養豚経営情報
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子豚のような好奇心と行動力、そして成長力を目指しています。こぶたの学校長・纐纈雄三
SECTION VI: カビ毒と中毒、微量栄養素の欠乏と過多、中毒
Nutritional diseases, toxicoses, and poisonings
Mycotoxicoses: カビ毒 米国アイオワ州立大学のHPを参考にしています。
ほとんでのカビ毒で、高い効果のある治療法は少ない。カビ毒を含むと疑われる飼料や原料は、給餌するべきでない。大量にある場合は、他のもので薄めて濃度を障害発生レベル以下にする。最近では、吸着剤(バインダー)を使う方法もある。しかし吸着剤という大きな投資を行う場合は、費用とその効果の有効性と、使う飼料への適性を考慮すべきである。
Aflatoxicosis:アフラトキシン中毒; ピーナッツ、コーンや小麦などの穀物で発生するカビからの毒、哺乳豚や離乳子豚が感受性が高い、母豚がカビ毒を摂取した場合に乳を介して哺乳豚に摂取される、死ぬこともある。肝臓に障害、飼料摂取量・増体量・飼料効率が低下。このカビ毒は免疫抑制作用があるので、2次的な病気が発生。急性な症状は稀で、ゆっくりと慢性的に進行。肝臓障害や黄疸、突然死もある。飼料中に毒素300 ppb以上で慢性症状、1000 ppbを超えると急性症状になる。血清からの肝機能検査も有効。病理鑑定で肝臓細胞の異常が見つけられる。 なお本カビ毒は、人に発がん性あり。
Ergotism:麦角菌毒; 牧草や穀物とくにライ麦、オーツ麦や小麦で発生するカビからのアルカイド毒。低濃度摂取では増体量が低下、高濃度では、血液が少なくなることによる壊死が、尾や耳や蹄で起こる。症状は冬にひどくなる。肥育豚は成長遅延、妊娠豚では乳腺発達が未熟となり、分娩子豚数の減少、分娩子豚の体重減少、さらに分娩後では強い泌乳障害が起こす。催乳ホルモン(プロラクチン)分泌を抑制するためと言われている。飼料や飼料原料から顕微鏡検査で麦角の菌が見つけられ、ラボ検査でアルカイドが検出できる。
Fumonisin Toxicosis フモニシン中毒; 主に肥育豚と種豚、急性では呼吸器病症状や呼吸困難を起こし、4-10日で死亡、生き残った妊娠豚では流産し、生き残った肥育豚は肝臓障害から黄疸などを起こす。摂取した量に比例して症状が重くなる。なお本カビ毒は、人に発がん性あり。
Trichothecene Toxicoses:トリコテセン中毒; 特定のカビ種からの毒。全年齢、細胞障害性と免疫抑制作用あり、多唾液、飼料を食べ残す、嘔吐。長期の摂取での慢性症状では麻痺や発作を起こす。胃腸炎、出血性下痢、皮膚炎や壊死もあり。
Deoxynivalenol (DON, vomitoxin): 嘔吐毒DON(仮称); コーンと小麦で発生するカビからの毒。嘔吐毒という名前であるが、豚はそれほど食べないので嘔吐までしない。食欲低下が主なサイン。
T-2 toxin:T2トキシン; 単独でもアフラトキンとの混合中毒で、鼻や唇付近や包皮の皮膚の壊死。
Zearalenone (F-2):ゼアラレノン;特定のカビ種からの毒。カビのついたコーン、立ち枯れしているコーン、他の穀物、ペレットの穀物などにカビが存在。特に性成熟前の若雌豚に卵胞ホルモン様作用、外陰部発赤や乳腺の発達。膣の膨張や、しぶり腹からの直腸脱を起こすこともある。授乳豚がこのカビ毒を食べると、母乳を通して哺乳豚に卵胞ホルモン様の作用で、雌子豚に外陰部が膨大する。性周期中の黄体期の雌豚がこの毒を摂取すると、黄体刺激性の働きがあり、無発情や偽妊娠を起こす。交配後7-10日の着床時期にこのカビ毒を食べると分娩子豚数が少なくなる。若い種雄豚がこのカビ毒を多食すると、性欲減退、精巣の縮小、包皮の膨張などを起こす場合あり。
