養豚経営情報
養豚アカデミー
Pig School for Professionals
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経営管理を中心とした8本柱:経営・繁殖・栄養・施設と設備・種豚と遺伝・健康・福祉・食の安全とSDGsの下に36コンテンツ
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子豚のような好奇心と行動力、そして成長力を目指しています。こぶたの学校長・纐纈雄三
繁殖
A. 繁殖成績とその因子、そして長期生存性と生涯生産性から考える
B. 繁殖生理から考える
C. 繁殖成績と繁殖生理を結びつける
D. 栄養が繁殖に及ぼす影響
繁殖成績と繁殖生理
豚の繁殖を考えるには2つのアプローチがあります。繁殖生理からと、農場の繁殖成績からのアプローチです。以下にAとBに分けて2つのアプローチで記述します。Cとして両方のアプローチを合体させたハイブリッド・アプローチも用意しました。
A. 農場の繁殖成績からのアプローチ
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農場の繁殖生産性ツリー
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リスク因子と予測因子
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母豚の長期生存性 (longevity)と生涯成績 (lifetime performance)のツリー
B. 繁殖生理からのアプローチ
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ホルモンによる卵巣活動コントロール
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発情周期21日で幅18-24日、発情持続時間は48-72時間、授精適期が大切
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若雌豚育成
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妊娠と妊娠鑑定
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分娩・授乳・離乳
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発情の同期化
C. 繁殖生理を母豚の繁殖成績に結び付けるハイブリッド・アプローチ
D. 栄養が繁殖に及ぼす影響
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養豚における授乳・繁殖成績
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授乳豚のアミノ酸とエネルギー摂取量のホルモンおよび繁殖成績への影響
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授乳豚の必須アミノ酸・リシン摂取量の繁殖成績への影響
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種付け直後のエネルギー摂取量と受精卵生存率
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種付け妊娠期飼料摂取の授乳期への影響
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現場で何が起こっているのかー生産現場における授乳期の飼料摂取量と繁殖成績
A. 農場の繁殖成績とリスク因子からのアプローチ
A-1. 農場の繁殖生産性ツリー(図1)
母豚の繁殖成績にはそれぞれ関係があります。その指標間の関係を知り、自農場の改善点を考えることは重要です。総合成績は年間母豚当り離乳子豚数 (PSY) で測定され、農場内での改善割合や他農場と比較されています。PSYは、年間母豚当り分娩腹数×分娩腹数当り離乳子豚数で計算されます。多胎動物である豚の繁殖成績は妊娠しやすさという肥沃性または母豚回転数 (fertility) と多産子性 (prolificacy)で表されるわけです。なお年間母豚当り分娩腹数は母豚回転数とも日本では言われています。母豚には、未経産だが種付けされた若雌種豚も含みます。
母豚回転数または年間母豚当り分娩腹数=妊娠しやすさ=肥沃性
米国では1990年から2000年までは、年間母豚当り分娩腹数の改善が大切とされました。分娩時生存産子数は遺伝率が10%と比較的低いので、産子数は大幅に増やすことは難しい、それよりも管理を改善して非生産日数を短くして、母豚回転率を上げることでPSYを上げようとしたのです。授乳期間が21日ならば、2.5回以上の分娩腹数が可能で、それに離乳頭数10頭/腹をかければ、当時の目標であったPSYの25頭が可能とされたわけです。
非生産日数 (Non-productive days: NPD)
