることもあります(Rizvi et al.、1998)。また、強い豚はペンの中で最も寝心地の良い場所(固い床や壁の近く)をとり(Strawford et al.、2008)、弱い豚は給餌ステーションの出口付近や糞をする場所にいます (Moore et al., 1993)。左写真は欧州PigCHAMP Pro社のDr. Carlos Pineiroから提供。
ESFの問題点
飼料分配の面で、豚の管理は、消費量等を監視し、電子識別システムとコンピュータプログラミングに大きく依存しています。それは豚がグループに追加または削除されるたびに、豚の情報はコンピュータで更新されることが重要です。適切な飼料給餌曲線や出産予定日などの豚に関する情報があれば、システムは適正量の飼料を分配し、必要に応じて豚区分けを行うスケジュールを組むことができます。
最新かつ正確な情報の入力を怠ると、ESF管理の大きな問題になります。システムからの出力は、毎日の「要注意リスト」という形で、電子管理の重要な要素にもなっています。さらに紛失したり故障した電子耳標を速やかに交換する必要があります。機器の故障や停電には迅速に対処し、バックアップ給餌(通常は床給餌)で行う必要があります。
豚をシステムに適合させるための訓練に失敗すると、多くの給餌が欠け、最終的にこれらの豚をシステム不適格として違う場所への移動が必要になります(Bressersら、1993年)。うまく設計された訓練ペンと手順が必要です。若雌豚は小さなグループに分けて収容し、各個体が毎日ステーションを通過するようにすることで、1週間以内に訓練することができるはずです。訓練期間が長ければ長いほど、餌を食べない日が少なくなります。訓練中の飼料摂取量は変動しやすいので、妊娠1ヶ月間はできるだけ避けるべきです。
ESFの管理で最大の問題の一つは、生産者が給餌ステーションの飼育密度を高くする傾向があることです。ステーションに対し母豚数が多くなると、給餌サイクルの終わりになるにしたがって、若い弱い母豚にとっての餌のために残された時間は少なくなります。高い飼育密度は、ステーションの入り口で競争・攻撃が増加し、弱い豚の飼料消費の失敗が頻繁に起こります。
ステーションでの高い飼育密度を上げて成功するポイントは、それぞれの母豚がステーションで過ごす時間を減らすことです。初期では、母豚の飼養頭数をステーションあたり40 頭とすることが多かったのですが、現在では多くの農場が 60 頭で成功しています。しかし、このレベルは管理を誤ると大問題になる可能性があります。過剰な飼育密度はボディコンが不均一になり、痩せすぎ豚の繁殖成績が悪くなります。
給餌ステーションの滞在時間を短縮する
すべての母豚が給餌ステーションを通過し、その飼料を消費するために、給餌サイクルの間に十分な時間がないときにESFの飼育過密問題が発生します。この問題は、ステーション当りの母豚の頭数を減らすか、それぞれの母豚がステーションで過ごす時間を減らすことで解決することができます。この時間を短縮してシステムを効率化する方法はいくつかあります。
母豚は、給餌ステーション内で水が供給されると、より速く食べることができます。飼料に約50%の水を含ませると(例:100gあたり50ml)、消費速度が35%も向上します。水を加えた場合、マッシュ飼料とペレット飼料では消費速度にほとんど差はありません。飼料落下を一回させるごとに水を加える必要があります。ほとんどのメーカーが装置にこの機能を持たせていますが、スタッフは装置が正常に作動し、メンテナンスされていることを確認する必要があります。
飼料落下速度を豚ごとに設定することで、早食いの母豚に対応できます。母豚は、毎日の飼料を消費するために必要な時間はかなり異なっています。例えば高産次の母豚は、10分でその飼料を終了するが、若雌豚は20分以上かかることもあります。10分間で飼料を分配するように設定することにより、早食いの雌豚は12〜15分以内に終了し、ステーションを出ることができます。1頭が終了したら、入口ゲートは、別の雌豚が入ることができるようにロックが解除されます。
遅く食べる豚には、飼料を消費するために、追加10分ほど入り口ゲートをロックしておく必要があります。このアプローチの1つの問題は、遅く食べる豚が飼料ボウルに自分の餌のかなりの部分を残すと、これは消費された飼料として記録されます。この場合、その豚は翌日にはその残した飼料分を食べることができません。
豚が何度もステーションに入る(リサイクルする)ことを抑制すれば、平均での給餌ステーションで過ごす総時間は短くなります。雌豚が一日あたり平均3回ステーションに入ることが報告されていますが、いくつかの雌豚は、もっと頻繁にリサイクルします。
リサイクルを減らすための第二の手段は、豚がその分配量を消費していない場合のみ、ステーションへの入口ゲートのロックを解除する識別パネルを設置することです。豚はすぐにステーションに再入できないことを学びます。
リサイクルをなくす方法の一つは、「ワンパス」ペン設計を採用することです(Stewart et al.、2008)。ペンを給餌前と給餌後のゾーンに分け、一組のゲートを使用します。すべての豚を、システムが毎日リセットされる前に、給餌前区域に集めます。母豚の多くが通過して後給餌ゾーンに入ります。ワンパスシステムは、農場のすべてに適しているわけではありませんが、訓練や問題ある豚を減らすためにはいい方法でしょう。
ペン配置:給餌器入口、出口、フリースペース
ESFシステムでは、ペンを入口、出口、フリースペースの3つのエリアとして捉えると、より効率的なシステムになります。ペン入口は、母豚がステーションに入る機会を待つエリアです。豚は空腹であり、ここが最も攻撃的になる場所です。より攻撃的な豚から、その他の豚が逃げるためのスペースが必要で、その隅は動物が引っかかるような狭いものであってはなりません。 このエリアには何らかの粗飼料(藁ラックなど)を置いて、動物の空腹を和らげることができるようにすべきです(Stewart et al.)
