養豚経営情報
養豚アカデミー
Pig School for Professionals
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日本の養豚アカデミーとして産業界のプロフェッショナル達のための海外・国内の情報と独自コンテンツを持つウェブサイト
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経営管理を中心とした8本柱:経営・繁殖・栄養・施設と設備・種豚と遺伝・健康・福祉・食の安全とSDGsの下に36コンテンツ
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スマホでは画面右上の黄緑色モバイルメニューをクリックすると8本柱とその下タブあわせて37分野が一覧できます
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子豚のような好奇心と行動力、そして成長力を目指しています。こぶたの学校長・纐纈雄三
プロフェッショナルとしてポジティブな農場文化を
米国ポーク生産者協議会(NPB)では、スタッフのプロ意識を刺激・インスパイアして、ポジティブなバーンカルチャー(農場文化: Barn-culture; 認め合い助け合う職場環境の伝統)を創造することを薦めています。そのためにスタッフの技術訓練・能力開発をし、永年勤務するのに役立つツールを紹介しています。下写真は以下NPBサイトから https://lms.pork.org/Tools/View/barn-culture
ここでいう農場文化とは、動物を飼育する上での伝統・雰囲気ムード・職場環境・コミュニケーション・農場の空気のことです。
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仕事の満足度・働きがい
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よい社員をキープ
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パフォーマンス評価
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よい人を選ぶ
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離職者への対応
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付録、米国社員パフォーマンス管理と個人面談例
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付録、新人研修
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付録、米国の行動規範
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付録、「私達は大切にします(We Care®)」の倫理原則
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付録、米国の標準作業手順(SOP)の項目
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NPB労働力調査「どの部署で離職は多いのか
仕事の満足度を上げる
農業経営にとって最も貴重な資源は、信頼でき、生産性の高い従業員です。農場経営者またはオーナーとして農場のチームのために最高の従業員を魅了し、維持する必要があります。
給料と福利厚生パッケージ
地元で競争力のある賃金と福利厚生のパッケージを提供する必要があります。米国では、熱意があり、勤勉な人材に低賃金を支払う時代は終わりました。とくに地元の小売業者やチェーン店は、エントリーレベルの従業員獲得には、農場と直接の競争相手ですから、他の業者の賃金にも注意を払いましょう。そして従業員や潜在的な従業員に、住宅や農畜産物の供給、労働時間の柔軟性、家族のために日中休めること、農機具の使用などを認識させましょう。
「満足度」と評価
「満足度」の重要な要素として、米国では「評価」が繰り返し登場します。よくやったと認められれば、誇りを持つことができます。特に農場全体の運営に関わることで、帰属意識とチームワークの一員であるという意識が生まれます。
例えば「あなたは今日、雌豚の施設で良い仕事をしました 」はさらに「あなたは今日母豚に良い仕事をした、あなたの丁寧な方法は、分娩子豚数を増やすでしょう」と評価することはいい表現です。
その他にも、良い労働条件には様々なものがあります。例えば農場での役職を示す最新の組織図があることは重要です。これは、全員に自分の立場と責任を示すものです。全従業員がこの図に記載されていることで、自分がどこに位置し、誰に報告するのかが明確になります。
スタッフへの感謝は、スタッフの忠誠心を高めることにつながります。比較的小さな費用で 大きな利益をもたらすことができます。農場経営では、「今月の最優秀従業員」、農場のニュースレターやウェブサイトへの掲載など、より正式な表彰制度を設けることができます。さらに、米国ではいつもより忙しいときには、コーヒーやサンドイッチ、冷たい飲み物を差し入れするのもよく実施されています。冷蔵庫に冷たい飲み物を常備したり、夏場には棒状のアイスクリームを用意するのもよいでしょう。さらにスタッフに 「ファーム Tシャツや帽子」を支給し、家族分も注文しておきましょう。ちょっとした工夫で、スタッフに感謝の気持ちを伝えることができます。
スタッフのために仕事をデザインする
面白くない仕事はトラブルのもとです。スタッフの興味・関心を考えて、仕事をデザインすることは経営者・管理職の仕事です。
経営者・管理職はまず、達成しなければならない課題を考慮する必要があります。また、個人が仕事に何を求めているか 個人は何を望んでいるのか。仕事内容を少し変えるだけで、仕事に対する考え方が大きく変わることがあります。完璧な仕事はないという事実を克服することはできませんが、上司と担当の間でオープンなコミュニケーションをとることで、スタッフが自分のポジションの長所と短所を認識するのに役立ちます。さらに また、コミュニケーションをとることで、経営者・管理職はスタッフがそのポジションに何を求めているのかが見えてきます。その結果、一人ひとりに合った仕事のデザインができるようになります。
以下の各項目は、よく言われるスタッフの不満に応えるものです。
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1日と1週間の労働時間が適正であること
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修理が行き届いている適切な設備と施設
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明るく、換気のよい農場
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研修
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勤務時間のスケジュールにある程度の柔軟性があること
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経営者またはオーナーとの定期的なコミュニケーション
スタッフのやる気を引き出す仕事デザイン
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スタッフがさまざまなスキルを発揮できるようデザインする