カナダのウイルソン博士が提唱し、ミネソタ大学のダイアル博士によって、世界中で重要指標と認識されるようになりました。非生産日数は妊娠してもいないし、授乳もしていない日数と定義されています。非生産日数の内訳は、離乳後初回交配日数、再発再種付け日数そして淘汰までの日数の3つです(図1)。飼料代・施設費・若雌種豚導入の遅れによる損失などから、非生産日数は1日480円の機会利益の損失(法律用語では逸失利益)として経済評価することができます。その計算方法は、農場が年間母豚当り離乳子豚数35頭を生産し、1離乳豚当り5,000円の粗利益がある仮定とすると、5,000円×35頭/年÷365日=479円という計算です。
授乳日数と妊娠日数
海外でも妊娠日数は豚本来の生理的なもので、ホルモン投与などの管理で変化させることはあまりされていません。一方、授乳日数は、生産者が完全に決められます。1990年代米国では萎縮性鼻炎の排除や呼吸器症状の軽減のため、子豚を早期離乳して別場所での飼育するという早期離乳・別飼育法(SEW)が大流行したのですが、米国の農場では萎縮性鼻炎がほぼ排除できたことから、体重増加など離乳子豚の質を上げるために、子豚の離乳日数は21日以上にむけて延長されています。
欧州では2013年の福祉規定で授乳期間28日以上とされています。そのため図1では授乳期間を28日と設定しています。しかし授乳期間28日になると回転数は、2.4は不可能になりますので、よほど分娩時子豚頭数が十分でないとPSYが低下します。なお欧州の規制では例外規定があり、母豚からの感染を最小にする目的で、分娩舎から離れた場所で空白期間に掃除・消毒済みの専用の離乳舎への移動だと最低21日となっています。
分娩当り離乳子豚数と分娩時生存産子数=子豚をたくさん産み育てる能力=多産子性
母豚当り離乳子豚数が多産子性の代表です。ただし、離乳子豚数は哺乳中に子豚の死亡として何頭かを失うので、分娩時生存産子数が多産子性を直接に示す指標です。分娩時生存産子数は、農場での交配回数やタイミングによって改善はできますが、何よりも育種による遺伝の力は大きいのです。
2000年代に入って、遺伝子マーカーアシスト育種によって、急速に分娩時生存産子数が増え、多産系母豚の登場です。平均で分娩腹当り15頭以上が可能になったのです。これによって欧米のPSYは急速に上昇し、PSYで30頭は平均的な数字となりました。最先端を走る欧州デンマークではPSY 40頭も出始めました。しかし、問題がないわけではありません。分娩時生存産子数は増えても、子宮の大きさが増えたわけでないので、軽い体重の新生豚が出てきています。また哺乳するための乳頭数も、従来の14乳頭数では不足です。
この乳頭数不足解消のために、欧州では代用乳や里子技術(2-ステップ里子)を発展させました。そして育種の改良によって乳頭数も増えてきています。筆者も乳頭数20の母豚もスペインの農場で目撃しました。
哺乳中子豚死亡率
日本ではなぜか事故率と訳されています。事故ではなく正しくは死亡です。日本では平均15%から25%の間と思われます。軽体重の子豚を死ぬだろうということで、死産豚に含めて、哺乳中子豚死亡率を低く見せかけるのは、間違っています。死んだ豚数を正しく記録し、どうしたら自農場の設備・管理・群健康管理で死亡率を低くできるか考えることが大切です。
死産子数とミイラ子数
死産子豚とミイラ子豚は、生まれた時に死んでいますから、意味ないと考えがちですが、大きな意味があります。死産子豚数はもっと注目されていい数字です。
死産子豚は分娩中で死んだ豚と定義されています。しかし、農場の実際としては、朝の分娩舎見回りで、分娩し終わった母豚の周辺で死んでいた子豚は死産子豚と記録されています。ということは、死産子豚の何割かは生存して生まれたが、その後死んだ豚も含まれている可能性があり、助かった可能性があるのです。さらに分娩中に死んだ子豚は、人が介助すれば助かった可能性もあります。死産子豚数は正確に記録し、減少させる方法を考える必要があります。例えば、例えば、死産子豚数を減少させるために、海外ではスタッフの勤務時間をずらすことで、見回り強化による介助分娩などが勧められています。
ミイラ子は病気の診断に使えます。ミイラ子豚は胎子が骨化してから死んだ、受胎後30日以後と考えられます。その大きさで妊娠30日齢から分娩まででいつ死んだのか推定できます。日本脳炎やパルボウイルスが疑われます。
A-2. リスク因子と予測因子
リスク因子という言葉は疫学用語です。感染症における原因病原体 (例、結核病における結核菌) のように因果関係のある原因とは断定できないが、強く関連していて原因が強く示唆されるという意味です。感染症と違い、繁殖成績の低下は、単一原因は少ないので、リスク因子のほかに生産因子や関連因子という言葉が用いられています。ある種の母豚の成績指標は、他の繁殖成績や生涯成績をある程度予測できる予測因子になります。とくに産次の早い時期の予測因子は有用と思われます。さらに農場レベルの因子もあります。リスク因子は3つのグループがあります。サブセクション「応用繁殖」も参考にしてください。
