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施設(ハウジング)と器具

  • ​米国における養豚施設建築費例

  • 繁殖豚のための施設

  • 離乳・肥育期の施設

  • 豚1頭当りのスペースとスノコ床(欧州と米国)​

  • 換気技術

  • 農場における水使用量

  • 離乳から出荷一貫飼育(ウィーン・トゥ・フィニッシュ:Wean-to-Finish)の施設とコストと肥育成績

  • 若雌豚育成ユニット(Gilt Development Unit: GDU)と育成・選抜プログラム

  • カナダMaple Leaf Foods社が紹介する3つの妊娠豚飼育法

  • ​夏場の準備

  • ​飼料フィダーのデザイン

  • ​ビデオツアー1, 2, 3, 4

  • ​デンマーク式エントリーベンチ例

  • ​分娩柵と分娩ペンの例

米国における養豚施設の建設費例

 Genesus社のレポート(2022年1月)は、建設業者に聞いたという情報で、主産地アイオワ州では5000頭母豚規模での分娩・離乳子豚生産用は、母豚1頭当り30万円(1ドル=100円)、母豚5000頭では15億円と報告しました。

 同レポートは、2400頭用肥育舎で、肥育豚1頭スペース当り4万円、2400頭の豚舎では、9600万円とし、さらに2400頭分の施設で肥育豚を飼えば500万円の肥料分の糞尿(豚1頭当り600~700円)が得られると報告しています。

 アイオワ州本社のカクタス・ファミリー農場(米国28位の生産者Cactus Family Farms)は、肥育豚の生産契約で規模を拡大しています。彼らは建設部をもっています。彼らが新規の生産契約者には、2485頭収容のウイーン・トウ・フィニッシュ離乳・肥育一貫豚舎(トンネル式換気、下の写真)で付属設備を入れて8600万円強とホームページで告知しています(1頭スペース当り3.5万円)。アイオワ州の養豚の標準として1か所5000頭規模よりは2400-2450頭ぐらいが、子豚の収容時間、バイオセキュリティと糞尿処理には良いそうです。(経営セクション・契約生産も参照)下の写真はカクタス・ファミリー農場のウエブのものです。  (https://www.cactusfeeders.com/cactusfamilyfarms.html)

​さらに上記ページの”Watch Video"をクリックすると、2485頭収容のウイーン・トウ・フィニッシュの農場ビデオ・ツアー(2分弱)も視聴できます。

肥育施設セット

施設(ハウジング)と器具

 ハウジングは生産システムに密接に結びついています。しかし養豚における施設と器具は、国や地方やメーカーや農場による多様性が大きく、1つの理想形と決めるのがむつかしい。

 繁殖豚用の施設と離乳・子豚・肉豚用の施設があり、その種類ごとの施設と器具の目的ははっきりしています。おおまかに繁殖豚用の施設は繁殖期で4フェーズ(若雌豚育成・交配・妊娠・授乳)、離乳・子豚・肉豚用の施設は時期で2フェーズに分けられます。

肥育施設セット2
繁殖雌豚の4フェーズ

繁殖豚のための施設

 若雌豚育成期の目的は、最適な生涯成績を出す可能性のある高い質を持ち、すぐ交配できる更新若雌候補豚の供給を最大にすることです。適切なハウジングは、目標の体重にするための適切な栄養素とエネルギー量を与えることです。

 

 交配フェーズの施設は、発情の発見と交配のためにあります。若雌豚育成施設からの更新若雌豚は雄豚と接触させます。分娩舎からの離乳母豚が入れられます。北米では母豚間の攻撃行動を避け、個々の母豚への雄豚からの刺激を容易にし、かつ発情の発見を容易にするためストール個室飼育が使用されています。欧州では発情発見と人工授精のために小さなグループにするか個別飼育が奨められています。

 妊娠期フェーズでは、米国ではストール個室飼育が一般的です。そして妊娠初期と中・後期に分かれます。2013年から、欧州では交配してから4週間から分娩予定1週間前までは、グループ飼育が義務となりました。さらに6から40頭のグループ飼育では、産次0豚で1.64 m2/豚、経産豚で2.25 m2/豚のスペースが義務となりました。

 妊娠初期では、受精卵を守ること、妊娠の確認、そして個々の豚に必要な飼料給与が大切です。妊娠初期は初回交配から初回の妊娠鑑定までと定義され、一般的には初回交配から約4週間です。受精卵は妊娠日齢10から18日で子宮に付着します。発情のチェックは、非妊娠の豚や再発情している豚を見つけるために、初めの3から6週間に複数回実施されるべきです。なぜなら70%の再発再種付けがこの時期に起こるからです。妊娠豚間の攻撃行動をさけるために、妊娠3週までは妊娠豚を決してミックスすべきではありませんので、個々のストール個室飼育が使用されています。個室飼育は、やせすぎた母豚に、もっと飼料を給与したり、雄豚からの刺激や超音波で再発や非妊娠を見受けるにも有用です。非妊娠の種豚を飼育することは、非生産日数を増やし生産性を低下させます。

 妊娠中・後期での施設は、胎盤や胎子と母体の成長に必要な栄養素とエネルギーを与えます。しかし栄養さえ適切であれば、妊娠初期に比べると、この妊娠中期は繁殖成績である分娩率や生存子豚数には大きな影響はありません。一方、妊娠後期は、胎子が急速に大きくなっているんで、それを支える栄養が必要です。欧州では繊維分の飼料を給与したり、パイプカット雄豚を使用することで妊娠豚間の攻撃行動を減らす試みもされています。

 分娩・授乳の時期は、母豚に対しては安全な分娩とその後の授乳期飼料摂取量を最適にし、新生豚への初乳の量を確実にし、哺乳中に母豚に踏まれる圧死から守り、病気を防ぐ機能が大切です。分娩は母豚にとっても子豚にとっても最も死亡リスクの高いイベントです。安全な分娩が最も大切です。母豚の死亡リスクを下げるための例として、米国では母豚用のクールパッドが発明され、母豚の余分な熱を下げる工夫もされています。1分間に0.55リットルの水を母豚のいる床下に設置してあるパッドに流すことで体温を下げるのです。