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スタッフが可能な限り総合的な仕事ができるようにデザインする
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スタッフが自分の仕事の重要性を理解できるようにデザインする
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一人ひとりが責任、挑戦、自由、創造性を発揮できるようにデザインする
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スタッフの提案や苦情の箱を用意し、それを読む
なお部下へのフィードバックを管理職の仕事の一部とするべきです。米国ではスタッフが上司とのコミュニケーションが多すぎると不満を言うことはほとんどなく、彼らはしばしば、より多くのコミュニケーションを望んでいます。
チームワークとチームとして機能
私たちはチームであると言うのは簡単です。しかし実際にチームとして機能させるのは難しいものです。スタッフにチームや農場が重要であると感じてもらうには、時間がかかります。それは、経営者がスタッフをどう見ているかということから始まることが多いのです。
スタッフがワーキング・マネージャーである場合、農場運営に携わる各人に作業を改善するためのアイデアを示唆できます。自分の仕事以外のことを理解できない人たちでも 自分の仕事を超えて農場のことをあまり理解できない人でも、自分の仕事をより良くする方法についてアイデアを持っているかもしれません。しかし自分が農場全体の重要な一員であることを自覚していないスタッフは、有益な提案が頭の中に隠れてしまうことが多いのです。
チームとして機能することを重視することが大切です。チームとしての機能は、「チーム化」、「対立」、「合意」、「実行」という4つの段階を経て働きだします。
チーム化のステージは 、1)スタッフがお互いを知り、2)信頼するようになる、3)農場の目標に向かうようになる、4)アイデア交換を始めるようになります。新入社員が入ってくる場合は、特にこのチーム化の段階が重要です。
「対立」はオープンな意見の相違、相反するアイデアの表面化の段階です。管理職は、意見の相違をオープンにし、議論して解決するという課題に直面します。隠れた意見の相違は、チームの信頼と成長を妨げます。
対立を解決することで「合意」が生まれ、チームの同意と結束が生まれます。この段階までに各メンバーの役割は明らかになります。
「実行」ステージで、チームはうまく機能するようになります。チームは、農場経営全体の利益のために問題を解決できます。
チームメンバーの入れ替わりが激しいと、チームは前進の前の段階に戻り、再形成を余儀なくされます。時には、チーム化の初期段階まで後退することもあります。明らかに、短期間で再形成を繰り返すことは、長期在籍しているスタッフの満足度に悪影響を及ぼします。そして従業員満足度と従業員の離職率は密接に関係しているのです。
<注意>経営者は、チーム形成に貢献したスタッフに報酬を与えることで、チーム形成への献身を短期的に向上させることができます。しかし個人的な努力にのみ報酬を与えることは、農場がチームではなく個人の集まりであるという強いシグナルを従業員に送ることになります。経営者は、「私たちはチームです」と言いながら、従業員が自分の利益を第一に考えるように仕向けることは避けなければなりません。
農場のよいイメージ
人の評判は非常に個人的なものです。良いことは、地元での評判は経営者それぞれが「所有」しているのです。良い農場で働いているという評判は、従業員にとって採用されたことの誇りとなります。
経営者として、労働条件が快適であること、職場雰囲気が良いことを常に確認する必要があります。職場環境を整え 清潔なトイレや休憩室など、従業員のニーズを満たすような職場環境を整えましょう。
機器を清潔に保ち、正常に動作するようにすることは、スタッフの喜びと生産性を高め、安全性を重視していることが伝わります。
農場スタッフでよくあるのが、「上司が自分の仕事をどう思っているかわからない」という不満です。うまくいった人をほめ 、農場の成功にとっていかに重要であるかを伝えましょう。助けが必要な人には、再教育とコーチングを行います。そして正しいことは必ず褒めること。スタッフが正しいことを行っているのを見つけては、具体的に褒めることを習慣にしましょう。
農場のポジティブなイメージを築くには、以下のような戦略、方針、実践を考慮する必要があります。これらのうちいくつかは の項目は、前述の仕事デザインやチーム機能と重複しています。
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明確かつ頻繁にコミュニケーションをとる
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スタッフを評価する
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正しいことをする人を見つける
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信頼を示す、それを実証する
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成功を祝う
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プライドを育てる
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トレーニングおよび担当を交換する研修
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公正な報酬を与える
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福利厚生を増やす
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農場内側から育て昇進させる
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スタッフの昇進に誇りを持つ
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スタッフの家族に対してもやさしい農場にする
「満足度」のまとめ
どの農場にも、農場の成功のために尽力する質の高いスタッフが必要です。農場全体の成功は、スタッフの成功と密接に関係しています。
スタッフの離職率、有能な応募者の不足、ただ生きていくことに満足しているように見える人々、労働力不足、一部従業員の自己中心的言動などは、多くの米国経営者が慢性的に感じていることです。農場を魅力的な職場にすることは、こうした不満を解消し、質の高い満足度の高いスタッフを作ることにつながります。
よいスタッフをキープするには
意欲・やりがいを向上させる方法を見出すことが重要です。農場の経営者は、以下のステップを踏んで、自農場に最も合うようにカスタマイズすることで、優秀なスタッフがキャリアを通じて働き続けたいと思うような雇用者になることができます。
1. ポジティブな職場環境づくり
スタッフが幸せに働くためには、前向きで楽しい職場環境を作ることです。幸せなスタッフは、管理するのが楽しいだけでなく、彼らは顧客や他のスタッフともっと快適に、かつもっと辛抱強く仕事ができるようになります。
ポジティブな職場環境とは、さまざまなことを意味し、一人ひとりにとって異なるものです。しかし 給料以外の良さは、士気の向上や離職率の低下につながります。
