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子豚のような好奇心と行動力、そして成長力を目指しています。こぶたの学校長・纐纈雄三
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非生産日数 (NPD)
非生産日数のコスト
NPDの中の再種付けとリピート豚
NPDの中の淘汰日数
NPDの中の離乳後初回交配日数の不思議
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哺乳中子豚死亡率のリスク因子とその改善法
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死産子豚の70%は20%の母豚から
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ヒートストレスと繁殖成績、産次別の重要時期とその温度は
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若雌豚へのアルトレノジスト(Altrenogest黄体ホルモン様物質、商品名Regumate)の使用法
母豚の非生産日数の1日は480円コスト増
繁殖農場の生産性を表すのに、繁殖生産性ツリーがあります。これは年間母豚当り離乳子豚数(PSY)をトップにして、重要な繁殖成績間の関係を示しています。PSYは2つの枝をもっています。年間母豚当り年間腹数と分娩腹当り離乳子豚数です(繁殖セクションの農場生産性の項と図1参照)。
繁殖生産性ツリーの片方の柱である年間母豚当り年間腹数は、非生産日数と授乳期間と妊娠期間から計算されます。3つとも短いことがいいのです。しかし新生子豚の生存に関わるので、妊娠期間を短くすることは奨められません。授乳期間の短縮にも限界があります。米国カンサス大学の栄養ガイドラインでは、離乳後の子豚の肥育成績のためには、最低でも授乳期間21日以上とされています。そのため年間母豚当り年間腹数を上げるためには、非生産日数を短縮することが大切です。
非生産日数は欧州では1日480円(4ユーロ)の逸失利益または機会利益、つまり得られたはずの利益と経済性評価されています。計算方法は、年間母豚当り離乳子豚数35頭を生産し、1離乳豚当り5000円の粗利益があるとすると、5000円×35頭÷365日=479円という計算です。
非生産日数はカナダ・ゲルフ大学のWilson博士が提唱し、米国ミネソタ大学のDial博士が世界にその重要性を広めました。以下に非生産日数の主構成指標3つについて述べます。その3つとは、再種付けまでの日数、淘汰までの日数そして離乳後初回交配日数です。
A. 再種付け間隔
繁殖生産性ツリーの非生産日数の一部である再種付け間隔という日数は、繁殖障害を考える上で大切です。再発し再種付けすることを欧米では多くの関係者がリピートと呼んでいます。ここでは簡単な言葉としてリピートという言葉を使います。
種付け後から再発した日までの日数で、以下のように3タイプに分かれます(図1)。
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「規則的」リピート:種付け後から18日から24日まで。種付けしてから21日±3日後の再発です。受胎が失敗して、母体は妊娠を認知せず、発情周期は変化しなかったものです。なお42日±3日後も、21日の再発の見逃しとして、規則的リピートとする人もいます。
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「非規則的」リピート:種付け後から25日から38日まで。規則的リピート21日+3日=24日と42日-3日=39日の間です。母体が一度は妊娠を認知し、発情周期が変化し、そのあと妊娠継続が失敗したものです。しかし胎子の骨化前ですから、胎子は吸収されています。
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「後期」リピート:種付け後から39日から150日の再発です。妊娠期間115日過ぎとるじゃないかと言われそうですが、農場のデータでは150日を過ぎたリピートも稀にあるのです。リピートは非生産日数ですから、150日を年間母豚当り離乳子豚数に換算すると、10.5頭分が逸失利益です。150日を1日480円で計算すると、72,000円が逸失利益です。非生産日数恐るべしです。この後期リピートには上記の3つの再発の見過ごしによるリピートも含まれています。さらに39日以降ですと、着床し骨化が終わっていますので、胎子は吸収されませんので、一部は気が付かない流産もあります。なお流産は胎子や胎膜や胎盤の一部が発見された場合という定義があります。
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なお「早期」リピートもあります。種付け後7日から17日までで、非常に例数が少ないです。授乳期間での微弱発情した母豚が、離乳後にまた発情した場合が含まれている可能性があります。また発情障害もあるでしょう。
リピートの発生について以下のキーポイントがあります。
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3タイプのリピートの平均発生割合は4:3:3です。これが大きく変わるようだと、下記のように母豚で何か問題が起こっているのです。
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生涯でみると、種付けされた母豚は平均では33%、若雌豚に限っていえば生涯でみて41%が再発します。生涯でみると67%が再発無しでした(図2)。再発しやすい母豚は、発情がわかりにくい、発情期間が短いなどの特徴があると考えられます。注意すべき母豚です。
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リピートあり母豚の生涯分娩時生存頭数は、リピート無し母豚より2頭増えます。これは分娩間隔が伸びたことによる子宮回復のせいかと思われます。しかし非生産日数は42日増加します。
妊娠日齢の繁殖生理学的重要イベントと繁殖障害についての関係を上右の図に示しました(ミネソタ大学のDr. G. D. Dialから)。死亡した妊娠日齢により、規則的再発、非規則的再発、後期再発、流産、偽妊娠、分娩時生存産子数の減少などの繁殖障害となります。妊娠日齢12日ごろから着床が始まります。30日齢ごろから骨格のミネラル沈着が起こり、死滅した胚は子宮で吸収されなくなり、ミイラ化します。その死んだ妊娠日齢でミイラ子の大きさが変わります。
日齢60-70日で胎盤バリアを越えてくる感染に対して免疫応答が可能になります。例えば60日齢からパルボに対する抵抗できるようになります。しかしオーエスキー病やPRRSなど強い病原性のものにはかなわないので感染し流産などをおこします。すべての胎子が死んでもミイラ子で子宮に残ると後期再発になります。なお卵胞ホルモン様の飼料中カビ毒(例、ゼアラノン)も黄体を維持させるので後期再発をおこします。卵胞ホルモン様の飼料中カビ毒を、母豚が摂取すると胎子は死滅することが多いです。妊娠末期(分娩2-3日前)にストレスや病気感染をすると、末期の胎子死亡が起こったり、融解した胎子(身体はできているが、目が凹んでいる)や虚弱子豚がが生まれたり、死産子豚になります。
流産は妊娠のどの時期でも起こりえますが、一般的には妊娠3週齢以内と妊娠末期では診断できません。診断に日齢は重要です。一般的には季節的流産は30-70日齢で起こり、レプトスピラ症やPRRSは妊娠後期、パルボは妊娠全期で起こります。
妊娠維持のためには着床の時期(2週齢)を過ぎるまでにある一定数の受精卵(例、4つ)が必要とされています。そしていったん着床してしまうと数が減っても妊娠が維持できるといわれています。分娩総産子数が1-3頭の母豚は、着床時期が過ぎてから多くの胎子を失った可能性があります。
参考:ピッグチャンプのリピートタイプの定義
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PigCHAMPのリピートの定義:ピッグチャンプは、多くの農場での経験から、以下のように少し違った定義をしています。
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規則的リピートのタイプ1:18-25日とタイプ2で38-46日
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非規則的リピート:26-37日
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後期リピート:47日以降
再発再種付け(リピート)にはどんなリスク因子があるのか
若雌豚の場合