分娩クレート
母豚2400頭農場

​左からオフィス、離乳舎、分娩舎A、分娩舎B、種付け・妊娠舎

施設が繁殖生産性ツリーに及ぼす影響

 

 よい施設は、よい管理と結びつき繁殖成績を改善するのに役立ちます。施設は生産性ツリーの各所でよい管理を実施するのに影響を及ぼすことができます。繁殖サイクルの時期によって、施設が及ぼす母豚の繁殖成績が違います。例えば、分娩・授乳期のよい施設は、哺乳中子豚死亡率を改善する管理に役立ちます。離乳後初回交配日数は、授乳期の管理とくに授乳期飼料摂取量が増加させられる施設・器具と管理が大切です。

 複数のフェーズで繁殖成績に影響するものもあります。妊娠後期と分娩でのよい施設でのよい管理は、死産子豚数を減少させることができるでしょう。総分娩子豚数は、交配前と妊娠初期の管理そして母豚には授乳期の管理が大切です。非生産日数も、交配前と妊娠初期の管理、母豚には授乳期の管理、さらに妊娠鑑定の回数や時期も大切です。一連の管理がしやすい施設が望まれます。また労働生産性をあげるためにもよい施設や簡単な動線は重要です。

母豚繁殖生産性とフェーズ

欧州での分娩クレート柵なしへの試行

 米国や欧州の大部分の農場では分娩クレート個室が使用されています。クレートは柵で、母豚はドスンとお尻から座ることでお乳を飲みに来ている子豚が、母豚のお尻で圧死しないようになっています。

 

 欧州の大学や一部生産者では、ルースハウジングとして、クレート柵なしのペン飼育も試用されています。これは母豚は自由に動き回れるのですが、子豚が母豚からの圧死のリスクが高いという問題があります。子豚の安全性を上げ、母豚を動き回れるようにする最も有力な設備は、クレート柵の横バーが開くswing-sided pens方式です。そして哺乳後1週間後にクレート柵の横バーを開けて、母豚が動き回れるようにしたものです。

​ 英国ではフリー分娩として、360°分娩舎がでてきました。分娩柵が可動式で、母豚の状態をみて柵を閉じたり開けたりできるものです。​さらに分娩ペンの真ん中ではなく、端に分娩柵があり、隣の母豚との社会性もあります。さらに母豚の母性行動を引き出すために、新聞裁断紙やワラを供給しています。360 farrowerといいます。 詳しくはAHDBが作成したベスト実践法のビデオツアー4(写真下右)で。https://www.youtube.com/watch?v=cBE9cWdePoM

スイング型分娩クレート
ルース分娩ペン
ADHBfarrow360 (1).JPG

淘汰理由と施設の関連

 母豚の低い生存性(低い淘汰産次)は欧米では大きな問題です。低い生存性、低い年齢での農場からのリムーバル(Removal)には死亡と淘汰があります。そして主な淘汰理由は2つ:四肢障害と繁殖障害です。

 とくに四肢障害は経済的にも福祉的にも問題です。四肢障害は、若雌豚の育成期や交配期そして分娩と授乳期での施設と管理が関係してきます。繁殖障害も、若雌豚の育成期や交配期そして分娩と授乳期での施設と管理が関係してきます。死亡は分娩前後に多いことから、妊娠後期と分娩期での施設と管理が大切です。

低い繁殖生産性とフェーズ

離乳・肥育期の施設

 

 離乳豚施設では、離乳直後の豚に対して、フィーダーから固形の飼料を食べるという飼料行動を確立させる管理を助けることが重要です。そして離乳子豚に最適な室温、換気を供給することができる施設である必要があります。体重が大きくなる豚に対して、離乳豚の体重に応じた栄養素とエネルギーが与えられるよう、フィーダーの開口部の調整と飲水器の調整が大切です。さらに、病気の子豚の早い発見と治療が必要です。

 なお米国では2000年以降の新設豚舎は、ウイーン・トウ・フィニッシュ (wean-to-finish)方式として離乳・肥育期一体型の豚舎が主流です。この方式では体重に応じたきめ細かい管理ができる必要があります。ウイーン・トウ・フィニッシュについては、このセクションの下部に詳説しています。

 

 肥育豚(子豚・肉豚)施設では、離乳施設と同様に、肥育豚のそれぞれの時期に応じた最適な室温、換気、病気の肥育豚の早い発見と治療がしやすい設備であること、そしてフィダーの調整と飲水器の調整が大切です。生産コストに直結するフェーズですので、飼料要求率とコスト・パフォーマンス、そしてマーケティングが大切になってきます。

生産のボトルネック

 養豚における施設は生産システムと密接に結びついています。生産のボトルネックと呼ばれる、流れの滞りが生じやすいのは、分娩舎です。豚当りの投資費用が一番高いので、投資額を少なくするために収容スペースを少し減らす傾向があるからです。米国の実例だと、2400頭の母豚サイズで384分娩クレート(農場サイズの16%)を16分娩室各24クレート、授乳期間21日で月・木の2回離乳です。

 さらに冬には暖房設備のある離乳舎が不足しやすく、夏には肥育の遅れから肥育舎スペースが不足します。とくに肉豚出荷までの日数には個々の豚の体重のばらつきの大きくなります。さらに健康管理のためにオールイン・オールアウトをするためには、オールアウト後の洗浄・消毒・乾燥のためのスペースが必要です。

