養豚経営情報
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経営管理を中心とした8本柱:経営・繁殖・栄養・施設と設備・種豚と遺伝・健康・福祉・食の安全とSDGsの下に36コンテンツ
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子豚のような好奇心と行動力、そして成長力を目指しています。こぶたの学校長・纐纈雄三
実践繁殖学
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ルーエン獣医師の米国における高生産性母豚のための繁殖マネジメント
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ダイアル博士・カストロ博士・カンサス州立大学による母豚の能力を最大に引き出す繁殖マネジメント
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母豚の授乳期飼料のチャレンジ給与
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マーチンファミリー農場の動物ケアのマニュアル
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ハナファミリー社のノギスを使った母豚への飼料給餌法
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英国流の生後6時間以内の初乳を最大限に
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米国ポーク生産者協議会の標準生産手順(SOP)項目
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若雌豚保持割合を上げる10ステップ
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成長不良豚発生を防ぐために
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熱ストレスの見分け法と対応
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米国の豚生存率を上げる法、すべきことと無駄なこと
A. 米国における高生産性母豚のための繁殖マネジメント
以下は米国ポール・ルーエン獣医師 (Dr. Paul Ruen) の講演を中心に農場における繁殖管理についてまとめたものです。Paul Ruen獣医師は、米国ミネソタ州養豚地帯にあるフェアモント獣医クリニックの獣医師です。フェアモント獣医クリニックは養豚専門獣医師が7人所属し、担当農場は約30戸で約5万頭の母豚の指導をしています。フェアモント獣医クリニックは、生産者のために農場スタッフの雇用も担当しています。さらに精液生産のための種雄豚専門農場の関連会社に持っています。
はじめに
フェアモント獣医クリニックの獣医師は、以下の6つの原則を持って生産者の指導にあたっています。
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繁殖農場は肥育農場のためにある
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人材が大切である
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若雌種豚 (gilts)は農場の「未来」である
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交配は、独創的な方法ではおこなわない
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授乳期は期待するものが大きい
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健康 (health) + 種豚ライン(Genetics)はパッケージである
以下6つの原則について説明してゆきます。
「繁殖農場は肥育農場のためにある」
離乳後、離乳子豚の肥育成績が悪くなれば、それは繁殖農場の失敗です。養豚において生産コストの大部分(約75%、主に飼料コスト)は、肥育部門で発生します。さらに繁殖部門で起こった病気は、下流である肥育部門に流れてゆきます。例えば、離乳後に肥育部門に運ばれた豚の調子が悪いのは、その前の繁殖部門で管理に失敗していることが多いのです。農場チームとして繁殖部門は、肥育部門にとってよい肥育豚を生産するということを、目標とすることが大切です。
農場ではすべての肥育施設はウイーン・トゥ・フィニッシュ(離乳から肥育仕上げまでの一貫飼育)です。その場合に、最も影響のあるマネジメントは、オールイン・オールアウトの「実行」です。まずオールイン・オールアウトは、分娩室から始めるべきです。その時、違った分娩室間で、子豚を里子しないことです。そういうごまかしは、結果として肥育部門で、病気が増え、最も高く売れる肥育豚の頭数が減少し、そのグループの純利益も減少します。
フェアモント獣医クリニックの農場内での豚舎の数は、3つから50豚舎までと農場によって違うのですが、離乳時に肥育グループを作ります。そしてその肥育グループの利益が最大になるように、繁殖部門も肥育部門も協力しています。なお肥育豚の病気と肥育成績の関係を表1に示します。これらの病気を予防またはコントロールをするためには、分娩舎からのオールイン・オールアウトが最も有効です。オールイン・オールアウトによる農場の群健康管理ができない農場は今後の生き残りは難しいと思われます。
「人材が大切である」
人材が良い農場をつくるのです。よいリーダーシップなしでは、どのような素晴らしい計画も、とん挫してしまいます。とくに繁殖農場には、「よいマネージャー」が必要です。さらに優秀で安定して働いてくれる農場スタッフが必要です。私達の繁殖農場は繁殖雌豚1200頭から5000頭規模ですが、農場ごとに、優秀なスタッフが最低2人は不可欠です。優秀な農場スタッフとは、沈着で注意深く、豚を「よく飼える人」です。農場における人事管理については、「ティーチング法」と「命令法」があります。優秀な農場スタッフ育成のために、養豚の農場では以下のティーチング法が有効です。
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訓練や教育を重視する
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自分達の農場を今後どうするかという、将来への建設的議論を大切にする
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肥育農場を定期的に訪問しコミュニケーションを図る
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よい農場マネージャーになるよう育成しようする
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チームワークを重視する
その反対の「命令方」は、マニュアル至上主義、アメとムチ制度、書類主義、農場スタッフが上司を恐れるようになり、よいスタッフやマネージャーは育ちません。
