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データで見る繁殖

  • 非生産日数 (NPD)

  非生産日数のコスト

  NPDの中の再種付けとリピート豚

  NPDの中の淘汰日数

  NPDの中の離乳後初回交配日数の不思議

  • ​哺乳中子豚死亡率のリスク因子とその改善法

  • 死産子豚の70%は20%の母豚から

  • ​母豚の長期生存性

​  母豚死亡の増加

  • 人工授精用精液の品質

​  雄豚の病気と精液

​  精液品質の管理リスク因子

  精液の細菌汚

  精液取り扱いでのリスク因子

  • ヒートストレスと繁殖成績、産次別の重要時期とその温度は

  • 若雌豚へのアルトレノジスト(Altrenogest黄体ホルモン様物質、商品名Regumate)の使用法

  • ​ホルモン剤オキシトシンの使用注意点

母豚の非生産日数の1日は600円コスト増

 繁殖農場の生産性を表すのに、繁殖生産性ツリーがあります。これは年間母豚当り離乳子豚数(PSY)をトップにして、重要な繁殖成績間の関係を示しています。PSYは2つの枝をもっています。年間母豚当り年間腹数と分娩腹当り離乳子豚数です(繁殖セクションの農場生産性の項と図1参照)。

 繁殖生産性ツリーの片方の柱である年間母豚当り年間腹数は、非生産日数と授乳期間と妊娠期間から計算されます。3つとも短いことがいいのです。しかし新生子豚の生存に関わるので、妊娠期間を短くすることは奨められません。授乳期間の短縮にも限界があります。米国カンサス大学の栄養ガイドラインでは、離乳後の子豚の肥育成績のためには、最低でも授乳期間21日以上とされています。そのため年間母豚当り年間腹数を上げるためには、非生産日数を短縮することが大切です。

 非生産日数は欧州では1日600円(4ユーロ、1ユーロ=150円)の逸失利益または機会利益、つまり得られたはずの利益と経済性評価されています。計算方法は、年間母豚当り離乳子豚数35頭を生産し、1離乳豚当り40ユーロの粗利益があるとすると、40ユーロ×35頭÷365日=4ユーロ円という計算です。日本で1離乳豚当り8000円の粗利益があるとすると、8000円×1母豚当り28頭÷365日=610円となります。

 非生産日数はカナダ・ゲルフ大学のWilson博士が提唱し、米国ミネソタ大学のDial博士が世界にその重要性を広めました。以下に非生産日数の主構成指標3つについて述べます。その3つとは、再種付けまでの日数、淘汰までの日数そして離乳後初回交配日数です。

A. 再種付け間隔

 繁殖生産性ツリーの非生産日数の一部である再種付け間隔という日数は、繁殖障害を考える上で大切です。再発し再種付けすることを欧米では多くの関係者がリピートと呼んでいます。ここでは簡単な言葉としてリピートという言葉を使います。

種付け後から再発した日までの日数で、以下のように3タイプに分かれます(図1)。

  • 「規則的」リピート:種付け後から18日から24日まで。種付けしてから21日±3日後の再発です。受胎が失敗して、母体は妊娠を認知せず、発情周期は変化しなかったものです。なお42日±3日後も、21日の再発の見逃しとして、規則的リピートとする人もいます。

  • 「非規則的」リピート:種付け後から25日から38日まで。規則的リピート21日+3日=24日と42日-3日=39日の間です。母体が一度は妊娠を認知し、発情周期が変化し、そのあと妊娠継続が失敗したものです。しかし胎子の骨化前ですから、胎子は吸収されています。

  • 「後期」リピート:種付け後から39日から150日の再発です。妊娠期間115日過ぎとるじゃないかと言われそうですが、農場のデータでは150日を過ぎたリピートも稀にあるのです。リピートは非生産日数ですから、150日を年間母豚当り離乳子豚数に換算すると、10.5頭分が逸失利益です。150日を1日600円で計算すると、90,000円が逸失利益です。非生産日数恐るべしです。この後期リピートには上記の3つの再発の見過ごしによるリピートも含まれています。さらに39日以降ですと、着床し骨化が終わっていますので、胎子は吸収されませんので、一部は気が付かない流産もあります。なお流産は胎子や胎膜や胎盤の一部が発見された場合という定義があります。

