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養豚の動物栄養学の基礎の基礎

  • 動物栄養学でよく使用される肥育成績

  • 動物栄養学(豚)とは

  • 栄養素とエネルギー

  • エネルギー

  • タンパク質

  • 最適アミノ酸比率(理想タンパク質)

  • アミノ酸の回腸消化率

  • タンパク質の代謝回転(Turnover)

  • マクロミネラルとミクロミネラル(トレースミネラル)

  • 脂溶性ビタミンと水様性ビタミン

  • ​飼料の原料

  • 子豚期・肥育期用の​飼料添加剤の作用機序​と効果

  • ​自農場での比較対照試験のやり方

動物栄養学でよく使用される肥育成績

動物栄養学では、各種養分の要求量を決めるための基礎実験に動物を使った肥育成績を用います。その時の重要肥育成績は以下です。

  • 1日当たり平均増体量:ADG, average daily gain 

  • 1日当たり平均飼料摂取量:ADFI、average daily feed intake

  • 飼料要求率:FCR, feed conversion rate、ADFI÷ADG、低いほうがよい、 Gain: Feed ratioとも表せれる

  • 飼料効率:FE, feed efficiency、ADG÷ADFI、高いほうがよい、Feed: Gain ratioとも表せる

  • 死亡率:Mortality、高い死亡率は、上記の肥育成績を低下させます。とくに日齢が高い場合の死亡率が増えると、すべての肥育成績が非常に悪くなります。なお死亡率は日本では事故率と呼ぶ人もいます

  • 試験の初期体重と終了体重:Initial and final weights、両体重は肥育成績に強く関連します。離乳後の日齢が高く初期体重が重いほど肥育成績はよくなり、早い出荷で終了体重が100キロに近いと肥育成績はよくなります

 

生産農場でよく使用されるその他の肥育成績

  • 出荷日齢:Days to market

  • 年間施設出荷回数:Facility turns/year

  • 床面積当たり出荷生体重:Live weight marketed/floor space

  • 豚1頭当たりまたは増体量当たりの飼料コスト:Feed cost/pig or unit gain、飼料の経済性を測定

動物栄養学とは:

 動物によって必要な栄養素とエネルギーについて研究するサイエンスである、と定義されています。具体的には1)健康な飼料として、動物の生活ステージごとに、各栄養はどれぐらい必要なのか、2)飼料は経済的に合う形でどのように供給すべきか、3)動物の体で、各栄養はどのように利用、つまり維持、成長、生産(肉、ミルク、卵)されるか、4)新飼料原料を探す、5)配合設計を行う、6)生産性と環境配慮を目指すものです。

 環境面では、米国では栄養素サイクルが確立しています。それは豚が飼料を食べ、糞尿を土壌に還元し、それを肥料として穀物を育ち、その穀物を飼料にするというものです。さらに豚の糞尿は、資源としては、土壌の形成・土壌通気の改善・土壌侵食の軽減が可能で、輸入合成肥料の使用を少なくでき、バイオガスの原料にもできます。

 飼料の栄養素は、無駄な使用法や配合設計でまだまだ浪費されています。その意味で動物栄養学は知識がチャンス (opportunity)を生む科学です。さらに飼料用の新原料は常にさがされており、新原料の発見や開発は大きなチャンスを生みます。例えば、ウシの初乳、焼酎かす、トウモロコシ蒸留粕があります。

エピソード:トウモロコシ蒸留粕 (DDGS: Distiller's Dried Grains with Solubles)

 

 米国でよく使用されていいます。詳しくは米国穀物協会に掲載https://grainsjp.org/grains/ddgs-g/

DDGSは、トウモロコシを乾式製粉してから糖化・発酵・蒸留などの工程で生産される燃料エタノール製造の副産物です。そのエタノールはトウモロコシに含まれる澱粉が糖化・発酵・蒸留されて出来るものです。従ってトウモロコシに含まれる諸成分のうち、澱粉以外の栄養、つまり脂肪、蛋白質、繊維、ミネラル、ビタミンなどは DDGSに濃縮されて残ります。一般的に、トウモロコシ 1ブッシェル(約 25.4kg)からエタノールが約 11 リットル、DDGS が 約8.2kg、そして二酸化炭素が約8.2kg発生します。現在では全国で乳牛はもちろん産卵鶏、豚、ブロイラー、肉牛などにも使われています。

配合設計

 配合設計例は、栄養サイトの配合設計例タブに乗せています。配合設計には、3つの情報が必要です。それは動物の体重やステージごとの各栄養要求量(エネルギー、タンパク質、ビタミン、ミネラル)、飼料原料の栄養成分エネルギー、タンパク質、ビタミン、ミネラル)、輸送費を含む原料コストです。実際には配合設計用専門ソフト(最小コスト計算)で行います。大学用のデモ版もあります。https://www.winfeed.com

なお配合設計した飼料は、一度実際の動物試験をする必要があります。

 また各栄養要求量は、維持・成長・繁殖・その他機能のために必要な栄養量と定義されています。一般的には豚には6つの栄養素とエネルギーが必要です。その要求量の推定には2つの方法:モデリング法と試験法があります。モデリング法は、維持と生産にわけて数学的公式と仮定から決定されます。米国飼養標準NRCはモデリング法で作成されています。リジンの仮定の例としては、1gのタンパク質生成には、0.12gの真消化率のリジンの摂取が必要で、維持としては0.036g/代謝体重が必要などです。実地法は、成績の変化(日増体量、飼料要求率)の量応答反応(dose response)を見ることで推定されます。ただし実地法は条件(気温、遺伝、飼育法)で大きくバラツクので、モデリング法が使用されています。

6栄養素とエネルギー

 栄養素とは6つ:炭水化物、脂肪、タンパク質(アミノ酸)、ビタミン、ミネラル、水です。なおエネルギーは、栄養素ではなくコンセプトです。エネルギーとは「動く能力:capacity to work」と定義され、動物栄養学では有機物質が酸化されたときに生産され、熱として放出されるか、動物体内の代謝のために使用されます。エネルギーは4種(総エネルギー:GE、可消化エネルギー:DE、代謝エネルギー:ME、正味エネルギー:NE)で表されます。総エネルギーはボンブカロリーメータで燃やすことで測れます。可消化エネルギーは糞エネルギーを、代謝エネルギーはさらに尿エネルギーを引いて得られます。正味エネルギーが使用されるエネルギーとしては一番精度が高いので、養豚も正味エネルギーの評価・推定の方向に進んでいます。正味エネルギーは、代謝エネルギーから熱増加(Heat Increment:身体内の消化代謝での産生熱)を引いたものです。