養豚産業界に限らず、米国の最大の問題の一つが、従業員の離職率の高さです。表2になぜ離職したのか、そして従業員は何を望んでいるのかについて示します。給料以外のことでやめる人が多いこと、米国の従業員はチームワークの大切さ、仕事の意義の説明そして公平な評価に、働き甲斐を見出していることを示しています。
「若雌種豚は農場の未来である」
米国における若雌豚の更新率は40から60%です。若雌豚または未経産豚は、農場の繁殖雌豚のなかで、最大を占めるグループです。現在は育種改良のスピードが速いので、若雌豚のほうが、古い母豚よりも潜在能力が高いのです。若雌豚の分娩時子豚生産能力は年0.2頭増加しているのです。
さらに私達のデータ分析からも、1産次に多数の子豚を分娩した母豚は、全産次で生涯成績がよいことわかっています。若雌種豚の育成は、管理上の重要ポイントです。以下に若雌種豚のステージごとに、繁殖マネジメントについて説明します。
若雌種豚の性成熟を促す
若雌種豚が交配できるようになるまで、ずいぶん時間がかかります。この期間の若雌種豚は、繁殖農場によってコントロールされるべきです。豚舎の床と密度、その環境、隔離・馴致のスケジュールおよび栄養が大切です。農場によるやり方の差が大きい部分です。
隔離・馴致は、スケジュールを組んで行うべきです。複数のサイトで隔離・馴致を行う場合と、1つのサイトで隔離・馴致を行う方法もあります。群健康管理として、若雌豚の繁殖群導入前の隔離・馴致は必須です。
若雌豚育成のためには、よい床面が大事です。床面は平床か部分スノコ床にすべきです。1豚房当たりの頭数は30頭までとすべきです。それ以下なら性成熟に悪い影響はありません。アンモニアガス(20 ppm以上)と暑さ(32℃)は、性成熟を遅らせます。糞尿の掃除と暑熱対策が必要です。私達の農場では、豚舎内の照明時間は、タイマーを使って、1日14から16時間にしています。
飼料給与は、交配するための栄養管理として考えるべきです。豚がエサを良く食べるから良し、としてはいけません。若い若雌豚にキツイ制限給与をしてはいけません。
ビタミンとしては、クロミウム、ビタミンE、葉酸、ビオチンも大切です。ミネラルとしては、カルシウムとリンです。
さらに十分に飼料が摂取できるためには、自由に水が飲める施設整備も大切です。例をあげると、各豚房(5頭分)にウオーターカップを1つ余分に取り付けました。そうすると、若雌種豚の飼料摂取量が20%増えました。さらに次の年の初産豚の平均分娩時生存子豚数が、前年より0.5頭増えました。水は重要な栄養素なのです。水を十分にあたえることが大切です。
若雌種豚の交配前
性成熟のためのマネジメントが大切です。交配前の性成熟は、雄豚による発情誘起から始めるべきです。平均的には150日くらいから始めます。後述するように雄豚による発情誘起の質が大切です。発情発見の日付けは、豚ごと個別に記録すべきです。馴致とワクチン接種は、初交配前に終わっておく必要があります。飼料は制限をかけすぎないようしましょう。なお、ミネソタ大学リー博士は、農場導入までの体重管理で、1日当り増体量550g以下や800g以上はよくないとして、出生から導入までの成長率を1日当たり550-650gを目安にすることを推薦しています。
雄豚による発情誘起は非常に大切です。以下、若雌豚への雄豚による発情誘起のポイントです。施設セクションの「若雌豚育成ユニット:GDU」も参考にしてください。
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11か月齢以上の雄臭が強い豚を必ず使う
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1日1回20分以内にする
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雄豚は、若雌豚と必ず離して飼育する。雌豚が雄豚の臭いに慣れるのを防ぐため
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フェンス越しの接触より、若雌を豚房に入れての直接接触がよい
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若雌の豚房に雄豚を入れるより、雄豚房に若雌豚を入れるほうがよい
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フェンス越し接触の場合しかできない場合には、1回につき若雌豚5頭以内とする
上記の根拠としては、フェンス越し接触には、鼻と鼻の接触に限界があることと、雄豚との長時間の接触に、雌豚が雄臭に慣れてしまうからです。
ここで交配前の発情記録の重要性についての実例を紹介します。2農場が初発情から始めて、発情が来た日を記録しておくこと始めました。それらの農場では、交配はしないが発情がきた日を記録したのです。多くの養豚ソフトではHNS (交配しない発情発見) として記録できます。そうすることで若雌豚では、150-160日から初発情が来始めることがわかりました。そして正確な発情の記録があるので、発情3回目での交配実施が可能になりました。正確は発情記録を付ける仕組みをつくることで、つまり早いうちから個別管理をし、若雌豚が新しく移動した環境に慣れる時間もつくれました。そして、この記録を付けた母豚は、そうでない母豚に比べて、生涯にわたって分娩時総産子数などの分娩成績もよかったのです。
次に交配前の若雌豚の、ストール慣らしに関する実例を紹介します。ストールに慣れない若雌豚もいます。そこでストールに慣らすために、2回目の発情後から、ストールに入れるようにしました。それまでは交配してからストールに入れるようにしていたのです。「ストール慣らし」をすることで、発情チェックの雄豚や隣の雌豚、それに人にも慣れされることができました。
交配予定の1週間前から増し飼い(フラッシング)、つまり飽食させました。そうすることで、この農場は初産豚の受胎率が7%、分娩時生存産子数が1.3頭増えました。
「交配は独創的な方法ではおこなわない」
若雌豚の場合は、まず体重と背脂肪とも十分に成熟していることが大切です。必ず雄豚は、交配しようとする若雌豚と離して飼育しておいてください。交配舎はよい換気状態で、清潔で乾いた床面であることが大切です。関係するスタッフ同士、さらに交配する人達と若雌豚の関係がよいことが大切です。グループを再編成しないようしてください。
交配で大切なことは、独創的なことをしないことです。雌豚、発情チェック用雄豚、交配者は同じ時間、同じ仕事を流れ作業のようにルーチンで行うことが大切です。実例をあげると、ある農場では、まず朝には、飲水器をチェックし飼料を給餌して、朝の早いうちに雄豚を使った発情チェックをしています。発情を見つけたら、印をつけて豚を少し休ませます。人も少し休みます。休憩後、人工授精です。ここは流れ作業です。人工授精時で大切なことは、「優しく、静かに、冷静に(gentle, quiet, calm)」です。そして人工授精が終わったら、豚グループの再編成をしたり、移動しないことが大切です。