  • なお「早期」リピートもあります。種付け後7日から17日までで、非常に例数が少ないです。授乳期間での微弱発情した母豚が、離乳後にまた発情した場合が含まれている可能性があります。また発情障害もあるでしょう。 

リピートの発生について以下のキーポイントがあります。

  • 3タイプのリピートの平均発生割合は4:3:3です。これが大きく変わるようだと、下記のように母豚で何か問題が起こっているのです。

  • 生涯でみると、種付けされた母豚は平均では33%、若雌豚に限っていえば生涯でみて41%が再発します。生涯でみると67%が再発無しでした(図2)。再発しやすい母豚は、発情がわかりにくい、発情期間が短いなどの特徴があると考えられます。注意すべき母豚です。

  • リピートあり母豚の生涯分娩時生存頭数は、リピート無し母豚より2頭増えます。これは分娩間隔が伸びたことによる子宮回復のせいかと思われます。しかし非生産日数は42日増加します。

規則的リピート
妊娠期の繁殖障害タイプ

 妊娠日齢の繁殖生理学的重要イベントと繁殖障害についての関係を上右の図に示しました(ミネソタ大学のDr. G. D. Dialから)。死亡した妊娠日齢により、規則的再発、非規則的再発、後期再発、流産、偽妊娠、分娩時生存産子数の減少などの繁殖障害となります。妊娠日齢12日ごろから着床が始まります。30日齢ごろから骨格のミネラル沈着が起こり、死滅した胚は子宮で吸収されなくなり、ミイラ化します。その死んだ妊娠日齢でミイラ子の大きさが変わります。

 日齢60-70日で胎盤バリアを越えてくる感染に対して免疫応答が可能になります。例えば60日齢からパルボに対する抵抗できるようになります。しかしオーエスキー病やPRRSなど強い病原性のものにはかなわないので感染し流産などをおこします。すべての胎子が死んでもミイラ子で子宮に残ると後期再発になります。なお卵胞ホルモン様の飼料中カビ毒(例、ゼアラノン)も黄体を維持させるので後期再発をおこします。卵胞ホルモン様の飼料中カビ毒を、母豚が摂取すると胎子は死滅することが多いです。妊娠末期(分娩2-3日前)にストレスや病気感染をすると、末期の胎子死亡が起こったり、融解した胎子(身体はできているが、目が凹んでいる)や虚弱子豚がが生まれたり、死産子豚になります。

 流産は妊娠のどの時期でも起こりえますが、一般的には妊娠3週齢以内と妊娠末期では診断できません。診断に日齢は重要です。一般的には季節的流産は30-70日齢で起こり、レプトスピラ症やPRRSは妊娠後期、パルボは妊娠全期で起こります。

 妊娠維持のためには着床の時期(2週齢)を過ぎるまでにある一定数の受精卵(例、4つ)が必要とされています。そしていったん着床してしまうと数が減っても妊娠が維持できるといわれています。分娩総産子数が1-3頭の母豚は、着床時期が過ぎてから多くの胎子を失った可能性があります。

参考:ピッグチャンプのリピートタイプの定義

  • PigCHAMPのリピートの定義:ピッグチャンプは、多くの農場での経験から、以下のように少し違った定義をしています。

  1. 規則的リピートのタイプ1:18-25日とタイプ2で38-46日

  2. 非規則的リピート:26-37日

  3. 後期リピート:47日以降

再発再種付け(リピート)にはどんなリスク因子があるのか

 

若雌豚の場合

 若雌豚では夏場と早い初交配日齢で、リピートのリスクが上がります。初交配日齢は、3タイプに違ったように関係します。まず、「非規則的」リピートは、初交配日齢と関係しません。「規則的」リピートは、初交配日齢が上がるにつれて減少しますが、反対に、「後期」リピートは初交配日齢が上がるにつれて増加します(図3)。初交配日齢が低い母豚の「規則的」リピートは、年齢が低く身体ができていないため、未熟な繁殖内分泌系による受胎障害に関連している可能性があります。