若雌豚では夏場と早い初交配日齢で、リピートのリスクが上がります。初交配日齢は、3タイプに違ったように関係します。まず、「非規則的」リピートは、初交配日齢と関係しません。「規則的」リピートは、初交配日齢が上がるにつれて減少しますが、反対に、「後期」リピートは初交配日齢が上がるにつれて増加します(図3)。初交配日齢が低い母豚の「規則的」リピートは、年齢が低く身体ができていないため、未熟な繁殖内分泌系による受胎障害に関連している可能性があります。
反対に初交配日齢が上がるにつれて増加する「後期」リピートは、初交配日齢が遅すぎて、受胎はするが妊娠ロスの問題を起こしている可能性あります。
初交配日齢が遅い豚は、どの農場にもいますが、300日齢を超えるような初交配日齢はお勧めできません。もっと早い時期にホルモン治療などの介入を行うべきでしょう。遅い初交配日齢の母豚は、内分泌系の発達が遅いことから、卵胞発達を阻害し、弱体黄体機能による妊娠維持のための黄体ホルモン分泌の低下を招き、妊娠維持障害を招いていることも示唆されています。体重も重くなってきます。また「後期」リピートが多いということは、妊娠鑑定にも問題ありそうです。「非規則的」リピートの初期の妊娠ロスは、初交配日齢とは無関係のようです。なお夏場(7月から9月)は若雌豚のどのリピートも同様に増加します。
経産豚の場合
夏場、低い産次、死産子豚数の多さ、短いまたは長い授乳期間、離乳後初回交配日数7日以上の場合が母豚のリピートのリスク因子です。「規則的」リピートが増加するリスク因子は、夏場と離乳後初回交配日数7日以上の場合です。離乳後に発情が来て、種付けはしたが受胎していないのです。
種付け前の分娩時での死産子豚数が増えると、すべてのタイプの「後期」リピートが増えるようです(図4)。とくに初産豚ではその影響が顕著です。多数の死産子豚数を分娩した母豚は、周産期の感染が起こりやすく、リピートが増えるのかもしれません。死産数が多い母豚には、何らかの治療が必要かもしれません。
「非規則的」リピートが増加するリスク因子は、短い授乳期間です(図5)。これはその母豚が分娩後の子宮や繁殖内分泌系の回復が不完全であり、繁殖成績の低下を起こしたことが考えられます。「後期」リピートは、授乳期間の短い母豚(18日未満)と長い母豚(32日超え)で増加します(図5)。
とくに産次1ではその傾向が顕著です。産次1は、授乳期間の短・長への感受性が強いと考えられます。授乳期間が短くなったことによる授乳期の平均飼料摂取量の低下は、成長中でもある初産の母豚の体重の維持と成長のための飼料摂取量に遠く及ばない可能性があり、リピートしやすくなります。また授乳期間が延びたのに飼料摂取が十分でないと、授乳による母豚身体の体脂肪・タンパク質の消耗が激しくなり、リピートを増加しやすくなります。病気や施設の不足等、何らかの原因で授乳期間を短くせざるを得ない場合、リピートが増えることも考慮すべきでしょう。
産次1の母豚への夏の悪影響は、リピートにはっきり表れます。成熟した母豚に比して、初産の環境温度に対する感受性は顕著に高いようです。さらに3タイプすべてのリピートが夏に上昇します。高気温によるヒートストレスはリピートの割合を上げます。
離乳後初回交配日数7日以上の母豚は、3タイプすべてのリピート発生の要注意です。とくに離乳後初回交配日数7日以上の母豚で授乳期間が短すぎたり、長すぎたりしたものは、後期リピートの発生は増えます(図5)。離乳後初回交配日数は延長したものは、脳からの性腺刺激ホルモンの分泌が少なくなり、繁殖系内分泌障害そしてリピートが起こりやすくなると言われています。
リピート(再発・再種付け)は繰り返す
1回目種付け豚の33%が、その産次または違う産次でリピートします(下図の1番目)。若雌豚だと44%、初産豚だと36%がその産次または以後の産次でリピートします。つまりリピートした豚のリピート再発率は高いのです。リピートする豚は、発情時間が短い、排卵タイミングが早い等があると思われます。色付きのカードなどで、リピートしやすい豚として識別するのがよいでしょう。なおリピートした豚はそうでない豚より、42日生涯NPDが延長しますが、1.9頭生涯生存産子数は増えます。
さらに3回以上再発、または2回再発で繁殖障害として淘汰されたものを常習リピートブリーダーと定義しました。雌豚93000頭のうち、1.2%が常習リピートブリーダーでした(下図の2番目)。そして再発間隔18-24日に多くリピートしていました(下図の3番目)。若雌豚や初産豚が常習豚になりやすいようです。
B.淘汰までの日数
繁殖生産性ツリーの非生産日数の一部である「淘汰までの日数」という日数は、繁殖障害の発見と淘汰決定の早さを考える上で大切です。母豚の淘汰のタイミングは主に2回:離乳直後と種付けした後です。種付け後に非妊娠がわかった時、または四肢障害などによる淘汰です。
農場での種付けなし離乳直後では20日前後で、産次が高いほど短くなります。産次6以上だと15日です。高い産次としての計画淘汰としては長いです。産次1だと23日です。まだ種付け前の、更新用若雌豚だと280日齢です。9-10か月齢まで待つということでしょうか。遅いと思います。
カナダのアルバータ大学の若雌種豚への雄豚刺激プログラムだと、約140日齢から4週間の雄豚による1回目の刺激をし、初発情を誘起する。約170日から雄豚による2回目の刺激を行い、発情のこない豚にはホルモン剤PG600を投与して、発情がこなかった若雌豚は淘汰を推奨しています。つまり200日齢までに初発情がこない若雌豚は淘汰することを奨めているのです。
農場での種付け後の淘汰までの日数は産次0-5だと65日、産次6以上でも60日です。一度種付けして妊娠してしまうと淘汰の決断は遅くなるようです。なお種付け後に淘汰すると、経産豚だと離乳後から淘汰日までが、非生産日数となります。未経産豚だと初回種付け日から淘汰日までは、非生産日数となります。欧州だと非生産日数1日当り約480円(4ユーロ)の逸失利益(または機会利益)と言われています。
淘汰までの日数は生涯NPDの30%を占め大切です。淘汰までの日数は2つ:離乳後から種付けなしで淘汰までの日数と、初回種付け後から淘汰までの日数です。割合は1:2で、離乳後淘汰が多いのです(下図の1番目)。
しかし、種付け後淘汰日数は、淘汰日数NPDの70%を占めます。種付け後淘汰豚の75%が、34日以後に淘汰されています (下図2番目の左)。さらに70日以上55%です。
また離乳後淘汰された母豚の12%は21日以降です(下図2番目の右図)。淘汰の決断は難しいようです。
C. 離乳後初回交配日数―母豚の不思議な成績指標
離乳後初回交配日数は2つの性質を持っています。1つは重要な繁殖成績であり非生産日数の一部で、もう一つはその日数が他の繁殖成績に影響する因子です。とくに母豚の初産時の離乳後初回交配日数は、生涯成績の予測因子と言われています。農場データでわかっていることは、初産時の離乳後初回交配日数4日と5日がその後の産次ごとの繁殖成績と生涯成績がいいのです。そしてどちらがいいかというと、4日が生涯生産性が一番いいのです。それは4日のほうが5日より、離乳後初回交配日数つまり非生産日数が短いことによると思われます。なお育種会社は離乳後初回交配日数を短縮する方向で育種改良しており、欧州では短くなってきています。でも誤解しないでください。強引に4日に人工授精してはだめです。
離乳後初回交配日数は農場平均だと約6日ですが、個々の母豚のバラつきが大きくて、0日から100日超えまであります。データ管理的には、離乳後初回交配日数が100日を超えるようなものは、入力ミスの可能性が高いのでないのかという疑問もあります。研究者によっては35日以降は分析から排除する人もいます。さらに記録的には最小日数は0日ですが、授乳期中に発情し交配すると、その時が離乳日になり交配日数は0日です。
離乳後初回交配日数はどうすれば短くなるかというと、まず授乳期の母豚の飼料摂取量を上げることです。とくに初産豚の飼料摂取量は少なくなりがちです。授乳期の初産の母豚の飼料摂取量の増加させるマネジメントが大切です。繁殖農場管理での重要ポイントの一つかと思います。
離乳後初回交配日数の分布
図1に初産と2産次以降での離乳後初回交配日数の割合を示しました。産次2以降だと離乳後5日までで、交配母豚中85%が交配済になります。6日までで90%が交配済です。初産豚だと、離乳後5日までで、交配母豚中72%が交配済になります。初産豚では2産以降に比して、離乳後初回交配日数が遅いのは、初産豚はまだ成長中であり、繁殖ホルモン系が未成熟なためと言われています。
「産次1の離乳後初回交配日数4日以前の母豚は4日へ、5日以降は5日に次産で回帰する」
図2に、初産次で離乳後初回交配日数0-3日、4日、5日、6日、7-20日そして21日以降の母豚が、次産次以降に離乳後初回交配日数がどうなるか示しています。離乳後初回交配日数4日までと、5日以降で大きく違います。離乳後初回交配日数4日までの母豚は次回以降は4日に、離乳後初回交配日数5日以降の母豚は5日に回帰する傾向があります。
種豚の育種のなかで、離乳後初回交配日数が短くなるよう改良されているからと思われます。つまり、初産次に離乳後初回交配日数0-3日か4日になる母豚は、育種改良が進んでいて、脳・卵巣ホルモン軸が強い母豚ではないかと思っています。
産次1で離乳後初回交配日数7-20日の母豚は?