農畜産業では、スタッフに一斉休みを与えることは難しい。週末や休日にも、豚への給餌や健康チェック、後片付けをしなければならないからです。しかし、仕事のピーク時を外し、ローテーションで休暇を取るようにすれば可能です。多くのスタッフが家庭と仕事の両立に悩んでいるため、休暇は大きな士気高揚につながります。
さらに、たとえ小さなことであっても、家族の問題を支援することで、スタッフは自分が重要な存在であると感じることができます。可能であれば、施設内または託児所への補助を提供することは、社員の士気を高めるのに非常に有効です。それが難しい場合は、近隣の質の高い保育施設を紹介することも、親にとってプラスになります。さらに、病気の子どもを医者に連れて行く、子どもの学校行事に参加するために数時間仕事を休むなど、保護者の義務を果たす時間を確保することで、ポジティブな職場環境を作ることができます。
また、米国ではコーヒーやソフトドリンクを飲みながら一息つける休憩室も、明るい職場作りに欠かせません。スタッフは自分の好きなものを持ち込むこともでき、冷蔵庫にストックしたり、さらに安価な無料スナックを用意したりすることも検討すべきです。
毎週または毎月、無料の朝食や手作りデザートを提供する日を設けると、普通の休憩スペースを、同僚とおしゃべりをしたり、仕事に戻る前にエネルギー補給をしたりできる快適な環境に変えることができます。
2. 努力を認める
優秀な人材をキープするための最も強力な手段は、個人的な評価と心からの感謝です。スタッフは、経営者がよくやったと気づいていることを知りたがります。承認は積極的な強化であり、同じ行動を繰り返させることです。よくやったという感謝の気持ちを表すには、さまざまな方法があります。例えば、米国では以下のような方法があります:礼状や特別なメモ;月間最優秀従業員賞プログラム;公的な賞賛。
お金は外的で短期的な動機づけです。一方、自己肯定感(自尊心)は内的なもので、永遠に続くものです。自尊心と意欲は、評価されることで向上しますが、さらに昇進し責任を負うことで、スタッフはさらなる達成感と自己の成長を実感することができます。認識された良い行いは、繰り返し行われる可能性が高いことを覚えておくことが重要です。
3. 全員を巻き込む
これは多くの経営者が失敗している分野です。スタッフが自分の考えを表現し、自分の仕事に影響を与える意思決定にインパクトを与えられるようにすることで、 スタッフは、農場の仕事に関与し、自分は重要であると感じることができます。そういうスタッフは、それ以上のことをする可能性が高く、その結果、農場の生産性と利益を向上させることができます。
全員を巻き込む方法のひとつに、一般的なアイデア募集や、今後の課題に特化したアイデアを募集することがあります。これは、スタッフと1対1で話すことでも、グループで話すことでも、あるいは匿名の意見箱でも可能です。スタッフには、提案することを奨励し、上司に話す、電子メールを送るなど、提案方法を伝える必要があります。
4. 従業員の育成・成長
よく教育されたスタッフは、より有能で、より積極的に自分の仕事をコントロールすることができます。そのため、管理職や経営者は他の業務に専念することができます。
米国では、大学講座の受講料払い戻し制度、ワークショップ、豚肉生産に関連する会議や研修に出席するために、スタッフに数日間の休暇を与えるなどがあります。
さらに、45~60分の「無料昼食セミナー」プログラムも、わずかな費用でスタッフの能力開発を行うことができるので、米国では非常に人気の高い手段です。最も人気があるセミナーは、専門知識、マネジメント、自己啓発に関するものです。例えば、以下のようなものがあります。
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職場の対立を解決する方法
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リーダーシップのスキル
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時間、優先順位、締め切りの管理
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プロジェクトマネジメントの基本
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多様性の尊重
5. 満足度の評価
スタッフの士気を維持するために、優れた経営者はスタッフの満足度を測る公式な評価を行います。この評価は定期的に行い、公平な結果を得るためには、秘密保持と匿名性を確保することが必要です。
また、退職者の面接による総括的な評価も検討すべきです。退職する社員は、退職のきっかけとなった問題を明らかにすることがあります。どちらの評価も、従業員満足度の向上に向けて有効です。満足度の向上に向けて前進することができます。
6. スタッフの勤務初日に備える
仕事の満足度は、初日から始まります。経営者は、スタッフの勤務初日を計画することで、満足のいく、そしてできれば長期的なポジションとなるための基準を設定することになります。新入スタッフの初日を迎えるにあたり、以下4つの基本的なステップを踏む必要があります。
1)新入スタッフが到着したことを知らせるため、他の従業員に新入社員の入社日を知らせ、新しいチームメンバーについて少し説明する。これは、全社的な電子メールや口頭での発表で行うことができます。
2)仕事場を準備する。例えば電話やコンピューターなどの事務機器を使用する場合は、従業員が到着する前に、それらの機器が利用できるようにするべきです。ボイスメール、コンピュータシステム、電子メールシステムのパスワードは、従業員が到着した際に 初日に従業員に伝えれるようにするとよいでしょう。
3)研修スケジュールと最初の配属先を用意します。新入スタッフは、会社の歴史、理念、各部門、方針、手順などを学ぶようにします。新入スタッフは、入社後2週間の間に、いつも一緒に仕事をすることになる人たちと話すことができるようにします。また、新入スタッフは、自分のポジションに期待されることを明確にし、農場のさまざまな部門がどのように連携しているかを学ぶようにします。
4)新入スタッフの初日または1週間の勤務のためのチェックリストを作成します。チェックリストには、新入スタッフの業務への理解を促進するための活動や議論を含めることができるようにします。責任者は、どの活動が重要で、各新入社員にとって適切かを判断し、チェックリストの内容を調整する必要があります。責任者は、新入社員一人ひとりにとって重要かつ適切な活動を決定し、チェックリストとトレーニングのプロセスを個人のニーズに合わせて調整する必要があります。
7. 新人スタッフ用ハンドブック
新入スタッフは疑問でいっぱいです。ハンドブックは、優れた情報を提供し、また、他の多くの貴重な目的を果たすことができます。しかし、そしてリスクと義務が伴うことを示します。ハンドブックは、農場がどのような存在であり、何を行い、スタッフにどのような期待を抱いているかを説明する貴重なツールです。良いハンドブックには、最低限、次のような内容が含まれているべきです。
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会社の展望、使命、歴史、フィロソフィ、価値観
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雇用に関する方針
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福利厚生