 反対に初交配日齢が上がるにつれて増加する「後期」リピートは、初交配日齢が遅すぎて、受胎はするが妊娠ロスの問題を起こしている可能性あります。

 

 初交配日齢が遅い豚は、どの農場にもいますが、300日齢を超えるような初交配日齢はお勧めできません。もっと早い時期にホルモン治療などの介入を行うべきでしょう。遅い初交配日齢の母豚は、内分泌系の発達が遅いことから、卵胞発達を阻害し、弱体黄体機能による妊娠維持のための黄体ホルモン分泌の低下を招き、妊娠維持障害を招いていることも示唆されています。体重も重くなってきます。また「後期」リピートが多いということは、妊娠鑑定にも問題ありそうです。「非規則的」リピートの初期の妊娠ロスは、初交配日齢とは無関係のようです。なお夏場(7月から9月)は若雌豚のどのリピートも同様に増加します。

リピートと初交配日齢

経産豚の場合

 夏場、低い産次、死産子豚数の多さ、短いまたは長い授乳期間、離乳後初回交配日数7日以上の場合が母豚のリピートのリスク因子です。「規則的」リピートが増加するリスク因子は、夏場と離乳後初回交配日数7日以上の場合です。離乳後に発情が来て、種付けはしたが受胎していないのです。

 種付け前の分娩時での死産子豚数が増えると、すべてのタイプの「後期」リピートが増えるようです(図4)。とくに初産豚ではその影響が顕著です。多数の死産子豚数を分娩した母豚は、周産期の感染が起こりやすく、リピートが増えるのかもしれません。死産数が多い母豚には、何らかの治療が必要かもしれません。

死産子豚頭数とリピート

 「非規則的」リピートが増加するリスク因子は、短い授乳期間です(図5)。これはその母豚が分娩後の子宮や繁殖内分泌系の回復が不完全であり、繁殖成績の低下を起こしたことが考えられます。「後期」リピートは、授乳期間の短い母豚(18日未満)と長い母豚(32日超え)で増加します(図5)。

 とくに産次1ではその傾向が顕著です。産次1は、授乳期間の短・長への感受性が強いと考えられます。授乳期間が短くなったことによる授乳期の平均飼料摂取量の低下は、成長中でもある初産の母豚の体重の維持と成長のための飼料摂取量に遠く及ばない可能性があり、リピートしやすくなります。また授乳期間が延びたのに飼料摂取が十分でないと、授乳による母豚身体の体脂肪・タンパク質の消耗が激しくなり、リピートを増加しやすくなります。病気や施設の不足等、何らかの原因で授乳期間を短くせざるを得ない場合、リピートが増えることも考慮すべきでしょう。

 産次1の母豚への夏の悪影響は、リピートにはっきり表れます。成熟した母豚に比して、初産の環境温度に対する感受性は顕著に高いようです。さらに3タイプすべてのリピートが夏に上昇します。高気温によるヒートストレスはリピートの割合を上げます。

 

 離乳後初回交配日数7日以上の母豚は、3タイプすべてのリピート発生の要注意です。とくに離乳後初回交配日数7日以上の母豚で授乳期間が短すぎたり、長すぎたりしたものは、後期リピートの発生は増えます(図5)。離乳後初回交配日数は延長したものは、脳からの性腺刺激ホルモンの分泌が少なくなり、繁殖系内分泌障害そしてリピートが起こりやすくなると言われています。

授乳日数とリピート

リピート(再発・再種付け)は繰り返す

 農場導入した雌豚約11万頭のうち1回目種付け豚の33%がその産次または違う産次でリピートします。さらに産次別65万回では若雌豚だと41%、初産豚だと36%がその産次または以後の産次でリピートします(下図の1番上)。つまりリピートした豚のリピート再発率は高いのです。リピートする豚は、発情時間が短い、排卵タイミングが早い等があると思われます。色付きのカードなどで、リピートしやすい豚として識別するのがよいでしょう。なおリピートした豚はそうでない豚より、42日生涯NPDが延長しますが、1.9頭生涯生存産子数は増えます。