約10%が次産次以降で7-20日になります。7-20日の一部の母豚は、離乳後の発情回帰のメカニズムが弱い可能性があります。例えば、食欲が低く、授乳期に十分な栄養を摂取できず、授乳期に体重や体脂肪を多量に失なうなどして、離乳後初回交配日数が延長してしまう可能性があります。
産次1で離乳後初回交配日数0-3日の母豚は?
以後の産次で20%以上が離乳後初回交配日数0-3日に回帰します。初産次に0-3日だった母豚の一部は、強い繁殖ホルモン系を持ち、離乳後早い回帰ができる可能性あります。
ただし、産次1では、4日か5日の母豚に比して分娩率が少し低いので、一部母豚に卵巣のう腫であった可能性もあります。
産次1で離乳後初回交配日数のその後の分娩率は?
産次1で離乳後初回交配日数4日と5日で差はありませんでした。産次1で離乳後初回交配日数4日と5日であった母豚は、その後生涯の分娩率は一番高く推移します。次に初産次離乳後初回交配日数0-3日の母豚の分娩率も高く推移します。次に初産次離乳後初回交配日数6日と7-20日の母豚の分娩率が高く、21日以降の母豚の分娩率が一番悪くなります。たぶん、この、21日以降の母豚は、発情期間が短いとか発情が発見しにくい母豚の可能性があります。
産次1での離乳後初回交配日数のその後の産次での生存産子数は?
産次1での離乳後初回交配日数0-3日、4日で生存産子数の差はありません。どうやら産次1での離乳後初回交配日数は、直接には分娩時生存子豚数とは関係していないようです。
分娩時生存子豚数は、排卵数とその生存率と関係していることが知られています。ただし、産次2のみ、離乳後21日に交配された母豚は4日の母豚に比べて、生存産子数が0.5頭多いのです。しかし4日の母豚に比べて、18日以上の離乳後初回交配日数、つまり非生産日数が多いので、生産性の意味では1頭以上多くなくては困るのです。なお3産次以降は、初産次での離乳後初回交配日数による、生存産子数の違いはありません。
産次1での離乳後初回交配日数の生涯成績は?
産次1の離乳後初回交配日数4日の母豚が、生涯の生存子豚数が一番多いのです(図3)。2番目に5日の母豚が多くなります。7-20日や21日以降の母豚は少ない。意外に初産次での離乳後初回交配日数0-3日の母豚でも生涯産子数が少ないです。これは、初産次の離乳後初回交配日数0-3日の母豚の淘汰産次が4・5日より短いに関連しています。
産次1での離乳後初回交配日数と淘汰・死亡産次そして生涯繁殖効率は?
究極の母豚繁殖生産性を農場での在籍日数で計算した、年間化母豚当り離乳子豚数は、生涯離乳子豚数÷母豚の農場在籍日数×365.25日、つまり年間当りにした離乳頭数です。この年間化母豚当り離乳子豚数で、産次1での離乳後初回交配日数4日の母豚が、一番生産性が高いことが明らかになりました。次に5日がいいのです。初産次での離乳後初回交配日数0-3日の母豚は、4日の母豚並みの繁殖生産性をもつ可能性があるのですが、なにぶん淘汰産次が低い。その意味で、リピートブリーダーや分娩失敗などの繁殖障害を示す母豚以外は、0-3日の母豚は急いで淘汰する必要はないのでしょう。
産次1での離乳後初回交配日数が4日と5日が一番長生きです。0-3日と6日が次に続きます。21日以降の初産豚は淘汰圧が厳しいのでしょう、一番短くなりました。産次1での離乳後初回交配日数が4日と5日は、分娩率がいいので、淘汰圧が低いようです。なお淘汰圧とは、生産者が成績が良くない母豚を淘汰しようとするプレッシャーのことです。
産次1での離乳後初回交配日数4日の母豚を増やすには?
離乳後初回交配日数4日になりやすい因子は、初交配日齢260日以下です。一方、若雌豚への雄豚での発情刺激の強度などの技術で、初交配日齢が早くできることは知られています。また授乳期飼料摂取量を上げることで、離乳後初回交配日数が早めることは北米でもよく知られています。また離乳後の発情を見つける技術も大切と思います。
哺乳中子豚死亡率のリスク因子
NPDと並んで、哺乳中子豚死亡率は、繁殖農場生産性のなかでも最重要指標です。世界の養豚国では平均10%から25%の間と言われています。最近、米国・欧州でもこの死亡率が増えています。その理由の一つが、育種技術の進歩により、多産系母豚による分娩時生存産子数の急速な増加です。哺乳中子豚死亡率のリスク因子としては、分娩時生存産子数のほかに死産子豚数があります。死産子豚数は、その農場の群健康管理を表す指標でもあります。そして農場サイズの影響もあるのではと言われていました。なお農場サイズは,資金力・施設・育種・人材など生産システムを表す総合指標とされています。平均で言えば大きいほうが有利と言われています。
データと農場
欧州91農場の2007から2016年の10年間のデータを持つ農場レベルの年間平均データを使用しました。91農場で10年間で910点の記録を使用しました。研究協力農場は、平均農場サイズが母豚1,013頭で、80頭から3,678頭までの幅があります。飼料は、穀物(大麦と小麦とコーン)と大豆かすが主です。コーンはほぼ輸入です。母豚の育種会社は日本でも使用されているトピックス、PIC、ダンブレッドおよびハイポーを含みます。農場規模を大規模農場と小・中規模農場に分けました。10年平均の中間値530頭で分けました。なぜ中間値かというと、客観的な数字であるというだけです。
10年間の傾向
10年間で哺乳中子豚死亡率の平均は11.9%から13.1%に増えました(年0.12%増加)。ただし、13%ぐらいで頭打ちしています。一方、分娩時生存産子数は11.2頭から13.1頭に着実に増えています(年0.2頭増加)。そして年間母豚当り離乳子豚数も22.2頭から26.4頭(年0.4頭増加)と約2割増えています。カッコで年当り増加を書いているのは、種豚の能力が年々育種改良されていることと、各国の指標も年当りで改善されているのにあわせています。また農場の母豚在籍頭数は742頭から987頭に増えています(3割増加)。
この10年間で欧州は、多産系母豚の使用によって、毎年繁殖生産性(年間母豚当り離乳子豚数)が増加し、今もその増加は続いています。なお農場の母豚数の増加は3割ほどですが、これは使用したデータに新設された農場が含まれていないことによります。新設農場は母豚2,000頭以上ですから、産業界の平均農場数はもっと増えていると思われます。
農場規模による繁殖成績の違い
91繁殖農場を大規模農場と小・中規模農場に分けて、10年間の平均繁殖成績をみると、分娩時生存産子数の違いはないのですが、大規模農場のほうが、哺乳中子豚死亡率が低く、離乳子豚数・分娩率が高く、総合繁殖生産性である年間母豚当り離乳子豚数が多いのです (表)。農場規模のある程度の大きさは、オールイン・オールアウトなどの生産システムが実行しやすくなるということで、米国でも大規模農場が有利と発表されています。興味深いのは、育種に強く関係する分娩時生存産子数は、農場グループ間で差がないのです。つまり育種のスピードは規模に関連していないのです。しかし、哺乳中子豚死亡率と離乳子豚数で大規模農場が優位にたっていること、そして母豚回転数ともいわれる年間母豚当り分娩腹数も、大規模農場が高くなっています。つまりテコの原理で母豚回転数が高いことによって、哺乳中子豚死亡率減少の年間母豚当り離乳子豚数への改善力が上がるのです。
回転数つまり年間母豚当り分娩腹数に最も強く影響するのは非生産日数ですので、小・中規模農場はここが弱点と思われます。非生産日数に大きな影響があるのは、再発・再種付け間隔の短縮、淘汰までの決断を早くして淘汰までの日数を短縮することです。交配タイミングの改善で分娩率が上がればさらにいいと思われます。明治大学の研究で分娩率の低い農場の特徴の一つは、発情を発見してからの交配タイミングが遅いことでした。
「小規模農場では、もうだめなのか」と思う人もいるかもしれませんが、そうでもありません。明治大学での研究では、欧州の農場で農場規模を6グループに分けると、最小規模の母豚200頭以下の農場は繁殖成績がよくて健闘しています。しかし母豚500頭から1,000頭規模の農場の成績が、母豚2,000頭規模の農場より繁殖成績が劣ることがわかりました。母豚500頭から1,000頭の中規模農場では、雇用や労務管理などの経営面の問題がある可能性があります。
この研究で分かったことは、小・中規模農場と大規模農場の一番大きな違いは、生涯非生産日数です。小・中規模農場の非生産日数は、大規模農場より27日も長かったのです(大規模農場の母豚66日 vs. 小・中規模農場の母豚93日)。つまり非生産日数の減少が、小・中規模農場の繁殖生産性改善のカギです。
10年間でみる哺乳中子豚死亡率へのリスク因子は?