次に離乳母豚の交配について述べます。離乳母豚は注意深く、分娩舎から動かします。私達の農場では、離乳母豚の交配前は飽食にしています。つまり経産豚のための増し飼い(母豚フラッシング)です。この時は授乳期の飼料を使用するのがベストです。雄豚での発情チェックは、1日1回としています。離乳母豚を混ぜるのは、ストール飼育でもペン飼育でも1回のみです。室内の照明時間は1日16時間以上としています。母豚の分娩カードも見えるところに置くことで、母豚の生産履歴情報がすぐわかります。この時期はストレスを避け、ワクチンも控えましょう。先述した流れ作業でルーチンを心掛けましょう。
交配(人工授精)の重要ポイント
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交配はルーチン(流れ作業)と知れ
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雌豚は朝に交配される生き物である
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我々の手をかけなくても、発情中の雌豚は雄豚に反応する
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適期を発見した時に、すぐ、または1時間後に人工授精せよ。
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雌豚の外陰部を常に清潔かつ乾燥させる
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人工授精中、雄豚をそばにおけ
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粘滑油は若雌豚には、いいかどうかわからない
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母豚に馬乗り、触るなどして刺激せよ
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忍耐だ
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授精後、5から10分後にカテーテルを抜く
人工授精については2人一組で、流れ作業でルーチンとしてで行うことを薦めます。ルーチンですが人工授精には、細心さも大切です。そして記録ソフトに交配イベントを正確に記録しましょう。
人工授精用の精液については、米国では雄豚専門農場で生産している場合が多くあります。精液の配送は、1週間に2度以上の頻度で、各農場に配達されるべきでしょう。なるべく必要な分だけ配達されるようにするべきです。常に精液の日齢に注意するべきです。なぜなら長時間持続性のある希釈液は使用してはいますが、作成後72時間以上を過ぎると、授精能力が落ち始めます。さらに農場で貯蔵されているものは、1日1回、回転されています。貯蔵温度は常に記録されています。貯蔵している室の環境にも気を付けるべきです。
交配後妊娠の確定まで
交配後妊娠が確定されるまで、豚は動かさないようにしてください。授精卵が着床中だからです。交配後の飼料は2.5から3キロです。もしやせていれば、もう0.5キロ/日増やすといいでしょう。室内の照明時間は、交配時と同じで16時間にしましょう。豚を洗うのに高圧洗浄機は使わないようにしましょう。床を乾燥させ、母豚のための快適な空間を心がけましょう。ここでは1日一回の雄豚による発情チェックを行います。
妊娠30日齢から90日齢
リアルタイム超音波妊娠診断器で、妊娠の確認をしておくことが大切です。分娩予定の母豚数を補正することで、分娩子豚数が予測できます。
ボディコンデションスコア(1から5)で、スコア3を目指して飼料給与量を決める時です。飼料給与量は、2から3.5キロの間です。照明時間は16時間以上としましょう。ワクチンを打つべき時期です。
妊娠90日齢以降
妊娠豚への飼料給与量を、1日1キロ増やすときです。見た目の妊娠確認も忘れずに。偽妊娠の豚が見つかる場合があります。見た目でお腹の大きくなっていない母豚は、妊娠していないかもしれません。また四肢や蹄を始め身体のチェックも大切です。予定日の最低でも2日から4日前には、分娩舎に移動させましょう。
「授乳期は期待するものが大きい」
分娩室では母豚は室温21℃、子豚には38℃が目安です。分娩クレートや飲水器や飼料箱の修理など、設備や器具の確認をしておきましょう。湿度が高いと細菌が繁殖しやすいので、分娩室は清潔かつ乾燥させておきましょう。さらに分娩室の責任者は誰なのかも、はっきりさせておきましょう。
この時期は「期待するものが大きい」のです。まず授乳期の飼料摂取量を最大限にしましょう。米国では分娩後4日目までに、摂取できる最大量まで持っていくべきであると勧められています。自農場での授乳期飼料摂取量を把握する方法は、2つあります。1つ目は、1月の使用飼料量÷母豚の平均授乳日数で割りだす方法です。この方法は農場単位でしかわからず、大まかにしかわからないという欠点もありますが、簡易です。この方法で、私達の農場では、7と8月に授乳期飼料摂取量が、秋の20%以上落ち込むことがわかっています。さらに4月から6月も秋や冬より摂取量は約10%少なくなることがわかっています。2つ目は、個々の母豚ごとの毎日の飼料カードを付ける方法です。この方法は、母豚の飼料摂取量を個別で管理できるのですが、手間=コストがかかるという欠点があります。
私達の農場では、分娩後24時間以内に、初産豚でも経産豚でも乳頭数にあわせて、里子して哺乳開始頭数を増やすという方法も使っています。初産豚には、それで乳腺の発達を促すのです。里子にはそういう良さもあるのですが、里子を多くすれば、手間=人件費がかかります。さらに病気も、里子先のリッターに運んでしまうというリスクあることも覚えておきましょう。
大切なことは、里子は、分娩後24時間以内に、同じ分娩室のみで行うことです。弱い哺乳子豚を、後で分娩したリッターに里子をしないこと、流産子豚や死んだ豚をフィードバックしないことも、病気リスクを避けるために重要です。オールイン・オールアウトの「完全実行」が健康管理のため大切です。なお分娩舎室の管理は2人1組で行うほうが、母豚を動かすにも、子豚を捕まえるのも楽です。
その他に授乳期で大切なこと
授乳期間をできる限り伸ばすことです。私達の農場では、10年前の授乳期間は16日から18日でした。授乳期間を伸ばせば、平均飼料摂取量も上がります。さらに、総授乳期飼料摂取量を最大にするために、1日の飼料摂取量を分娩後4日までに、その時の母豚が食べることのできる最大量に持っていくように指導しています。飼料摂取量は、離乳後の繁殖成績に大きな影響を持っています。さらに授乳期の飼料は、高リジンで高カロリーにすべきです。私達はキロ3300 MEカロリーの飼料で、1日当たり60から65gのリジン摂取させるようにしています。
水の供給にニップルを使用している場合、初産豚には訓練が必要です。エサに水をかけるのもよいアイデアです。必要な治療は即、決断すべきです。分娩室は、病院の集中管理室のつもりで運営されるべきです。
「健康管理 + 種豚はパッケージ」
米国の農場では、PRRS、インフルエンザ、サーコ、マイコプラズマ、回腸炎およびサルモネラの問題があります。繁殖農場と肥育農場では、定期的な健康診断を行っています。自分の農場、どの病気が一番生産コストに影響を及ぼしているかを知ることが大切です。さらにバイオセキュリティの一部として、農場における豚密度を下げることも大切です。