 リピート習慣豚もいます。3回以上再発、または2回再発で繁殖障害として淘汰されたものを習慣リピートブリーダー豚(リピート習慣豚)と定義しました。雌豚93000頭のうち、1.2%がリピート習慣豚でした。さらに産次別50万回では、若雌豚は0.57%、初産豚では0.3%が習慣豚となりました。

 そして再発間隔18-24日に多くリピートしていました(下図の3番目)。若雌豚や初産豚が常習豚になりやすいようです。

Repeat (1).JPG
SRPB (1).JPG
常習リピートブリーダー

B.淘汰までの日数

 繁殖生産性ツリーの非生産日数の一部である「淘汰までの日数」という日数は、繁殖障害の発見と淘汰決定の早さを考える上で大切です。母豚の淘汰のタイミングは主に2回:離乳直後と種付けした後です。種付け後に非妊娠がわかった時、または四肢障害などによる淘汰です。

 農場での種付けなし離乳直後では20日前後で、産次が高いほど短くなります。産次6以上だと15日です。高い産次としての計画淘汰としては長いです。産次1だと23日です。まだ種付け前の、更新用若雌豚だと280日齢です。9-10か月齢まで待つということでしょうか。遅いと思います。

 カナダのアルバータ大学の若雌種豚への雄豚刺激プログラムだと、約140日齢から4週間の雄豚による1回目の刺激をし、初発情を誘起する。約170日から雄豚による2回目の刺激を行い、発情のこない豚にはホルモン剤PG600を投与して、発情がこなかった若雌豚は淘汰を推奨しています。つまり200日齢までに初発情がこない若雌豚は淘汰することを奨めているのです。

 農場での種付け後の淘汰までの日数は産次0-5だと65日、産次6以上でも60日です。一度種付けして妊娠してしまうと淘汰の決断は遅くなるようです。なお種付け後に淘汰すると、経産豚だと離乳後から淘汰日までが、非生産日数となります。未経産豚だと初回種付け日から淘汰日までは、非生産日数となります。欧州だと非生産日数1日当り約480円(4ユーロ)の逸失利益(または機会利益)と言われています。

 淘汰までの日数は生涯NPDの30%を占め大切です。淘汰までの日数は2つ:離乳後から種付けなしで淘汰までの日数と、初回種付け後から淘汰までの日数です。割合は1:2で、離乳後淘汰が多いのです(下図の1番目)。

 しかし、種付け後淘汰日数は、淘汰日数NPDの70%を占めます。種付け後淘汰豚の75%が、34日以後に淘汰されています (下図2番目の左)。さらに70日以上55%です。

 また離乳後淘汰された母豚の12%は21日以降です(下図2番目の右図)。淘汰の決断は難しいようです。

母豚の淘汰パターン
母豚の淘汰までの日数
離乳後の淘汰までの日数

C. 離乳後初回交配日数―母豚の不思議な成績指標

 離乳後初回交配日数は2つの性質を持っています。1つは重要な繁殖成績であり非生産日数の一部で、もう一つはその日数が他の繁殖成績に影響する因子です。とくに母豚の初産時の離乳後初回交配日数は、生涯成績の予測因子と言われています。農場データでわかっていることは、初産時の離乳後初回交配日数4日と5日がその後の産次ごとの繁殖成績と生涯成績がいいのです。そしてどちらがいいかというと、4日が生涯生産性が一番いいのです。それは4日のほうが5日より、離乳後初回交配日数つまり非生産日数が短いことによると思われます。なお育種会社は離乳後初回交配日数を短縮する方向で育種改良しており、欧州では短くなってきています。でも誤解しないでください。強引に4日に人工授精してはだめです。

 離乳後初回交配日数は農場平均だと約6日ですが、個々の母豚のバラつきが大きくて、0日から100日超えまであります。データ管理的には、離乳後初回交配日数が100日を超えるようなものは、入力ミスの可能性が高いのでないのかという疑問もあります。研究者によっては35日以降は分析から排除する人もいます。さらに記録的には最小日数は0日ですが、授乳期中に発情し交配すると、その時が離乳日になり交配日数は0日です。

 離乳後初回交配日数はどうすれば短くなるかというと、まず授乳期の母豚の飼料摂取量を上げることです。とくに初産豚の飼料摂取量は少なくなりがちです。授乳期の初産の母豚の飼料摂取量の増加させるマネジメントが大切です。繁殖農場管理での重要ポイントの一つかと思います。

