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安楽死の実践
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米国養豚農場での安楽死の理論と実践
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大学研究記事:200キロ以上の成豚の安楽死のための電撃法の検証
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虚弱豚・軽体重豚・四肢問題豚の安楽死ガイドライン
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補足;ヘルニア、修復ヘルニア、蹄損傷、膿瘍、外傷、骨折、尾かじり、耳かじり、直腸脱、呼吸器病、胃腸病ではどうするか
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豚全淘汰(Depopulation)でのトラウマからの回復(Resilience)のために
米国養豚農場での安楽死の理論と実際
はじめに
安楽死は米国でも日本でも情緒的な側面を含んでいる複雑な問題です。さて、米国ポーク生産者協議会から「養豚農場での安楽死-生産者のための推奨」が出版されています。これは、米国ポーク生産者協議会が、養豚現場をよく知る米国の大学や研究所の科学者に依頼して作成され、生産者のために安楽死の方法を解説した18ページのパンフレットです。https://www.aasv.org/documents/2016EuthRec-EN.pdf
米国ポーク生産者協議会から、日本の生産者のために翻訳許可もいただきました。全訳は多すぎるので、ここで一部翻訳して説明します。福祉と安楽死関係の英語は適切な日本語の訳がないため、英語も随時添付しました。例えば、福祉で大切な概念は「人道的に(humanely)行う 」ですが、適切な日本語訳がないため、とりあえず「人道的」と訳しております。日本では実施できない方法もあります。例えば銃の使用などは日本では不可能です。さらに安楽死用ボウルトは屠畜銃として屠畜場では使用している所もあるようですが、日本の農家では簡単に手に入らないでしょう。
日本での実用性は薄いかもしれませんが、このパンフレットに流れる農場における安楽死の考え方は有用と思います。
米国養豚農場での安楽死の理論と実際
はじめに
安楽死は米国でも日本でも情緒的な側面を含んでいる複雑な問題です。さて、米国ポーク生産者協議会から「養豚農場での安楽死-生産者のための推奨」が出版されています。これは、米国ポーク生産者協議会が、養豚現場をよく知る米国の大学や研究所の科学者に依頼して作成され、生産者のために安楽死の方法を解説した18ページのパンフレットです。https://www.aasv.org/documents/2016EuthRec-EN.pdf
米国ポーク生産者協議会から、日本の生産者のために翻訳許可もいただきました。全訳は多すぎるので、ここで一部翻訳して説明します。福祉と安楽死関係の英語は適切な日本語の訳がないため、英語も随時添付しました。例えば、福祉で大切な概念は「人道的に(humanely)行う 」ですが、適切な日本語訳がないため、とりあえず「人道的」と訳しております。日本では実施できない方法もあります。例えば銃の使用などは日本では不可能です。さらに安楽死用ボウルトは屠畜銃として屠畜場では使用している所もあるようですが、日本の農家では簡単に手に入らないでしょう。
このパンフレットに流れる「農場における安楽死の考え方と実施」は有用と思います。
このパンフレットは、米国養豚農場での豚の安楽死について、実際的な推奨を示すものです。さらに、利用できる限りの科学的文献に基づいて、「人道的安楽死」という定義に合うように、安楽死の方法を示しました。しかし、ここであげたリストはすべてを包括したものではないため、他の方法も、上述した安楽死の定義や重要要素を満たしている限り使用可能です。すべての安楽死の方法は、実施段階に入る前に、獣医師に相談すべきでしょう。
豚が病気になったり、けがをしたり、または何らかの問題を生じた場合、最初に選択すべき決断は、治療を行うか、または安楽死を実施するかでしょう。豚の福祉の観点から、いくつかの場合に、安楽死が最良の選択となります。豚の苦痛を最小限にするために、安楽死の決断は適時に行うことが大切です。例えば、「適時、または即時の安楽死の実行」が推奨される状況は以下の場合です。
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集中した治療を2日行っても、豚の状況に改善が見られない、または改善の見込みが非常に少ない場合
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深刻な外傷を受けた、または歩行不能になった豚で、回復が認められない場合