 可消化養分含量(TDN, g)は、鶏の研究で使用された方法で、エネルギー値の代用として、米国でも1974年には使用されていましたが、エネルギー値としては正しくないとしてもう使用されていません。

栄養エネルギーとは

ミネソタ大学養豚栄養学講義ノートから

ボンブカロリー計

製品安全評価センターwww.rime.jp/から引用

エネルギー源

2-3週齢を過ぎた豚では、炭水化物が主なエネルギー源となります。1週齢以下の子豚だとグルコースとラクトースが主なエネルギー源です。子豚は7-10日齢を過ぎたころから、フラクトースやシュ―クロースが消化できるようになります。繊維については、消化率を減少させるという報告もあり、食物繊維の機能性、とくに妊娠期母豚への飢餓感減少や便秘予防、は認められていますが、栄養素としてはまだ研究が不足しています。

脂質(リピッド:Lipids)

 

 リピッドは脂肪とオイルを含みます。リピッドはコーンの2.25倍の代謝エネルギーがあります。さらにリピッドは熱増加が少ないので、飼料消費量を上げたい夏場の飼料への脂肪添加はよく行われています。また飼料は細かく粉砕されていて、ほこりがでやすいので、脂肪添加することで、ほこりの制御としても使用されています。

 必須脂肪酸(主にリノール酸、アラキドン酸はリノール酸から生成可能)もリピッドです。リノール酸とリノレン酸は、哺乳動物の体内では生成できないし、他の重要脂肪酸の前駆物質になるので、必須とされています。しかし実践的な飼料(コーンや大豆かす)には十分に入っています。繁殖への効果で、オメガ脂肪酸が注目されています。

タンパク質はアミノ酸

 粗タンパク質として飼料タグで表示され、飼料の窒素の含有量×6.25で計算されています(ケルダール法:Kjeldahl method)。これはタンパク質の平均窒素含有量が16 gであることからきています。

 タンパク質はアミノ酸が集まってできたものです。主要な20種のアミノ酸のうち10種が必須アミノ酸です。米国大学の動物栄養学の専攻学生は丸暗記させられます。必須もそうでないものも、ある程度の量が必要です。粗タンパク質が低くても、アミノ酸が十分であれば、飼料としては十分となります。

 穀物(コーン、マイロ、大麦、小麦)も必要なアミノ酸30-60%を含んではいますが、アミノ酸の量の確保、アミノ酸バランスのためにタンパク質源として大豆かすが必須です。そしてアミノ酸のバランスをとるために合成アミノ酸も必要な場合があります。もう一つ、無駄な窒素排出を防ぐためにも合成アミノ酸は有用です。

 なお飼料中のエネルギー含有量が増えると、肥育期の豚のアミノ酸必要量も増加するので、飼料中%で表されます。

必須アミノ酸覚え方

最適アミノ酸比率(理想タンパク質)

 コーンと大豆かす主体の飼料(米国や日本)では、第一制限アミノ酸はリジンです。一方、麦主体の飼料(欧州)でそれはトレオニンです。

 豚に必要なアミノ酸の最適比率を理想タンパク質と呼びます。リジンを100%として、他のアミノ酸はそのリジン量の何%かで表示されます。3つの方法で決められてきました。それは、まず維持に必要な最適アミノ酸比率、タンパク質の生成に必要なアミノ酸比率、母豚のミルクの比率です。

アミノ酸の回腸消化率(Ileal Digestibility)と生物的有効率(Bioavailability)

 アミノ酸はすべて消化されないし、すべて吸収されないし、すべて代謝で使用されるわけではありません。生物的有効率の測定は難しい。生物的有効率を測定する第一の方法は、小腸の最後部位である回腸末端での消化率、回腸消化率です。しかし消化され吸収されても、代謝で使用されないアミノ酸もあるので、回腸消化率にも限界はあります。現在では回腸消化率が使用されています。

 回腸消化率は、「見かけの消化率」と「真または標準の消化率」の2種があります。それは内因性アミノ酸の是正をしているかどうかです。内因性アミノ酸とは、消化管内に作られたタンパク質由来のアミノ酸で、消化酵素や古くなった腸管細胞、腸管内微生物などです。伝統的な補正法は、タンパク質なしの飼料(コーンスターチ)を給餌し、または100%消化するタンパク質飼料(カゼイン)を給餌し、回腸での消化率をみるなどの方法があります。

 

タンパク質の代謝回転(Turnover)

 腸管組織の20%、筋肉の2%、膵臓組織の75%は、毎日入れ替わっています。その代謝されているタンパク質の何%かがリサイクルされていると考えられています。しかし、実際の栄養要求量に反映されるところまではいたっていません。

ミネラル

 

 動物の身体の中で生成されたり壊されたりはしない、単一な原子です。動物の身体の成分や身体のプロセスで重要な役割を果たします。ビタミンや酵素とは違います。カロリーやアミノ酸は量応答反応がありますが、ミネラルは量応答反応でなく、欠乏症と過多症を起こさないことが大切です。動物栄養学では、飼料配合の仕方によって、マクロとミクロミネラルに分けられます。マクロミネラルは飼料配合時に0.1%以上含むもので、ミクロミネラルは0.1%未満です。配合0.1%以上であれば、そのまま穀物に均等に混ぜられます。しかし、0.1%未満だと飼料中に均等になるようにするのが難しいのです。そのためミクロミネラルは飼料配合時には直接に穀物に混合するのでなく、まずプレミックスとして増量されてから、穀物と混ぜられます。マクロミネラルは%で表示されることが多く、ミクロミネラルはppm(mg/kg)で表示されることが多いようです。

 マクロミネラルとしては、4種Ca, P, Cl, Naがあります。ほかにもK, Mg, Sulphurがありますが、飼料原料に豊富ということで、米国ではこのミネラルは配合されていません。

カルシウム Caとリン P

 骨格の発達と維持、リーン肉生成、筋肉収縮、血液凝固やその他の生理的機能に不可欠です。カルシムとリンは、身体で最も多いミネラルです。カルシウムの99%、リンの80%は骨格に存在します。欠乏症は子豚ではクル病や成豚では骨軟化症があります。牛では乳熱があります。