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母豚レベルのリスク因子:1産次と高産次、夏の高温、少ない授乳期飼料摂取量、短い授乳期間、交配回数1回、長い離乳後交配日数、遅い初交配日齢、周産期・分娩イベント、ナース子豚と離乳子豚数、母豚行動
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母豚レベルの成績因子(予測因子):早い初交配日齢、産次1と2での再発・再種付け、産次1での分娩時生存産子数、生時と離乳体重・哺乳中増体、産次1での離乳後初回交配日数4と5日、産次1での離乳後初回交配日数、産次1での死産子豚頭数、産次0と1での流産
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農場レベル因子:農場サイズ、高生産性農場、農場での標準管理法、産次0の交配タイミング、淘汰ガイドライン、産次または年齢構成、交配雌豚数のバラツキと分娩スペース、種豚ラインと種豚会社、雄豚と精液因子
母豚レベルの因子の例をあげると、0産次の分娩率は、2産次より5%以上低いし、分娩時生存産子数は、4産次より初産時は10%以上低くなる傾向があります (図2)。また夏場には1産次豚の分娩率が最低になり、春より8%くらい下がります。中産次の母豚でも春より2%下がります(図3)。気温の影響を定量的に調べると、気温が20℃から30℃に増えると、産次1の母豚の分娩率は10%落ちます(図4)。産次1の母豚が気温に感受性が高いようです。さらに、気温が25℃から30℃に上がると、産次1の母豚の次産次分娩時総子豚数は0.6頭低下します(図5)。一方、産次0の若雌豚だと0.2頭しか低下しません。つまり産次1の母豚は更新用若雌豚に比べて気温上昇に対して、3倍も感受性が高いのです。これらは気温上昇時での授乳期の飼料摂取量低下に大きく関係しています。
栄養学的にも初産豚は成長途中で、成長のための栄養が必要だが、飼料摂取量が低いため、栄養不足になりやすいのです。さらに天気予報の最高気温に注目すると、繁殖成績の低下が予想され、換気量を上げるなどの予防策を講じることができます。また初交配日齢240日齢など早い若雌豚は生涯成績がよいという傾向があります。そのため、雄豚での刺激などの、初発情時期を早めるための若雌豚育成管理が重要とされています。
母豚レベルの成績因子の例は、産次0と1での再発があります。産次0で再発した豚の41%、産次1では36%は、その産次やそれ以降で再発します。再発豚は発情行動が見つけにくい、発情持続時間短いなどがあることが考えられます。
産次1の離乳後初回交配日数も予測因子です。そして産次1の離乳後初回交配日数4日と5日の母豚が、生涯の分娩時生存産子数が1番と2番目に多く、各産次での分娩率も高いのです。欧州での産子数の例だと4日だと71.3頭で、7-20日と21日以降の母豚では少なくそれぞれ67.1頭と62.3頭です。なお離乳後初回交配日数1-3日の母豚は67頭であり、7日以降よりは生涯成績がいいのです。また21日以降の母豚は非生産日数が100日以上に延長します。なお1産次での離乳後初回交配日数は4と5日は68%で、2産次以降では、77%と増えます。0-3日も産次1では4%ですが、産次2以降では8.5%と増えます。
産次1での分娩時生存産子数では、上位10%以内の豚グループは、その他のグループより産次2以降も産子数が多く、長期生存性も高く、生涯成績がいいことがわかっています。これらの研究からわかったことは、初産までの更新若雌豚育成が大切なのです。
農場レベルの因子の一例としては、農場サイズがあります。例えば大農場は先進的な施設を持ち、育種改良の進んだ種豚ラインの取り込み、さらに飼養管理や淘汰ガイドラインも普通農場とは違うことで、繁殖成績は大農場のほうがよくなります。
高生産性農場は他の農場とは違った飼養管理や繁殖成績が見られ、ベンチマーキングでの目標にするのに適しています。大農場や高生産性農場は、それぞれ平均在籍母豚数や年間母豚当り離乳子豚数の上位10%または25%で客観的に設定されます。また、個々の母豚の繁殖成績とアンケート調査で収集した情報:発情発見からの交配タイミングで見たとき、交配タイミングの遅い農場で飼育されている母豚は分娩率が低いことがわかっています。
A-3. 母豚の長期生存性 (longevity)と生涯成績 (lifetime performance) のツリー
よく使用されている繁殖生産性ツリーのトップにあるPSYですが、大きな欠点があります。繁殖生産性ツリー(図1)の中に、長期生存性の指標が含まれていないのです。母豚回転数である肥沃性と多産子性の指標のみで構成されています。極端な例だと、初産時に分娩時子豚数の少なかった母豚を離乳直後に淘汰してしまうと、その母豚の非生産日数が短くなり、農場平均の年間母豚当り分娩回数が上がるのです。とくに淘汰母豚のキロ当り販売価格が肉豚と変わらない米国では、この方法をとる農場もあります。欧州でも、生存産子数の少ない若い母豚を離乳直後に淘汰するという方法が採用されているデータがあります。