若雌豚の導入に関しては、私達の農場では若雌豚の隔離・馴致法として、年間2から6群を30日齢から90日齢で外部から導入し、30日間隔離し、次の30日から60日で馴致しています。若雌豚の導入時と馴致終了時に、血液検査を行っています。
私達の農場ではPRRS陰性の若雌豚を導入しています。生産者の中には、自分の農場のPRRS株を血清を使ってそれらの豚に注射する人もいます。またはPRRS陰性のままで生産している農場もあります。回腸炎とサルモネラはワクチンで対応しています。インフルエンザは難しい問題になっています。健康問題に対応してくれる育種会社は大切です。さらに農場によっては、空気フィルターで感染の連鎖を防ごうとする農場もあります。
最後に、種豚の選択に関していえば、私達はポークの買い手を満足させなければなりません。長期的にみて、競争に勝てる養豚でなければなりません。私達の農場の最大の顧客は、米国ホーメル社です。そのためホーメル社が認めた雄豚ラインを使用しています。さらに私達の農場は、種豚会社と生産データを共有することでさらに、顧客を満足させる育種の改善を行っています。
まとめ
繁殖農場は肥育農場のためにあり、肥育農場のためには、群健康管理としてのオールイン・オールアウトの分娩室からの完全実施が大切です。母豚の生涯にわたって、よい繁殖成績を上げるには、若雌豚の育成から交配、妊娠そして分娩、離乳後交配まで一貫して考えることが大切です。交配法で独創的なことはしないことも大切です。養豚業には、なによりも人材の育成が大切なことを強調しておきます。
B. 母豚の潜在能力を最大に引き出す繁殖マネジメント
はじめに
ミネソタ大学のダイアル博士と南米の賢人カストロ博士の研究や経験、カンサス州立大学の豚栄養学グループ等の妊娠豚の経験や見解もまじえて繁殖群マネジメントに関する知見をまとめました。
繁殖豚のライフサイクル
母豚の重要なステージは、若雌豚として育成する時期、導入され繁殖雌豚として生産させる時期、そして淘汰する時期です。そして母豚の生涯生産性をいかに上げるかが生産者の重要な飼養マネジメントです。母豚の長期生存性と生涯生産性は正の関連性があります。つまり長期生存性のある豚を育成することが大切です。長期生存性への生産因子には、栄養、初回種付け日数、飼育密度と管理です。さらに群健康管理のために隔離・馴致も必須です。
主要な記録ソフトはイベントごとで記録するようになっていて、繁殖豚には8イベントがあります(図1)。8イベントとは、発情し交配・妊娠鑑定・分娩・離乳の流れ、そしてどの時点でも淘汰・死亡イベントがあります。さらに若雌豚の隔離・馴致のために、若雌豚保持―<馴致・隔離>―若雌豚使用可能の3イベントがあります。
なお主要ソフト (例、ピッグチャンプ)では<馴致・隔離>イベントは記録しません。<馴致・隔離>の日数は若雌豚保持と使用可能のイベントの間の日数になります。若雌豚使用可能イベントに記録される前までは、非生産日数が発生しないのが特徴です。こうすることで<馴致・隔離>中は非生産日数にカウントされなくなります。主要ソフトでの従来の定義では非生産日数は農場に導入日からカウントされるのでしたが、若雌豚保持と使用可能のイベントが新しく導入されることで、農場に導入しても<馴致・隔離>中は非生産日数が発生しなくなり、<馴致・隔離>を長期間しても農場の生産性が著しく低下することはないのです。
カストロ博士の繁殖能力を最大限に引き出す若雌豚マネジメント
世界最優秀養豚家と言われた賢人カストロ博士が推奨する最強の若雌豚マネジメントを紹介します。カストロ博士はミネソタ大学で博士号を取得後、故国に帰り南米チリで母豚5,000頭を飼育し成功しました。当時ミネソタ大学のダイアル博士から世界一の優良養豚家と評価されました。人柄も良く、人を知り、豚を知る人です。彼は、人事・成熟雄豚の育成3段階の若雌豚プログラムを推奨しています(表1参照)。彼は若雌豚マネジメントの第一番目として人事管理を上げています。人事構成としては、農場マネージャー、農場スタッフ、チーフマネージャー、外部と内部の技術アドバイザーがあります。中でも、農場マネージャーを中心にチームを作るべきだとしています。人事を始めとして、成熟雄豚群の維持、そして若雌豚育成3段階プログラムを推奨しています。
参考として135日齢から雄豚による直接刺激を与えた場合の、若雌豚の初発情発見日齢の分布を示します(図2)。図で見ると個体間のバラツキが大きく、記録していないと雄豚刺激の効果は、はっきりとわからないのです。
ダイアル博士の若雌豚マネジメント
元ミネソタ大学のダイアル博士の推奨するデータでのマネジメントも紹介します。若雌豚群管理のために生産データのなかで測定すべきものは以下です。
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初回交配日齢
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予算日齢を超えて種付けされた若雌豚%
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発情スキップして種付けされた若雌豚%
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発情スキップした日齢
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平均交配日齢
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群へ導入されてから交配までの日数
さらに、若雌豚プール中の総若雌数、雌豚中の未種付け若雌豚%、発情記録のある若雌豚数、若雌豚更新率%、若雌豚で初交配前の淘汰%、若雌豚からの繁殖群への選択率の測定も大切です。
若雌豚育成システムとしては、若雌育成舎、隔離・馴致舎、繁殖豚舎での若雌豚用スペース、若雌豚用妊娠ストール、発情誘起のための若雌特別舎(とくに夏場)が必要であるとしています。
繁殖能力を最大限に引き出す栄養管理
母豚の能力を最大限に引き出す管理におけるもう一つの中心は栄養管理です。以下に妊娠期と授乳期について簡単に述べます。
妊娠期の栄養管理
妊娠期の栄養管理にはまだ不明な点が多いのです。離乳時から種付け時までは、飽食させてもよいが、種付け後2日目までは飼料給与を増量してはならない、とする研究者など、きめ細かい飼料給与プログラムを推奨するグループもあります。一方、複雑な給餌法を避けるために、離乳時に太リ過ぎている、普通、やせ過ぎの母豚の3グループに分けて、種付け後3日以後から、1.8キロ、2.0キロ、2.2キロを一定して与えるというような給餌法を採用している米国の養豚会社もあります。
参考のためにきめ細かい給餌プログラムを推奨しているカンサス州立大学による妊娠豚の飼料給与の知見とポイントを表2に示しました。さらに同大学が推奨するきめ細かい妊娠期の給与法を図3に示しました。
授乳期母豚の栄養管理
授乳期というのは、母豚にとって母乳を分泌し子豚を大きくしつつ、分娩という大イベントから繁殖システムの回復を図り、離乳後の発情回帰・排卵・受精・着床・妊娠維持の準備を確かなものにする期間です。母豚の身体そのものの維持、ミルクの生産、繁殖器官の回復、さらに初産豚は自分の身体も成長するための栄養分も必要です。そして授乳期に必要な栄養分に十分な飼料を摂取できる母豚は少ないため、母豚は自分の身体の脂肪とたん白質を代謝して使わざるを得ないのです。そしてその時、大きい養分プールとも言うべき母豚の代謝状態が変わり、そしてその代謝状態の影響で母豚の繁殖内分泌システムは変化します。授乳期にすでに繁殖内分泌システムは動いており、正常な離乳後の性周期・排卵のための準備をしています。そのため授乳期の栄養摂取量は離乳後の繁殖成績と強い関係があるのです。