 穀物と大豆かすの飼料の場合は、Ca: P の比率は、1:1 to 1.25:1です。炭酸カルシウム(石灰石38%Ca)にカルシウムは豊富です。しかし過剰なカルシウム添加は飼料摂取量を落とします。

 リンは骨格系に含まれ、ATPの一部として栄養代謝に必須です。米国ではリンは、カルシウムより約5倍高価なので、配合量を少なくする工夫がされています。その一つが酵素フィターゼ(Phytase)を利用して植物中に含まれるが利用率が低い植物リンです。リンの過剰添加は環境汚染の問題があります。酵素を添加することで、豚からのリン排出を30-60%減少させられます。

飼料用塩 NaとCl

 

 NaとClは栄養の吸収、電解質バランス(陽と陰イオンを供給する働き)、pHの制御に関連しています。Clは胃液のHClの成分です。塩がNaとClの主な供給源です。40%がNaで60%がClです。Naの欠乏は、飼料摂取量と飼料要求率が低下するので、肥育成績を落とします。海外では、井戸水はたまにNaを多量に含んでいるものがあります。過剰Naは下痢を起こします。

 Kは、生理学のナトリウム・カリウムポンプの一部です。なおカリウムはラテン語Kalium由来でドイツ語もKalium、英語ではpotassiumといいます。大豆かすに多く含まれているので、豚の飼料での欠乏はまずありません。日本では穀物より高価ですが、米国では穀物より安価です。

 Mgは骨に含まれ、多くの酵素の一部です。大豆かすに多く含まれているので、豚の飼料での欠乏はありません。

 Sulfur硫黄は、メチオニンやシスチンなど硫黄を含むアミノ酸の一部です。でも豚の飼料での欠乏はありません。

ミクロミネラル(トレースミネラルともいう)

 配合量が0.1%未満と少ないので、増量するためのプレミックスが必要なミネラルです。コバルトCobalt、銅Copper、ヨウ素Iodine、鉄Iron、マンガンManganese、セレニウムSelenium、亜鉛Zinc、クロミウムChromiumです。

コバルトはビタミンB12の一部です。

 鉄は血液の赤血球のヘモグロビンの一部であり、酸素の運搬の機能があり、鉄が不足すると貧血を起こします。また鉄は筋肉のミオグロビンの一部です。とくに成長の早い新生豚では貧血になりやすいので、鉄分(デキシトラン鉄)の注射が実践されています。なお米国では注射する部位は、首の筋肉が推奨されています。モモ部は食品としてハムになり商品価値が高いからです。貧血の診断には、血中ヘモグロビン量とヘマトクリットが使用されています。ヘモグロビン9g/dl、ヘマトクリット30%未満が貧血とされています。

 銅はヘモグロビンの生成に必須です。多くの酵素の一部であり、鉄の吸収にも関連しています。成長促進因子です。米国では、離乳期の子豚の軟便を防いだり、成長促進に使用されてきました。ただし多使用は環境汚染を引き起こすという懸念があります。羊は銅中毒になりやすいので注意。

エピソード:鉄・銅の欠乏による貧血症、新生豚は生まれた時に50 mgの鉄分があるが、1日に7-16 mg/day使用し、母乳からは1 mg/dayしか供給されないので、新生子豚の貧血になりやすく、急死もあります。生後に鉄剤注射は必須です。また少量の銅が身体での鉄使用に必須です。

 ヨウ素は、甲状腺での甲状腺ホルモンの一部です。欠乏すると甲状腺が腫脹して、首前部が膨れるバセドウ氏病、元気消失、成長遅延になります。

 マンガンは、多くの酵素の一部で、骨格の発達に関係します。欠乏すると、骨格の発達障害、成長遅延、四肢障害、繁殖豚に繁殖障害(発情期周期が非規則、性成熟が遅れる、新生豚が虚弱)が多発します。

 セレニウムは、抗酸化での防御作用に働く酵素の一部です。ビタミンEと関連しています。過剰で毒性(爪の変形、毛ロス)があります。欠乏症はビタミンE欠乏症と似ていて、マルベリー心臓病での突然死や白筋症や繁殖障害です。

エピソード:ビタミンEとセレニウムの欠乏により、マルベリー心臓病と肝壊死が発生します。離乳豚が心臓病で急死します。解剖すると心臓が桑の実状で、心臓に内腔に繊維素が付着し、心臓周囲は脂肪が多く付着します。肝臓に壊死が発生します。健康サイトのその他タブも参考に。

マルベリー心臓病

 亜鉛は、DNAとRNAの合成酵素を含む酵素の一部です。炭水化物・タンパク質・脂肪の代謝酵素の一部です。インスリンの一部です。欠乏症としては、皮膚のケラチン化(角化でガサガサ)、成長遅延や繁殖障害があります。また蹄の問題の多発もあります。欧州では子豚の下痢予防剤(酸化銅ZnO)として長く使用されてきました。しかし環境汚染への懸念から、2022年から治療レベル2000 ppm禁止され、亜鉛なしの方向に進んでいます。

ビタミン

 ビタミンは、有機化合物で自然からの食べ物の成分です。正常な生理的機能には必須です。そのビタミン毎に対応する欠乏症があります。単胃動物は、身体でビタミンの生成ができないので、食べ物から摂取する必要があります。ミネラルと同様、量応答反応でなく欠乏症と過多症を起こさないことが大切です。なおビタミンと混同しがちな、酵素の定義は「身体で作られるタンパク質であり、それ自身は使用されず、身体の中の化学反応を刺激し、スピードアップする。いわば有機的な触媒」です。

 

エピソード:ビタミンの歴史、1906年英国人F. Hopkinsは食物が他の栄養でないある種の因子を含んでいることを示しました。1911年ポーランド人C. Funkは、玄米から抗脚気の物質を発見し、Vit-amine (vital amine)と名付けることを提案しました。1912年Hopkins とFunkは欠乏へのビタミン仮説を発表しました。体の中である種のビタミンの量が十分でないと欠乏症がおこるという仮説でした。まさに栄養学が未知だったころです。

エピソード:鈴木梅太郎は1910年に玄米から抗脚気の物質を発見し、オリザニンと名付けました。世界初のビタミンを発見ですが、世界的な注目を得られませんでした。静岡県出身で東京帝国大学卒、34歳からスイスとドイツで5年間研究し、帰国後理化学研究所を創設。1874-1943年没。