一番大きなリスク因子は分娩時生存産子数です。しかし分娩時生存産子数の影響は単純な線形ではありません。上記の図に示すように、8頭から12頭まで農場の分娩時生存産子数が1頭増えるごとに、死亡率は2%ずつ直線的に上がります。しかし、分娩時生存産子数が13頭を超えると上昇は鈍化します。これは13頭を超える分娩時生存産子数を生産している農場では、多く生まれた子豚を助ける技術ができてきているからと思われます。
死産子豚数も大きなリスク因子です。農場平均で死産子数は1.03頭です。これが増えると、哺乳中子豚死亡率は直線的に増えます。ただし影響度が農場規模で違います。農場平均で死産子豚数が0.1頭増えるごとに、哺乳中子豚死亡率は、小・中規模農場で0.3%増え、大規模農場だと0.2%です。ここでも大規模農場の優位性がでます。
農場規模によって対応力・改善力が違う
分娩時生存子豚数が増えることに対する対応力は農場規模によって違います。つまり分娩時生存子豚数が増えると、哺乳中子豚死亡率は増えるのですが、農場規模グループでその影響度が違うのです。例えば分娩時生存子豚数が9頭から14頭に増えると、小・中規模農場では哺乳中子豚死亡率が9.5%増えるのですが、大規模農場では6.6%しか増えません。農場規模によって分娩時生存産子数増加への対応力が違うようです。
哺乳中子豚死亡率減少の離乳子豚数増加への農場規模による影響
哺乳中子豚死亡率が18%から8%に下げられたら、離乳子豚数そして年間母豚当り離乳子豚数も改善できます。そして農場規模でその改善程度が違うのです。まず母豚当り離乳子豚数だと10%哺乳中子豚死亡率の改善で、大規模農場で0.6頭、小・中規模農場で0.4頭、1.5倍(0.6÷0.4頭)も改善力が違います。さらにその改善力は、年間母豚当り離乳子豚数で大きくなります。大規模農場だと18%から8%へ10%哺乳中子豚死亡率が改善されれば、大規模農場では2.2頭も年間母豚当り離乳子豚数が改善できるのです。一方、小・中規模農場だと0.6頭です。改善力が3.7倍違うのです。
しかし、この理由は、表に明らかなように、大規模農場が小・中規模農場より、分娩率・年間母豚当り分娩腹数が高いからです。前述しましたが、小規模農場は、まず非生産日数を短縮して、年間母豚当り分娩腹数を改善すべきと思われます。小・中規模農場は伸びしろが、まだまだあるのです。
哺乳中子豚の平均死亡日齢が延びている
驚きは、死亡日齢が延長していることです。哺乳中の子豚の死亡は、分娩直後に起こると言われてきました。しかし10年間で死亡日齢が平均で延びています。それはこの10年、規模に関わらず延長しています。
10年前には死亡日齢の割合も分娩後初めの1日以内が多かったのに、最近では分娩後4-5日の農場が多くなってきています。
子豚の死亡パターンが変わってきています。この理由として考えられるのが、分娩舎における最近の技術の発達です。例えば、初乳の摂取補助や分割授乳などが、出生時での小さく軽体重の子豚の生存率と成長率を上げている一方、小さすぎて生まれた子豚の死亡を遅らせている可能性があります。
あまりにも小さい子豚には、安楽死も視野に入れるべきかと思われます。福祉サイトの安楽死タブも参考に。
「哺乳中子豚死亡率を下げる6つの管理の注意点」
英国スコットランド農業大学から発表パンフのもの紹介しておきます。
A、環境を整える
1、ヒーター(輻射熱)やマット30-34℃と保温箱を用意する。分娩時の子豚は低い温度に弱く、低体温症になりやすい。
2、ワラや裁断新聞紙(欧州では汎用)で熱ロスを防ぎ、子豚を乾燥させる。なおヒーターには接哺乳中子豚が接触しないように。
B、子豚の哺乳のチャンスを上げる
3、すべての子豚に初乳を飲ます。初乳は48時間しかないので。必要なら分割授乳を。
4、クロス里子技術を使用する。ただし実母豚で最低でも6-12時間初乳を飲んだ子豚のみ里子。健康サイトのMcREBEL法も参考に。
5、母豚の機能している乳頭数を確認して、子豚の数と合わせる。
C、母豚の母性行動を引き出す
6、分娩予定日最低48時間前に分娩クレートの前方に、巣作りに使えるようなもの(英国例、麻などの丈夫なヘシアン布:エンリッチメント)を与える。
死産子豚数、もう一つの哺乳中子豚死亡、70%の死産子豚は20%の母豚から
分娩時総産子数(TPB)は、生存産子数と死産子豚(SB)およびミイラの子豚頭数からなります。死産子豚は、難産や窒息により分娩中に死亡した子豚と定義されます。しかし実際の生産現場での死産子豚の記録数には、分娩中に死亡した子豚の数と出産直後に死亡した子豚の数が含まれています。これらの両方の死亡した子豚の何割かは助けることができきたはずです。死んだ子豚数を減らすことできれば、経済的な無駄と福祉的な懸念を改善することができます。
死後検査された全死産子豚数の67%、16%、5%がそれぞれ分娩中、分娩直後、分娩直前子宮内で死亡したと報告されています。16%の死産子豚の大部分は看護分娩によって救われ、67%の一部は分娩介助によって救われた可能性があります。
母豚の平均生存日数848日の生涯成績では、約10頭の生涯死産頭数と15頭が授乳期間中死亡子豚が報告されています。死産子豚と授乳期間中の子豚のロスと組み合わせた死亡豚の発生を抑制するためことは大切です。分娩前後の死亡を合計した子豚総死亡または離乳前総死亡率も測定することが提案されています。
種豚の育種改良により分娩時総産子数はこの10年間に増加しており、分娩時総産子数と死産子豚数の正の相関が報告されていることから、分娩時総産子数の増加に伴い、死産子豚数も増加していると思われます。
さて、死産子豚数を高めるリスク因子は、妊娠期間が短い母豚、分娩時総産子数が多い母豚とされています。さらに分娩室の温度が20℃を超えると、分娩前後の母豚に死産子豚が発生するリスクが高まる。つまり夏場の熱ストレスは死産子豚の発生を増加させる可能性があります。
「死産子豚70%は母豚20%から」ではどうするか
分娩スタッフが分娩に立ち会い、15分に1頭は新しい豚が生まれ、すべてが順調に進んでいるときに、死産が出ると、非常にがっかりします。死産をゼロにすることはできませんが、発生率を下げるチャンスはたくさんあります。
米国50農場の52週の41万頭以上の分娩データを調べました。わかったことは、母豚の45%が死産子豚を出産、うち20%の母豚が70%の死産子豚に寄与しています。その20%の母豚は、1回の出産で2頭以上死産しているのです。つまり死産子豚を分娩しやすい母豚がいるのです。
死産した子豚の数を減らすために、検討すべきいくつかのアイデアがあります:
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リスクの高い母豚:死産数の多い母豚や、産次5以上の母豚をより頻繁にモニターすします。分娩室の中で近くにおく、部屋のどこにいても、その母豚が特別な助けを必要としていることがわかるように、何らかの方法でフラグを立てます
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分娩直前の飼料を増加させる
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分娩中のより多くの母豚を介助する(50農場中13農場は1日16時間のモニター・介助を実施できる大農場です)
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オキシトシンの使用を制限する *オーストラリアのAdelaide大学のRoy Kirkwood教授は7頭出産後を推奨。10IU以下で。陰部に注射する場合は、2.5~5.0 IU程度を推奨。
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分娩誘発剤の使用は戦略的に。母豚を115日目より前に分娩させることは、死産子豚数を増加させます。母豚が本当に分娩プロセスを開始する準備ができていなかったので、母豚に大きな負の影響を与えるのです。一方、母豚の分娩時期をあまりに長く放置すると、死産子豚数が増加する可能性があります。
出典:National Hog Farmer 2019年4月号のMr. Ron Ketchem (農場データ分析家)の記事
死産子豚数を下げるヒント、英国流
英国スコットランド農業大学からのヒントです。3つの分野:分娩プロセス、妊娠豚、そして群管理です。
A. 分娩のプロセスを改善する
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母性行動を引き出す。分娩クレート使用の場合はその前方に、巣作りに使えるようなもの(英国例、麻などの丈夫なヘシアン布:エンリッチメント)を与える
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妊娠後期と分娩直前には食物繊維を与え、そして十分な水が飲めるようにしておき、便秘を防ぐ
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母豚のヒートストレスを防ぐ、室温18-20℃が最適
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分娩の経過をモニターする。例:クレートの前にバインダー等(分娩デスク)をぶら下げ、何時から分娩が始まったか、生まれたのは何時か、チェックした時の時間と分娩済み子豚数と死産子豚数を記録する。スタッフが、子宮までの介助をするかどうかの判断に役立つ
B.妊娠豚の体重に気を付ける
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妊娠期の栄養に気を付け過肥と削痩を防ぐ
C. 母豚の履歴の記録、淘汰基準の用意そして群健康管理
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分娩予定の母豚の過去の履歴をチェック。特定の母豚は死産豚が多いことを繰り返す。
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高産次の母豚は死産子豚数が多くなるし、分娩前後の母豚の死亡もふえるので、7産次以上の母豚は計画淘汰を考慮する。
以下はAHDBからのヒントです。