欧州の体重別飼育スペース

 左が欧州の規則、右が米国のガイドラインです。体重の重い豚での、欧州のスペースの規則は厳しく、欧州ではコスト増になっていると思われます。さらに欧州では、すのこ床の隙間は、離乳前子豚で11 mm; 離乳後から10週齢で14 mm; それ以上の大きさで20 mmです。すのこ床の幅は、10週齢前は50 mmでそれ以上は80 mmです。なお米国の研究での実例では、離乳豚で0.25m平米で、肥育豚だと0.77m平米です。

米国の推奨の飼育面積

換気の技術

 養豚生産において、換気技術は、生産性と群の健康そして収益性において大きな役割を占めています。換気とは、新鮮な空気を施設内にいれ、飼育動物に均等に供給し(重要)、不必要な熱やアンモニアや湿気とともに、施設外に出すことです。養豚施設で換気がなぜ重要かというと、豚の呼吸器病の発生リスクを下げ、呼吸器病の症状を軽減できるからです。肉養鶏でも必須の技術です。

 養豚施設における換気法は2種類あります。機械換気と自然換気です。自然換気は施設内外の温度の違いと気圧の違いを利用して、空気の流れを起こすものです。天井に開口部を設けたり、豚舎横側をカーテンにしたりの工夫があります。しかし、いつも均等に風が吹くのを前提としているので、換気過不足が常に起こるという欠点があります。とくに間口が広い場合は、中央付近の豚に新鮮な空気が不足する可能性があります。自然換気の豚舎では、温度センサー付きで、プログラム作動式カーテンがよく設置されています。温度センサーと決められた時間にカーテンを自動開閉することで、適切な換気を実現しようとするものです。

 機械換気の技術は、植物工場やハウス園芸、人間の住宅での24時間換気でも使用されています。またコロナ問題で人の密になりそうな空間での、換気の重要性が言われるようなりました。畜産では動物飼育農場ではもう何十年前から、適切な換気技術を持った施設の研究と実践は進んでいます。

 機械換気法は日本では「ウィンドレス」と呼ばれています。導入された昔は、その言葉がかっこよかったのですが、昨今では、窓がないなんてと消費者のイメージが悪いので、「24時間換気」とすべきと思います。24時間換気は3種類あります。陰圧換気、陽圧換気と陰圧・陽圧換気両方使用(Pull-Push)があります。陰圧はファンが施設内空気を排気口から外に出し、陽圧はファンが外気を入気口から中に入れる方法です。陰圧・陽圧換気は入気口と排気口の両方にファンがついているものです。米国では伝統的に陰圧換気が主体でしたが、最近では陰圧・陽圧換気の両方使用(Pull-Push)に代わってきています。空気の流れをはっきりさせ、均等に新鮮な空気を配分するためです。なお寒冷期の豚舎内外の温度の差があるときに、直接に空気を入れるのは、豚舎内に露滴が発生してしまいます。いったん廊下や天井裏に入れたり、省エネの観点から熱交換器が必要です。

下の図は米国のAirwork社の初期モデルです。https://airwork.org/gallery. ウェブサイトに写真が多数掲載されています。

 赤い矢印が、排気しようとする汚れた空気の流れで、緑の矢印が動物の居場所に分配された空気の流れで、青い矢印が外から入れられた空気の流れです。空気の流れがはっきりしています。両側の赤い矢印は排気口に出る前に熱交換器を通っています。

最適な換気システム

 下の2画像は、もう現在は存在しない米国会社の離乳舎用の換気システムです。空気の流れがよくわかります。左が夏用換気で、壁左側の上下のファンが動いています。青い矢印が空気の流れです。空気を屋根から屋根裏に入れて冷ましてから、離乳室に天井ファンで空気を分配しています。左壁上方に入気口もあり、ここから天井裏の空気も天井ファンに入れることができます。右側の画像が冬用の換気での空気の流れです。赤い矢印はヒーターで暖められた空気の流れです。ヒーターは天井からぶら下がっています。壁左側の下のファン(冬でも換気は必要です)のみ動いています (常時換気)。左壁上方に入気口は閉じています。なおこういう機械換気の場合は、電気が止まると、動物の生死にかかわります。電気が止まった場合にどうするかという緊急プランは、必ず決めておく必要があります。換気扇、井戸のポンプ、給餌ラインの電気確保は必須です。とくに高気密な豚舎で、換気扇がとまると動物が酸欠になります。

夏の換気
冬の換気

換気扇は定期的なそうじが大切-フル稼働する夏にとくに大切です

  • 汚れたシャッターは換気扇能力を8%落とします。洗いましょう。羽根も壊れていないかチェックしましょう。

  • 換気扇のダクトコーンがあると換気能力を10%増します。壊れていないかチェックしましょう。

  • 連続使用の換気扇、とくにピット用換気扇の開口部が詰まっていないかチェックしましょう。

  • 換気扇のベルトは年1度は交換しましょう。使いすぎのベルトは換気能力を20%落とします。

 

出典:2022年4月15日号Swineweb (www.swineweb.com)

ハイブリッド型換気

 デンマークでは、肥育舎としてハイブリッド型換気と呼ばれる施設も登場しました。自然換気と機械換気と臭気除去機を組み合わせています。この肥育舎は5000 m平米で5300頭の肥育豚を0.5人で飼育できるようになっています。さらに「Agri AirClean」という臭気除去機も設置され、アンモニアなどの臭気を除去できるようになっています。欧州環境賞を2012年に受賞しています。よい画像がないのが残念です。

 設備は日進月歩ですので、常に新しい技術を見ておくことは大切です。以下のデンマークの「ピッグアカデミー」という団体は、デンマークの養豚生産のための施設とサービスの会社が共同運営の団体です。施設についていろいろな情報があります。

https://danishpigacademy.com/agrifarm/

ハイブリッド型換気

農場における水の使用量

 水は動物にとって、重要な栄養素の一つであり、水洗などに必須です。さらに貴重な地球の資源でもあります。米国ポーク生産者協議会から「養豚生産における水の使用量と水の節約法」という研究報告が2011年に発表されました。広範囲な文献調査とアイオワ州の144の生産者の農場を調査したものです。著者はR.V. Muhlbauer, L.B. Moody, R.T. Burns, J. Harmon1 , K. Stalder. アイオワ州立大学です。日本の生産者にも有用な部分を紹介します。https://www.aasv.org/library/swineinfo/item.php?LEMAN/2011/165.pdf