Nutritional deficiencies and excesses:栄養素の欠乏症と過多症 米国アイオワ州立大学のHPを参考にしました。
現在の米国農場では栄養欠乏や過多による病気はめったに起こらない。起こった場合でも配合設計のミスよりは、配合のミスや飼料製造での品質コントロールの問題、不適切な場所での長期保存である場合が多い。なお短期でも長期でも栄養の欠乏症と過多症は、他の病気などのリスク因子にもなる。変わった病気の発生が起こった場合が、栄養的なのものにも目を向けるべきである。またビタミンとミネラルは飼料含有量が少ないので、飼料検査時のサンプリングの大きなバラツキに注意すべきである。
Iodine Deficiency (Goiter):ヨウ素欠乏症(甲状腺腫);甲状腺の肥大は豚で時に起こる。それは妊娠豚のヨウ素欠乏や、甲状腺ホルモン生産に遺伝的問題のある母豚、甲状腺腫誘発物質(植物、薬物、化学物質)を摂取した妊娠豚、または過剰なヨウ素を摂取した母豚からのヨウ素の毒性によっておこる。米国のヨウ素欠乏の地区で飼料にヨウ素を含む塩が含まれていないときに起こる。ヨウ素欠乏は、虚弱な新生豚、体毛のない死産子豚で、時に身体前部での浮腫で異常皮膚がある。また舌が口からでている場合もある。子豚では甲状腺肥大は見た眼ではわからないが、蝕知できる場合や、剖検でわかる。成長した豚ではヨウ素欠乏は大きな問題にならない。ただ妊娠豚で妊娠期間が7日ぐらいまで延長する場合がある。Control:ヨウ素を含む塩を飼料に使用することで予防できる。
Iron and/or Copper Deficiency Anemia:鉄・銅の欠乏貧血;新生子豚は体内の鉄の貯蔵が少なく、初乳や乳にも、子豚の日当り鉄分要求量の15-50%と少ない。哺乳豚は急速に大きくなっていく身体と血量で、鉄分を給与しなければ貧血になりやすい。さらに少量の銅が、身体での鉄使用に必須である。そのため銅の欠乏は貧血となる。鉄を給与されていない豚は、1週齢で貧血になりやすい。3-4週齢で貧血の離乳豚で呼吸が早くなること、突然死もある。鉄欠乏の豚は、病気や寒冷への抵抗性が減少。Control:生後2-3日以内に鉄剤給与(100-200 mg)。デキストラン鉄の首付近への肌肉注射が一般的である。なぜモモ部でなく首付近かというと、肥育豚として出荷された時に、高価に販売されるモモ肉に傷が残っていることを防ぐためである。口からの投与法は効果的だが、確実に全頭に適切な量を投与できるか不確かさがある。なお鉄分の過剰投与では鉄中毒で急死する場合あり。とくにビタミンEやセレニウム不足の場合は鉄中毒になりやすい。また銅中毒は飼料製造のミスで起こりやすい。
Zinc Deficiency: 亜鉛欠乏症; 皮膚の不全角化症(目、耳、鼻、尾など)が、主に2から4か月齢の豚に起こる、この欠乏症は、以下のアンバランスな飼料で起こる:カルシウム過剰、フィチン酸過剰(フィチン酸は大豆ミールに多い場合あり)や、必須脂肪酸不足。これは亜鉛の有効率を下げる。なお角化不全症は過剰にカルシウムを摂取した場合に起こりやすい。腸病原体や腸内フローラの変化も亜鉛の吸収に影響する。不全角化症では成長も遅れる。なお特徴病変として舌の不全角化がある。疥癬との違いの診断が必要。飼料の配合設計が進んでいる現在の米国農場ではめったに起こらない。
Calcium, Phosphorus and Vitamin D: カルシウム・リン・ビタミンD欠乏症と過多症 (くる病と骨軟化症); くる病は若い成長期の豚でおこり、カルシウム・リン・ビタミンDの欠乏または利用の不全またはアンバランスで起こる。主に飼料中のビタミンDまたはリンの欠乏で起こる。成長遅延、骨端肥大、四肢障害がでる。