英国AHDBが作成した分娩デスクです。死産子豚を少なくするツールです。分娩中の母豚のいる分娩クレートにひっかけて設置します。青・緑・赤の帯があり、透明の時計盤のような針が付いています。一番外側の水色が最後に分娩した時間を、真ん中の緑が生存産子数を、真ん中の赤が死産子豚数を表します。飼育スタッフ全員が、分娩の様子が分かるようになっています。なおAHDBに問い合わせたとこら、寛大にも自由にコピーして作ってください、ということでした。
長期生存性を上げる
日米の経済性の研究でも、3産次を越えないと、若雌豚の更新費用がペイできないことがわかっています。しかし実際には0産次から2産次で20%前後の淘汰が行われています。米国では増頭している農場でなくても更新率50%を超える農場もあります。
淘汰理由は、四肢障害と繁殖障害、そして管理上です。図は高生産性農場と普通農場での産次別淘汰率の比較です。高生産性農場は普通農場より0-5産次での淘汰率が5-10%高く、高生産性農場は6産次以降の淘汰がメーンです(下図)。欧米では、更新用若雌豚の選択率を下げることで、0産次から5産次までの繁殖雌豚の淘汰率を下げることが重要といわれています。
もう一つは、低生存産子数による淘汰を少なくすることです。生存産子数が少ないと、生産者によっては低生産性として淘汰する基準があるようです(右図)。統計学上の黄金律「平均に回帰する」というのがあり、低産子数だった母豚は次産次では増える可能性が高いのです。3産で更新費用をカバーし、4産次から利益が出ます。
さらに5産次でも、育種改良されている産次1よりはまだ分娩時生存産子数は多いので、再発しない限りは使用したほうがいいのですが。
母豚死亡率
長期生存性を改善するもう一つの方法は、母豚の死亡豚を少なくすることです。雌豚は分娩前後で死にやすく(下図の1番目)、さらに6産次を超えると死亡の確率が上がります(下図の2番目)。母豚死亡率は欧州では7-8%と言われていますが、デンマークのDPRCの報告では10%を超えているようです。
米国では母豚死亡率10%以上で、さらに増加が止まりません。その理由を米国の獣医師に聞いてみたところ以下でした。
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母豚の増頭、既存と新設の両方で、更新雌豚が不足し候補豚の選択率が高い、四肢等で問題がある雌豚も使用
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子宮脱、直腸脱が増加、(マイコトキシンの疑い)
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妊娠豚ストールからグループ飼育が増加、死亡はグループ飼育に多い
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淘汰基準が変化、ボディコン問題のある母豚は、食品会社が拒否、安楽死が増加、そして安楽死を死亡と記録
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種豚ラインの選抜、豚が弱い豚ができている
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抗生剤の投与量が減ってきている、今までは5-14日を飲水または飼料に添加、年2から3回投与してきたが、今はゼロ
デンマークでは、母豚死亡率を減らすために以下が推薦されています。
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四肢のよい若雌豚の選抜、特に蹄と四肢姿勢のチェック
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病院ペンの用意(収容の2.5%以上)
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妊娠豚群飼の場合の密度を下げる
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ミックスの時の床面がよくないと、四肢障害が発生
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3回の選抜:30キロ、100キロ、初交配前
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若雌豚の初交配時には、140-160 kg、32-34 週齢(220日-250日齢)、背脂肪が14 mm以上、蹄が不ぞろいでない、四肢姿勢の立位置がよいこと
母豚の死亡コスト
米国の種豚メーカーGenesus社の計算を応用しました。種豚用飼料の年間使用量を1044キロとし、母豚回転数2.4回でわり、1回の妊娠期435キロ、表では飼料費をキロ50円としています。生まれるはずだった子豚の逸失利益を5000円として、母豚の機会コストを145750円としました。もし飼料費をキロ70円とすると、コストは154450円となります。日本の一貫経営だと、肉豚の逸失利益となるので、もっと高価になります。
また母豚2400頭繁殖農場で5%の母豚死亡率だと125頭死亡となるので、年間2000万近くのコストとなります。母豚の死亡は大きな損失です。
デンマーク養豚研究センター(https://pigresearchcentre.dk)では、死亡率を抑えるための方法として以下を推薦しています。
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四肢のよい若雌豚の選抜
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特に蹄と四肢姿勢のチェック
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病院ペンの用意(収容の2.5%以上)
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妊娠豚群飼の場合の密度を下げる
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豚ミックスの時の床面をすべりにくいものに
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3回の選抜:30キロ、100キロ、初交配前
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若雌豚の初交配時には1)140-160 kg、2)32-34 週齢(220日-250日齢)、3)背脂肪が14 mm以上、4)蹄が不ぞろいでない、5)四肢姿勢の立位置がよいこと。
人工授精(AI)用精液のリスク因子と管理因子
精液の品質に関係する雄豚と精液管理について以下の総説を紹介します。とくに雄豚の管理、細菌汚染、精液の採取、処理など、精液の品質を脅かす要因に重点を置きます。
Lopez Rodriguez, A., Van Soom, A., Arsenakis, I. et al. Boar management and semen handling factors affect the quality of boar extended semen. Porc Health Manag 3, 15 (2017). https://doi.org/10.1186/s40813-017-0062-5
精液の品質に関係する雄豚管理と精液処理プロセス
はじめに
人工授精は、主要養豚国では普通に行われています。例えばこの20年間、西側欧州の養豚国では90%以上の母豚が人工授精で交配されています。人工授精の活用は、繁殖雌豚群への優れた遺伝子の導入を可能にし、1回の射精液当りのより高い収益性につながります。
精液は、農場またはAIセンターで採取されています。養豚界では、精液は凍結でなく、新鮮な精液を希釈して使用されています。
雄豚の病気と精液
授精能力の問題で淘汰された雄豚の屠場調査では、精巣の特徴として、精索静脈瘤、線維症、炎症、出血などが明らかになりました。腫瘍(例:血管腫、セルトリ細胞腫)があると、精液の品質が悪くなると報告されています。AIセンターでは、陰嚢と精巣の超音波検査などで、これらの状態を早期に発見する方法が有効であると思われます。片側停留睾丸の雄豚からの精液は、陰嚢精巣の精液の質と生産性が損なわれるため使用すべきでありません。精巣上体の機能不全では、尾の曲がった精子が多く発生する可能性が高くなります。
感染症も精液の品質を低下させる可能性が高くなります。
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Brucella suis, leptospires や Chlamydia sp.(ブルセラ菌、レプトスピラ菌、クラミジア菌)は、精液の品質に悪影響を及ぼすことが知られています
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熱帯気候では、トリパノソーマ (Trypanosoma) が精子形成を阻害することがあります
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日本脳炎ウイルスが睾丸炎を起こし、精子の数や運動性が低下し、精子異常が増加します
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オーエスキー病ウイルスは精巣の退化を引き起こし 精巣の変性や精子の異常が増加します
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豚繁殖・呼吸器症候群ウイルス(Porcine reproductive and respiratory syndrome virus (PRRSv)は、精巣に特異的な病変を引き起こさないが、ウイルスに感染することで、精子形成上皮におけるウイルス複製の直接的な影響により、精子の異常や運動能力の低下、射精量の減少を引き起こす可能性があります
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ルブラウイルス(Rubulavirus, ブルーアイ病)の雄豚への人工感染により、精巣上体炎、睾丸炎、永久または一時的な不妊、異常増加、無精子症が観察されています