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どのような豚でも、動かせなくなり、ボディコンディションスコアが1(非常な削痩)の場合
安楽死のプロセス
豚の安楽死の方法には、1ステップ式または2ステップ式があります。1ステップ式とは、1ステップで、豚を永久的な無感覚状態にし、そしてその結果として死に至らしめる方法です。2ステップ式は、第一ステップとして一時的に豚を無感覚状態にしますが、死に至らしめるためには第二のステップが必要となります。第二のステップとして、典型的な方法は放血です。適切な安楽死の方法は、豚のサイズや体重によって異なるという事を覚えておくことは重要です。
安楽死の方法に対する検討事項
ある豚にとって安楽死が最良の選択であるとき、最も適切な安楽死の方法を選ぶためには、次のことを考慮すべきでしょう。
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人の安全性:生産者やその従業員に不必要なリスクを与えないような方法。
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豚の福祉:実行する間、苦痛が最小限である方法。
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実践的技術的な熟練度の必要性:簡単に学べて、同じ結果がでるような方法。
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実際に行う人の応諾性:選んだ方法が、生産者やその従業員にとって不快でないこと、また進んで行うことができるような方法。
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見た目(見ている人や行う人にとって不快の程度):選んだ方法が、実行する人にとって不快でないこと。またその方法が、一般の人にとってどう思われるかも考慮する必要あり。
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限界:いくつかの方法は、あるサイズや重さの豚にとってのみ、またはある環境においてのみ適切である場合あり。設備の利用可能度や死体の始末法のオプションも、安楽死の方法を選ぶときの限界のひとつ。
推奨される安楽死の方法
1. 二酸化炭素法(CO2)
二酸化炭素は、豚の体内の酸素と置き換わり、それにより感覚消失が急速におこり、それに続く呼吸停止によって死に至らしめます。なおこの方法を正しく使用したときでも、感覚は消失していますが、豚は無意識に声を出し、動きを示すことがあります。
二酸化炭素吸引による安楽死の方法は、比較的費用もかかりませんが、確実に機能する特別な器具が必要となります。まずきっちりとフタができる気密性のある箱(気密箱)が必要であり、この箱は安楽死させる豚を入れるために、十分な大きさが必要となります。その気密箱は、入気バルブと排気バルブを備えていることが必要です。二酸化炭素は空気よりも比重が重いため、排気バルブは気密箱の上部にあることが重要です。このようにすれば、気密箱内の空気は排出されやすくなり、気密箱内を二酸化炭素で完全に一杯にすることができます。
二酸化炭素法による豚の安楽死は、適切な器具が使え、正しくガスを使えるように訓練された農場の人たちが、よく換気されている部屋で行えば、人にとっても安全です。二酸化炭素は、不燃性で引火性もありません。
2. 銃(Gunshot)
(訳者コメント、この方法は日本では実行不可能と思われるため、省略します。)
3. 非貫通式安楽死用ボウルト(Non-penetrating captive bolt)と貫通式安楽死用ボウルト(Penetrating captive bolt)
安楽死用ボウルトには非貫通式と貫通式の2種類があります。両方において、安楽死させようとする豚は、ボウルトが適切かつ安全に使えるよう、正しく保定されていなければなりません。(訳者コメント、家畜用銃という訳もありますが、銃という言葉は、弾丸が飛び出すというイメージや、規制対象物のイメージがあるため、安楽死用ボウルトと訳しました)。貫通式安楽死用ボウルトの実例は図1に示しております。弾丸が飛び出すのでなく、突起がとびだして脳に強く衝撃を与えます。図2に頭蓋の図も示しました。図1のカナダのゲルフ大学が開発した子豚用非貫通式ボウルトは、安全性も高く日本でも使用可能ではないかと思うのですが。
4. 感電または電撃(Electrocution)
感電または電撃は、心臓顫動(せんどう)と大脳の無酸素状態から、脳の無感覚による死をもたらせます。電流の力は電圧としても表され、4.5キロ(10パウンド)を超えた離乳豚と6週齢までの豚に対しては最低でも110V、6週齢以上の豚に対しては最低でも240Vが推奨されています。4.5キロ以下の哺乳豚では、電極を頭や体に適切に付着させることが困難であるため、電気の使用は推奨されていません。さらに、哺乳豚の皮膚の電気抵抗は体内よりも少なくため、電流は体内を通るのでなく皮膚の上を流れてしまいます。