米国でも日本でも経済性モデルでは、3産以上使用できないと、個々の母豚ベースでは、更新若雌豚の経費は黒字にならないのです。短期1年での農場生産性を上げることより、2から3年生きる母豚という大切な資源の生涯成績を最大限に生かすのが重要かと思われます。
生涯繁殖成績を含んだ長期生存性と生涯繁殖生産性の指標は以下です(図6と7)。生涯繁殖成績ツリーは4つの分野:長期生存性、肥沃性(妊娠しやすさ)、多産子性、生涯効率からなっています。
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長期生存性は淘汰時産次、淘汰時日齢または淘汰時農場在籍日齢で表されます
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生涯繁殖生産性は、年間化母豚当り離乳子豚数(日齢または農場在籍日齢)、年間化母豚当り分娩時生存産子数(日齢または農場在籍日齢)で表されます
なぜ年間化するかというと、正しく比較するために母豚によって生存日数が違うのを補正するためです。例えば生涯での総分娩時生存産子数や総離乳子豚数は、淘汰時産次数によって違います。淘汰産次5産の母豚Aの生涯分娩時生存子豚数50頭と、淘汰産次6産の生涯分娩時生存子豚数55頭の母豚Bはそのままでは、生産性の比較はできないのです。生存日齢で割って、1日当りの子豚数にして、365.25日(うるう年があるので)をかけて年間に直して比較できるのです。
年間化は、生存日数母豚の生涯離乳子豚数または分娩時生存産子数を、日齢または農場在籍日齢で割って365.25日で掛けて年間化します。母豚の生涯を考える意味では日齢で割るのが正しいと思うのですが、更新用若雌豚を外部から購入している場合には、農場在籍日齢を使わざるを得ないでしょう。分娩時生存子豚数が、母豚の多産子性と肥沃性の能力を最も示します。離乳子豚は、泌乳量と授乳期の管理等を含みます。以下は計算式例です。
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淘汰日齢での年間化母豚当り分娩時生存産子数=生涯の分娩時生存産子数÷淘汰日齢×365.25日(うるう年考慮)
年間化することで、複数年間生きた母豚の成績の正しい比較が可能になります。さらに淘汰日齢を使うことで、1産次や2産次で淘汰された母豚の成績は低くなります。農場在籍日数を使う欠点は、1産次で分娩離乳直後に淘汰された母豚は、農場在籍日数そして非生産日数がほぼないので、年間化分娩頭数や離乳頭数は、異様に高くなります。
図6のツリーでは、淘汰日齢つまり母豚生存日齢での年間化分娩時生存子豚数28.2頭がトップにあります。これを母豚の生涯繁殖生産性の最高指標としています。左側の枝には、生涯の分娩時の総生存産子数84頭があります。その下には生涯の総分娩子豚数97.3頭と死産子数10頭とミイラ子数3.3頭があります。
図6のツリー右側の枝には、母豚の淘汰日齢つまり生存日齢1,088日があります。母豚は平均で約1,100日生きるのです。ただし、1,088日といっても、初交配日齢240日(22%)で繁殖群として計算され、以後が農場繁殖群での農場在籍日数848日(約2.3年)です。その農場在籍日数は、生涯授乳日数136日(13%)と生涯妊娠日数626日(57%)、そして生涯非生産日数86日(8%)に分解されるのです。母豚は生涯の約6割を妊娠しているのに驚かされます。そして非生産日数のうち離乳後交配日数41日、再種付けまでの日数20日、淘汰までの日数25日あります。この非生産日数を短くするかが繁殖マネジメントとして大切です。
図7のツリーでは、母豚日齢での年間化離乳子豚数23.0頭がトップにあります。23頭というのはすごく少なく感じられますが、母豚日齢で割っているせいです。母豚の農場在籍日数で割ると29.1 頭となります。そして ツリー左側の枝は図 6と同じです。左側の枝は、生涯の総離乳子豚数68.8 頭があります。そして、分娩時生存産子数84頭(図6と同じ)があり、生涯の哺乳中子豚死亡頭数15.2頭を引いて、生涯の総離乳子豚数68.8 頭となります。哺乳中子豚死亡率は18.1%になります。
その下は図6と同じ、生涯の総分娩子豚数97.3頭と死産子数10頭とミイラ子数3.3 頭があります。図6と図7の違いは、生涯の分娩時生存産子数で考えるか、生涯の離乳子豚数で考えるかの違いです。離乳子豚数は、里子技術やナースなど生産者の授乳期のマネジメントが大きく影響します。母豚の能力を見るのであれば、分娩時生存産子数のほうがよい指標です。
B. 繁殖生理学
B-1. ホルモンによる卵巣活動コントロール
繁殖生理の中心は、種雌豚では脳の視床下部・下垂体・卵巣の軸(HPO軸)と呼ばれる繁殖ホルモン系です(図8)。雄豚だと視床下部・下垂体・精巣の軸となります。視床下部がホルモン(GnRH)を出し、下垂体をコントロールし、下垂体がホルモン(LH, FSH)を出し、母豚なら卵巣活動を、雄なら精巣の活動をコントロールしています。そして卵巣は、下垂体や視床下部へ、下垂体は視床下部へフィードバックして上部の組織へ影響します。卵巣活動は卵子を育て排卵させます。