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豚(腸管)ピコルナウィルス感染症は、精嚢炎、性欲減退、精子異常が多くなる可能性があります。
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腸管寄生虫と精子数の関連が注目されています。しかし腸管寄生虫症では、糞g当りの虫卵数で測定した寄生虫感染と精液の質との間に有意な関連は認められていません。今後の研究が待たれます
雄豚管理:精液生産と品質への因子
品種と種豚ラインの選択
適切な雄豚の選択が重要であり、精子の生産に最適な形質を持つ雄豚を保持する必要があります。
精液の質だけで選別する場合、8ヶ月未満の雄豚の精子の質は、それ以上の高齢の雄豚よりも低いことを考慮する必要があります。また、選抜に8ヶ月を要することは、遺伝子改良のスピードが遅くなるというデメリットもあります。
なお精液の品質が悪いために淘汰された雄豚は、去勢しない限り雄臭が発生し、食肉処理時の価格が低下してしまいます。ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)を16週目に1回だけ注射することで、雄豚の精液の質に悪影響を及ぼさないように予防接種することが提案されています。
選抜のための出生時体重と精巣サイズ
出生時体重は、早い時期に最も高い能力を持つ雄豚を選択する基準として提案されています。例えば、重い生時体重の雄豚(2kg前後)に比べて低体重の雄豚(1kg前後)では、性成熟以降の雄豚は精巣が小さくなるようです。しかし、精液の質(運動性、量、濃度、DNAと先体細胞の完全性、精子の形態)は出生時体重に影響されないようです。
雄豚の選抜は、精巣サイズに基づいて、より高い年齢 (150 日) で行うことができます。精巣のサイズは、1回の射精当りの総精子数と正の関連があることが示されています。ただし精子の運動性、精液量、または精子形態との関連はありませんでした。
雄豚の遺伝子マーカーは 性成熟年齢が若い、熱ストレスに強い、精液品質の維持性が良いなどと関連しているものです。例えばフィンランドのヨークシャーの雄豚の精子異常、先体異常、造精機能異常、精子不動性短尾欠損は、遺伝子が原因とされています。近年、ミトコンドリアのmethionyl-tRNA formyltransferase遺伝子が、精子の運動性に関連するマーカーとして提唱されています。
雄豚のハウジング
種雄豚のハウジングは、雄豚の健康に影響を与え、間接的に細菌汚染によって精液の品質に影響を与える可能性があります。
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敷料がある場合、雄豚の腹部の敷料の残りは、精液の細菌汚染を防ぐため、精液採取前に取り除くべきです
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若齢雄豚の飼育環境も精液生産に影響します。成長期の雄豚のグループ飼育は、その後の繁殖成績に有利であることが示されています。個別飼育の雄豚と比較した場合 、4 m×4.3 mのペンで飼育した8頭グループの雄豚は、体重30kgから2回の乗駕行動に成功するまで(約6ヶ月齢)、平均して乗駕のための脚力が強く、性欲が強く、初交配の日齢時期が早く、精子数も多かったと報告されています
光周期と温度と湿度
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精液の品質に及ぼす光時間の役割については、異なった報告があります。11 週齢から性成熟期(24-26 週齢)まで自然光+人工光補充(10-500 lx)で常に 15 時間/day を維持した雄豚は、自然光のみの雄豚(11 週齢時 15 時間→ 試験終了時 9 時間)に比べて性成熟が早く、性欲も高かったと報告されています
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光周期は、極端な条件下でのみ精液の品質に影響を与えるようです。成熟した雄豚を3ヶ月間、完全な暗闇で飼育した場合は、12時間飼育に比べて精液量と濃度に悪影響を及ぼしました。しかし3ヶ月後には精液量と濃度が処理前の値に戻り、雄豚がこのような極端な光周期に適応できることが示唆されました。他の研究と同様に、光時間は精子の運動性や活力に影響を与えませんでした
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熱ストレスは雄豚の精液の品質に影響を及ぼします。34.5℃で8時間、31.0℃で16時間で90日間暴露した雄豚は、23.0℃で維持した対照雄豚と比較して、精子の運動性と精子形態が低下し、受胎率が低下しました。さらに、一定した高温のストレスだけでなく、昼夜の気温の変動が10℃以上(25~35℃)、湿度が90%以上だと精子の生産量が減少する可能性があります
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雄豚の精液の品質に影響する空気の質についての研究はありません
雄豚の栄養
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雄豚の栄養要求量の総説では、強い飼料制限、すなわち飼料レベルが維持量の 1.4 倍以下の時、精子量およびまたは性欲にのみ悪影響があると報告しています。精液の品質には影響を与えないようです
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雄豚の飼料に含まれる適切なタンパク質の量については、異なった報告があります。中国での研究で、雄豚に低タンパク質(13%)の飼料を与える場合、タンパク質含有量のリジン100に対するスレオニン76:トリプトファン38:アルギニン120の比率に高めることで、雄豚の精液の品質が向上することが示されています
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雄豚用飼料添加物に焦点をあてて研究されています。液体での保存中の精子の損傷の主な原因の1つが精子膜脂質の過酸化であると考えられているため、抗酸化物質が注目されています
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オメガ3の多価不飽和脂肪酸(PUFA)の飼料添加により精子脂質組成が変化することが示されています。しかし、PUFA の飼料添加が精子の貯蔵抵抗性に影響を与えるかどうかは異なった報告があります。 マグロ油の添加(30g/飼料kg)を6週間行ったところ 、精子の運動性と先体形成が改善されました。一方、6ヶ月間のマグロ油(60g/雄豚/日)の補給は、精子の生存率、運動性、先体細胞の完全性、過酸化物に対する感受性、DNAの断片化、精液の量に影響を与えませんでした
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セレン(Se)は、雄豚の精子に存在し、細胞膜や細胞内膜を過酸化物から守る酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の構造成分として、抗酸化作用が注目されています。0.06 ppm の Se を含む基礎飼料に離乳期から 9 ヶ月齢まで 0.5 ppm の Se を雄豚に与えたところ、基本飼料のみを給与した雄豚よりも精子運動が高く、異常精子も少なかったと報告されています。そして、その雄豚の精液で授精させた雌豚の受胎率が高くなりました。また、雄豚に与えるSeの形態(無機または有機)は、精液に影響を及ぼす可能性があります
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L-カルニチンやビタミンEなどのビタミン類と精液の質との関連性が検討されています。ビタミンEはSeとともに過酸化脂質から精子を保護する働きがあり、飼料中のこのビタミンが不足すると精子の運動性が低下し、異常な精子が増える可能性があります。別の研究では、異なる脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンを混合して補充しても、高い精子採取頻度による精子生産と精子の品質への悪影響は減少しませんでした
精液採取ペンと採取頻度
採取ラインの自動化によりほぼ自動で精液採取できるラインが開発されています。この新システムには、空気圧で収縮する人工膣、採取者と雄豚の電子識別が含まれています。以下のビデオ参照。自動精液採取システムのさまざまなメーカーが、細菌汚染の低減を謳っています。
https://www.imv-technologies.com/product/collectis#
精液採取ペンのデザインも雄豚の性行動に影響します。性的刺激を受けた雄豚はより早く採集を完了し、その結果、より多くの雄豚を短時間で処理することができます。さらに、このような雄豚の精液には精子数が多いようです。雄豚は偽雌ダミーで他の雄豚の行動を見ることで、採取直前に性的刺激を与えることができます。精液採集ペンの前にいわゆるウォームアップエリアがあれば可能です。
プロスタグランジン(PGF2α)投与は、射精開始までの時間が短縮され、射精時間が長くなる傾向があるほかは精子数や精液の質への影響は認められませんでした。
採取時の衛生状態が悪いと、精液が細菌・ウイルスに汚染されることになり、精液ドースの汚染につながります。さらに、ペニス包皮の開口部周辺の毛は定期的に刈り取ることが必要です。
一般的に、AIセンターでは雄豚の精液は、週に2回程度採取されます。精子の採取頻度が高いと、精子の形態や運動性に悪影響を及ぼすことが知られています。なぜなら精子は精巣上体から尾部に急速に移動するため、精巣上体の成熟に十分な時間をかけられないためです。例えば1日2回、4日間連続で採取した雄豚は、近位ドロップレットが多く、頭部と尾部の異常が多く、運動性が低かったと報告されいます。採取4日後、高頻度で精液採取に供された雄豚の射精精液の精子運動性は対照豚の20%以下でした。