エピソード:高木兼寛、蘭学医石上良作に師事し医学を学ぶ。英国に留学。日本におけるビタミン研究、職業疫学のパイオニア。1849-1920年没。海軍の下級兵に脚気が多いことを、海軍の主食料、白米に何か問題ありとしました。野外実験として、白米主体の海軍食での9ヶ月の訓練航海で、376人中169人が脚気になった。次の航海で、試験的に麦飯と肉類を与えたところ、333人中16人しか脚気にならなかった。この実験がやがてビタミンの発見に繋がっていったのです。しかし当時の医学界を牛耳っていた東京帝国大学とドイツ留学組、脚気感染症説からは認められなかったのです。日露戦争では211600人の兵士のうち、27000人が脚気で命を失ったとされています。後に慈恵会医科大学を創設しました。

ビタミン

 脂溶性ビタミン(A, D, E, K)と水様性ビタミンがあります。水様性ビタミンは水と一緒に体外に出やすいとされています。飼料で使用されるのはビタミンA、 D、 E、 B12、Biotinビオチン、Cholineコリン、Folic acid葉酸、Menadione (ビタミンK)、Niacinナイアシン、Pantothenic acidパントテン酸、Pyridoxine(B6)ピリドキシン、Riboflavin(B2)リボフラビン、Thiamine(B1)チアミンがあります。

 

ビタミンA

 上皮細胞に働き、Vision視界, reproduction 繁殖 and growth成長に必要です。欠乏すると、視界障害、成長遅延や繁殖障害になります。1国際単位(IU)は、0.3gのレチノールです。魚油やアルファルファに多く含まれています。前駆物質としてベータカロチンBeta-caroteneがあり、腸管内でビタミンAに変わります。ベータカロチンは穀物や大豆かすにも含まれますが、壊れやすい。ビタミンAは、顆粒膜細胞と卵胞液の重要上皮に働くことで、胎子の発達と生存を助けます。

エピソード:ゴールデンライスの発明、米に黄スイセンの遺伝子を入れた稲を作成すると、ベータカロチンの豊富な黄色い米ができます。1999年に引退した分子研究者Ingo Potrykus氏は、ビタミンA欠乏による被害の多い低所得国にこの遺伝子組み換え技術を無料で寄付しました。

 ビタミンD、身体内でカルシウムとリンの吸収と使用そして骨化に必須です。欠乏症としてクル病や軟化症があります。

 

 ビタミンE,抗酸化防御作用があります。セレニウムと関係があります。繁殖にも関連しています。欠乏症はセレニウム欠乏症と同じ、マルベリー心臓病、白筋症、肝壊死と同じです。なお穀物や大豆かす中のビタミンA、D、Eは植物の収穫や貯蔵で壊れることがおおいので、飼料には植物中はゼロと仮定して添加されています。

エピソード:動脈硬化とビタミンE,人医学では、動脈硬化(心筋梗塞や脳梗塞に関連)の予防としても使われています。なお人ではリスク因子の一番が食事中の飽和脂肪酸、2番がタバコです。

ビタミンK、血液凝固因子の一つです。欠乏すると出血した時の凝固時間が長くなり、出血が多くなります。

ビオチン、代謝に使用される酵素の補因子cofactorとして働きます。穀物には豊富ですが、有効利用率が低いのです。欠乏症としては蹄障害や、分娩時子豚数減少など繁殖問題もあります。母豚用飼料には添加されています。

コリン、神経筋接合部で働くアセチルコリンの一部です。リン脂質の合成をします。神経伝達物質の一部です。細胞膜の一部です。アミノ酸グリシンの前駆物質です。メチオニンからも生成できます。欠乏すると、母豚の繁殖問題をおこします。新生豚の肢弱症をおこします。

葉酸(ビタミンB9)、核酸やアミノ酸の代謝の補酵素となります。細胞の成長と機能に必須の成分の成績に関連しています。母豚の繁殖成績に影響があります。母豚用の飼料に添加されています。母豚には必須で、欠乏すると分娩時子豚数が減少します。人医学でも妊婦の葉酸欠乏症は胎児に悪影響を及ぼします。

ナイアシン、代謝に関連する補酵素NADやNADPの一部です。コーン・小麦・オーツ麦・マイロには多く含まれていますが、有効利用率が低いのです。大豆中のナイアシンの有効利用率は高い。アミノ酸であるトリプトファンは、前駆物質になりえます。欠乏症として皮膚障害、成長遅延や被毛状態が悪くなります。

パントテン酸(ビタミンB5)、補酵素Aの一部です。脂肪と炭水化物の代謝に関係します。欠乏症は、成長遅延や被毛状態が悪くなるなどですが、特徴的なものとして、後肢の歩様がおかしくなり、ガチョウ歩きのような歩様になります。ギリシャ語の“pantothenパントテン”はどこからでもあるという意味ですが、有効利用率は低いのです。

リボフラビン(ビタミンB2)、補酵素FADとFMNの一部です。穀物にはあまり含まれず、ホエイに多く含まれています。欠乏症としては、成長遅延、被毛状態悪くなり、若雌豚に無発情をおこします。

チアミン(ビタミンB1)、補酵素の一部でエネルギー代謝に必要です。欠乏症では、食欲がなくなり、体温の低下、嘔吐をおこします。

 

ピリドキシン(ビタミンB6)、補酵素FADとFMNの一部です。アミノ酸の代謝、第一ステップでの、アミン基を取り除くに必要です。ビタミンB6の補酵素派生物が必要です。神経伝達物質を生成するのに必要です。母豚の飼料に添加されています。分娩時子豚数と離乳後初回交配日数を短縮するのに関連しています。

 

シアノコバラミン(ビタミンB12)、代謝機能の補酵素の一部です。特徴的な欠乏症は貧血です。動物タンパク質因子(植物は含んでいない)ともいわれ、若い人はベジタリアンには不向きの理由でした。最近、合成物も米国では販売されるようになりました。 

ビタミンC(ascorbic acid)、人間とモンキー類以外の動物は、グルコースからビタミンCを生成できる酵素をもっていますので、豚の飼料では必要ないといわれています。欠乏すると、新生豚で、へその緒が弱くなるというのも報告されています。畜産加工の分野では、肉加工、発色助剤としても使用されています。人医学では、欠乏症として、コラーゲンの合成不全でScurvy壊血病(歯肉や皮膚に出血)が知られています。

エピソード:Norman Borlaugボーローグ博士(1914-2009)