離乳後初回交配日数の分布

 図1に初産と2産次以降での離乳後初回交配日数の割合を示しました。産次2以降だと離乳後5日までで、交配母豚中85%が交配済になります。6日までで90%が交配済です。初産豚だと、離乳後5日までで、交配母豚中72%が交配済になります。初産豚では2産以降に比して、離乳後初回交配日数が遅いのは、初産豚はまだ成長中であり、繁殖ホルモン系が未成熟なためと言われています。

離乳後初回交配日数の分布

「産次1の離乳後初回交配日数4日以前の母豚は4日へ、5日以降は5日に次産で回帰する」

 図2に、初産次で離乳後初回交配日数0-3日、4日、5日、6日、7-20日そして21日以降の母豚が、次産次以降に離乳後初回交配日数がどうなるか示しています。離乳後初回交配日数4日までと、5日以降で大きく違います。離乳後初回交配日数4日までの母豚は次回以降は4日に、離乳後初回交配日数5日以降の母豚は5日に回帰する傾向があります。

  種豚の育種のなかで、離乳後初回交配日数が短くなるよう改良されているからと思われます。つまり、初産次に離乳後初回交配日数0-3日か4日になる母豚は、育種改良が進んでいて、脳・卵巣ホルモン軸が強い母豚ではないかと思っています。

離乳後初回交配日数は回帰する

産次1で離乳後初回交配日数7-20日の母豚は?

 約10%が次産次以降で7-20日になります。7-20日の一部の母豚は、離乳後の発情回帰のメカニズムが弱い可能性があります。例えば、食欲が低く、授乳期に十分な栄養を摂取できず、授乳期に体重や体脂肪を多量に失なうなどして、離乳後初回交配日数が延長してしまう可能性があります。

 

産次1で離乳後初回交配日数0-3日の母豚は?

 以後の産次で20%以上が離乳後初回交配日数0-3日に回帰します。初産次に0-3日だった母豚の一部は、強い繁殖ホルモン系を持ち、離乳後早い回帰ができる可能性あります。

 ただし、産次1では、4日か5日の母豚に比して分娩率が少し低いので、一部母豚に卵巣のう腫であった可能性もあります。

産次1で離乳後初回交配日数のその後の分娩率は?

 産次1で離乳後初回交配日数4日と5日で差はありませんでした。産次1で離乳後初回交配日数4日と5日であった母豚は、その後生涯の分娩率は一番高く推移します。次に初産次離乳後初回交配日数0-3日の母豚の分娩率も高く推移します。次に初産次離乳後初回交配日数6日と7-20日の母豚の分娩率が高く、21日以降の母豚の分娩率が一番悪くなります。たぶん、この、21日以降の母豚は、発情期間が短いとか発情が発見しにくい母豚の可能性があります。

産次1での離乳後初回交配日数のその後の産次での生存産子数は?

 産次1での離乳後初回交配日数0-3日、4日で生存産子数の差はありません。どうやら産次1での離乳後初回交配日数は、直接には分娩時生存子豚数とは関係していないようです。

 分娩時生存子豚数は、排卵数とその生存率と関係していることが知られています。ただし、産次2のみ、離乳後21日に交配された母豚は4日の母豚に比べて、生存産子数が0.5頭多いのです。しかし4日の母豚に比べて、18日以上の離乳後初回交配日数、つまり非生産日数が多いので、生産性の意味では1頭以上多くなくては困るのです。なお3産次以降は、初産次での離乳後初回交配日数による、生存産子数の違いはありません。

産次1での離乳後初回交配日数の生涯成績は?

 産次1の離乳後初回交配日数4日の母豚が、生涯の生存子豚数が一番多いのです(図3)。2番目に5日の母豚が多くなります。7-20日や21日以降の母豚は少ない。意外に初産次での離乳後初回交配日数0-3日の母豚でも生涯産子数が少ないです。これは、初産次の離乳後初回交配日数0-3日の母豚の淘汰産次が4・5日より短いに関連しています。

初産時の初回交配日数

産次1での離乳後初回交配日数と淘汰・死亡産次そして生涯繁殖効率は?