精液の細菌汚染
細菌汚染は、精子の凝集を引き起こし、運動性を低下させます。保存中の精子の寿命や授精能力を低下させる可能性があります。希釈精液からよく分離される細菌と表 にまとめました。これらはほとんどが腸内細菌科に属しています。この細菌科の中では、Serratia marcenses、Klebsiella oxytoca、Morganella morganii、Proteus mirabilisが高い割合で存在することが示され、その存在は運動性の低下と関連しています。
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Enterobacter cloacaeは、精子:細菌比1:5および1:10で、15-17℃で保存した精液では精子の運動性と細胞膜の完全性を低下させ、精子の凝集を引き起こしました。Clostridium perfringensは精液に108cfu/mlを接種し、37°または15°Cで24時間培養したところ、精子の運動性と生存性が低下しました
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2×107 または2×108 cfu/mLのPseudomonas aeruginosaで雄豚の精液を実験的に汚染したところ、精子運動率、精子生存率、先体形成率を著しく低下させたが、pH には影響を与えませんでした
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80 mL(3.5 x l09 total sperm/dose)の希釈精液サンプルに、最も頻繁に分離される6種類の細菌(Enterobacter cloacae, Escherichia coli, Serratia marcescens, Alcaligenes xylosoxidans, Burkholderia cepacia, Stenotrophomonas maltophilia)の純粋培養コロニー10~15を植え付けるとすべての分離株で、視覚的な塊状化、顕微鏡下で精子同士の凝集(精子の25%以上)が観察され、また運動性の低下、先体細胞の損傷などが観察されました
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Pseudomonas aeruginosaが精子の受精能(capacitation)を低下させることが示唆されています。Pseudomonas aeruginosaを授精能培養液の精子に106または108 cfu/mL接種した場合、膜損傷を受けた精子が多くなり、精子の運動速度が低下するとともに、in vitro 受精能のマーカーとして知られるp32のphosphotyrosineレベルが低下することが明らかになりました
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精液採取時の細菌汚染のリスク因子としては、採取者の手から包皮からの液体がしたたり落ちていること、採取時間が7分以上であることがあります。また、CFU (コロニー形成単位)数も、雄豚の包皮の毛が長いほど高くなくなりました
ラボでの精液処理における重要管理点の調査では、汚染された希釈精液から培養された細菌種は、生の射精物から分離された種とは異なっていました。このことは、精液の汚染は雄豚ではなく、ラボの環境に由来する部分が大きいことを示しています。シンクや排水口は高い汚染度を示し、製造のさまざまな場所で複数の多剤耐性菌が分離されました
精液の取り扱いに関するリスク因子
精液採取
AIセンターでの精液採取は、ポリビニール手袋を使用するべきです。ラテックス製の手袋は精子にとって有害ということが知られています。
急速な冷却は精子にダメージを与える可能性があるため、あらかじめ温めた(38℃)採取容器を使用することが大切です。さらに、精液採取は細菌汚染の最重要なポイントです。
射精の最初の部分(~25ml)は、精子が含まれておらず、細菌数が多い可能性があるため、廃棄するべきです。その後、精子に富んだ画分 (40-100 mL) を採取します。この画分には全精子細胞の80-90%が含まれています。精子を多く含む画分が完全に回収されると、残りの射精液は再び透明な水状の液となり、精子はほとんど含まれず、主に精嚢腺、前立腺、そして射精の終わりには球状尿道腺からの分泌物であるため回収する必要はありません。
希釈プロセス
射精後、精子が早期に疲弊しないように、また精子の生存期間を延長するためには、化学的代謝阻害剤や温度を低くすることによって精子の代謝活性を抑制するため、射精後精液をすぐに希釈する必要があります。
他の動物種の精液と比較して、雄豚精子は細胞膜中のPUFAの割合が低いため、12℃以下の温度に対して非常に敏感です。通常、温度管理されている精液処理室では、この温度には達しません。採取した瞬間の射精液の温度は約37℃、処理するラボに到着した時点では32~35℃です。ほとんどのAIセンターでは、精液をまず予熱した希釈液(~33℃)で1:1に希釈し、その後予熱した希釈液または室温に保った希釈液で希釈するという2段階希釈を行っています。しかし、希釈のやり方と各希釈液の温度は、AIセンターによって異なります。
30 ℃で数時間の馴致することは、17 ℃で保存する試料の保護効果があると示唆されてきました。しかし、他の研究者らは、20℃での希釈に比べ、32℃での馴化が負の効果を持つことを、in vitroの受精能獲得アッセイでの反応に基づいて示しました。
2段階希釈を行う場合、2回目の希釈のために希釈液を、精液温度に合わせて予熱しても、適度な室温(22~23℃)での希釈と比較して、精子の運動性、生存率、先体形成の完全性は改善されませんでした(Rodriguezら)。雄豚精液の受胎能力に対する希釈液温度の影響について詳しく調べるin vivo動物での試験が必要です 。
さらに、希釈割合は保存中の精子の質に影響を与えるようです。高希釈率(0.5 × 109 sperm/80 mLまたは1 × 109 sperm/80 mL)では、低希釈率(2.5 × 109 sperm/80 mL)と比較して保存中の精子運動性が低くなりましたが、精液漿の添加によりこの負の影響を緩和することができました。
精子保存用培地メディア
液体保存に使用される培地は、精子の生存期間を延長するため、つまり細胞へのエネルギー供給、緩衝作用 バクテリアの繁殖を防ぐために必要です。雄豚の精液は、短期保存用、長期保存用を問わず、保存のためにさまざまな希釈剤が販売されています。
長期希釈液には、重炭酸緩衝系に加え、より複雑な緩衝系(HEPES、Tris)、さらにウシ血清アルブミンが含まれています。これは、細菌の代謝産物が希釈剤から吸収されるため、精子の生存に好影響を与えます。市販されているほとんどの希釈液は、精液を4日以上保存すると運動性と受胎率が低下するものの、保存後72時間以内は精子の生命力を保護することができます。
濃縮希釈剤は、通常、蒸留水や脱イオン水で希釈されます。水の微生物学的な品質だけでなく、電解質の含有量、特にカルシウムイオンが含まれていないことも重要です。
最近、電磁処理された希釈液は過酸化反応を減らすことで精子の細胞膜の完全性を向上させることが示唆されています。水を電磁処理することで、精液希釈液の電子供与能力が高まり、フリーラジカルと活性酸素のレベルが低下することが提案されています。
AI ドースにホルモンを添加することで受胎率を向上させることが示唆されています。スペインでは、AIドースにオキシトシンを追加することで、夏季の分娩率が改善されました。
エストロゲン、プロスタグランジンF2α(PGF2α)、オキシトシンをAI投与に追加しても、受胎率は向上しなかったが、胎子の総数が増加することが示されました。
抗生剤
希釈精液には細菌汚染が見られるためるため、抗生物質を添加し、細菌の過剰繁殖を防ぎ、細菌毒素の影響を軽減することが一般的です。雄豚の射精精液を単層遠心分離することで、細菌濃度を下げることができ、その結果、抗生剤の必要性を低減することができます。このプロセスは精子運動の直線性を向上させるようです。抗生物質に代わる添加剤として、環状ヘキサペプチドの添加が提案されているが、その可能性はまだ検討中です。
精液パック(AIドース)の回転
最近、Schulzeらは、沈殿を避けるために保存中の精液パックを回転させると、精子の運動性に悪影響を及ぼすことを明らかにしました。生物学的なメカニズムはまだ説明できないのですが、これが酸化ストレスの増加によるものであると示唆しています。
精液の包装材
希釈が完了した精液は、80~100mLの用量で包装され、保存・配布されます。通常、1回分には2~30億個の精子が含まれています。近年、子宮内人工授精などの新しい技術が開発され、より少量の精子で授精ができるようになりました包装工程は自動化されたシステムです。これらのシステムは精子にダメージを与えることはほぼありません。
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プラスチックボトル、バッグ、チューブ、カテーテル一体型の折りたたみ式など、さまざまな容器を使用して、長時間精液の保存、配送、授精を行うことができます。容器の種類が冷却速度に影響を与えることが示されており、バッグ型はチューブに比べて17℃に達するまでの時間が短いようです
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パッケージに含まれるプラスチック化合物が精子にとって有害である可能性があります。母豚の繁殖成績低下と精子の質の低下が、精液パッケージに含まれていた環状ラクトンとビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)の関連が報告されました。精液にこれら2つの化学物質を加え、50頭の母豚の2つのグループにこれと対照精液を授精させました。そして環状ラクトンとBADGEの添加は受胎率の低下と関連していました(対照母豚の58%対84%)。毒素の分析は、AI用に精液を提供する会社の日常的な品質管理に含まれるべきです