種雄豚では視床下部→下垂体→精巣での精子と雄ホルモンの生産するよう働きます。精巣からの雄ホルモンによる下垂体や視床下部へのフィードバックもあります。
B-2. 発情周期21日で幅18-24日、発情持続時間は48-72時間、授精適期が大切
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発情期:0-1日、卵子は成熟し排卵します。卵胞ホルモンがピークになって24時間から48時間の間で排卵が起こります。最適授精期は排卵の24時間前であったという研究報告があるのですが、いつ排卵するかは発情中にはわかりません。発情が始まってから14~16時間という教科書もありますが、1日1回または2回の発情チェックだと、いつ発情が始まったかはわかりません。よい実践としては、朝チェックし、発情を見つけたら、まず1回目授精をすること、そして次の朝に2回目の授精をすることが米国では奨められています。サブセクションの「実践繁殖」も参考にしてください。図9は実例です。
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発情後期:2-4日、黄体の形成が始まります。
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静止期:5-18日、12日まで黄体ホルモンが増える。15日までに受精卵からのシグナルがないとプロスタグランデンF2アルファが分泌され、黄体を退行させます。
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発情前期:17-21日、卵子を成熟させ発情・排卵の準備期間。
参考に種雌豚と種雄豚の解剖図も載せておきます。雌豚は子宮が大きい。人工授精 (AI)では、子宮頸管が授精の場所となります。子宮内授精の場合は子宮頸管を通りすぎて、子宮内での授精となります。子宮後頚部と子宮深部があります。子宮後頚部 AI(post cervical AI)は米国では3割を超えていると聞きました。子宮頸管に授精するより、子宮後頚部AIは、短時間でできるのが魅力と聞きました。
雄豚は副生殖器、とくに精嚢腺がよく発達しています。雄豚では停留精巣や潜在精巣は3-4%と言われています。
B-3. 若雌豚育成
1産次の分娩時生存産子数が多い母豚は、生涯の繁殖成績がよいことがわかっています。そこからいえることは、その種付けが行われた更新若雌豚の育成が、生涯成績にも影響を与えているということです。カナダ・アルバータ大学の研究で、初交配時の体重が成績に最も大切としています。そして発情の2回から3回めでの初交配時での体重幅135キロから150キロでの交配が奨められています。従来言われていた背脂肪厚は全く影響していないそうです。そのためには初発情時の日付と体重を測定が大切です。そのため若雌豚育成ユニット(Gilt development unit: GDU)が重要視されています。施設セクションのGDUの例も見てください。
初発情が発見された日は、性成熟した日となります。繁殖生理学的には、若雌豚の初発情の日は、初めての排卵日で性成熟日となり、数日で卵巣に黄体が発達し、血中黄体ホルモン濃度が上昇します。
雄豚の性成熟の日は、雌豚ほどはっきりしません。繁殖生理学的には、LHホルモンと性ホルモンの濃度が成熟雄豚並みに増えてくる時期と、かなり漠然としています。その後精液中に正常精子の割合が増えてきます。実践では性成熟より遅らして、約8か月齢が供用開始に適切と言われています。
B-4. 妊娠と妊娠鑑定
豚の妊娠期間は115日(初回交配時から数えて)で幅は113から119日と教科書では記述されています。品種による差も報告されていません。多くのデータを集めると113日未満の妊娠期間も1%ぐらい存在します。
豚は散在性胎盤を形成します。豚の妊娠は黄体依存性なので、妊娠期には黄体ホルモン濃度が高くなります。
妊娠期間の4週齢までは流産しやすいので、管理に注意が必要です。妊娠の90日以降は、胎子の体重も増えてくるので、それに応じた飼料給与も大切です。
最も大切なことは、精度の高い妊娠鑑定を行うことです。今はリアルタイム超音波器が販売されています。種付けしてから21日前後で再発情が来ていないか、雄豚を使って判定し、その後リアルタイム超音波器で複数回、妊娠鑑定すべきです。なぜなら、妊娠していない日数は、非生産日数が増えていきます。非生産日数の増加は、母豚の肥沃性 fertilityを下げ、年間母豚当り分娩回数を低下され、繁殖生産性を低下させます。
B-5. 分娩・授乳・離乳
豚を含め哺乳動物の分娩には3ステージ:子宮頚管の拡張;胎子娩出;胎盤娩出があります。分娩はどのようにして始まるのかというと、生理学的には、1)胎子がホルモンのシグナルを発して、胎子中コルチゾールが増え、2)胎子コルチゾールの上昇し、母体の黄体ホルモンが減少し、卵胞ホルモンが増え、プロスタグランデンF2アルファの分泌が増え、3)黄体退行と子宮筋層の収縮が起こり、分娩が始まるとされています。そして分娩後は子豚を哺乳しながら離乳にむけて1)子宮内膜の再生;2)細菌の排除;3)子宮の収縮を行い、次の妊娠に備える準備ができます。