豚は迅速に出口エリアを通過する必要がありますが、ちょうど飼料を食べ終わったとして、豚は追加の水を飲むことを望むかもしれません。母豚はペン入口に戻る前にフリースペースを通過するようにすれば、より良い動物の流れができます。
フリースペースは、豚のための休息エリアです。スノコでない床またはワラ敷にされるべきです。フリースペースをいくつかの区間に分ける仕切りを設けるべきです。これは、動的グループシステム(グループ内で新しい豚が追加されるシステム)の場合、ペンに追加される母豚が、最近出て行ったグループが空けた場所に移動するため特に重要です。
この 3 エリアシステムには多くのバリエーションがありますが、上記の図はその原理をよく表しています。母豚は、あるエリアからステーションに入り、別のエリアに出て、フリースペースに移動した後、入口に戻ってきます。図には、グループを給餌前と給餌後に分けるために使用できるゲートの使用も示されています。これは訓練や、入口付近の競争に対応できなかった問題動物のケアに役立ちます。給餌前と給餌後の動物の間のゲートを閉めることで、競争は大きく減ります。
ペン配置がよく設計されている場合、ESFは豚あたり1.7-1.9 m2の飼育密度でうまく動作することができます。しかし、より広いスペースを確保することで、攻撃性や皮膚外傷を少なくできます (Remience et al., 2008)
ESF成功のキー
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雌豚がグループに導入されるたびに、すべての豚にID、種付け日や給餌レベルがシステムに入力されていることを確認
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豚を訓練し、豚が給餌システム使用に自信を持っているようにするべき
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毎日の管理は、各毎日リセットでシステムによって生成された「要注目リスト」に基づいて行いましょう
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ペンデザインで動物の良い流れを作り、給餌器入口から出口、フリースペースへの移動を促進しましょう
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過密飼育を避け、すべての豚が毎日簡単に食事ができるように
フリーアクセスESF
フリーアクセスESFは、カナダ・ケベック州の生産者によって発明・開発された比較的新しい給餌システムです。現在、すでに一般的な選択肢となっています。名前が示すように、本システムは、フリーアクセスストールとESFシステムの両方の機能を兼ね備えています。ESFシステムと同様に、給餌器は、耳標IDを使用して、雌豚に個々の給餌をし、プログラムで給餌曲線で給餌できますが、ESFに比べて1給餌器当りの豚数を減少できるのが特長です。ESFは豚40-60頭で、本システムでは豚20頭です。さらに豚は複数の給餌ステーションで並んで餌を食べることができます。給餌器当りの豚頭数が少なく、1グループに並列して複数あるということで、給餌器入口で競争・攻撃がほとんどみられません。そしてフリーアクセスストールと同様に、豚は給餌ストールに入ると後ドアが閉まり安全になります。母豚は給餌ステーションに入り、落ち着いて餌を食べることができます。そして豚は食べ終わると、ストールから後退しストール外にでます。
フリーアクセスタイプESFは、フリーアクセスタイプのストールと比較して、給餌ストールを共有するため、スペースやストール数が少なくて済む一方で、個別給餌が可能という利点があります。本システムはまた、最小限の監督や訓練で済む単純なゲートシステムで、使用する豚のために非常に簡単です。ESFより安価です。ほとんどの母豚は訓練なしでシステムを学習します。若雌豚は、1週間ほどの訓練をしたほうがいいでしょう。右上写真はJyga Technologies 社HPから。https://jygatech.com/products/gestation/
参考:カナダと欧州の妊娠豚の群飼における飼育密度