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精子をアルギン酸バリウムでカプセル化し、精子を保護することができます。しかし、精液のカプセル化は、希釈精液と比較してコストが高いため、商業的な応用には至っていません
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希釈した精液を17℃で保存しますが、さらなる低温保存での研究もされています。この温度では精液の代謝が低下し、保存期間を延長するために必要な条件となります。豚の精子生存のための臨界下限温度は12℃であり、15-17℃での保存は豚の精子の運動性と活力に悪影響を及ぼさないことを明らかにされています
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保存中の精子の老化のメカニズムについて、新しい精液品質測定法を用いて研究されてきています。その結果、他の要因の中で、過酸化脂質と精子膜の流動性の変化が、受精能のような変化を引き起こすことがわかりました。
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保存中の空気との接触は、精子の運動性と負の相関があるpHを上昇させるため、pHを安定化させるために様々な緩衝システム が使用されています
保存前ストレス
保存前のストレスを制御することで精子を保護できるのではないかという仮説も検討されています。7頭のハイブリッド雄豚を対象とした研究では、通常の処理と比較して、静水圧で精液にストレスを与えることで、進行性運動性が高くなることが示されました。研究では、14頭の雄豚の各射精物を2つに分け、静水圧処理または通常処理を行った。その後、104頭の若雌豚に処理した精液で授精したところ、対照の精液と比較して、分娩産子数の増加が観察されました。しかし、この効果は経産豚には見られませんでした。
今後の展望
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良い精液を生産できなくなった雄豚をいかに早期に発見するかが課題です
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細菌汚染は精液の品質に影響を与えるため、抗菌剤耐性や汚染を減らす方法についてさらなる研究が必要です
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精液の処理プロセスはまだAIセンター間で標準化されておらず、生産プロセス中の重要ポイントを特定する必要があります
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精液取り扱いの各段階における温度の影響に関する詳細な研究は、現在使用されている精液生産システムの改善、ひいては簡素化に役立つと考えられます
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全体として、AIセンターは標準化された品質管理および品質保証システムを導入することは有益です
ヒートストレスと繁殖成績、産次別の重要時期とその温度は
繁殖成績は1990年代からずいぶん改善されてきました。それでも繁殖成績へのヒートストレスはまだ大きな問題です。ヒートストレスは、豚の生産を制限する重要な要因になりつつあります。母豚は泌乳期間中、温度がサーモニュートラルゾーンの上臨界温度を超えるとヒートストレスとなり、その結果、繁殖能力が低下することはよく知られていることです。
生産者や獣医師が、各産次での重要な温度変換ポイント(閾値)と繁殖の重要時期に関する情報を持っていれば、地域の気象ニュースの最高気温情報にうまく対応し、母豚の繁殖能力への熱ストレスの影響を緩和するために適切な管理方法を実施することができるでしょう。
欧州142農場で繁殖情報と地方気象台の情報を組み合わせたデータ分析をおこないました。気象情報は、農場近くの気象台の最高気温の週間平均をもちいました。
主な結果は:
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離乳後初回交配日数における気温の重要時期は、産次1でも産次2以上でも、離乳前1から3週間前
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離乳後初回交配日数の延長につながる日最高温度の重要点(閾値)は、産次1の母豚では17℃、産次2以上の母豚では25℃
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分娩率の重要時期は,産次0,1,2以上の母豚群では,種付け2~3週前
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分娩率の減少につながる日最高温度の重要点(閾値)は、産次0、1、2以上の母豚群で、産次0で20℃、産次1で21℃、産次2以上で24-25℃
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ヒートストレスに対して、とくに産次0~1の若い母豚には早めの対応が必要
出典はJournal of Animal Science 99:1-11, 2021. https://doi.org/10.1093/jas/skab173
若雌豚へのアルトレノジスト(Altrenogest黄体ホルモン様物質、商品名RegumateまたはMatrix)の使用法
はじめに
母豚の発情周期は平均21日で、2つのフェーズ(黄体期と卵胞期)に分けられます:
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黄体期は、排卵後13~15日間に渡り、卵巣の表面に黄体が存在し、プロゲステロンを分泌する期間です。
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卵胞期は4~6日間で、排卵前の卵胞の成長期に相当し、発情や新たな排卵につながります。
アルトレノゲストなどの黄体ホルモン様物質の使用は、養豚において、若雌豚を繁殖群に導入することを容易にする一般的な方法です。アルトレノゲストは、発情周期を阻害し、投与を中止すると、卵胞の成長が再開され、最後の投与から5~7日後に大多数の豚でよい発情が発現されます。Choice Genetics USAからの出典です。
アルトレノゲストの作用機序
その働きは、視床下部から分泌されるGnRHと、下垂体から分泌されるLHとFSHホルモンの制御に基づいています(繁殖ページを参照)。アルトレノゲストは、性成熟後の雌豚に毎日経口投与すると、視床下部によるFSHおよびLHの産生抑制が維持され、発情周期がとまります。投与中は卵巣レベルでは、卵胞の成長は維持されるが、3 mmを超えることはできず、5 mmを超える卵胞は退縮します。そして本剤の投与終了により、FSLとLHの産生抑制が解除され、卵胞期から発情周期が再開し、投与終了後5~7日後に発情します。
アルトレノゲストの使用について
国によって、治療期間や投与量が異なります。例えば、米国では雌豚1頭あたり1日15mgのアルトレノゲストを14日間投与しますが、欧州では雌豚1頭あたり1日20mgで18日間投与します。
この違いは、米国では黄体期(12~13日)のみを投与対象とするのに対し、欧州では約21日(投与18日+発情X日)の規則的な周期を考慮して投与するためと考えられます。処置スタート日により、下表のように決定されます(図では米国式のみ表示))。
注意すべきこと
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毎日決まった時間に投与する。摂取後1時間から4時間で効果がで、14時間後に半減期を迎えます
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1日の投与量を完全に。過小摂取は LH ピークができなくなることにより卵巣発育を阻害する危険性があります
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動物を制止させ、全て摂取するように、一握りの飼料で本製品をカバーして給与することをお勧めします
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飼料槽に水がある場合は、飼料槽への投与は避けましょう
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グループ飼育されている動物で、アルトレノゲストを口へ直接に投与することを推奨します
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投与期には雄豚刺激を与えないようにする、「ブレーキとアクセルを同時に踏む」ことを避けるためです。投与する若雌豚は雄豚から遠く離れたペン、または雄豚の通路から離れたペンに収容する必要があります
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使用の際は手袋を使用すること、アルトレノゲストは皮膚を通過し、男性および女性に作用します(性欲減退、月経周期の乱れ、妊娠期間の延長など)
離乳母豚のいる場所への移動
アルトレノゲスト投与終了日の翌日、導入する母豚群の離乳日に、種付け舎への移動は当該グループにとってよい刺激となります。また同じ手順を適用することができ、必要な作業が容易になります。
なお、投与最終日から2~3日後にフラッシングを行うことは有用ではなく、場合によっては発情や繁殖力に悪影響を及ぼす可能性があります。
若雌豚の場合、発情を促進するために飼料給与を制限する必要はありません。もし行う場合は、投与を中止した翌日に飼料制限を行う必要があります。1または2回の飼料給餌を省略してもよいが、水分は確保すること。
雄豚での刺激
少なくとも2頭の雄豚を用意し、交互に接触させることが推奨されます。これらの雄豚は、性成熟後で性的に活発で、1~3歳でなければなりません。雄豚は、ストールに入れられた母豚に接触させることも、その逆も可能です。後者の場合、雌豚が毎日動くことで、さらに良い刺激を与えることができます。