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スタッフの行動と期待と不正行為
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健康、怪我、事故に関する情報
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訴訟から会社を守るための一連の免責事項
「よいスタッフをキープする」まとめ
ポジティブな勤務環境を作り、優秀なスタッフの努力を認め、様々な業務上の決定にスタッフを参加させることで スタッフの士気を高めることができます。また、スタッフの育成や仕事への満足度を評価するための手段を講じれば、養豚場の経営者は勤勉で満足度の高いスタッフ集団を維持することができます。
パフォーマンス評価(人事考課)
パフォーマンス評価とは、スタッフ一人ひとりの業績を定期的かつ包括的に調査することです。この目的は、過去の業績を評価しスタッフが自らキャリアを考え成長し、さらにパフォーマンスを向上できるようにすることです。下記の評価例を参考に、評価に先立ち、研修や業績に関する記録を収集するためのフォームが上司によって作成されるべきです。
スタッフにとってのパフォーマンス評価のメリット
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自分のパフォーマンスを全体的に見ることができ、よくやったことは評価される
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改善すべき点を明確に指示できる
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目標達成のための行動指針が明確になる
管理者と農場にとってパフォーマンス評価することの利点
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誰が評価するかにかかわらず、すべてのスタッフの業績が一貫した形式で評価される
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スタッフに対する期待値を明確に設定し、組織全体で期待値が一貫して伝達される
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上司が観察した長所と短所に基づき、スタッフに的確にフィードバックを提供できる
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上司がスタッフのパフォーマンスのギャップに対処するために適切な研修を与えるのを支援する
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上司が、スタッフの能力開発目標と業務上のニーズに対応するための適切な機会を特定できる
パフォーマンス評価例(管理職からそのスタッフへ、3点スケール:普通・よい・素晴らしい)
1)評価の目的:評価期間での最重要な目的を決める
2)パフォーマンスのための重要な特質の評価
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変化への管理/変化への受容性:必要な変化を受け入れることができる
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コミュニケーション:他人と接するとき、明確で簡潔である
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チームワーク:他者の意見を尊重し、チームの意思決定をサポートする
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動物福祉:適切なケアを行う、動物のニーズを理解している
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社内資源の使用力:サポートチームの役割と責任を理解している
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お客様とのかかわり:顧客のニーズや要求に関する知識を有している
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研修と開発:より高い価値を会社にもたらすための継続的な学習をしている
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問題解決・意思決定:問題を発見し代わりの方法を開発する
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基本と業界に関する知識:仕事に必要な方針、標準作業手順(SOP)、方法を理解、職務上期待される水準で必要な業務を遂行できる
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仕事への姿勢・倫理:バランスがとれた、帰属意識のある社員としての人格を備えている
3)パフォーマンスの改善点:前回の評価から改善が見られた点、または注意が必要な点
4)そのスタッフの強い点
5)総合スコア:1、改善余地あり、2、期待したパフォーマンス、3、期待以上
6)推奨:次の評価期間の主な目標と説明責任は何か? その優先順位は?
7)そのための計画:パフォーマンスを向上させ、専門能力の継続的な開発を支援するための計画は? パフォーマンスを向上させるために、どのような行動を取ることができるか? 助けになるような職場内活動や外部のプログラム、トレーニングはあるか?
8)評価を読んだ後のスタッフの承認のサイン
良い人を選ぶ
よい人を選ぶための応募者の面談での5点評価例(1:不充分;2:平均以下;3:平均;4:平均以上;5:卓越している)
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教育上のバックラウンド
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前職での経験:前職での経験は有用か
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技術的経験はあるか
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口頭でのコミュニケーション能力は十分か
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熱意・意欲: 応募者は会社・農場とそこで働くことにどれぐらい関心を示しているか
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会社・農場に関する知識:応募者は会社・農場にたいする調査を行ってきたか
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チーム形成/対人関係能力:応募者は、面談を通して、チーム形成や対人関係のスキルが高いことを示したか?
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主体性:応募者は高い主体性を示したか?
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時間管理 :応募者は時間管理能力があることを示したか?
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人あたり・敬意:応募者は、高いレベルでの人あたりスキルを実証したか?