適切に使用されれば、電気による失神は即座に無感覚を引き起こします。電気で確実に失神させられた豚は、筋肉の収縮(緊張期)と筋肉の弛緩(間代期)の動きを見せます。筋肉収縮期には豚の体は緊張しますが、やがて徐々に弛緩していきます。このあと典型的には、間代期の動き、つまり無意識に脚をキックしたり、パドルをこぐような動きを1から2分間見せたります。緊張期は電流を流すと数秒で起こります。もしこの方法が確実に実行できれば、電気による感電は脳を無感覚にし、心臓顫動(せんどう)から死に至らしめます。
この感電による方法は、頭部のみの感電と頭部から心部への感電との2種類があります。どちらの方法を用いても、電流が初めに脳に流れ、豚を無感覚にしなければなりません(もし2つの電極の間に線を引くなら、必ずその線は脳を通るようにしなければなりません)。電極が心臓にのみ向かうような方法はすべきではありません。
5. 獣医師による大量麻酔薬の投与(Veterinarian administrated anesthetic overdose)
安楽死用の溶液(例、バルビツール酸系催眠薬)は、中央神経系を抑圧し、それにより深い麻酔状態の進行から呼吸と心臓停止をもたらします。この安楽死の方法は、豚への静脈注射が必要です。購入、備蓄、使用時には、獣医師の指導が必要となります。もしこの方法を安楽死のために使用する場合、ごみをあさる動物が、偶発的に、安楽死された豚の死体に含まれる化学成分の残留物に接触する事を防ぐために、死体の処理には特別な考慮が必要となります。さらに獣医師が農場に常駐していないので、タイムリーな安楽死の実行がとれず、実用的ではないでしょう。
6.手技による脳挫傷法(Blunt trauma)
手技による脳挫傷法は、哺乳豚でのみ確実です。なぜなら、哺乳豚の頭蓋骨は薄く、衝撃が中央神経系の抑圧と脳の障害を引き起こせるからです。手技による脳挫傷法では、脳の上側の頭部を、すばやく強打します。この方法では、強打は正確に行い、失神させるだけではなく、安楽死をもたらすようにしなければなりません。この方法を正確に行えば、感覚喪失は急速です。豚は筋肉の収縮(緊張期)と筋肉の弛緩(間代期)の動きを見せます。筋肉収縮期には、豚の体は緊張しますがやがて徐々に弛緩していきます。このあと典型的には、間代期の動き、つまり無意識に脚をキックしたり、パドルをこぐような動きを1から2分間見せたりします。しかし、この方法は、実行する人にとっても見ている人にとっても、見た目が好ましくありません。
「次のステップ」
いくつかの例で、豚の安楽死のために次のステップが必要な場合があります。このパンフレットで述べたいくつかの方法(頭部のみの感電、離乳豚や肥育豚へ非貫通式家畜用ボウルトを使用した場合)では、豚を失神させることはできますが、安楽死させるためには次のステップが必要となります。次のステップとは、放血です。どのような安楽死の方法であれ、もしその豚が死の確認のときに「生」のサインを示したら(「無感覚と死の確認」の章を参考にしてください」)、すぐ次のステップまたはバックアップ法に進むべきです。
放血
放血は、頚部や胸部の大血管を切断することで、血圧が急速に降下し、脳への血流が無くなることによって死に至ります。その場合、頚動脈と上腕部動脈叢が福祉的に受け入れられている放血部です。急速な死を確保するために、動脈血管の切断は確実に(強く急激な血流が目印です)、そして大きく切断し、血流が妨げられることのないように行うべきです。
無感覚と死の確認
安楽死の方法に関わらず、もし不確実な失神や安楽死が起こった時、それを認知できることは重要です。また安楽死を行った豚の死を確認することも大切です。
無感覚になったかどうかは、安楽死の方法を実施した後、30秒以内に確認するべきで、その後も観察し続け、死まで確認すべきです。不確実な失神や安楽死は以下のサインが1つか2つ以上あるかどうかで認知することができます(訳者コメント、以下が「生」のサインです)。
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周期的な息使いをしている
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瞳が収縮している
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頭を上げようとする(立ち直り反射がある)
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声をだすこと
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眼瞼反射の有ること(まつげに沿って指を動かす。もし豚がまばたきしたりその目を動かしたりすれば、豚はまだ感覚がある)