米国ミネソタ大学で博士号取得後、Du Pont社に勤務、その後1941年からメキシコCooperative Wheat Research centerに勤務し、日本の岩手県農林10号の矮小小麦と米国の小麦をかけ合わせた抗病かつ高収量品種を作出した。その高収量品種を中心とした新しい農業技術で穀物の大幅な増産(緑の革命)を可能にしメキシコ、インド、パキスタンで指導し、飢饉による食料危機を救った。その功績でノーベル平和賞を受賞したのです。

 2010年のミネソタ大学の記事に、晩年の彼へのインタビューが掲載されました(左の写真)。彼は最後まで謙虚で、収穫をあげることで、農家への貢献を考えていたそうです。最後の言葉は「Farmer, Get it the farmer」

Dr. Norman Borlaug
Dr. Norman Borlaug2

左はミネソタ大学の新聞、右の写真はwikipediaです。https://en.wikipedia.org/wiki/Norman_Borlaug

飼料原料の植物原料

植物原料でエネルギー用としてコーン、タンパク質用としては大豆かす(大豆ミール)、

動物原料でホエイ(チーズの副産物)と脱脂粉乳(高価)、油脂としては牛脂や豚脂

その他では合成アミノ酸などがあります。

右の表はある養豚会社が公表している肥育用配合飼料例です。(www.gpf.co.jp/biz-feed.html)なお最近マイロは使用されなくなっています。

飼料の原材料名表示

コーンやマイロや大麦についての説明や写真は、米国穀物協会の日本語版サイト(https://grainsjp.org/grains/grains-index/)も参照してください。

大豆かすについての詳細は、米国大豆協会の日本語版サイト(https://ussoybean.jp/soy-power/feed-uses)も参照してください。

日本で使用されている飼料添加物については「日本の畜産の将来を考える会」サイトも参照してください。https://chikusangenki.jp/story03/

コーン、起源は南米アンデス山麓の低地帯、イネ科の一年生作物。主な産地は米国とアルゼンチンなど。育種面で様々な品種が改良され、飼料用としてデントコーン(馬歯種)、フリントコーン(硬粒種)家畜に使用。飼料用だけでなく、食用・工業原料用など用途が多い。

 

マイロ(こうりゃん)、地域別にいろいろな名前あり、学名では Sorghum Bicolor。起源は5,000~7,000年前に現在のエチオピア~スーダンあたりで栽培。主な産地は米国とアルゼンチン・豪州。他の飼料穀物に比べ、乾燥、暑さに強く、穀粒・葉茎ともに飼料用として重宝。嗜好性がコーンより劣る。

大豆ミール(大豆かす)、大豆は18%程度の油分を含む。その大豆から、油を抽出する過程でできるのが大豆ミール。夾雑物を除去し、乾燥、割砕、加熱、圧ぺん等の処理をし、次いでヘキサン等による油分の抽出、脱溶剤、加熱乾燥、冷却、粉砕、整粒の工程を経る。家畜の蛋白源として大変大きな役割。 畜産の大切な植物質のタンパク質資源、中国が最大の輸出国。主な生産国は中国・米国・日本など。

大豆、マメ科の一年草で、非常に蛋白質に富んだ穀物。大豆の主な生産国はブラジルと米国。日本で消費される大豆の約98%を輸入。用途は油・納豆・豆腐・味噌など様々な食品に使用。飼料には使用されていない。50%以上がGMO:genetically modified organism

 

菜種ミール、菜種は約40%も油分を含む。これから搾油してできるのが菜種ミール。菜種ミールについても大豆ミールと同じく、蛋白源として重宝。 主な生産国はカナダと日本など。

コーングルテンミール、トウモロコシから湿式法によりでんぷん(コーンスターチ)を製造する過程でできる副産物。おもに鶏の飼料として使用され、高蛋白質、またその天然の色から卵の黄身部分をより鮮明にするのにも役立つ。 黄身色はパプリカ。アジアでは、大きなビジネスです。主な生産国は米国・日本・中国。

 

大麦、主な産地は米国・豪州・カナダです。飼料用として、欧州・米国では広く使用。日本ではまだまだ使用量は少量。おもに牛の飼料として使用され、加熱圧ぺんによりその栄養価をさらに高めた状態で使用。豚の銘柄豚等でも使用。脂が白く、融点が高い。肉やさん好みで、神奈川夢ポークも使用。海外ではオーツ麦も使用。

 

小麦、主な産地は米国・カナダ・豪州です。雨量がすくなくてもよい。日本では政府操作飼料のため使用量はほぼなし。コーンより価格が高いが、安くなる場合あり。政府は人間用への横流しを懸念している。おもに牛・豚の飼料として使用できる。欧州は、小麦地帯が多い。

飼料用コーン
飼料用マイロ
タピオカ

飼料用コーン

マイロ

キャッサバでんぷんかす(タピオカ)

飼料の動物原料

魚粉Fish meals、Herringニシン, Menhadenニシン科, White白身魚があるが、日本では高価になったため飼料には使用されていない。

 

ミートボーンミール肉骨粉、ネズミによるサルモネラ菌の汚染への懸念がある。ニュージーランドやデンマークは品質がよいとされている。乳牛用によく使用されたが、狂牛病発生の問題から使用されていない。

 

ホエイ・脱脂粉乳、ホエイとは乳清(にゅうせい)ともいい、牛乳から脂肪とカゼインたんぱく質を除いた水溶液である。副産物である。ホエーたんぱく質がある。チーズ工場が新設されるとホエイが増える。脱脂粉乳は高価で、米国では使用されていません。

 

スプレードライ・血液またはプラズマタンパク質、食肉工場で得られる血液副産物です。栄養価が非常に高い(リジン7-8%含有、各アミノ酸消化率95%以上)。伝染病伝搬の懸念があることから豚以外のものを使用するのが推薦されている(米国カンサス州立大学)。

飼料原料に使われる工場副産物

コーン蒸留粕DDGS、パン工場の廃棄物、砂糖工場からの糖蜜、テンサイ糖パルプ、穀物のほこりや残差、ビール工場のビール粕があります。

 

脂肪と油の原料、植物油、Tallow 牛脂、Lard豚脂、Grease鶏脂があります。

 

合成アミノ酸、合成アミノ酸を使用することで、窒素が効率的に使用できます。高価です。リジンHCL、Lトリプトファン、Lスレオニンあり。

コーン蒸留粕DDGS

飼料用添加剤としての抗生剤

 