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総合評価(上記の平均)
米国の養豚生産担当者募集例
ポジションの概要
繁殖、分娩、給餌、健康管理など、あらゆる面で生産に携わります。また機械、建物、畜産機器のメンテナンス業務も行います。
農場情報
3世代目の家族経営の農場です。1800 haの作物栽培と、1,400頭の母豚を飼養する養豚を営んでいます。本農場は長期雇用に定評があり、従業員の勤続年数は5~30年です。現在、事業を拡大しており、より大きな責任と昇進の機会を得たいと考えている人を求めています。
求める人
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やる気のある人
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機械が好きなこと
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人と接することが好きな人
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農作物の生産に関する経験・知識のある人
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運転免許(なくても可)
専門力向上チャンスと責任範囲
豚の生産 :豚の繁殖、給餌、豚の扱いその他の生産業務に関連した意思決定を行います。豚の管理機器の操作なども重要な仕事です。
メンテナンスと修理: 生産の繁忙期以外では、機械の修理や、畜産・生産設備の開発・保守を担当します。機械、溶接、電気などの技術を駆使して、畜産機器や生産機器の開発・メンテナンスを行います。
他の人との協働: 他のスタッフとチームを組んで働き、新しい人材を育成します。他の人と一緒に仕事をする能力は必須です。
募集方法
ある場所での集中的な採用活動は、散発的なアプローチよりも長期的に効果的です。例えば募集を一般地方紙ではなく、全国版の業界誌に集中するなどです。どのような採用手法であれ、最も効果的なツールは「働きたい会社」であることです。優れた経営者であるということは、優秀な人材を確保しやすく、かつ選ばれる雇用主になります。米国で最も実践されているのは以下の通りです。
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クチコミ
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社内の求人情報と社員紹介プログラム
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人材紹介会社
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教育機関の就職キャリア課
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就職説明会
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求人情報サイト
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新聞や雑誌の求人欄の広告
勤務の継続と離職者
離職の主な原因は報酬にあると思われがちです。確かに、競争の激しい労働市場では、報酬は重要です。しかし、米国調査では、他の原因も存在し、しかも離職する従業員は他の理由を率直に話したがらないことが多いようです。
離職率の上昇を防ぐためには、スタッフがなぜ辞めるのかを明らかにすることも重要です。多くの経営者は、ささいな仕事上の不満が原因で従業員が退職していることに驚くことがあります。離職予定者の意見はよい農場内文化の参考になる場合があります。可能な限り意見は収集すべきです。最も多いのは、次のような理由です。
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コミュニケーション不足
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やりがいのある仕事がない
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個人的・プロとしての成長の機会がない
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評価や報酬の不足
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適切なトレーニングの欠如
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自分の仕事をコントロールできない
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自分の仕事が役に立っていないと感じていた
離職者へのアンケート例
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弊社へ入社当初の目的は達成されましたか?また、その目的はどのように達成されましたか、またはどのように変化しましたか?
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弊社の仕事で成功するためのツールは与えられていましたか?
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弊社の仕事のどのような点にやりがいを感じましたか?
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勤務が続けられたかもと思うような変更点があれば提案してください
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あなたが有益だと思う変更点があれば提案してください
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満足に解決できなかった不明な点や意見の相違で、話し合いたいことはありますか?
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仕事の問題を上司に相談しやすかったですか?
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新しい展開や会社の方針について、常に最新の情報が提供されていると感じましたか?
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福利厚生制度についてお聞かせください。あなたのニーズを十分に満たしていましたか?
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あなたの報酬は、あなたの業績を評価する上で十分でしたか?
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あなたの退職理由についてお聞かせください
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もし、あなたに仕事を探している友人がいたら、当社を薦めますか?その理由またはそう思わない理由を教えてください
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新しい職場での責任について簡単に説明してください
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その他のコメントも歓迎します
付録
社員パフォーマンス管理と個人面談例
人材は最重要要な資源です。従業員の将来の成長を考慮した評価が行われるべきです。パフォーマンス管理とは途切れることのない以下の人事の基盤です。
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事業のビジョン、戦略、価値観を理解してもらう
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農場の作業をパフォーマンス指標に変換できるようになってもらう
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個人とチームの目標を計画し伝達できるようになってもらう
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リーダーとしてパフォーマンスの管理、開発、およびコーチングができるようになってもらう
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リーダーとしてパフォーマンスの測定と評価ができるようになってもらう
個人面談と評価
経営者や管理職にとって、スタッフのモチベーションを高め、生産性を向上させることは重要な仕事です。スタッフ評価は、この目的を達成するための強力なツールです。評価プロセスを継続的かつ積極的なキャリア形成の場としてとらえることで、次のことが可能になります。
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コミュニケーションを深める
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明確な期待値を設定する
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良い業績をさらに強化する
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満足のいく成果を上げる
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協力とチームワークの精神を育む
個人面談への前準備
1)様々な情報源から情報を収集する。
パフォーマンスに関する具体的な事例を準備
従業員記録/ジャーナルに各従業員についての毎月のコメント
プロジェクトや活動に関する自己評価を作成するよう従業員に依頼
同僚や他の人から意見や感想
過去に実施した評価、自己評価、その他の進捗状況
2)指摘ポイントの準備
指摘を裏付けるような従業員の行動の例を挙げて、コメントを準備。
パフォーマンス、行動、結果に焦点を当てる
その従業員の行動や言動が、どのようにビジネスに貢献したか、あるいはどのようにビジネスを支えたか、その効果を指摘する
従業員が自分の地位を向上させたり、昇進させたりするために何をすべきかを明らかにする
3)面談への下準備
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会議の準備
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ポジティブな業績評価とネガティブな業績評価のバランスをとる。褒めるだけでなく、建設的な批判をする。
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ポジティブな行動もネガティブな行動も見落とさないようにする
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問題解決に重点を置き、将来の行動に焦点を当てること
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どのような反応にも対応できるように準備し、耳を傾ける。
4)面談では
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前向きでオープン、かつコミュニケーションしやすい環境を作る
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従業員の気持ちを受け止める
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評価セッションを協力的なイベントにする
5)共通の合意に達する
新入社員への研修例
前半1-12週
初めの1-5日
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会社・農場の概要;人事関係の説明;飼育スタッフ基礎;OJT研修(実務しながらの研修)の概要;農場視察