分娩時総子豚頭数には、生存産子数と死産子豚数とミイラ子豚数が含まれます。生存して生まれた子豚も、離乳までに10%から20%が哺乳中に死亡します。子豚は母体の乳頭を探し、母乳を飲む必要があります。生後16時間以内に飲んだ初乳の量が、哺乳中の生存に大きく影響します。新生豚にとって、初乳はエネルギーと栄養素と免疫抗体摂取のために必須です。分娩後6時間を過ぎると、新生子豚は免疫抗体の腸から吸収力が落ちはじめ、24時間を過ぎると抗体吸収がほぼできなくなるのです。
育種改良により母豚の多産化(年0.2頭)が毎年進んでいます。子宮の拡大や乳頭の増加などの育種面での改良とともに、分割授乳、代用乳や2ステップ里子など飼養管理面での改善が必要です。
ミイラ子は、着床し骨化が起こった後に死亡した子豚で、妊娠中に水分を吸い取られミイラ化します。ミイラ化の程度は胎子の死亡時期が早ければ早いほどミイラ化が進みます。例えば分娩直前に死んだ胎子は、ミイラ化せずほぼ死産子豚と見かけ上は変わりません。
死産子豚は、分娩中に死んだと定義されています。しかし実際の農場では生まれてすぐ、朝の農場スタッフのチェック前までに死亡していたものも含まれています。死んだ生まれた死産子豚と生後間もなく死亡した子豚は、解剖して肺が水に浮くかどうかでわかります。しかし農場でそんな解剖検査をするところはありません。死産子豚は分娩時総産子数の7%くらいです。このうち何割かでも助ける管理が大切と思います。例えば、頻繁な分娩予定母豚の見回りまたはIoTによるチェックや、難産と見たら介助分娩が有効です。
分娩前後の母豚行動についての動画が、pig333のサイトに米国イリノイ大学のDr. R.V. KnoxとMs. J. Springerによってが公開されています。https://www.pig333.com/articles/the-signs-of-farrowing-physiology-and-sow-behaviour_18367/
B-6. 発情の同期化
発情の同期化ができれば、精液パックを用意して、一斉の人工授精が実施しやすくなります。農場の健康管理のための、オールイン・オールアウトもしやすくなります。
2産次以降の母豚は離乳すると5日以内に85%が発情がきて交配できます。初産豚だと、離乳後5日までで72%が交配済になります。初産豚では2産以降に比して、離乳後初回交配日数が遅いのは、初産豚はまだ成長中であり、繁殖ホルモン系が未成熟なためと言われています。
そして離乳後5日以内に交配した母豚はそれ以降の母豚より生涯の繁殖成績がいいのです。離乳後の発情は早いほうがいいいのです。さらに離乳後初回交配日数は非生産日数です。短いほうがいいいのです。離乳後初回交配日数を短くして同期化するために米国では、「OvuGel」というGnRH作動薬が発明されました(日本未発売)。離乳後4日後に経腟に注射し、5日目に全頭に人工授精1回という方法で使用されています。一方、欧州ではGnRHが一時使用されましたが、現在では授乳期間中の飼料摂取量の改善や、離乳後の雄豚による刺激を強化することで、離乳後交配日数の短縮化と同期化が図られています。欧州と米国の違いです。
C-1. 繁殖生理を母豚の繁殖成績に結び付けるアプローチ
農場成績は図1の生産性ツリーだけでも、14指標あります。個々の母豚の繁殖能力で考えた時に、大切な指標は4つです。分娩時生存産子数、離乳後初回交配日数、分娩率そして離乳時子豚体重です。生産性ツリーには、分娩率も総リッター離乳時体重もありません。分娩率は非生産日数に含まれます。母豚が分娩率に失敗すると、再種付けした場合は再種付け間隔が増え、また淘汰される場合は淘汰間隔が増えるからです。つまり分娩率は肥沃性の指標に含まれます。再種付け間隔は、妊娠鑑定の精度や回数、淘汰間隔は決定により決まるのでマネジメントが重要です。
図10に3つの模式図を合わせました。一番左は図4の間脳視床下部・下垂体・卵巣のホルモン軸プラス子宮での繁殖ホルモン分泌の関係で、図の真ん中が卵胞から分娩・離乳までの時間、図の右側にそれと対応する母豚の繁殖成績・能力を示してあります。卵胞の発達から発情・排卵までは、間脳視床下部・下垂体・卵巣のホルモン軸が強く関連し、母豚の成績では離乳後初回交配日数に強く関係します。離乳後初回交配日数は2産以降だと90%が6日以内です。離乳後初回交配日数は、母豚の繁殖ホルモン分泌の状態を表す重要な指標です。
卵子は精子と受精して受精卵となり着床します。交配や授精の成功と妊娠維持成功して、分娩成功となります。交配や授精の成功つまり分娩率は、授精タイミングや回数などのマネジメントが強くかかわります。そして妊娠の維持はプロジェステロン(黄体ホルモン)の量が大切です。排卵前までの卵子の成熟度が大切です。
分娩時生存産子数が母豚の多産子性の能力の指標です。それは排卵時にさかのぼって排卵数、授精のタイミングと回数、その受精率と生存率そして妊娠維持が大切になります。さらに分娩時生存産子数は、介助分娩をしているかどうかで、産子数も違ってきます。授精のタイミングと回数は、マネジメントです。排卵率は遺伝・育種に影響しています。多産系母豚は育種改良が進み、排卵数が多い母豚なのです。しかし、排卵数が多さは、子宮の大きさや乳頭の数や泌乳量とは関係が薄く、間脳視床下部・下垂体・卵巣のホルモン軸の発達とも関係が薄いのです。子宮の大きさや乳頭については、違った育種改良が必要です。欧州の母豚では、乳頭の数はもう20個もあるものもあります。