 研究報告では米国の全養豚農場でどれぐらい使用されているのか推定しています。それにならって日本の全養豚場では1年間に2300万トンの水が使用されていると推定できます。豚1頭当りの水使用量は、日本で言われているものよりずいぶん多いことがわかります。これは暑熱対策用水と水洗用水の量、さらに豚によって廃棄される水が含まれていることにもよります。

1頭当り水使用量

ではどのように水は使用されているのでしょう。米国の一貫経営9農場で詳細に調べると、

  • 豚の飲用水:80%

  • 動物の暑熱対策:12%

  • 施設の水洗:8%

  • 人用(飲水・手洗い・長靴洗い・洗濯・シャワー):1%

 

 豚の飲用水というのは、豚が栄養素として実際に飲んだ水のほかに、豚が遊んで使用しまう水も含まれます。この水を減少させることは、経営的にも大切です。しかし養豚生産では、豚に水を制限してはならず、自由摂取が原則です。豚が自由に水を飲めて、かつ無駄水を少なくする飲水器や管理が必要です。

飲水器やフィーダーの違いによる水使用量比較

 離乳豚や肥育豚でも、肥育成績は違いがないのに、飲水器の違いで2割から3割も水使用量が多くなります。

 離乳豚フィーダーで、飲水器がフィーダーに組み込まれているものをウエット/ドライ型として、フィーダーとは別に旧式ニップル型が設置されているものを比較したところ、10%から34%の差がでたと報告されています。や肥育豚でも、肥育成績は違いがないのに、飲水器の違いで2割から3割も水使用量が多くなります。

 ただし器具の進歩は日進月歩ですので、もっと節水型で性能のいいニップル型飲水器が市場に出てくる可能性はあります。いえることは、自農場での豚1頭当りの飲水量を把握しておくことは経営的にもいいことです。飲水器の性能も知っておくことも大切です。

 さらに、豚舎毎に毎日の飲水量もモニターするシステムが出てきており、毎日のその豚のグループの飲水量のパターンで疾病発見に役立つという報告もあります。

飲水器による水使用量

暑熱対策としての水使用量

 水は豚の暑熱対策として、種付け舎、分娩授乳舎、肥育舎で利用されています。水を利用しての暑熱対策としては、ドリップ式、散水式、細霧式、さらに蒸散空冷式があります。米国のMidwest Plan Service(MWPS:アイオワ州立大学内にある農業系の設備サービス部門、中西部12大学の協力による)では、外気温が29℃を超えた場合には散水式では3.8 L/時間/豚、ドリップ式では1.9 Lから3.8 L/時間/豚、蒸散空冷式では2.27 L/時間/豚の水使用量を推薦しています。

なお明治大学の最新の研究では、繁殖では、外気温29℃で暑熱対策を始めるのでは間に合わないことが以下のようにわかっています。産次によって暑熱の繁殖成績への影響度は違う。キー外気温が産次1は他より3-6℃低い。肥育豚も同様にもっと低い時から始めるべきと思います。

  • 離乳後初回交配日数にとって最も大切な時期は離乳前の1週間

  • 離乳後初回交配日数を延長させないためには、離乳後母豚に産次1では17℃、産次2以上では22から23℃から暑熱対策を始めるべき。

  • 分娩率にとって最も大切な時期は種付け2-4週前

  • 分娩率を下げないためには、産次0では19℃、産次1では18℃、産次2以上では22℃から暑熱対策を始めるべき

豚舎等の洗浄のための水使用

 洗浄での水使用量は以下です。洗浄する前に、12-24時間の予浸することが広く使用されています。予浸には2つの方法:連続法と間欠法があります。連続法は12から18時間を1分間に38 Lを前もって散布するもの、間欠法は同様な量38 L/分を18から24時間で30分間に5分間のみ散布するものです。

洗浄用水の使用量

施設ごとの水の総使用量の米国での実例

 豚の飲水量だけでなく、暑熱対策や洗浄水を含めた施設ごとの水の使用量が下の表です。ニップル式は水使用量が多い、そして繁殖施設とくに分娩舎の水使用量が多いのがわかります。と同時に、水使用量が増えると糞尿量も多くなるのです。また飲水器タイプで大きな違いがあります。ニップルは旧式です。

施設タイプと水使用量

ウイーン・トウ・フィニッシュ (wean-to-finish)

 米国での豚の生産は、1990年代までは繁殖・離乳舎・肉豚舎というように、3つの豚舎またはサイトに別けて、それに応じて豚を移動させるというシステムが主流でした。サイトが多いとその分、移動回数と豚房・豚舎の水洗・乾燥・消毒も増えます。

 1994年頃から、養豚場の大型化に伴って、離乳から出荷一貫飼育(ウィーン・トゥ・フィニッシュ:Wean-to-Finish)というシステムが出てきました。米国中西部において、2000年以降に新設される豚舎はほぼこの方式です。要するに 同一豚舎豚房で離乳から出荷まで一貫飼育してしまおうというのです。これだと繁殖群から一回移動すればよい、ということです。豚舎の回転率は、従来の方式では、離乳舎は年間6から8回の回転、肥育仕上げ舎が2.7回転でしょうか。離乳から仕上げまでの一貫飼育だと、豚舎は年間2.1回転ぐらいになります。3サイト方式での離乳サイトから肥育サイトへの移動コストは、米国では豚1頭あたり1ドル以上と言われています。

 私は「豚もブロイラーと同じ道を歩こうとしている」と思いました。40年ぐらい前から、ブロイラー飼育は、それまでの2段階(2鶏舎使用)飼育から一貫飼育に変化してきた経緯があるからです。