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よい生産実践(GPP)概要;動物の取り扱い基礎;職場での安全確保;動物の運送車への乗り降ろし
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各標準作業手順の説明と農場でのOJT研修
離乳・肥育舎へ
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室温の変化の検知とアラーム法、バックアップ電気のテスト、緊急時作動のテスト
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飼料の注文法、月毎の豚舎チェックリスト、換気システム、豚への注射法、米国ポーク保証(POAプラス)の研修
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スタッフのパフォーマンス観察、パフォーマンス評価のやり方、行動プランのまとめ、次の予定説明
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死亡豚の処理:堆肥化と焼却、死亡豚の取り除き
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安楽死の方法:ボウルト法と二酸化炭素法
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研修担当者と管理職の研究進展・変更についての話し合い
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種付け・妊娠豚舎へ
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種付け・妊娠豚舎見回り、妊娠鑑定、ボディコンスコア
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種付け豚と妊娠豚への給餌法、背脂肪厚の測定と給餌量、分娩前の母豚へのフィードバック法、隔離豚舎の若雌豚へのフィードバック法
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発情発見、母豚への人工授精、精液の取り扱い、雌豚への雄豚の暴露
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繁殖豚への医療処置、繁殖豚への臀部への筋肉注射、繁殖豚への首付近部への筋肉注射、繁殖雌豚の淘汰
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動物の生産の流れ、種付け・妊娠豚舎の清掃・水洗・乾燥・消毒
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スタッフのパフォーマンス観察、パフォーマンス評価のやり方、行動プランのまとめ、次の予定説明
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研修担当者と管理職の研究進展・変更についての話し合い
13-24週
分娩舎へ
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分娩舎の見学、母豚の水洗、分娩舎への分娩予定の移動
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分娩母豚の初日処置、授乳豚への給餌、分娩誘発
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新生子豚への初日処置、去勢、陰嚢ヘルニアの治療
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断尾、子豚の安楽死法(脳挫傷法)
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離乳、里子とナース母豚、部分離乳、分娩室の清掃・水洗・乾燥・消毒
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スタッフのパフォーマンス観察、パフォーマンス評価のやり方、行動プランのまとめ、次の予定説明
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研修担当者と管理職の研究進展・変更についての話し合い
米国養豚産業界の伝統:科学を基礎とした責任ある動物ケア
米国の伝統は、科学的に健全な動物管理ガイドラインを適用することで、責任ある動物ケアをすることです。そして養豚生産者の専門的な判断と経験と訓練が、動物ケアを行う上での重要な要素です。適切なケアは、生産者その管理能力と農場環境そして豚の相互の関係をうまく働かせることにかかっています。
米国養豚生産者の行動規範 (Code of conduct)
米国生産者は、自分の農場の豚に適切な動物ケアをすることに誇りをもっています。生産者は、豚を適切にケアするための管理・飼育方法を、以下のように考えています。
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自然環境の空気や水質を守りながら、極端な天候から豚を保護し、避難するための施設を供給
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豚の安全で人道的かつ効率的な動きを可能にするよく手入れされた施設を供給
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豚は各成長段階で適切な良質の水と栄養バランスのとれた飼料を供給
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飼育スタッフは生産の各段階でよく訓練され適切なケアができ、豚の虐待や悪意ある無視は絶対しない
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飼育スタッフは飼料と水の基本的なニーズが満たされていることを確認し、病気や外傷をみつけるように観察
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獣医のアドバイスで群健康プログラムを実施
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必要なときに迅速な治療を豚に供給
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ケアや治療に応答する可能性がない病気や負傷した豚をタイムリーに安楽死させるために人道的な方法を使用
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豚群の健康を守るために適切なバイオセキュリティーを維持
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過密状態、輸送中の過密、または積み下ろし時の不適切な取り扱いによる過度のストレスを回避する輸送を行う
「私達は大切にします(We Care®)」の倫理原則
略、米国のポークの製品および業務に対して顧客・消費者および公衆からの信頼を築き、維持するために、米国生産者協議会(NPB)が決めた6つの倫理原則:食の安全、動物福祉、自然環境、公衆衛生、働く人々、コミュニティ(地域社会)への責任と義務を明らかにしたもの。
米国のポーク生産者は、自分達の製品および業務に対して顧客・消費者および公衆からの信頼を築き、維持する義務があることを認識しています。私たちは、私たちが何をし、どのように行うかに対する信頼を促進するために、以下の倫理原則を確認します。
食の安全、私たちは、安全な食品を生産する責任があります。
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安全な食品を生産するための一貫した管理方法を使用します。
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安全な食品を生産するために、群の健康状態を管理します。
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安全な食品を生産するための技術を使用します。
福祉:Animal Wellbeing(アニマルウェルビーイング)、私たちは、動物の幸福を保護し、促進する責任があります。
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私たちの動物の健康を促進する飼料、水、環境を提供します。
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豚の各ライフステージにおいて、適切なケア、取り扱い、輸送を提供します。
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豚の健康を守り、必要に応じて獣医による治療を含む適切な処置を提供します。
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病気や負傷した豚で、ケアと治療に反応しない場合、タイムリーに安楽死させるために承認された実践法を使用します。
環境、私たちは、すべての業務において自然の資源を保護する責任があります。
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糞尿を貴重な資源として管理し、大気と水質を保護する方法で使用します。
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生産施設からの空気の質を管理し、近隣住民や地域社会への影響を最小限に抑えます。
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自然の資源の質を守るための事業をします。
公衆衛生、私たちは、私たちの業務が公衆衛生を確実に保護する責任があります。
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安全な食品を生産するために、一貫した管理方法を使用します。
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公衆衛生を守るために、動物用医薬品の使用を管理します。
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公衆衛生を守るために、糞尿と大気の質を管理します。
働く人々、私たちは、安全で、私たちの他の倫理原則と一致する職場環境を提供する責任があります。
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働く人々 である従業員の健康と安全を促進する職場環境を提供します。
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倫理原則について従業員を教育し、これらの原則に沿った義務を果たすことができるように準備します。
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従業員が公正かつ敬意を持って扱われる職場環境を提供します。
私たちが事業を展開するコミュニティ(地域社会)、私たちは、 コミュニティにおける生活の質の向上に貢献する責任があります。
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コミュニティから歓迎され感謝されることを、維持し続けねばならないことであると認識しています。
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私たちの実践が、ポーク生産と私たちの事業に対するコミュニティの信頼に影響を与えることを認識しています。
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周辺環境と公衆衛生を守る方法で事業を行います。
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強いコミュニティの構築のために積極的な役割を果たします。