骨軟化症は成長した骨の障害。多産子系の母豚で、泌乳量の多さからくるミネラル要求量が身体に貯蔵されているミネラル量で満たせない時に起こりやすい。若雌種豚では妊娠前で起こりやすく、母豚では骨格形成が未完成で、十分なミネラルの貯蔵する時間がない時の初産後にも起こりやすい。骨軟化症では哺乳中や離乳直後や交配期に骨折が起こる。四肢障害、横臥姿勢多い、骨折、四肢麻痺がおこる。
Control: カルシウム・リン・ビタミンDのバランスの取れた飼料給与が必須。くる病と骨軟化症の治療はあまり効果なし。なおビタミンD添加が多すぎることによる過剰症もある。その場合には腎臓、胃、肺などで組織にミネラル沈着が起こる。
Other Vitamins: 他の脂溶性ビタミン欠乏症と過多症;ビタミンA欠乏症では、胎子や子豚の成長不全、過剰症では骨形成不全や歩き方がおかしくなった症例が報告されている。ビタミンK欠乏症では出血が起こる。ビタミンB群にはB1、B2、B3(ナイアシン)、B5(パントテン酸)、B6(ピリドキシン)、B7(ビオチン)、B9(葉酸)とB12(コバラミン)がある。B1欠乏では灰白髄脳障害、B12欠乏では貧血、その他では歩き方がおかしくなるなどが報告されている。欠乏症は飼料配合時のミス、不適切な場所での長期の保存により起こる。 過剰症はほとんどない。
元素やミネラルの毒性 米国養豚獣医師会マニュアルを参考にしました。
Arsenic:ヒ素中毒;豚が無機ヒ素100 mg以上/体重kgを摂取した場合は、激しい出血性胃腸炎を起こす。有機ヒ素の毒性は無機ヒ素と違っている。米国では昔、豚赤痢の治療に使用していたが、今では使用していない。有機ヒ素の慢性中毒の症状はガチョウ歩き、後肢の失調、四肢マヒ、視覚障害を起こす。
Cupper, Iron, Selenium and Zinc: 銅・鉄・セレニウム・亜鉛の中毒;銅は成長促進剤として使用されてきた。飼料中に4000 ppm を超えたり、水や注射で大量に摂取した場合に亜鉛中毒となる。銅の過多は貧血やヘモグロビン尿症を起こし、二次的に腎障害を起こす。
鉄の過多は、過剰投与で起こる。摂取してから2-3時間以内で過呼吸や心血管系の虚脱を起こす。豚では、ビタミンE欠乏では鉄中毒のリスクが上がる。
急性セレニウム中毒では、脊髄の灰白髄障害から後肢マヒが起こる。過剰なセレニウム注射は心血管系の虚脱から死亡。慢性の過多では毛ロス、マヒ、蹄の爪部がはがれる。治療法はない。離乳豚の中毒は飼料配合のミスで起こりやすい。
亜鉛も酸化亜鉛として離乳豚の健康や成長のために飼料に添加されている。他の亜鉛の過多は陽イオンの吸収を阻害し、関節炎や胃腸の出血を起こす。環境汚染の観点から使用中止の動きあり。
Lead and Mercury: 鉛・水銀の中毒;豚は血液中での高濃度の鉛レベルでも症状を示さない。鉛の過多の飼料を給餌された豚からの豚肉は食用に不適。水銀の過多は胃腸炎や神経症状を起こす。
Selenium: セレニウム中毒; 飼料配合時のミスや土壌のセレニウムが多い場所で起こりやすい。被毛のロス、蹄の外皮が取れたりする。急性では後肢マヒが起こる。
Sodium Ion intoxication (salt poisoning or water deprivation): ナトリウムイオン中毒(食塩中毒または水分欠乏);豚の食塩中毒は、断水や凍結などで水が断たれた場合や、大量の食塩摂取の場合に起こる。中毒は、断水の場合に、たとえ飼料中に適性レベルであっても発生する。断水は水道管の凍結や、飲水器の目詰まり、さらに水道栓を締めるミスなど断水は、人のエラーでも起こる。また水なしでの長時間の豚運搬した後の制限なしの水給与や、大量の食塩摂取、大量のホエイ摂取でも起こる。症状は、急性大脳浮腫により、ウロウロする、眼が見えない、犬座姿勢で鼻をあげたり下げたり、肢でペダル漕ぎなどを示す。治療として、少しずつ水をあたえることで死亡率が下がる。中毒症状を示した豚は治療しても助からない。