 成長促進作用(飼料要求率改善や1日当り増体量増加や死亡率減少)が大きい。病気の予防、繁殖成績も改善。なお養豚では、飼料安全法により抗生剤などの飼料添加剤をふくまない肥育期飼料を与える期間が設けられています。抗生剤を少なくすることで、下痢や肺炎による死亡率増加が懸念されています。

  • 例、離乳豚16.4% ADG(平均増体量) 増加、子豚豚10.6% ADG増加、子豚・出荷豚4.2% ADG増加

抗生剤の効果のメカニズムは以下の3つあるといわれています。

1)代謝効果、例、タンパク質の合成率を増加);2)栄養効果、例、動物の腸管内の微生物叢を変えることで、動物による栄養素使用率を改善し、栄養素の吸収率を上げる、3)微生物の抑制効果によって病気の発生を抑える

しかし公衆衛生上の安全性への懸念が言われてきました。抗生剤を動物に給餌することで、薬剤感受性のある腸内細菌のリザーバーとなり、薬剤感受性が病原性細菌に移転できるようになることです。

 

ではどうすればいいのか、飼料への抗生剤の添加を制限する、薬剤感受性がある抗生剤を10-15年使わない、新しい薬剤を使用などがあります。一気にやめてしまうと、動物の下痢発生率や死亡率が増加しますので、注意が必要です。健康管理を主とする生産システムが大切です。

コーン蒸留粕 DDGS

駆虫剤、外部と内部の寄生虫を駆除するためのもの、例、アイボメクチンは、疥癬の特効薬である。休薬期間が設けられている。腸管で吸収されない駆虫剤もあります。豚で発生しやすい外部寄生虫としてはブタジラミや疥癬、内部寄生虫としては回虫があります。とくにブタ回虫は、腸の血管を介して肝臓に移行すると、食肉としての安全性の問題もあります。

プロバイオティクス、生菌剤です。抗生剤の代用として、とくにブロイラーでよく使用されています。腸内の細菌叢のバランスを整えるとされています。しかし腸まで届くのはわずかと思われます。さらに薬と違うので効果がはっきりしません。条件によって(例、高いストレス状態などで)経済的効果あり。

  • 枯草菌、納豆菌(なっとうきん、学名Bacillus subtilis natto)は、芽胞を形成する強い菌。稲わらに多く生息し、納豆を作るときに利用。

  • 乳酸菌 Lactobacillus acidophilus

  • 連鎖球菌 Streptococcus faecium

酵素、難消化の炭水化物やタンパク質の消化率を改善する働きがあります。

  • セルラーゼ、セルロース繊維を分解

  • へミセルラーゼ、ヘミセルロース繊維を分解

  • プロテアーゼProtease、タンパク質を分解

  • フィターゼPhytase は穀物に含まれているPの使用率を改善します。

 

有機酸、早期離乳豚の肥育成績を改善するために酢酸Citric acid, フマール酸fumaric acidがスターター飼料に添加されます。 小腸上部のpHを下げる働きがあります。

液餌飼料では、カビの抑制に使用されます。

 

フレーバーFlavor、嗜好性Palatabilityを上げるために使用されています。例、夏場で嗜好性をあげるためのイチゴ味フレーバーです。米国の大学では豚の飼料への添加は薦められていません。なぜなら豚は、そのチョイスが与えれたら、そのフレーバー添加された飼料をたべるだろうが、そのチョイスがなかったら、添加なしの飼料を食べるからです。コストパフォーマンスが非常に低いとされています。さらに研究結果に一貫性がないとされています。

 

飼料用消臭剤

  • ユッカ抽出物(尿アンモニア臭抑制)

  • ゼオライトZeolites 土、防カビ剤

  • ピット用の防臭剤Pit additives 

  • 費用対効果を確かめる必要あり

 

ペレットバインダーや流れをよくする基剤

  • ある種の粘土剤(例ベントナイトbentonite) はペレットが固まりやすく、ペレット同士が固まりになることを防ぐためにペレット化する前に添加されます。

  • ある種の粘土剤やゼオライトはアフラトキシン(カビ毒)防止にも使用されています。

 

と体改良剤Carcass modifiers

  • ラクトパミン(商品名ぺイリーンpaylean)、ベータアドレナリン拮抗剤Beta-adrenergic agonistです。栄養要求量を変えることで脂肪量を少なくして飼料要求率を改善します。米国FDAが認可して、米国で生産される4割の肥育豚で使用されています。日本ではまだ認可されていません。

  • カルニチンCarnitine、脂質の代謝に関係し脂肪量を少なくします。

リジン粉末

​アミノ酸 リジンHCL

ビートパルプ

​ビートパルプ(ペレット形成)

肥育成績・と体成績のための飼料添加剤の作用機序

  飼料価格と環境問題の高まりに伴い、持続可能で競争力のある養豚生産を実現するためには、肥育成績、特に飼料効率がますます重要になってきています。豚は一生のうちほとんどの飼料を子豚期から肥育期にかけて消費します。さらに、飼料効率は豚の体重が増加するにつれて低下します。飼料効率を向上させる可能性のある方法のひとつは、エネルギー利用効率を高めたり、維持量を軽減する可能性のある飼料添加剤を含めることです。養豚飼料業界では、いくつかの飼料添加剤は以下3タイプがあります。

 

  • 酸味料 (有機酸)、精油、DFM(プロバイオティクスなど)、酵母、Cu、Zn:病原体を制御し、消化管内の微生物叢のバランスを維持し、抗菌・免疫促進作用を示す

  • ベタイン、Cr、CLA、L-カルニチン:エネルギーおよび脂質代謝に有益な効果をもたらす

  • 炭水化物分解酵素、プロテアーゼ、フィターゼなどの酵素:栄養素の消化率を向上させ、胃腸の健康や免疫機能に良い影響を与える

 

 これらの飼料添加物のメカニズムは有望であるように思われますが、肥育成績・と体成績に及ぼす影響は文献によってまちまちです。このような効果のばらつきは、発育状態(離乳豚と肥育期後半の比較)に起因している可能性があります。なお作用機序は、農場での有効性を保証するものでありません。使用する場合は、自農場でコスパを常に検討する必要があります。

出典:Rao Z-X, Mike D. Tokach MDら, https://www.mdpi.com/2076-2615/13/2/200

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有機酸

酸味料 (有機酸) Acidfiers

  酸味料は、抗菌活性や栄養消化率に有益な効果をもたらすことから、動物用飼料に使用されてきています。最も使用されている酸味料は、短鎖脂肪酸(フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、ギ酸、乳酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸)、中鎖脂肪酸(ソルビン酸、カプリン酸、カプリル酸)、安息香酸の形をした有機酸です。