衛生状態と飼養管理の改善で栄養摂取を最大限にし、母体の代謝状態を繁殖のために最適にして、泌乳量と離乳後の繁殖成績を改善できます。授乳中の飼料摂取量の増加は、授乳成績・離乳後繁殖成績にプラスに働きます。どの程度影響するか、単純計算で、平均飼料摂取量を1㎏増やした場合、離乳時の子豚総体重が1.1㎏増、平均離乳発情回帰日数が0.12日早くなります。さらに分娩率は2%、次回の産時分娩子豚数が0.01上昇します。いかに授乳期に飼料を食い込ませるかがポイントとなります。
飼料給与の目安とするため、米国30農場での1年間、25000頭分の収集データを示しました(表3)。1日当たりの飼料摂取量5.2㎏は全期間の平均であり、1週齢の平均は3.6㎏、2、3週齢は6.1㎏となっています。これを、上位10%、上位90%で見た場合、4.2~8.5㎏となります。
授乳期飼料摂取量を増加させるためのポイント
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授乳期母豚の飼料摂取量を測定すること。
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新鮮な飼料と水の給与を心掛ける。
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室温と換気を母豚にとって適切にする。
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ドリップクーラーによる母豚の直接冷却など夏や春の暑いときの工夫をする。
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給餌回数とくに機械給餌器を使用しての夜間での給餌もよい方法である。
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起き上がりやすい床面にする。
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食べやすい給餌器、飲みやすい給水器を工夫する。
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妊娠期の飼料が過多にならないようにする。
C. 母豚への授乳期飼料のチャレンジ給与法
授乳期母豚への飼料パターンとは
授乳期母豚への飼料給与は、繁殖農場において最も大切な飼養管理の一つです。20年前ミネソタ大学院時代の私の研究テーマの一つが、「生産農場における授乳期母豚の飼料摂取パターンと繁殖成績の関連性」でした。なお最近のIoTの進展と多産系母豚の登場で、その時の研究がリバイバルで脚光を浴びていますので、ここに掲載しておきます。
図1に示すように、米国30農場の25000頭分の授乳期母豚カードから、6つの授乳期飼料摂取パターンに分けました。
タイプ1「急速増加型」
タイプ2の「大落ち込み型」:そして驚いたことに結構これが多いのです。分娩後の授乳期に急速に毎日の飼料給与を増加させていくと、授乳期の中期にドスンと食い込みが落ちてしまうのです。前のピーク時から1.8キロ/日の量が落ちた場合と定義しました。このタイプが3割ありました。タイプ2は「小落ち込み」でタイプ2でなく1でもないタイプです。
タイプ4「ゆっくり増加型」:タイプ2の「大落ち込み」を恐れて、ついタイプ4のゆっくりと給与量を増加させる生産者が多かったのです。
タイプ5の「ずーと低摂取量型」
そしてこのタイプ4とタイプ5の「ずーと低摂取量型」は、飼料摂取量が少ない豚が多いという問題がありました。授乳期の飼料摂取量が少ないと、離乳後の繁殖成績も悪かったのです。なお日本で調べたこの飼料摂取パターンの反復率は12%でした。なお飼料摂取量という言葉ですが、いくつかの農場では飼料の食べ残しを記録していなかったので、完全な摂取量ではありません。
当時1990年代は、米国ではSEWという早期離乳の飼育法が大流行していましたので、タイプ2の大落ち込みに注意しつつ、タイプ1の急速に増やす飼料給与方法を奨めました。当時の米国のSEWで授乳期間が14日から16日ぐらいだと、飼料を増やすための十分な時間がなかったので飼料摂取量が不足するからです。
欧州優秀生産者の経験
欧州の養豚情報ホームページ「ピッグ333」(www.pig333.com)で、多産系母豚の授乳期母豚の飼料給与に関する興味深い記事を見つけたので、pig333本部に連絡をとり、英語を簡単に訳したものを掲載します。pig333本部と著者Albert Oliveras氏のご厚意に感謝します。なお著者Albert Oliveras氏は、2011から2014年までスペインの大手インテグレータ―であるBatalle社の養豚生産部門で働いた後、2015年から独立して自農場を母豚200頭で経営しています。2018年にスペインの優秀生産者して表彰されています。今回紹介する記事では、私の研究でのタイプ1をさらに進めて、もっとチャレンジすべきとして薦めています。母豚をボディコンと産次別でわけ、さらに母豚の食欲の潜在能力を見分けて、授乳期にできる限り多く飼料を摂取させようとしています。母豚を以下4タイプに分けています。
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とんでもなく食べる母豚
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まだ食べれる母豚
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飼料摂取量を落とさないように注意しなければならない母豚
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太ってしまう母豚
これらの4つのタイプに平均的な飼料給与はダメで、母豚ごとのきめ細かい管理と観察が必要です。さらに分娩直前から分娩当日までの飼料給与を減らしてはダメとしています。一人の生産者の経験ではありますが、日本の生産者にも十分応用できる部分があると思います。記事のまとめは以下です。
分娩舎における母豚への飼料給与には段階によって、以下に示すように4つ時期とそれぞれの目標があります(イメージ図2と3も参考にしてください)。
時期1、分娩前10日から分娩当日までの時期、「分娩するために十分なエネルギー量を与えよ」
母豚がいい分娩、つまりお産時間が短くて軽い分娩をするためには、十分なエネルギー摂取量が必要です。分娩に時間がかかった母豚に比べて、軽い分娩をした母豚は、早く回復し、飼料を摂取しだすのも早いのです。
さらに、分娩前の飼料給与に注意して給与することで、初乳の量を増やし、その質もよくなります。理想的には、分娩予定日10日前には妊娠豚を分娩舎に入れておきたいのです。しかし実際には難しく、私たちは分娩予定日の5日前には必ず分娩舎に入れるようにしています。この時に、それぞれの母豚に、以下のようにボディコンと産次に応じて授乳期での飼料給与カーブを考えることが非常に大切です。
ボディコン