 

離乳から出荷までの一貫飼育のメリット

  • 豚を移動させる手間が省ける。

  • 豚舎の洗淨・消毒の手間が省ける

  • 飼料食下量が増え、増体成績がよくなる

  • 死亡率が少ない

離乳から出荷までの一貫飼育 (ウイーン・トゥ・フィニッシュ)で肥育成績がよくなる理由

 離乳期の子豚は私達の思っている以上に、スペースが必要だったのでは、と言われています。実際に離乳舎は建設コストが高いので、生産者はたくさんの豚を入れすぎる、または長く置きすぎて密飼いの傾向があったのでは。また移動・グループ再編成は、私達の想像以上に豚にとって大きなストレスだったのでは。もう一つ、豚の移動とグループの再編成で隠れていた慢性的な病気を引き起こしていたのでは、ということも言われています。最近のミネソタ大の研究では離乳舎と子豚・肥育舎の2段階飼育の場合、離乳期の成績と肥育仕上げ期での成績と統計的関係が薄い、という結果がでました。これなどは移動・グループ再編成の悪影響かも知れません。

離乳から出荷一貫飼育は経済的に合うのか

 ミネソタ州のルーエン獣医師は、従来の豚舎をリモデルする場合、豚1頭の当たりのスペースで30ドルはかかる。新しく作る場合は、豚が1頭スペース当たりで5から10ドルは、従来の離乳舎と肉豚舎より余分に高くなる、と計算しています。

 そして儲けの方は、出荷1頭あたり3.66ドルが肥育成績の向上で、死亡率の減少で1.79ドル、労働費で0.90ドル合わせて、6.35ドルの粗利益の向上が見こめる、と計算しています。この計算から、離乳から出荷一貫飼育は、中・長期で見れば経済的に費用対効果はよくなる、と彼は生産者に勧めています。

 このドル計算は彼らの実践に基づいています。日本で経済的に合うかどうかはわかりません。日本は施設費が米国より高いが、豚価も高いので、離乳直後の初めの2から3週間でうまく成績が向上できれば経済的にも合うのでは、と予測しております。

どんな設備が必要なのか

  • 隙間風が入らない気密性のいい豚舎

  • 厚い断熱材の使用してある豚舎

  • 赤外線ヒーターやガスブルーダ―等の熱源

  • スノコ床の上に置くビニールマット

  • 一貫飼育用の飲料用ニップルと飼料器(離乳豚から仕上げ期まで高さと豚の口に応じて調整できるもの)

 初めの2から3週間で、保温・換気・栄養をいかにするかが勝負と言われております。室温を20℃位にしつつ、豚のいる場所は子豚が快適に過ごせるよう、さらに温度を上げるべきと言われています。熱源コストの高い日本ではこれがネックになりそうです。

 15頭に最低一つの飲水器、そしてウェット飼料よりもドライ飼料の方が初めの2、3週間ではよい、とも言われています。節約型の熱源、一貫飼育用の飲水器と飼料器は、今後もますます改良されて良いものが出てくると思います。以下に米国PIC社のウイーン・トウ・フィニッシュ用のマニュアルがウェブで見れます。やはり最初のケアが重要で、スペースも0.26 m2は必要なようです。m2は平方メートルです。

https://www.pic.com/wp-content/uploads/sites/3/2019/01/Wean-To-Finish-Manual.pdf

 以下は、米国メタファーム社が2017年に公開したウイーン・トウ・フィニッシュの成績です。米国メタファーム社はピッグチャンプと並ぶ大手の養豚ソフト会社です。離乳期と肥育期を足した死亡率よりウイーン・トウ・フィニッシュ(W-F)の死亡率が低く、さらに増体当りの飼料費も離乳期と肥育期を足したものより低いようです。ただしウイーン・トウ・フィニッシュ(W-F)の豚舎が新しいこともあります。

施設タイプ別の肥育成績

若雌候補豚の育成ユニット(Gilt development unit: GDU) 雄豚刺激の重要性

 

若雌豚候補豚育成の重要性

 米国生産農場では、分娩母豚の22%ぐらいが未経産の妊娠豚からの分娩 (初産) です。そのため初産豚の成績は大切です。さらに産次1で分娩成績の良かった母豚は、そうでなかった母豚より、最後まで繁殖成績がよいことがわかっています。この研究ではっきりとわかることは、産次1までの育成が大切で、よい若雌更新豚をつくることが大事だということです。若雌更新豚のうまく管理ができれば、施設内におけるスペース・労働の効率、そして交配可能な若雌更新豚の流れを改善できます。

カナダ・アルバータ大学の若雌候補豚の育成・選択プログラム

第一次選択:離乳舎で実施。機能している乳頭が14以上、へそヘルニアなどのヘルニアが無いこと、分娩時に多すぎる子豚数を分娩した母豚から生まれていないことを基準(多すぎる子豚数の腹は離乳体重が軽く、その後の発育や繁殖成績が悪い)。彼らはPIC社のC22若雌更新豚(L42母豚 x L19雄豚)を主に使っています。

第二次選択(140日齢まで):上記のほかに、1日当たり増体が600グラム以上あること、そして分娩時に多すぎる子豚数を分娩した母豚からでないことを基準とします。選択されなかったものは肉豚とします。

最終選択(160から190日齢):必要とし予定している若雌更新豚数の125%を選択し、以下に述べる雄豚での刺激プロトコールを開始します。目標は雄豚での刺激プログラム開始4週間で、若雌候補豚の80%に初回発情が発見されること、そして発情兆候がまったくないものは2-10%にしたい、ということです。

 それには発情の2から3回目、そして体重幅135キロから150キロで100%交配することも目標です。そして交配予定頭数に100%に交配若雌豚数で合わせることです。交配数の内訳は、80%は自然発情から交配できたもの、5-10%はホルモン剤(PG600剤)使用の若雌豚です。