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コミュニティの懸念を認識し、誠実かつ真摯な態度で対応します。
離職が多い部署はどこか?米国養豚界の労働力
2022年夏に報告された米国ポーク生産者協議会(NPB)とAimpoint Researchというコンサル会社による、米国養豚界の労働力(labor force)のウエブ調査結果から日本の養豚界に有用な部分を紹介します。出典は以下です。
https://porkcheckoff.org/research/pork-industry-labor-study/
結論
コロナ後の米国の労働力の現状は:
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米国はCOVID以前の失業率に戻りました
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団塊の世代の引退・退職により、雇用機会が上昇しています
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人口の労働力割合は縮小しています
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米国全体の労働倫理は低下しています
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労働市場の流動性は最小限です
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e コマースと在宅勤務により、人々の雇用機会が拡大しています。とくにeコマースは労働人口の4.2%が従事しています
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米国政府の景気刺激策により、人々や企業は行動を変える資金にアクセスできるようになりました
養豚産業界の労働面での問題点
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米国養豚産業界の労働面の問題点は、人材リクルート法が古く、プロ意識の涵養が未熟
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外国人労働者の活用が不十分
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プロ意識涵養に利用可能なリソース(例、NPBの教育活動やe-ラーニング)の認識が不足
生産者データ
399戸の求人している農場にウェブ調査を実施しました。生産者の規模としては、繁殖生産は母豚1000頭未満が29%で、母豚1000-10000頭が48%、母豚1万頭超が24%でした。肥育生産は、5000頭未満が15%、5000-9999頭が14%、10000-49999頭が38%で、5万頭以上が33%でした。
結果
2019-2022年はコロナの時代で、失業者と一時解雇が大幅に増え、新規エントリーが減ったものの、2022年になり労働力はもどりつつあります。しかし、調査では養豚産業界としては、84%の生産者がこの1から10年で採用が困難になったという見通しをもち、80%が従業員の勤続維持が困難になったとしています(表)。
米国農場のSOP項目の例
種付けと妊娠部門
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母豚と若雌豚の人工授精
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雄豚での刺激
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ボディコンスコアと背脂肪厚測定
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繁殖豚の管理、雌豚の淘汰
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飲水器の確認
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発情の検出
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種付け豚と妊娠豚への給餌
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妊娠豚舎での豚の観察
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豚舎のそうじ・洗浄・消毒・乾燥
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妊娠鑑定法
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精液の取り扱い
分娩部門
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去勢のやり方
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導入前分娩舎そうじ・水洗・乾燥・消毒
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分娩初日の手順 - 子豚用
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分娩初日の手順 - 母豚用
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分娩舎での観察
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母豚への飼料と水の供給 - 授乳期
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分娩室に雌豚を導入
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子豚の安楽死、脳挫傷法
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断尾法
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離乳法
共通部分
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動物処置- 筋肉注射のやり方
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安楽死用二酸化炭素ガス使用法
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安楽死用貫通型ボウルトの使用法
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施設の定期的チェックリストとハウスキーピング
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飼料の注文
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死亡豚の堆肥化処理法
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死亡豚の焼却処理法
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停電時の温度変動のアラームシステムのテスト法
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停電時バックアップ発電機のテスト法
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停電時非常用カーテンのテスト法
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死亡した離乳豚・肥育豚・繁殖豚の除去
離乳・肥育部門
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離乳豚の導入
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ヒーター管理
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豚舎に豚を導入する
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豚の日常的なケアと畜舎のチェック
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飼料フィーダー口の調整
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成長が落ちていく豚の発見と治療ペン管理
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肥育豚の出荷
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薬剤やサプリメントの飲水投与法
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肥育豚舎のそうじ・水洗・乾燥・消毒
その他
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健康問題 - 繁殖部門、問題症状観察(四肢障害、食欲不振、下痢、呼吸器病、直腸・子宮・膣脱、皮膚問題、流産・早産、MMA授乳障害)とチェック法と体温計使用、報告
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健康問題-離乳から出荷部門、問題症状観察(四肢障害、食欲不振、下痢、呼吸器病、直腸脱、皮膚問題、胃潰瘍)とチェック法と体温計使用、報告
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豚舎床下ピットそうじの注意点
米国の労働力層の現状(参考例は日本、図)
人口3億3000万人の米国では50-64歳層(ベビーブーマーの世代)が2番目に多く、この層が引退と早期引退を迎えています。米国では1番多い層が20-34歳で、新規エントリーとキャリア開始の層です。米国には引退する団塊の世代を埋め合わせる十分な若い労働層があります。
米国の50年前1970年の2億人に比べて、米国の人口は増えているのですが、労働人口割合は60%から40%に減少しています。なぜかというと米国では働かない人口が増えています。働いていない人口とは、引退した人達、学生、子供、家族の世話をする人、病気の人達です。そして求人数は増えています。働く若い人たちへのニーズは強いのです。
しかし米国の若い世代は、ネット世界(IRL: in Real lifeといいます)で遊び、お金より質のよい人生を求めて、転職の常習者になりやすいと言われています。職を辞めた年代割合の調査では、55歳以上が約35%で、これは引退に近いと思われますが、25-34歳が19%で、35-44歳が18%です。米国では、この若い世代の職業倫理への不安があります。
一方、人口1億2000万人の日本では、65-79歳世代が2番目に多く、40-54歳のおじさん世代が一番多く、そしてその後どんどん減少していきます。日本の若手労働力が減少します。40歳以上の活用が大切です。日本の65-79歳世代から、引退時期の相談を受けることがあるのですが、日本の現状をみると、責任や権限移譲の問題は別にして、65歳以上も働けるうちは働くべきでしょう。なんといっても日本人は米国人より寿命が7年も長いのです。そして日本の労働力としての女性の活用は非常に大切です。女性は寿命が男性より6年長いのです。健康に気を付け、機会があれば日本人はまだまだ働けます。また質が高く若い外国人の労働力も重要です。
離職が多い部署はどこか
分娩・授乳部門は、動物の生命を助けるということで、やりがいがあると思うのですが、労働として考えると、大変ということでしょうか。人医分野でも産婦人科は人が集まらないと聞きました。2番目は肥育部門で、3番目は種付け部門となります。主要な部門は人も多いこともあり、離職する人も多い可能性もあります。
離職の理由は?