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痛みへの反射の有ること(鼻を針状のもので少し刺してみるなど)
死の確認
安楽死された豚は、死体として処理される前に、死を確認されるべきです。安楽死の方法が実施された後、以下のすべての「死」のサインを3分間確認すべきです。
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息をしていない
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心臓が動いていない
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筋肉に動きや正常な緊張がない
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痛みへの反射がない(鼻を針状のもので少し刺してみるなど)
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声をださない
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角膜の反射がない(角膜を触ってもまばたきしない)
もし安楽死させた豚が「死」のサインでなく、「生」のサインを1つでも示したら、安楽死用のバックアップ法を行うべきです。
結論
安楽死が必要な豚を発見することと、すばやく確実な安楽死を実施することは、豚を飼育する人の責任です。豚を安楽死をさせることは、豚の飼育者にとっては嫌なことですが、それを実施することは、その場合において豚の福祉に関しては最良のことです。付け加えて、生産者とその従業員は、獣医師とともに勉強し、安楽死した豚の無感覚の確認、安楽死した豚の死の確認、異なるサイズの豚に対して確実かつ人道的に第二のステップを行えること、以上ができるようになるために訓練をされるべきです。
研究記事:200キロ以上の成豚の安楽死のための電撃の有効性の検証
本研究は米国オハイオ州立大学の動物委員会の許可をとって実施されました。豚の安楽死はすべての養豚農場で働くすべての人が実施すべき道徳的義務です。出荷体重(体重100キロ前後)での倫理的な安楽死の方法 (貫通式ボウルト法:PCBD)についてはよく検証されています。
体重の重い豚(体重200キロ以上)については検証されていません。それでこの研究の目的は、重い豚用の人道的な安楽死の方法としての2段階電撃法 (E-STUN)の有効性を評価し、その効果をPCBDと比較することです。
2段階電撃法 (図ab参照)とは、始めに頭部を10秒電撃し、次に頭部と胸部を10秒電撃する方法です。E-STUNの機械はドイツHubert社製で230ボルトで50Hz、2.0から2.4アンペアでした。
方法の有効性は、すべての豚が処置後10分以内に心肺機能が停止することで判定しました。脳6分野の外傷の量は3点スコアで定量され、脳の内出血の有無は記録されました。
処置されたすべての豚は直後に無感覚となり、呼吸はなくなりました。2つの方法で差はありませんでした。呼吸が完全に止まるまでの時間は、雌雄豚ともにE-STUNがPCBDより短縮されました。脳内出血は両方とも多く見られました。
本研究により、体重200キロを超える豚に対する農場での安楽死法として、E-STUN電撃法は無感覚にして死に至らしめる方法として有効であることが分かりました。
引用文献:Kramer, Scott A; Wagner, Brooklyn K; Moeller, Steve J; Bowman, Andrew S; Kieffer, Justin; Gonçalves Arruda, Andréia; Cressman, Michael D; Pairis-Garcia, Monique D. Technical Note: Validation of the effectiveness of electric stunning for euthanasia of mature swine (Sus scrofa domesticus), Journal of Animal Science, 2022, 100, 1-6.
虚弱豚・軽体重豚・足痛い豚を安楽死させるべきかのガイドライン
虚弱豚・軽体重豚・四肢問題のある豚をどうすればいいんか、という問題は、生産者にとって大きな問題です。この問題に取り組んだ米国の研究を紹介します。著者は北カロライナ大学の教授で、米国農場の生産者とともに多くの研究をしてきました。なお経済性の誤解・誤訳を避けるため、原文通りのドル表示としました。なお成長不良豚を少なくする方法は、繁殖ページの実践繁殖タブも参考に。
出典:Morrowら, Financial and welfare implications of immediately euthanizing compromised nursery pigs, J Swine Health Prod. 2006;14(1):25-34.