雄豚での刺激プロトコール2ステップ

 雄豚は臭覚と触覚の相乗効果を雌豚に与えることができます。雄豚の唾液もフェロモンがあるので重要です。この目的のためには使用する雄豚は8-10ヵ月齢以上のものであるべきです。さらに雄豚の性欲リビドーは、若雌豚の性成熟に重要な影響を与えます。雄豚をローテーションさせて、複数で毎日の雄豚刺激は「雄豚効果」を最大にします。

 

 雄豚による刺激前期間(28日)をグループごと行う。そのためにBEAR (Boar Exposure Area)と呼ぶ雄豚刺激用の施設を準備(図1)し、だいたい140日齢から刺激プロトコール1が始まり、170日齢ぐらいから刺激プロトコール2が始まります。

 

刺激プロトコールのステップ1、刺激前期間28日間、140日齢から

1週目:IDつけ(耳標やタツー)、ワクチン接種等

2-4週目:毎日フェンス越し、廊下越しの雄豚からの刺激

雄豚による刺激期間(28日間)

1-28日:毎日10から15分間、雄豚との直接接触をBEARという特殊な構成の施設(図2)にて行います。その施設は、両側のペンに若雌候補豚がいて真中に複数の雄豚のストールが配置されています。

刺激プロトコールのステップ2、雄豚での刺激期間28日間、170日齢から

1-13日:BEARでパイプカット雄豚による、柵ごしと直接の接触を行います。

14日:発情が来ていない全若雌豚は、再度ミックスします。

23日:まだ発情がきていない「未来ある若雌豚」にホルモン剤PG600を注射します。

28日:母豚農場にいける若雌豚と全く発情が来なかった若雌豚に分けます。このプログラムで発情が来なかった豚は淘汰します。

 

雄豚による若雌候補豚への刺激用施設BEARの詳細

 ハッキリと若雌豚への雄豚刺激に焦点をあてたユニークな施設なので、詳しく記述しておきます。下の図も参考にしてください。原図はあまりにもわかりにくかったので、筆者がExcelで書き直しました。2つの「若雌豚の性成熟刺激と発情発見ペン」(図では左右両端のペン)と、その間に雄豚用ストールと「発情している若雌豚を置いておくペン」があります。

カナダの雄豚刺激施設
雄豚刺激の重要性

さらに、GDUで2週間たっても発情サインが見られなかったものへホルモン剤PG600を投与したものとの繁殖成績と生存率の比較も上右の表に示しました。雄豚刺激だけでは発情サインが見られずPG600を投与したものは、そうでなかった若雌豚に比べて、若干成績が劣るものの悪くない成績でした。雄豚刺激の有用性、さらにホルモン剤PG600の有用性も証明できているようです。

興味のある方は以下のサイトも参考にしてください。

米国ポークゲータウエイGilt management in the BEAR system

https://porkgateway.org/resource/gilt-management-in-the-bear-system/

Paterson J, Foxcroft G. Gilt Management for Fertility and Longevity. Animals. 2019;9: 434–48. https://www.mdpi.com/2076-2615/9/7/434

カナダMaple Leaf Foodsが紹介する3つの妊娠豚飼育法

 カナダのメープルリーフフーズ社HPから紹介します。同社は、1836年にグランタム製粉として創業し、メイプルリーフ製粉が、1961年に  3つの製粉と飼料関係の会社の合併によって生まれました。1991年にカナダ・ミートパッカーと合併し、メープルリーフフーズ社(MLF)としてカナダ最大の食肉会社となりました。1980年以来、日本にもチルドポークを輸出しています。動物福祉と減または無抗生剤の先進的な生産を実施していることで有名です。

 3つは、ストール個室飼育、ルース母豚ハウジングそしてMLF式のオープン母豚ハウジングです。分娩・授乳期は3方式とも一緒で、分娩クレートの個室飼育です。分娩クレートは、授乳期で母豚にひかれて圧死による子豚死亡を防ぐために発明されました。授乳母豚がお尻からドスンと座らない、子豚を下敷きにしないような工夫があります。

 北米の伝統的な飼育:妊娠期にストールで個室飼育する方法。交配舎の個室ストールで、離乳後交配し妊娠確認し、さらに妊娠が安定期に入る6週間後に、妊娠舎に移動して妊娠個室ストールに入り、分娩直前に分娩舎に移動する方法です。個室ストールは、妊娠豚への飼給餌時の豚間の激しい攻撃行動を予防、さらに大きさやステージの違う豚に個別給餌するために戦後に発明され、世界中に広がりました。

伝統的な母豚飼育施設施設

ルース母豚方式:妊娠期にフリーアクセスストール付き群飼育。交配舎の個室ストールで、離乳後交配し妊娠確認し、さらに妊娠が安定期に入る6週間後に、フリーアクセスストール付き妊娠舎に移動し、分娩直前に分娩舎に移動する方法です。フリーアクセスストール付き妊娠豚が自分で開できる個室ストールで、飼料を食べる時にだけ個室入り後方から攻撃されるのを防げる方式です。個別に給餌ができないという欠点があります。

フリーアクセス式

MLF式のオープン母豚ハウジング:MLFが改良したコンピューターで制御する個別給与で群飼する方法。RFIDを耳標を全母豚に装着し、専用給餌ステーションで個別給餌を可能にしています。この方式は従来から、豚間の攻撃行動、特に外陰部への攻撃行動が問題とされていました。さらに離乳後に交配時期約1週間で群飼に移動するということで、妊娠安定期を待たないことで流産のリスクも上がる可能性があります。群飼する前に「特別に母豚を訓練する」としかHPに詳しい説明がないので、不安なところがあります。

カナダのオープン母豚施設

夏場対策の記事

夏前の豚舎用換気扇の整備(Swineweb (www.swineweb.com) の4月15日の記事から)