妊娠期には肥満の母豚と痩せすぎ母豚を見分けることが大切です。肥満した母豚は、分娩が困難になりやすく、そうなるとその母豚の持つ能力の最大の泌乳量に到達できないのです。そのため妊娠期にボディコンを整えることが大切です。
一方、痩せすぎ母豚については、十分に身体に脂肪を付けていないので、授乳期の泌乳量を最大にするのに必要な飼料摂取量が不足すると、予定していたより早く離乳せねばならなくなるというリスクが高いのです。
産次
最低でも産次1と産次2以上の母豚は違った管理をするのは必須です。産次1の若い母豚は産次2以上の母豚とは違った必要栄養量があるし、さらに飼料摂取能力がまだ高くなっていないのです。できれば未経産、産次1、産次2-3、産次4-5、産次6以上の母豚について、違ったように飼料管理することが必要です。
分娩前には未経産雌豚では1日平均約3キロ、2産次以上では3.8から4キロが目安です。さらに最低でも1日2回は飼料が給与されるべきで、できたら12時間ごとに2回の給与が望ましいのです。
時期2、分娩直後から授乳期7日から10日までの時期、「母豚能力いっぱいの飼料摂取量と泌乳量を目指し、哺乳子豚数そしてボディコンに応じて飼料給与せよ」
この時期が母豚にとっても子豚にとっても最も大切です。分娩後、母豚の身体を回復させるため、そして母乳量を早く増やし、子豚に母乳を多く飲ませるために、母豚の飼料摂取量はできる限り早く増やすべきです。
過去には、分娩当日前後は飼料給与量ゼロまたはほんの少しだけ飼料を給与するという方法が奨められていました。その方法は間違いだと思います。もし母豚の飼料摂取量を潜在能力のいっぱいまでを授乳期10日目前までにもってこようとするなら、分娩日から飼料給与量を増やすべきです。飼料摂取量を母豚能力いっぱいまで持ってくるには10日はかかるからです。分娩からの回復期に低い飼料摂取量では、母豚はその体脂肪を使用せざるを得なくなります。授乳初期のこの時期は、母豚は分娩からの身体の回復と質のいい母乳の泌乳量を生産すべき時です。授乳初期、飼料摂取量として初産豚では1日平均約3.5から4キロ、2産次以上では4.5から5キロが目安です。
この時期の最大の飼料摂取量を達成するには、平均か平均以下の母豚の能力に合わせて作られた授乳期の飼料給与カーブの使用をやめる必要があります。こういった平均か平均以下の母豚用の飼料給与カーブを使用していると、生産者は平均より上半分の母豚の潜在能力を発揮させることができなくなります。飼料管理という意味では、平均以上に飼料を消費する40%の母豚がどれだけ飼料を摂取するか考えることが大切です。それほど飼料を食べない母豚20%をコントロールするような容易に流れてはだめです。さらに今まで以上に母豚の飼料摂取量を増やせるような飼料給与カーブを使うと、毎回の飼料給与後に、飼料の食べ残し残しをチェックし掃除する必要があるのです。
付け加えて、産次2と3のグループと産次4以上のグループも分けて、飼料給与量を考えるのは大切です。さらに初産授乳時期に飼料給与量不足で、2産次で分娩子豚数が減ってしまう現象(いわゆる2産次分娩子豚数減少症候群)が起こった母豚にも、授乳期の飼料摂取量を増加させることは重要です。
1日当りの飼料給与回数は、1日当りの飼料の総給与量によります。そして1回当りの給与量は最高2から2.5キロとすべきでしょう。とくに暑い季節では、早朝と夜に飼料を与えるべきでしょう。タイマー付きの自動給餌器を利用しましょう。
飼料摂取量を増やすのに、母豚用の飲水器の流速は非常に大切です。母豚が苦労なく大量の水を飲めるようにすることが大切です。とくに暑い季節では、なおさらです。また分娩室の室温も飼料摂取量と初乳生産を増やすには大切です。室温が低いほど、母豚の飼料摂取量そして初乳生産量はあがります。
分娩後の子豚には、その母豚の初乳を最低でも12から16時間飲ますべきです。そのあと里子するために、サイズによってわけて、それぞれの母豚の乳頭数で分配されるべきです。若い母豚に、できる限り多くの子豚を哺乳させることは、その母豚の将来の泌乳量を増やすためによいことです。
時期3、分娩後10日から20日、「ボディコンを悪くしない=母豚を痩せさせない」
もし分娩後10日までに、その母豚の潜在能力いっぱいまで飼料摂取量を最大にできたら、一番困難な時期をやりぬいたと言っていいのです。分娩後10日を過ぎると、子豚は1日当り増体量も大きくなってきています。これを中折れしないようにします。そのためには、母豚が少しでもお腹がすいているようなら、母豚の飼料給与量を増やすべきです。
授乳期における多い飼料摂取量は、決して損にはなりません。それは私たちができる最高の投資です。1日当り母豚の泌乳量は、分娩後18日から20日まで増えて続けていきます。そのためにも、母豚は飼料摂取量もそれに応じて増やすことは必要なのです。
飼料給与量で、私たちがよい仕事をしたと思えるサインの一つは、他の子豚が母豚からのミルクを飲んでいるのに、ある子豚がミルクを飲もうとしていないことです。これは、その子豚が、もうお腹がいっぱいで、母豚からの授乳のよびかけにも、ミルクを飲む気がないことを示していると私たち考えています。
この時期で最も大切なこと、分娩後7日から10日で上げてきた飼料摂取量をこの時期に、最低でも下げることがないようにすべきです。さらにできれば1キロから2キロは上乗せしたいのです。私たちの経験から言うと、分娩後20日ごろには7日から10日までに比べて、なんと3キロから4キロも増える母豚がいて、常に私たちを驚かします。
母豚の飼料摂取量を増やすのに、私たちができるベストなことは、
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飼料給与量を増やす
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飼料給与する時間帯をその日の最も暑い時間帯を避ける
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飼料を飼料槽の中に2時間以上放置しないこと、理想的には30分以上放置しないことです。
分娩後0日から10日までにあまり飼料が摂取できなかった母豚に関していうと、最高量の泌乳量は期待できないのですが、しかしこの時期に飼料摂取量を増やしてくることで、ボディコンを悪くしないようにして、そして子豚の増体を図るべきです。
もしこの時期に、太っている母豚を見つけたら、飼料給与を控えることで、これ以上太るのを防ぎ、次の種付けサイクルに問題を引き起こさないようにすべきです。つまりこの時期に太りすぎの母豚の体脂肪を泌乳のために使用させるのです。
時期4、分娩後20日から離乳時まで、「離乳と次の種付けへの準備期間」
この時期である分娩後20日までには、母豚のミルク生産量を最大にするためにできることをしてしまっています。子豚の増体はいいはずです。さらにここからは痩せすぎや太り過ぎの母豚がいないことを確認し、そして次の繁殖サイクルへの準備です。
まとめ
分娩後の授乳期の母豚のために、個々の母豚の能力を見極め、できる限り早く飼料摂取量を上げることが、その母豚の泌乳量、離乳後繁殖成績、そして次の繁殖サイクルへの適切なボディコンもたらすなど、すべての成績を上げるにキーとなります。もう一度、自農場での授乳期飼料給与法を見直してみてください。
分娩直前母豚の給餌はどうすべきか? カンサス州立大学トカチ教授の結論