 究極の母豚繁殖生産性を農場での在籍日数で計算した、年間化母豚当り離乳子豚数は、生涯離乳子豚数÷母豚の農場在籍日数×365.25日、つまり年間当りにした離乳頭数です。この年間化母豚当り離乳子豚数で、産次1での離乳後初回交配日数4日の母豚が、一番生産性が高いことが明らかになりました。次に5日がいいのです。初産次での離乳後初回交配日数0-3日の母豚は、4日の母豚並みの繁殖生産性をもつ可能性があるのですが、なにぶん淘汰産次が低い。その意味で、リピートブリーダーや分娩失敗などの繁殖障害を示す母豚以外は、0-3日の母豚は急いで淘汰する必要はないのでしょう。

 産次1での離乳後初回交配日数が4日と5日が一番長生きです。0-3日と6日が次に続きます。21日以降の初産豚は淘汰圧が厳しいのでしょう、一番短くなりました。産次1での離乳後初回交配日数が4日と5日は、分娩率がいいので、淘汰圧が低いようです。なお淘汰圧とは、生産者が成績が良くない母豚を淘汰しようとするプレッシャーのことです。

初回交配日数と生涯生産性
初回交配日数と長期生存

産次1での離乳後初回交配日数4日の母豚を増やすには?

 離乳後初回交配日数4日になりやすい因子は、初交配日齢260日以下です。一方、若雌豚への雄豚での発情刺激の強度などの技術で、初交配日齢が早くできることは知られています。また授乳期飼料摂取量を上げることで、離乳後初回交配日数が早めることは北米でもよく知られています。また離乳後の発情を見つける技術も大切と思います。

哺乳中子豚死亡率のリスク因子

 NPDと並んで、哺乳中子豚死亡率は、繁殖農場生産性のなかでも最重要指標です。世界の養豚国では平均10%から25%の間と言われています。最近、米国・欧州でもこの死亡率が増えています。その理由の一つが、育種技術の進歩により、多産系母豚による分娩時生存産子数の急速な増加です。哺乳中子豚死亡率のリスク因子としては、分娩時生存産子数のほかに死産子豚数があります。死産子豚数は、その農場の群健康管理を表す指標でもあります。そして農場サイズの影響もあるのではと言われていました。なお農場サイズは,資金力・施設・育種・人材など生産システムを表す総合指標とされています。平均で言えば大きいほうが有利と言われています。

データと農場

 欧州91農場の2007から2016年の10年間のデータを持つ農場レベルの年間平均データを使用しました。91農場で10年間で910点の記録を使用しました。研究協力農場は、平均農場サイズが母豚1,013頭で、80頭から3,678頭までの幅があります。飼料は、穀物(大麦と小麦とコーン)と大豆かすが主です。コーンはほぼ輸入です。母豚の育種会社は日本でも使用されているトピックス、PIC、ダンブレッドおよびハイポーを含みます。農場規模を大規模農場と小・中規模農場に分けました。10年平均の中間値530頭で分けました。なぜ中間値かというと、客観的な数字であるというだけです。

10年間の傾向

 10年間で哺乳中子豚死亡率の平均は11.9%から13.1%に増えました(年0.12%増加)。ただし、13%ぐらいで頭打ちしています。一方、分娩時生存産子数は11.2頭から13.1頭に着実に増えています(年0.2頭増加)。そして年間母豚当り離乳子豚数も22.2頭から26.4頭(年0.4頭増加)と約2割増えています。カッコで年当り増加を書いているのは、種豚の能力が年々育種改良されていることと、各国の指標も年当りで改善されているのにあわせています。また農場の母豚在籍頭数は742頭から987頭に増えています(3割増加)。

 この10年間で欧州は、多産系母豚の使用によって、毎年繁殖生産性(年間母豚当り離乳子豚数)が増加し、今もその増加は続いています。なお農場の母豚数の増加は3割ほどですが、これは使用したデータに新設された農場が含まれていないことによります。新設農場は母豚2,000頭以上ですから、産業界の平均農場数はもっと増えていると思われます。 

哺乳中子豚死亡率10年の変化