 酸味料は消化管のpHを下げ、酸に弱いバクテリアの繁殖を抑制する酸性環境(pH<4.5)を提供します。低いpHはまた、小腸での酵素の分泌と活性を刺激することにより、タンパク質とミネラルの消化を助けます。さらに、酸性環境では、解離しない有機酸が細菌の細胞壁に自由に浸透し、細胞質のpHを下げることができます。H+が増加すると、細菌はこれらのH+を除去するためにエネルギーを費やす必要があるため、酸に弱い病原菌の増殖を遅らせることができるのです。

 

精油 Essential oils

 エッセンシャルオイル(精油:EO)はフィトジェニック飼料添加物に分類されます。精油は、オレガノ、タイム、ローズマリー、ニンニクなどの植物(植物の湿重量の約1%)から抽出された揮発性化合物と不揮発性化合物の混合物です。精油の主な有効成分はフェノール類(チモール、カルバクロール、オイゲノール、ρ-シメン)です。フェノール成分は、抗菌、抗ウイルス、抗真菌、殺虫、抗寄生虫に広く使用されています。

 抗菌作用については、EOの親油性構造が病原菌の細胞壁や細胞膜に浸透して破壊し、細胞機能を変化させることができ、これは酸味料(有機酸)の抗菌メカニズムに似ています。また、フェノール性OH基は、フリーラジカルに水素を供与することにより、抗酸化物質として作用することができます。さらに、EOは、豚の微生物叢と相互作用し、腸内のリンパ球の集団と分布を変化させることで、潜在的に免疫系を強化します。これらの有益なメカニズムは、EOが子豚期-肥育期の豚の成長成績と枝肉特性を改善する可能性があることを示唆しています。

DFM(プロバイオテック)Direct-fed microbial (DFM) or probiotic products

  直接給与微生物(DFM)またはプロバイオティクス製品は、宿主に有益な生きた(生存可能な)微生物(細菌および/または酵母)を含む飼料添加剤と定義されます。子豚-肥育期の豚用飼料に添加されるDFM株で最も多く使用されているのは、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、バチルス属およびラクトバチルス属の単株またはブレンドです(酵母のセクションも参照)。

  DFMの添加は、健康的でバランスのとれた腸内微生物組成を達成することを目的としています。これらの有益な微生物は、栄養素の消化率を向上させ、競合的排除によって消化管内の病原体による悪影響を軽減、免疫反応の調節、および/またはバクテリオシンの産する可能性があります。

イースト Yeasts

  酵母は単細胞の真菌で、その栄養および健康上の利点から食品産業、エタノール生産、動物飼料に使用されています。動物飼料に最も使用される酵母株はSaccharomyces cerevisiaeであり、Phaffia rhodozyma(紅麹)はほとんど使用されません。酵母製品は、生きた酵母(DFM添加剤として)、酵母細胞壁抽出物、またはその両方の組み合わせとして添加されます。酵母は発酵により、基質(炭素および窒素源)を二酸化炭素、エタノール、酵母細胞内容物に変換します。

 発酵酵母細胞培養物はビタミンB、β-グルカン、α-マンナン多糖類、微生物タンパク質を含み、動物のタンパク質源として役立ちます。酵母細胞壁抽出物は主にβ-グルカンとα-マンナン多糖類からなり、離乳豚の免疫システムと胃腸の健康を改善するプレバイオティクス効果を示しています。マンナンオリゴ糖(MOS)はマンナン多糖類の側鎖であり、離乳豚の微生物叢と腸の形態に良い影響を与えることから、抗菌性飼料添加物として広く研究されています。さらに、MOSは病原体と結合することで病原体のコロニー形成を抑制し、絨毛の高さ:陰窩の深さの比を増加させることで腸の形態を改善します。

銅 Copper (Cu)

 銅は、酸化還元反応、酸素と電子の輸送、酸化ストレスからの保護に関与するいくつかの金属酵素に不可欠な微量ミネラルです。薬理学的レベルの銅の給与は、離乳期および成長期の豚の成長促進効果を示しています。離乳期および子豚期の豚において、下痢の頻度を減少させ、飼料効率を向上させることによる成長促進効果が示されています。

 これらの改善は、Cuが脂質の消化と代謝に関与する酵素(リパーゼ、ホスホリパーゼ A、リポ蛋白質リパーゼ)に対する銅の作用によるものと考えられます。銅はまた、静菌性および殺菌性を示し、離乳豚の微生物叢、消化管構造、免疫状態を改善します。しかし、銅は要求量を超えて給与すると肝臓やその他の臓器に蓄積するため、豚の飼料に 250 mg/kg 以上給与する場合には毒性が懸念されます。過剰レベルの Cu を給与すると、豚に溶血と臓器障害が発生したと報告されています。

 

亜鉛 Zinc (Zn)

 亜鉛は動物の成長と発育に重要な金属酵素を構成する必須の微量ミネラルです。高濃度(1500~4000 mg/kg)の飼料用酸化亜鉛(ZnO)は、離乳豚の成長促進用飼料添加物として、成長成績と胃腸の健康状態を改善するために広く使用されてきています。しかし、酸化亜鉛の成長促進効果のメカニズムはまだ完全には解明されていません。酸化亜鉛は腸内のイオン分泌を調整し、炎症反応を抑え、微生物叢を安定化させ、病原体の付着を防ぎ、胃腸の構造を改善する可能性があります。なお子豚・肥育豚の場合、高濃度の亜鉛含有(100mg/kg以上)が成長促進効果をもたらすかどうかも不明です。

ベタイン Betain

 ベタインはグリシンのトリメチル誘導体で、動植物に広く存在します。コリンやメチオニンと共にメチル基の供与体として機能し、カルニチン、クレアチン、メチル化アミノ酸の合成に一役買っています。また、ホモシステインからのメチオニンの再メチル化のために炭素分子を提供することによって、メチオニンの代謝を改善することができます。