母豚は再発を2回以上繰り返すと、淘汰の対象になります。この妊娠しやすさは肥沃性または母豚回転数です。また母豚の離乳時は、淘汰の決定を決める時です。決定の速さが淘汰間隔を決めます。これはマネジメントの問題となります。その意味で非生産日数は母豚の肥沃性能力と生産者の淘汰ガイドラインと実行やマネジメントを合わせた指標です。
分娩してから離乳までの体重の増加または離乳時子豚体重は、その母豚の泌乳能力を示します。
D. 栄養が繁殖成績に及ぼす影響
D-1. 栄養と繁殖をつなぐ代謝状態の仮説
身体の脂肪やタンパク質の量が繁殖成績に影響するという仮説がありました。ボディコンが大切ということで、今でも農場では母豚のボディコンは重要視されています。しかし、米国ミネソタ大学での研究では、エネルギーを制限し無発情となった23頭の若雌豚は、身体脂肪量やタンパク質量ともにバラツキが大きく、ボディコンという母豚の身体の成分だけでは、繁殖成績の直接の原因と特定することができませんでした。そこで栄養と繁殖を結ぶメカニズムとして生まれたのが「代謝状態(metabolic state)の仮説」です。
飼料が体内に取りこまれ、体内で消化・吸収され栄養代謝物となり、体内栄養プールからの代謝物と代謝ホルモンにより一種の代謝状態をつくります。それがダイナミックに視床下部・脳下垂体・卵巣そして子宮に影響を与えるという理論です。授乳豚でいうと、その代謝状態が泌乳量・離乳後発情までの日数と発情時間の長さ・排卵数・受精後生存数・分娩そして繁殖成績にまで影響するという仮説です(図1)。
代謝状態を構成する主なものとして、栄養代謝物(グルコース、側鎖型アミノ酸、脂肪酸)、代謝ホルモン(インスリン・IGF)、繁殖ホルモン(黄体形成ホルモン・LH、黄体ホルモン)です。なお食物繊維は満腹感を与える以外、雌豚繁殖への直接の影響についてはまだよくわかっていません。
D-2.養豚における授乳・繁殖成績
農場では、離乳時総子豚体重、離乳後初回種付け日数、分娩率や分娩時生存子豚数が雌豚ごとにモニターされています。離乳時総子豚体重は、授乳期の母豚の泌乳量と強く関係しています。未経産の若雌豚と分娩を経験した母豚を、あわせて繁殖雌豚または母豚としています。
乳牛と違い、母豚は授乳時には発情せず、離乳後7日以内に約80%の母豚が発情し種付けされます。この離乳から種付けまでの日数が離乳後初回種付け日数です。種付けされた雌豚のうち、妊娠を維持し分娩した母豚の割合が分娩率です。分娩した豚がまた授乳し離乳後、発情が来て種付けされ分娩された子豚数が、次産時子豚数です。分娩と次の分娩の間隔は約150日です。
授乳豚のアミノ酸とエネルギー摂取量のホルモンおよび繁殖成績への影響
哺乳豚の吸乳刺激による視床下部・下垂体への抑制が外れる離乳直後から、母豚の血中LH分泌活動は活発になるが、授乳期の中期以降からすでに少量分泌されています。離乳後のLH分泌量は多いが、授乳中のLH分泌のほうが発情回帰日数、分娩率などの繁殖成績との関係が強いのです。
授乳期の栄養摂取と血中に出現する各種栄養代謝物、ホルモンそして繁殖成績の関係を調べました。授乳母豚27頭に必須アミノ酸であるリジン3段階の処置区と、エネルギー3段階の処置区で3×3の要因を配置した実験を行いました。なおリジンは豚の成長における第一制限アミノ酸であるので、リジンを中心として他のアミノ酸も理想タンパク質の割合で飼料配合設計を行いました。
まず授乳中のエネルギー摂取量が増えると、授乳中のLH分泌が増えることがわかりました。図2に示す結果では、さらにリジン摂取量のLH分泌への影響はエネルギー摂取量に依存していること、つまりエネルギー摂取量が増えなければリジン量の増加はLH分泌増加に結びつかないのです。まず、エネルギーの摂取量が大切であることがわかりました。
離乳後発情回帰日数では、授乳期7日からの血中平均LH量とインスリン濃度の関連はありました。しかし、もうひとつの下垂体前葉ホルモンであるFSHの授乳中での血中分泌量と繁殖成績との関係は見つけられませんでした。さらに血中の側鎖型アミノ酸、尿素窒素、脂肪酸でもLH分泌や成績との関連が見つけられなませんでした。側鎖型アミノ酸は脳・血液関門を通過できるので、栄養と繁殖を結ぶカギになる物質では、と期待されていたのですが、実験では関係は見つけられませんでした。なお尿素窒素はタンパク質、脂肪酸は脂肪の栄養代謝物です。
さらに飼料摂取を制限した授乳豚にエネルギー源であるグルコースを点滴することで、血中インスリンやLH分泌がどう変化するか調べました。結果は予想通りインスリン濃度はグルコース点滴で大きく上昇したのですが、LH分泌の変化は確認できませんでした。点滴後1日して、母豚が急性伝染病を発病したために研究を中止せざるをえなかったからです。
授乳豚にとってエネルギー源としての炭水化物または油脂に違いはあるのか