離職の理由で、「肉体労働やこの仕事が嫌い」「職場環境が悪い(臭い、ほこり、豚)」「豚がきらい」というのは、仕事を知らずに入ってきたということでしょう。入社前に十分な体験をさせておくのは大切と思います。日本ではよく実施されている1日とかいうインターン制度でなく、米国の一部で実施され推奨されている、夏休み8週間程度の有償のインターン制度がよいと思われます。最近ほとんどの米国生産者では長期間のインターン制度で前もっと仕事について体験してもらうようになっています。そしてインターン制度から入社した人の満足度が高く、勤続年数も長いといわれています。ほこり・臭いの多寡は農場で軽減できることもありますが、豚が嫌いというのは困ります。
また従業員は1日何時間働いているか?という質問には、1日当り8-10時間未満という回答が58%で、10時間以上の解答が15%もあり、人手不足からの長時間労働は問題と思われます。8時間未満は27%でした。
勤続年数はどのくらいか
勤続年数は農場長などの管理職では10年以上が54%で、米国のイメージとは違います。飼育スタッフでも10年以上という回答が21%もあります。やはり管理職になると給料・待遇もよくなり経営参画もあり、勤続も長くなるのでしょう。
飼育スタッフが2年以内で33%離職しています。さらに1年以内離職のうち、90日以内と32%が回答しています。これは入社前の説明や体験と同僚の問題かと思われます。現在、米国では、インターン時に、仕事の体験だけでなく、もし入社した場合に、一緒に働く人たちと働く日数を設けることが薦められています。
待遇はどのくらいいいのか
給料は62%が時間給と回答しています。それで本調査では、飼育スタッフのスタート時の時間給で他の業種と比較しています。倉庫・問屋・工場は、アマゾンを含む実例としているようです。やはりアマゾンを含む倉庫・問屋・工場がスタート時にはいいようです。福利厚生が手厚いこと、スタート時の時間給もよいし、週末勤務も選択できるし、勤務時間の柔軟性もあります。リモートの顧客サービス職も、週末勤務もないし、勤務時間の柔軟性もあります。
従業員への成長機会と学習機会は?
従業員にとってお金のほかに、成長機会も重要です。米国の生産会社では、管理職への昇進、リーダーシップ開発研修や生涯教育コース履修などがあるようです。人への教育投資は無駄になることも多いのですが、経営では必須かと思われます。なお語学会話コースは、外国人のための英語、米国人のためのスペイン語かと思われます。
プロ意識を刺激し涵養する学習機会としてはNPBの学習リソースの認知度は、従業員の募集をしている農場では90%以上でした。また雇用(採用・勤続)を改善するために、新人研修プログラムが必須としています。
日本でも養豚界のプロ達のため、プロ意識を刺激し涵養するための学習リソースが必要と思います。そのために「こぶたの学校」を立ち上げました。
福利厚生とボーナスは?
福利厚生は必須です。勤め人にとって、有給休暇や時間休は便利です。現物給付は、養豚産業らしくて嬉しい。米国では健康保険は非常に高価で、個人事業ではない場合が多いです。
ボーナスを出す場合の基礎数字も回答されています。なお動物当りの成績や飼料要求率は、育種選抜で、種豚が毎年改良されていることを考慮するとどうだろう、と思います。あまり育種の影響を受けず、管理の影響が強い指標にすべき、毎年の改善率などがいいと思います。米国でも勤続年数をボーナス査定に入れるというのは少々驚きました。
リクルートの方法は?
80%の生産者が「地元の人」を採用したいと回答しています。外国人の採用には積極的でないようです。「地元の人」を採用するために、養豚産業界ではいまだ地縁・血縁での採用が多いようです。46%の生産者が新しい方法が必要と回答しています。新しい方法としては、産業界内でのネットワークや共同(27%)有償で長期インターンシップ(36%)、学卒の外国人採用(61%)を上げています。
大学生の8週程度の長期の有償インターンシップ・研修は、日本でも、活用するべきと思います。YouTubeだけでは、ほこりや糞尿の臭いや蜘蛛の巣やハエなどは体験できません。8週間もいれば現場での貢献も可能です。
なお米国ではカナダとメキシコ限定で学士以上の人への外国人の専門家TNビザで3年かつ更新ができるビザができました。勤続や質が飛躍的に上がったと報告されています。今後、これでの採用がもっと増えると思われます。日本人にも道を開いてほしいものです。
まとめ
米国養豚産業界は、労働力確保と維持に問題点があります。今後は、従業員の成長を促す教育投資で、プロ意識の刺激し涵養を図るなかで、良い人材の確保・維持が大切かと思われます。また優秀外国人の積極的登用も必要でしょう。日本の労働力も減少する可能性あり、そうした動きがさらに必要と思われます。女性活用は必須で、リクルートのためにも女性が働きやすい職場環境も大切です。女子学生は結婚・妊娠・子育て時での働きやすさに非常に敏感です。