  • 汚れたシャッターは換気扇能力を8%落とします。洗いましょう。羽根も壊れていないかチェックしましょう

  • 換気扇のダクトコーンは換気能力を10%増します。壊れていないかチェックしましょう

  • 冬中使用していた連続使用の換気扇、とくにピット用換気扇の開口部が詰まっていないかチェックしましょう

  • 換気扇のベルトは年1度は交換しましょう。使いすぎのベルトは換気能力を20%落とします

換気用ファン
クールセル設備

酷暑用クールセル+水滴ドリップ(Swineweb (www.swineweb.com) の4月27日の記事から

米国でも暑い北カロライナ州からのアイデアです。Four Star獣医サービスのセクトン獣医師の記事です。北カロライナでは40-50日も酷暑(高温高湿)が続くので、暑熱対策は必須です。彼がすすめるのは1位:クールセルと2位:水滴蒸散式ドリップクーラー(ドリッパー)です。

 ただしクールセルの問題点は、換気効率を落とし、空気の流れが悪くなることです。それでいくつかの農場では、ドリッパーとクールセルの両方を使用しています。まず全換気扇を使っている時(換気量が最大時)にクールセルを使い、さらに温度が上がるときにドリッパーを一時的に使うという方法です。

 この方法では一時的使用が必須です。なぜなら分娩舎でのドリッパー使用で過剰に母豚を濡れさせてしまうと、肩の外傷が多く発生する原因となることがあります。さらに子豚の下痢も誘発します。それでセクトン獣医師は、タイマーなどで短時間使用とすること、ドリッパーの水滴の落ちる位置を耳と肩の間にするよう勧めています。このクールセルとこのドリッパーの2つをうまく使用することで、高湿度で平均温度32-35℃の日でも、母豚の呼吸パターンが乱れることはなく、授乳期の飼料摂取量を落ちることはないそうです。

 もう一つ、彼がすすめるのは、自動給餌器を使い、朝早く授乳母豚に給餌することと、夕方・夜間できる限り遅く給餌すること、夜間や週末でも自動給餌を使用するおおきな利点です。さらに、農場によっては飼料消費量を細かくチェックして、なくなってから追加給餌するようにしているそうです、母豚によって最高日に5回までは給餌回数を増やすべきとしています。

 授乳期の温度は飼料消費量に強く影響します。分娩舎の室温は、母豚にとっていい温度に設定すべきです。そのため哺乳中子豚用のヒートランプやヒートパッドなどは、狭い場所での熱源にすべきです。さらに子豚が自分で体温を調整できるようになったら、熱源は早く取り除くべきです。また熱源は換気システムと連動させるべきです。例えば午後のサンダーストーム時には、分娩舎の温度は急速に変化するので、熱源が必要ですが、換気システムと連動していないと急激な室温変化に対応できず子豚の死亡や病気が増えます。

飼料フィダー給餌口の幅と深さ

カナダのプレーリー養豚研究センターの発表です。飼料フィダー給餌口の幅スペースの推奨の最小幅は、ペン内で最も大きい豚の肩幅を基準にし、体型のばらつきを考慮して10%を加えたものです。給餌スペースの幅を計算するために使用される式は:

最大の豚の肩幅×1.10 または= (6.1 ×最大体重(kg)0.333)×1.10

飼料フィダーの口の幅
飼料フィダーの口の深さ

*肥育子豚が約25キロになって、1頭の豚だけが食べれる時期に、飼料フィーダーは、最も混雑しています。飼料やフィーダタイプによるバラツキはあるが、その時期に豚は飼料消費に80〜110分/日を費やしています。参考文献:National Farm Animal Council, Code of Practice for the Care and Handling of Pigs, 2014。

**深さとは、飼料フィーダーのリップから飼料にアクセスするポイントまでの距離を指します。参考文献:Prairie Swine Centre Pork Production Reference Guide, 2000。

ビデオツアー紹介

農場を訪問するのが難しいので、ビデオツアーは便利です。

高生産性農場ビデオツアー1

Genesus社のニュースでカナダWoodlands農場のビデオツアーが以下のように紹介されていました。ビデオでいい豚飼っているなあと思いました。

https://www.youtube.com/watch?v=gBNTn6M-Mmk

 

1000頭の繁殖肥育の一貫生産経営です。出荷と自家配合の飼料工場を含めて5人で運営しています。PRRSとマイコ陽性です。LWD生産です。24日離乳で体重7.4キロ、離乳後146日肥育で、肉豚は135キロで出荷です。と体は頭付きで109キロです。歩留まりは81%。

年間母豚当り出荷頭数は28.17頭で、年間母豚当り出荷と体キロ数は3090キロ。

離乳から出荷までのADGは868g、死亡率は2.9%、淘汰率は1.5%。

​農場ビデオツアー2 肥育農場

米国28番目の生産規模を持つカクタスファミリー農場は積極的な伸長を図っています。母豚35000頭を飼養し年間850000頭の肉豚を出荷しています。ウィーン・ツゥ・フィニッシュの離乳肥育一貫生産での契約希望者募集のため、農場ビデオツアー(2分弱)を以下で公開しています。赤い〇をクリックすれば見れます。英語の説明なしです。2485頭分の離乳肥育一貫豚舎です。https://www.cactusfeeders.com/cactusfamilyfarms.html

カクタスファミリー農場についての詳細は、経営ページの契約生産例タブと施設ページで。

農場ビデオツアー3

Genesus社のニュースでカナダClearwater農場のビデオツアーが以下のように紹介されていました。 

https://www.youtube.com/watch?v=k_D-2tgqnmM

 

カナダの母豚700頭の一貫経営農場です。4週バッチ生産です。妊娠豚と肥育舎で液餌を給餌しています。GDU、種付け舎、妊娠舎、分娩舎、離乳舎、肥育舎が見れます。さらに離乳舎では、バッチごとの毎日の飲水量、体重、ADG、室温の変化も見れます。