豚が淘汰されるべきなのは、飼育を続けても採算が合わなくなった時で、安楽死させるべきなのは、飼い続けることが、苦しみや痛みが多く、飼育を継続することが非人道的である時です。すべての農場マネージャーが遭遇する困難さの一つは、その家畜を飼養することが、いつ採算が合わなくなるのか、そしてその家畜を治療するか安楽死させるかを決定することです。個々のマネージャーは多くの場合、その家畜が利益をもたらすと思われる可能性に重きを置いています。養豚生産者からは、安楽死を決定するための明確な基準がほしい、という声があがっています。
コンパニオンアニマルの分野では、以下のように安楽死の適切な時期について多くの議論や提案がなされています。コンパニオンアニマルでの獣医療において、苦痛は強力で、難しいコンセプトです。動物は話すことができないため、苦痛の評価には獣医師、家族、その他の関係者の最善の判断が必要となります。安楽死が適切かどうかの判断は、周囲のコンセンサスにかかっているのですが、それは獣医学的・社会的状況全体に基づいています。伴侶動物臨床医には、畜主の本当の気持ちや望んでいることを明らかにする技術、感受性、そして発達したタイミングへのセンスが必要です。Cohen SP, Sawyer DC. Suffering and euthanasia. Probl Vet Med. 1991;3:101-109.
コンパニオンアニマルのガイドラインは非常に主観的なもの、食事を楽しむ能力、困難なく自由に呼吸する能力、痛みなく飲食する能力、飼い主や家族に応じる能力があり、そして客観的ガイドラインは、体重減少、衰弱、感染症、臓器不全、傷害を評価します。これらを総合的に考慮すると安楽死するべき動物のプロファイルを考えるのに役立ちます。ただし、これらのガイドラインは、福祉のあらゆる側面を包括的に評価していないという批判があります。
一部の生産システムや農場では、農場マネージャーがどんな動物を安楽死させ、どんな動物に継続的なケアを実施するかを決定できるよう、ガイドラインを使用しています。例えば、「ツーストライク」システム(John Roberts, 北カロライナ州立大学、2003年)は、離乳豚が次の2つの基準を満たした場合に安楽死させることを推薦しています。1)豚は 18 日で離乳した豚の体重が3.63 kg未満、2)ヘルニア、へその感染症、四肢問題、またはボディコンの悪さなどの障害を持っていることです。
上記から、豚肉生産者にとって特別な懸念となる「軽量豚」が浮かび上がってきます。出生時の体重が軽い子豚は離乳時も体重が軽くなります。また、出生時に体重が軽い豚は、通常の豚に比べて死亡率が高く、成長が遅いため、屠殺重量のバラつきに大きく影響し、肥育豚出荷豚の体重を揃える際に大きな問題が発生し、経済的損失の原因となります。 3サイト生産では、より多くの肥育用の子豚を、肥育豚舎に送ると離乳舎のマネージャーに成果ボーナスが与えられるシステムになっていると、軽体重の豚が多すぎる傾向になります。その結果、肥育豚舎マネージャーは、受け取った軽体重の豚をどのように扱うかという問題に頭を悩ますことになります。
米国養豚生産者協議会(NPB)のガイド「養豚農場での豚の安楽死」など、安楽死に関する業界のガイドラインはあります。しかし、このガイドラインは、生産者が苦しみを終わらせるため動物を安楽死させるべきかどうか、またいつ安楽死させるかを決定するのには役立ちません。
苦しみは、福祉上問題ある状態とその期間を掛けたものとして評価されます。 農場管理者は毎日の動物観察で期間を推定できますが、何が「福祉上問題ある状態」なのかを判断することの難しいのです。
福祉を考える上で、5 つの自由(飢えや渇水;非快適; 痛み、怪我、病気;通常の行動;恐怖や苦しみ)があるのですが、これが実際に役立つためには、これらを日常の生産システムに組み込んで、生産の経済的側面にリンクする必要があります。
ここでは、「5つの自由」アプローチを使用し、重症度と期間を分析に組み込んで、離乳した豚に影響を与える症状の福祉への影響に対処する実践的なガイドラインを作りました。
この研究は、2002 年から 2003 年にかけて、北カロライナ州の 5 つの離乳豚農場で実施されました。各農場は 3サイト生産システムの一部であり、繁殖農場から定期的に離乳豚を受け取っていました。 約6週間飼養した後、豚はそれぞれの肥育仕上げ農場に移動されました。 5 つの離乳豚農場はすべて自然換気豚舎で横側はカーテンで、床はウーブンワイヤの床、通路はコンクリート、ニップルドリンカーが設置、同様のサイズのペンと豚の飼育密度が設置されていました。