授乳期の母豚は給与された飼料原料の違いで、代謝状態そしてLH分泌、さらには繁殖成績に影響がでるのではという仮説で実験が行われました。結果は油脂の無添加の飼料を給与された母豚のほうが、油脂添加の飼料を給与された豚よりインスリン反応が高い、つまりインスリン濃度が高く上がることがわかりました。さらに分娩後授乳7日目から血中LHのパルス数が多くなり、LHサージ量とその後の黄体ホルモン量も多くなりました。つまり油脂添加飼料を摂取した授乳母豚より、油脂の無添加飼料を給与された母豚のほうが、離乳後発情回帰時間が短くなり、離乳後でインスリン濃度が高く、離乳後に無発情になる母豚も少なかったのです (図3)。
さらに油脂の無添加飼料を給与された授乳母豚は、油脂添加の飼料を給与された母豚より、分娩後授乳7日目から血中LHのパルス数が多くなり、離乳後発情回帰時間が短く、離乳後10日以内での発情回帰割合が多くなりました。さらに離乳後発情時期での排卵数も多かったのです。
授乳豚の必須アミノ酸・リシン摂取量の繁殖成績への影響
授乳期でエネルギーが十分与えられた状態の時、アミノ酸は代謝状態と繁殖成績にどう働くのでしょう。アミノ酸であるリジン摂取量が少ない処置区の授乳母豚は、授乳中の血中インスリン濃度、IGF-I濃度、LH分泌量やパルス数が減少し、筋肉の分解量が増えました。授乳期におけるアミノ酸摂取量の低下時は、母豚は筋肉を分解することで泌乳に必要なアミノ酸量をまかなうことがわかりました。授乳中リジン摂取量が増加すると、授乳中血中LHパルス数が増えました。さらに授乳中にリジン摂取量が低かった離乳後の母豚の卵巣中大型卵胞の発育割合は少なかったのです。
種付け直後のエネルギー摂取量と受精卵生存率
種付け直後のエネルギー過摂取は受精卵の生存率を下げるのでは、という仮説で実験が行われました。図4の実験では、種付け後1日から3日目まで高エネルギー量を摂取した豚は、対照区で3日間とも普通エネルギーを給与された雌豚より受精卵生存率は低かったのです。種付け後1日目から2日間高エネルギー量を摂取した豚はその中間でした。
次の実験では、1日目から高エネルギー量を摂取させる雌豚の処置区と、高エネルギー量摂取プラス黄体ホルモンの注射を行う雌豚の処置区を設定しました。黄体ホルモンを注射した豚は、高エネルギー量の摂取のみの豚と比して、血中黄体ホルモンが高く維持され受精卵生存率も高かったのです。これらの実験により種付け後2日間におけるエネルギー過摂取は、受精卵生存率の低下を招くとしました。この黄体ホルモンと飼料摂取量の関係の生物学的説明として1日目からの飼料給与量の増加は、血流と肝臓の代謝量を上げ、血中黄体ホルモンを下げるからではないかと示唆されています。
種付け妊娠期飼料摂取の授乳期への影響
授乳期と種付け期だけでなく、妊娠期の飼料摂取量と離乳後繁殖成績の関係も調べました。妊娠期に飽食させると母豚の糖耐性に変化が生じ、分娩した後の授乳期の摂取飼料量が下がるので、妊娠期の飼料過給は授乳期母豚とその繁殖成績にもよくないことがわかりました(図5)。
現場で何が起こっているのかー生産現場における授乳期の飼料摂取量と繁殖成績
ここまでは、大学施設でコントロールされた実験ばかりです。コントロールされた実験は、仮説を証明するには最強ですが、欠点もあります。欠点の1つは生産現場ではけっして起こらないような非現実的な処置です。限られた予算で豚の数が限られるので、現実的でないような処置がなされることが多いのです。例えば、前述したエネルギー源の違いを調べた研究で、添加油脂は10%であり、リジンの実験でも飼料中の低リジン濃度は0.4%であり、生産現場ではまず使用されません。大学農場の豚は、生産農場とは違う豚で病気も少ない。そこからでてくる結果は、生産現場に応用可能なのかという疑問が現場からでました。
現場からの批判に答え、大学研究で行っていることが、生産現場でも起こっているのかを調べために、米国34農場の協力を得て、授乳豚の毎日の飼料摂取量と繁殖成績を2年半にわたって調査しました。
収集した生産データから、授乳期の飼料摂取量は、現場で重要な繁殖成績である離乳時子豚体重、離乳後発情回帰日数、分娩率と次回分娩時子豚頭数に正の関連があることがわかりました。つまり授乳期の飼料摂取量を増やすことができれば、繁殖成績を上げられることが示唆できたのです。さらに、生産データ分析から、栄養だけでなく個々の母豚の産歴や授乳期間や種付け回数等の農場マネジメントも、繁殖成績に大きな影響があることもわかりました。そのため繁殖雌豚群にとって栄養と群管理は切り離せないこともわかりました(下の4つ図参照)。農場研究については、実践繁殖と応用繁殖セクションも参考にしてください。
さらに農家巡回の中、授乳期の時期によって飼料摂取量が違うという現場での観察から、授乳期を前・中・後期の3期にわけて、各1期のみに低エネルギー飼料を給与する実験を行いました。結果はどの時期に低エネルギー飼料を与えても、LH分泌が低下し発情回帰も遅れることがわかりました (図6)。どの授乳時期のエネルギー摂取量も早い離乳後発情回帰日数を得るために大切であり、血中LH分泌とインスリンとグルコース濃度が、短い離乳後発情回帰日数と関係していました。現場での観察と大学での実験の両方から、現場での授乳期飼料摂取量を上げる重要性が確認されました。