 豚の場合、ベタインを補給すると血清成長ホルモン(GH)とインスリン様成長因子1(IGF-1)が増加し、タンパク質合成と肥育成績が向上する可能性があります。

 ベタインを補給することで、エネルギー利用が改善し、成長成績が向上する可能性もあります。肉質に関しては、ベタインは筋肉中の脂肪酸の取り込みと酸化を担う遺伝子を制御するため、豚の体脂肪率を低下させ、筋肉中の遊離脂肪酸濃度を変化させます。ベタインはまた、屠畜後の嫌気性解糖を遅らせ、筋肉の pH、豚肉の色、保水力に影響を及ぼすことができます。

クロミウム Chromium Cr

 クロミウムは、エネルギー代謝、タンパク質生成、脂肪沈着を調節するいくつかの酵素(アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ、チロシンキナーゼなど)やホルモン(IGF-1、トリヨードサイロニンなど)に影響を与えます。Crの主な作用機序は、細胞膜上のレセプターとインスリンとの結合を促進することによってインスリンの作用を増強することで、これによってグルコーストランスポーター4型の細胞膜への移動が増加するため、これらの細胞のグルコース利用が改善されます。筋肉細胞では、Crはグルコースとアミノ酸の取り込みを増加させ、赤肉を増加させ、脂肪沈着を減少させるエネルギー代謝を改善します。従ってCrは肥育豚の飼料効率と枝肉特性を改善する可能性があります。

CLA共役リノール酸 Conjugated Linoleic Acid

 共役リノール酸は、リノール酸の幾何異性体である18個の炭素原子構造を持つ脂肪酸の総称です。これらの脂肪酸は、9位と11位、または10位と12位のいずれかにシス型またはトランス型の二重結合を2つ持ちます。共役リノール酸は、脂肪細胞へのグルコースの侵入を阻害し、脂肪酸の異化に影響を与える核転写因子や酵素の活性を増加させることにより、脂質代謝において重要な役割を果たします。 これらの効果は脂肪生成を減少させ、β酸化を通じて脂肪分解を促進します。

LカルニチンL-carnitine

 L-カルニチンは、長鎖脂肪酸をミトコンドリアのマトリックスに輸送する必須分子であり、脂肪酸はβ酸化によりエネルギー産生のために酸化されます。L-カルニチンはまた、解糖系と糖代謝系の重要な主要酵素を制御することによって、エネルギー産生を促進することができます。しかし、一般的に動物飼料に使用される植物(トウモロコシや大豆など)には、L-カルニチンの濃度が低いのです。

 豚は内因性のL-カルニチンを産生することができるが、その産生量は豚の微量栄養素の状態に影響され、状況によっては内因性の産生量や腎吸収量が必要量を満たさないことがあります。このような理由から、豚用飼料にL-カルニチンを添加することで、成績および枝肉特性を改善できる可能性があるとして、多くの研究が行われています。

酵素 Enzymes, Carbohydrases, Proteases, Phytases

  豚の内因性消化酵素は様々な飼料物質(例、繊維質やフィチン酸塩)を完全に消化することができないため、さらに難消化性の繊維質は栄養素を取り込んだり、消化に悪影響を及ぼすことがあります。そのため消化を改善するために酵素を飼料に配合します。

 炭水化物分解酵素(Carb ohydrasesキシラナーゼ、グルカナーゼ、マンナナーゼなど)は、植物性原料の難消化性非デンプン性多糖類(細胞壁および繊維)を分解し、これまで利用できなかった栄養素を放出することができます。さらに、この分解プロセスの産物は腸の健康に役立つ可能性があります。

  プロテアーゼは飼料タンパク質の分解を助け、利用率を向上させ、大腸や糞尿中の過剰タンパク質を減少させます。

  フィターゼは食餌性フィチン酸塩を分解し、フィチン酸結合を遊離させます。さらに、食餌性フィチン酸塩が他の栄養素(エネ ルギー、アミノ酸)、ミネラルなど)に及ぼす悪影響を軽減することで、他の栄養素の 消化率も改善する可能性があります。

 異なる酵素をブレンドしてマルチ酵素コンプレックスにすることは、酵素メカニズムが異なるため、その利点を組み合わせることを意図して一般的に行われています。

Raoらによる豚用の飼料添加剤に関する402報の科学論文の総説(2023年)の結論は以下です。以下にADGと飼料効率のサマリーも。夏場対策にはADGに効果あるものを。

  • 酸味料 (有機酸)、ベタイン、CLA、L-カルニチン、および酵母は、飼料効率に対してはプラス効果(2.5~3.5%)あり

  • 酸味料(安息香酸やその他)は、ADGおよび飼料効率を改善する可能性あり

  • 精油はADGおよび飼料効率を改善する可能性あり、ただし米国のデータがないので地域差あり

  • ベタイン、Cr、CLA、L-カルニチンは、脂質およびエネルギー代謝に影響を与えるため、枝肉特性を改善する可能性あり

  • 自農場での対照比較試験を実施し、コスパを常に検討する必要あり

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農場での比較試験の実践

 自農場で使用しているまたは使用予定の飼料や添加剤を評価するために、自農場での比較試験を季節ごとに行うことは重要です。米国ネブラスカ大学の名誉教授のDr. D. Reese (栄養学専門, National Hog Farmer) の農場比較試験での助言は以下です。

  • 同時期にコントロール(対照区)とテスト区を設けること。対照区がない試験は意味ありません。よく現場で見られる、時期を違えてテスト区と対照区の前後で比較するのは、季節や時間経過という大バイアスがあるので間違いです。

  • テスト区と対照区は体重を同じに、雌豚と去勢豚を同数に。対照区に特別よい豚、またはよくない豚を割付けないようにしてください。各区は同条件、無作為の割付け、十分がペン数が科学的大前提です。

  • 離乳豚の場合は、由来の母豚(産次, 種豚ライン)も同様に

 ペン数は区当り6,12、43ペン(下記表)を平均増体量ADGや飼料要求率FCRでの期待改善割合に即して準備。このペン数は改善割合で95%統計的有意差がでるためです。改善割合が高いほど、ペン数は少なくて済みます。飼料や添加剤では30%などの大きな改善は見込めないので、ペン数が必要です。ペン当りの豚数は5~29頭

 もし1回の試験でそのペン数が用意できない場合は、対照区とテスト区を含んで2回、3回と時期をずらして同様な試験を繰り返します。必ずその時には対照区とテスト区を含んでいる必要があります。決して、テスト区だけまたは対照区だけで実施してはなりません。時間の経過によるバイアスを防ぐためです。

​もっと詳しくは大学HPで、 http://www.ianrpubs.unl.edu/epublic/live/ec270/build/ec270.pdf.

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