繁殖部門では年間母豚当り離乳頭数は31頭です。

離乳期は、52日間で6.2-31 kg, ADGは487 gで死亡率3.3%。

肥育期は、100日間で、31-124 kg, ADGは930 g で死亡率1.3%。

離乳・肥育一貫としては、152日間で6.2-124 kgで死亡率4.6%、出荷前の淘汰は4.8%。

農場ビデオツアー4分娩舎

英国AHDBが作成したベスト実践法のビデオツアー4です。https://www.youtube.com/watch?v=cBE9cWdePoM

 英国ではフリー分娩として、360°分娩舎がでてきました。分娩柵が可動式で、母豚の状態をみて柵を閉じたり開けたりできるものです。​さらに分娩ペンの真ん中ではなく、端に分娩柵があり、隣の母豚との社会性もあります。さらに母豚の母性行動を引き出すために、新聞裁断紙やワラを供給しています。360 farrowerといいます。以下のサイトでも詳しく紹介されています。https://www.freefarrowing.org/farrowing-systems/temporary-crating/360-farrower/

デンマーク式エントリーベンチ例

乳牛農場のバイオセキュリティにもベンチが使われていました。豚だといい絵がなく、乳牛のほうは絵がわかりやすくきれいです。Dairy Herdという雑誌です。https://www.dairyherd.com/news/education/consider-danish-entry-calf-biosecurity

 

「デンマーク式エントリー」システムは、ベンチで区切られた衛生ゾーンを作ることで、病気の侵入を防ぐことができます。デンマークで開発されたこのシステムは、もともと同国の広大な豚肉生産産業におけるバイオセキュリティを促進するために確立されたものです。豚や鶏の農場では世界中でこのシステムを採用しています。

 なおミネソタ大学の農業エンジニアであるケビン・ジャンニは、デンマーク式エントリーでは、シャワーを浴びたり浴びなかったりすることなく、比較的生物学的に安全な方法で家畜舎に入ることができる、と述べています。以下でYoutubeで実例ビデオが見れます。養鶏ですが参考になります。https://www.youtube.com/watch?v=BAfblgkMKuE

デンマーク式農場エントリ

デンマークの分娩柵とペン例、規制前後のデンマーク農場の分娩箱柵とペンのサイズ

 2010年で欧州の福祉規制前のデンマーク84農場の調査 (Pedersenら2010) では、分娩柵のサイズは 3.95 m2 (25-75%値 :3.75-4.25 m2) でした。 母豚を囲うバーの長さは、飼料フィダーの後端から198 cm (25-75% 値: 190-200 cm) でしたが、雌豚の上部の幅は 57 cm (25-75%値: 55-60 cm) でした。一方、母豚の下端の中央幅は 64 cm (25-75% 値: 58-70 cm) でした。平均的には平均約 198 × 60 cmとされました。分娩ペンとしては平均2 m x 2 mです。日本とほぼ同じでしょうか。

 しかし、福祉規制以降、起きたり横になったりするための動的スペースのために分娩柵として長さ 220 cm x 80-90 cm= が必要とされるようになりました。さらに4週齢まで子豚(長さ56 cn)が動けるためのスペースやワラも必要として、ペンとしては2.8 m x 2 m=5.6 m2が必要となると報告しています。なお平均は中央値を使用。

​ 分娩舎はもっとも高価な施設ですので、現在の4 m2から5.6 m2になると、140%の増加になり、欧州の考え方だと建設費が非常に大きくなります。日本では4週齢まで飼育する農場は少ないのでここまでは必要ないと思われます。しかし、多産系母豚で子豚の数が増えることから、分娩ペンの大きさは、大きくならざるを得ないと思われます。図右は4週齢の子豚を想定したデザインです。母豚の大きさの95%値を使用しています。

​ 下図左は2019年のPig Siteでのよい分娩ペンとして紹介されているものです。長さ2.40 x 幅1.80 m = 4.32 m2です。 出典は https://www.thepigsite.com/genetics-and-reproduction/farrowing/farrowing-house-design 

 2023年最新版として、デンマーク研究所のPederson, BK氏は欧州型28日齢として長さ2.7 m x 幅1.8 m (4.86 m2)を推奨しています。現行の標準である下図左より、長さが12.5%長くなり、面積としても12.5%増えました。さらに中の柵の幅は、0.3~0.8 mの調整可能型です。母豚の大型化と子豚の頭数も多くなり、28日日齢まで飼育するためです。彼は将来は長さ2.6 m x 幅1.9 m もあるとしています。しかし、当然、コストもその分上昇すると思われます。

 

出典:Pedersen LJ, Malmkvist J, Andersen HML, Housing of sows during farrowing: a review on pen design,welfare and productivity, 2013. DOI 10.3920/978-90-8686-771-4_05 Available from: https://www.researchgate.net/publication/286062985_Housing_of_sows_during_farrowing_A_review_on_pen_design_welfare_and_productivity

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オーストラリアのアイデア

 オーストラリアは養豚農家3000戸で、母豚30万頭ですから、養豚国としては小さいのですが、時にアッと驚くアイデアができてきます。これもその一つです。欧州とはまったく違うアイデアです。

 母豚出産用リング(Maternity Rings for sows)です。広さが4.3㎡ですから、一般的に使用されているものとほぼ一緒です。オーストラリアの会社SunPork Group

www.sunporkgroup.com.au)の発明です。同社のサイトではYouTubeで公開されています。学術誌Frontiers in Vet Scienceでも発表しています(doi.org/10.3389/fvets.2024.1339947)。ただし繁殖成績は一般的なクレートとほぼ同じです。

 同社はオーストラリアで母豚53000頭を、オーストラリア48農場、ニュージーランド8農場で飼育し、種豚・生産・加工までを一貫して行い、ブランド豚肉を販売しています。

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