福祉スコアの算出
治療が必要な一般的な症状のリストは、大学研究者と参加農場の獣医師によって作成しました。写真付き参考ノートが作成され、各参加農場に提供されました。写真には、それぞれの状態と重症度のレベルが示されました。
福祉に関連する14の状態(例、虚弱、軽体重、四肢問題、尾かじり被害、ヘルニアなど)とその重症度レベル:A(最も軽症)、B、C、または D(最も重症)とその福祉スコアを算出するために、7人の専門家委員会を組織しました。専門家委員会のうち 3 名は研究者、4名は産業動物獣医師でした。委員会は症状ごとに福祉スコアを 0 (福祉に影響なし) から 10(福祉への最悪の影響)でランク付けして福祉スコアを作成しました。またランク付けを作成する際、専門家委員会は 5 つの自由を基礎にして考慮するよう求めました。また子豚には個別観察のため耳標が付けられました。
同じ豚に 2 つ以上の症状が同時に存在する場合、各症状の個別の福祉スコアを合計して、最終的な合計福祉スコアを作成しました。 たとえば、豚の指にレベル B (スコア 3) の損傷があり、ヘルニアのレベル A (スコア 1) があった場合、その日のその豚の福祉スコアは 4 になります。その豚の合計福祉スコアは、症状とレベルの福祉スコアに、回復か、死亡か、安楽死か、または肥育舎に移動されるかで、その症状が継続した日数を掛けます。たとえば、レベル A (スコア 3) の虚弱豚の 30 日間の福祉スコアは 90 (3 x 30) になります。
安楽死の決定の方針
豚の各バッチは、豚が農場に到着する前に、農場主によって3つの安楽死の方針(積極的、中程度または保守的)から一つに割り当てられました。12 のバッチ (積極的なバッチが 4 つ、中程度のバッチが 4 つ、保守的なバッチが 4 つ) を実行するように依頼しました。
バッチ内の豚は、離乳舎に導入時に、福祉上問題あるかどうかスクリーニングされ、個々の状態と割り当てられた安楽死の決定方針に応じて、安楽死させるか福祉上問題あるに分類されました。
豚には耳タグが付けられ、農場スタッフが毎日状態の変化を観察しました。毎日、農場スタッフは豚の状態、治療が必要かどうか、体調の重症度が変化したかどうか、手順表に従って安楽死が正当かどうかを判断しました。福祉的に問題ある豚の状態と重症度レベルを毎日記録しました。
福祉上問題ある状態と、そのレベルは、研究者と豚の健康を担当する農場獣医師の合意によって事前に決定されていました。豚は農場の標準作業手順に従って安楽死させられました。治療が必要な豚はすべて、農場の標準作業手順に従って治療されました。治療に要した時間、投与された薬剤の量、種類、費用も記録されました。治療した豚の症状が安楽死を引き起こすレベルまで進行した場合、安楽死させました。豚が死亡したら、体重が測定され、日付が記録されました。
豚の経済的価値
各バッチの各福祉上問題ある豚の経済的価値は、出荷時に部分予算法 [(追加収入 + 削減されたコスト) - (削減された収入 + 追加コスト)] によって計算されました。追加収入は、肥育舎への移動時の動物の重量と、1 kg あたり1.78 ドルの標準経済価値を掛けて計算しました。豚は手技による脳挫傷法によって安楽死させられたため、安楽死の追加コストは最小限であるとみなされ、減額された費用としては計上されませんでした。
投与された薬剤の1 mL あたりの標準コストは、セフチオフルナトリウムが 0.563 ドル、タイロシンが 0.04 ドル、ペニシリンG が 0.03 ドル、長時間作用型オキシテトラサイクリンが 0.05ドルに設定しまた。スタッフの時間コストは 1 時間あたり10ドルに設定しました。
死亡または安楽死させた福祉上問題ある豚については、消費した飼料の費用を計上しました。豚の開始体重を 2.27 kg、豚 1 頭あたり1 日あたりの飼料消費量を 0.9 kg、飼料コストを 1 kg あたり 0.29 ドルと仮定しました。
結果のまとめ
51,041頭の離乳豚で、離乳舎導入時に安楽死したものが1.6%、同時に福祉上問題ありとして、継続観察になったものが2.2%でした(表2)。うち継続観察中に離乳舎で死亡した豚が16.6%でした。また51,041頭の離乳豚で、虚弱豚が0.1%、軽体重豚が2.1%、四肢障害豚が0.3%というのも日本の養豚農場のベンチマークにもなるでしょう。
死亡率の最大は 64.3% (虚弱豚Aレベル) でした(表3)。また全虚弱豚の6割以上が、継続観察中に離乳舎で死亡しています。四肢問題豚では35%、軽体重豚では11%が死亡しています。ただ肥育豚舎でどうなったかが不明です。