分娩直前母豚への給餌は、30年前から議論されてきました。カンサス州立大学のトカチ教授が結論をだしてくれたようです。AASVの回覧メールで「農場が飼料を切っているが正しいのか」という質問がきました。トカチ教授の回答は以下です。
以前は分娩時に飼料を控えていた農場が数多くありましたが、推奨されていません。分娩直前に飼料を切ることの意味は、便秘や難産を減らすために、消化管を "クリーンアウト "することでした。
現実には、母豚が分娩のためのエネルギーの供給を必要とするため、飼料を切らすことは死産子豚数を増加させる可能性があります。最低でも、分娩前と同じ給餌量で飼育したいものです。理想としては、分娩前後は母豚に1日2回以上給餌し、分娩後は速やかに飼料摂取量を増やし、できるだけ早く自由摂取にするべきです。なお産子数が少ない母豚の場合、エネルギーの必要量は少なくなりますそのような状況では、給餌量を子豚の大きさに合わせて調整することができます。
また、以前に農場が、分娩前は給餌を控え、分娩後は給餌を制限していた理由は、授乳が不十分であったり、分娩施設の衛生状態が悪かったりすると乳房炎になることが多かったからです。繰り返しますが、少産子数と不衛生がある場合は、摂取量を増やすスピードに注意する必要があるかもしれませんが、私はいかなる時点でも完全に飼料を切ることは推薦しません。
D、米国マーチンファミリー農場の動物ケアのマニュアル(SOP)
米国マーチンファミリー農場(MMF)は、インディアナ州2か所で母豚14000頭を飼養し、年間35万頭以上の離乳豚を生産する農場です。週に7000頭の離乳豚を自社(6農場)または契約肥育施設に送ります。また更新用若雌豚は3-6週齢から28-30週齢まで違う場所で飼育され健康のため馴致されています。そのマーチンファミリー農場のウエブサイトでは3つの動物ケアのマニュアル(SOP)が公開されていますので紹介します。写真はMMF社のサイトから引用しました。https://teammartinfarms.com/mff-way-mff-way/animal-care/
Ⅰ)分娩舎での哺乳子豚10日齢までの動物ケア
1)分娩前
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分娩室の直前の水洗・乾燥・消毒・乾燥
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主任管理者は、分娩室の準備が決められた標準に達していることを確認
2)分娩中・子豚1日齢、主目的:子豚が乳をのむこと
2-1)分娩を介助せよ
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母豚をモニターし、難産母豚がいないか
2-2)新生豚を乾燥させる
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ヒートランプの位置が、子豚にとって適切か。寒すぎると子豚は集まって盛る、熱すぎると子豚はあえぎヒートランプから離れる、ちょうどいいと子豚はバラバラで寝そべる
2-3)獣医師の指示による抗生剤の注射
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注射した子豚にはマークを忘れず
2-4)すべての新生豚が乳を飲み、胃がいっぱいであることをモニターせよ
2-5)乳をあまり飲んでいない新生豚をマークせよ
2-6)必要な子豚のためにナース母豚を選択
3)2日齢の子豚、主目的:子豚の生存
3-1)弱っていたり下痢気味の子豚に乾燥させる基剤を使用せよ
3-2)すべての新生豚が乳を飲み、胃がいっぱいであることをモニターせよ
3-3)ヒートランプの位置・強さを変えよ、子豚を暖かくせよ
4)3-6日齢の子豚、主目的:子豚の成長とプロセス
4-1)弱っていたり下痢気味の子豚に乾燥させる基剤を使用せよ
4-2)すべての新生豚が乳を飲み、胃がいっぱいであることをモニターせよ
4-3)ヒートランプの位置・強さを変えよ
4-4)子豚へのプロセス(去勢・断尾・鉄剤投与)をせよ
4-5)引き続き子豚をモニターせよ
5)7-10日齢の子豚、主目的:子豚の成長
6)11日齢以降の子豚
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子豚を乾燥させ、暖かくして、清潔にして、よく乳を飲んでいることをモニターせよ
Ⅱ)ESFシステム使用での妊娠ストール舎でのマニュアルSOP
作業は朝6時に実施
1)室温、空気の質と換気をチェック
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室温は18℃から21℃
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空気は新鮮で、刺激臭がないこと
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ピットの換気扇は正常に稼働していること
2)飼料をドロップせよ
3)動物の前側の通路を歩く
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水チェック
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飼料チェック
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水漏れチェック
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床に穴はないかチェック
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床面の痛みのチェック
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床や通路に尖ったものはないかチェック
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ゲートのゆるみチェック
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飼料のこぼれチェック
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飼料だまりチェック
4)必要なら飼料量の調整
5)すべての豚は立っていることを確認
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立っていない母豚や雄豚は立たせる
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発情サインを出す母豚を見つける
6)動物の健康状態チェック
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動物の様子を観察
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四肢障害のチェック
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擦り傷や深い傷のチェック
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切り傷や噛まれた傷跡チェック