積極的な安楽死方針の下では、福祉上問題ありの豚のほとんどが安楽死し、福祉スコアと経済的価値の両方がゼロになりました(表4と5)。保守的な安楽死への取り組み方針を実施した豚が、福祉スコアが高くなり、福祉的に問題が高くなりました。保守的な安楽死方針に基づく豚は、中程度の安楽死方針に基づく豚より、経済価値が数値的に高くなりました。これは保守的な安楽死方針の下で、多くの豚が残っており、1頭当りにかかる時間が相対的に少なかったからかもしれません。時間当りの労働コストが10ドルと非常に安く設定されていることもあると思います。
福祉上問題ある離乳豚を、到着時により多くの安楽死させる方針を採用する生産者には、コストをかけずに農場の福祉状態を即座に改善できるという利点があります。高い死亡率は、レベルAの虚弱豚(66.7%)、レベルBの四肢問題豚(53.6%)と関連していました。 これは、マネージャーが離乳舎の状況を把握し、福祉上問題ある豚を直ちに安楽死させることで、これらの豚の福祉状況を改善する機会があるかどうかを判断する必要があることを示唆しています。
これらの豚が死亡すると、失われた飼料の費用だけでも大きな出費となります。しかし、そのまま飼育すると農場全体の福祉が損なわれます。福祉上問題ある豚が農場にいないと農場の福祉スコアが改善します。一方、福祉上問題ある豚が見つかったときに直ちに安楽死させることを決定すると、その豚から利益を得る機会が失われてしまいます。
動物の生産において福祉と経済は必然的に関連しており、福祉を定義するのは消費者である場合が増えています。消費者の要望からの福祉の要件を満たすことが、生産者がすべてのコストを負担して、ビジネスを行うコストが増加するのでなく、消費者が追加費用を支払い、福祉基準が遵守されることを保証するべきと思います。
本アプローチは、離乳舎の管理者とそのアドバイザーに経済的および福祉的な情報を提供し、福祉上問題ある離乳豚を直ちに安楽死させるか、それとも次の期間、肥育舎に移動する時点までケアするべきかを判断を下す際に使用することができます。
福祉規制のコストが高いため、多くの養豚生産者は、新しい「福祉」にアクセスすることが難しいと感じるかもしれません。 しかし、このガイドラインは、生産者が養豚事業に適切なコストで農場内の豚の福祉状態を改善する方法を決定するために必要な情報を提供できたと思います。
さいごに
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離乳豚農場のマネージャーは、離乳豚の到着時にさらに多くの福祉上問題ある豚を安楽死させることで、農場の福祉状態を向上させることができます
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保守的な安楽死の実施方針の下では、虚弱豚、四肢問題、直腸脱、または 2 つ以上の病気を併発している豚は経済的価値が低く、悪い福祉スコアが高く、これらの豚のほとんどを直ちに安楽死させることです
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福祉上問題ある豚の数は農場によって異なるため、管理者は農場の状態に焦点を当て、それに応じて方針や発見手順を調整する必要があります
補足;ヘルニア、修復ヘルニア、蹄損傷、膿瘍、外傷、骨折、尾かじり、耳かじり、直腸脱、呼吸器病、胃腸病ではどうするか
豚全淘汰(Depopulation)でのトラウマからの回復(Resilience)するためのチェックインツール
出典:米国養豚獣医師会https://aasv.org/resources/depop-resiliency.php
この 5 つの質問からなる回復力チェックイン(意味:心模様を聞く、心理的状態を確かめる)ツールは、農場での動物全淘汰の準備中、実施中、その後のショックから回復しようとしている獣医師や農場スタッフその他の動物関連の専門家が使用できます。 このツールは、回復しようする時の信頼できる社会的サポートと自己評価に役立つように設計されています。なおチェックインという言葉は、ホテルのチェックインでなく、トラウマ後の心理的な状態を確かめる、心模様を聞くという意味です。
どう使うか
個人として: このツールは、豚全淘汰の経験を通じて自分の心理的健康状態をチェックしたい人なら誰でも使用できます。これを行うことで、心的損傷後ストレスを軽減し、その後の回復と成長を促すための簡便なツールとして使用できます。質問することで回復の力を引き出そうとするのです。
友人とペアで: このツールは、全淘汰実施に備えて、セットアップする二者関係の「友達同士のチェック」システムの一部としても使用できます。「チェックイン(様子見)友達」の 2 人組は、直接、電話、または Web 会議で定期的に会い、質問に一緒に答え、回答を共有することで、全淘汰前、実施中、その後に社会感情的に寄り添い、信頼できるサポートを確立できます。ペアは自分たちのスケジュールと空き状況に基づいてコンタクトする頻度を決定します。
チームとして: 社会感情に合わせた信頼できるサポートを確立し、優先順位を付けるための毎日または毎週のチームとしての様子見ツールとして使用できます。各メンバーは参加を奨励されますが、必ず参加する義務はありません。参加する場合、自分の経験を話し皆で共有することも共有しないこともできます。また質問への回答を共有するために、各人に約 7 分の時間が割り当てられる必要があります。 このツール5質問を印刷してコピーを各自の手元に用意しておくと便利です。
5 つ質問に答えるプロセスを行っても、どうしてもポジティブな感情を見つけることができない人は、資格のある専門家に専門的な精神衛生上のサポートを求めるのが適切でしょう。なおポジティブな感情を持つことは、心理的苦痛がないことを示すものではありません。しかし、長期間ポジティブな感情が持てない時は、追加で何らかのサポートが必要と思われます。なおこのような専門的なサポートを求めるかどうかは、個人の自己決定を尊重することが重要です。
全淘汰後の心理のチェックイン(様子見)のための5つの質問
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今どうしても心から離れないことがあれば話してください。 それは何ですか? それについて何を覚えていますか?
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その状況であなたが正しく行動したことを思い出せますか? 小さなことでも重要です
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もっと違うようにしていたらよかったと思うことはありますか?
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学んだこと、または明日または次回に向けて適応する必要があることはありますか?
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その状況で感謝していること、または笑わせてくれたことはありますか?
上記5つの質問の意義
質問1
この質問では、個人が以下のことを言葉で表現することです。1)ストレスの多い出来事の望ましくないイメージや記憶、2)それら不快な思考を何度もに繰り返すこと。これらはトラウマ的ストレスを経験しているときの典型的なものです。これらをコントロールするための重要なスキルは、その出来事が何であるかを「名前」付けし、それをその出来事に関連して生じる感情に結び付けることです。なお話を共有するかについては、個人の自己決定を尊重することが不可欠です。
質問2
ストレスの多い出来事を経験しているとき、それが 質問1 で認識されたら、どのようにうまく対処しているかに集中するよう促すことが重要です。この質問2は、個人が困難な状況の真っ只中に自己効力感(困難の中でも行動できると思えること)とポジティブ前向きになる意図をどのように示しているかを認識するのに役立ちます。研究によると、個人のポジティブな行動の証拠に注意を払うことが、心の回復に役立つことがわかっています。
質問3と4
ストレスの多い経験から学ぶことができれば、エンパワーメント(湧出:人が本来持っている生きぬく力を湧き出させること)と自己効力感が促進されます。 これらの質問は、人がストレスに単純に圧倒されることを避けるために積極的に問題解決に取り組むのにも役立ちます。これらは、個人が自分の経験を活用して戦略を変更し、動物の専門家として成長し続けるのに役立ちます。 さらに、これらの質問は実践的な問題解決を促し、その人が再び困難な状況に直面したときにも対応できるようにします。
問題5の意味
ポジティブ心理学の研究では、感謝の気持ちを大切にすることが精神的健康に良い影響を与えることを実証されています。 さらに、トラウマ的ストレスからの回復力が高い人には、強い感謝の気持ちが存在します。 悲劇の真っ最中にもユーモアを忘れないことは、それが本物のプロフェッショナルを育むのに役立つという証拠があります。