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刺し傷のチェック
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飼料を食べているかどうか確認
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飼料を前日までは食べていたか確認
7)四肢障害と外傷と病気を治療せよ
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以下の器具・道具が必要、注射針、注射筒、医療用テープとシート、注射用治療薬、外用薬、マーカー
8)投薬しマークを付け記録せよ
9)ESFシステム用の耳標を失った母豚とIDを見つけよ
10)新しいESFシステム用の耳標とIDを与えよ
11)ペンのゲートが飛びだしているものとペン内の床の穴のチェック
12)水タンクを開けて水を出す
13)動物の前側の通路をもう一度歩く
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すべての豚は立っていることを確認
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飼料だまりをなくす
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飼料は全部食べられたかチェック
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動物の健康問題を再度チェック
14)施設や器具で修理が必要な場合は修理部に連絡する
Ⅲ)ESFシステムでペン飼育の更新用若雌豚ユニット(GDU)での観察と作業
1)飼料摂取量に問題ありという警告があるIDリストを印刷する
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以下の器具・道具が必要、注射針、注射筒、医療用テープとシート、注射用治療薬、外用薬、マーカー
2)動物のいるペンに入る
3)すべての若雌豚を立たせる
4)すべての若雌豚の健康状態を観察せよ
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動物の様子を観察
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四肢障害のチェック
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擦り傷や深い傷のチェック
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切り傷や噛まれた傷跡チェック
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刺し傷のチェック
5)必要な治療・投薬しマークをつけよ
6)ESFシステム用の耳標を失った若雌豚とIDを見つけよ
7)新しいESFシステム用耳標を記録しハンドヘルド入力機に入力せよ
8)新しいESF用の耳標とIDを豚に取りつけよ
9)飼料摂取量に問題ありという警告IDの若雌豚を見つける
10)その若雌豚をESFシステムの給餌ステーションを通過させる
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必要なら新しいESFシステム用耳標を取り付ける
11)発情が来ている豚にマークを付け、記録し、違う場所へ動かし、上司に知らせる
12)ESFシステムが修理の必要ないかモニターせよ
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水チェック
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飼料チェック
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水漏れチェック
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床に穴はないかチェック
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床面の痛みのチェック
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床や通路に尖ったものはないかチェック
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ゲートのゆるみチェック
13)ESFシステムの給餌ステーションで水と飼料が出ているかチェック
もし、ESFシステムが止まっている時は以下
14)飼料槽をきれいにする
15)修理すべき場所のチェック
16)修理部へ知らせる
E. 米国ハナ農場の母豚飼料給餌法
米国Hanorファミリー社は、米国ウイスコンシン州から始まりオクラホマ・アイオワ・イリノイ・北カロライナ州で、母豚10万頭で生産している大手です。2021年のリーマン学会で発表された妊娠期と授乳期飼料給餌法が紹介します。交配時のボディコンデション・スコア (BCS) でその妊娠期の飼料給餌量を決めるというやり方です。例えばBCS1なら3.6 kg/日、BCS2なら2.7 kg/日、BCS3なら2 kg/日、BCS4なら1.6 kg/日です。妊娠90日齢から分娩舎移動前までは、BCS1なら4.5 kg/日、BCS2なら3.6 kg/日です。一律な給餌法よりBCSを利用しているのが特長です。最近、同社は簡単に判定できるようにキャリパーと呼ばれるノギスを使って3段階(Fat:太りすぎ、Ideal:理想、Thin:痩せすぎ)で判定しています。このボディコン用ノギスは、北カロライナ大学のDr. Mark Knauerが発明したもので、200ドルだそうです。日本ではまだ使っていないのが残念です。
分娩舎に移動すれば1日2回給餌で、2.7 kg/日を与えます。分娩したら1日4回の給餌で母豚の飼料消費量を最大します。さらに必須脂肪酸100 g /日を上乗せ添加します。
F. 英国流生後6時間以内の初乳を最大限に
主要養豚国では育種改良の中で、多産系母豚が多く飼養されるようになってきました。多く子豚が生まれるということは、生時体重の軽い小さい子豚が分娩されるようになってきました。小さい子豚を何とかする方法の一つが母豚の初乳ではないか、と思います。英国農業開発委員会(AHDB)の豚部門に掲載されている「初乳のマネジメント」を中心に初乳の話を紹介します。AHDBと担当のJen Watersさんに感謝いたします。AHDBの豚部門は以下から見られます。https://ahdb.org.uk/knowledge-library
軽い生時体重の新生豚に十分な初乳を
ミネソタ大学のLee Johonston教授が2019年のLeman学会で興味深い発表をしています。「軽い生時体重(1キロ未満)のものは哺乳期の早い増体量(225グラム/日)ができないと、その後の肥育成績もよくない、一方、重い生時体重のもの(2キロ以上)は、哺乳期の増体が低くても離乳後は、増体が早かったものと同様なその後の肥育成績ができる」というものです。つまり、軽い生時体重の哺乳豚は高い増体量が大切だということです。そのためにはまず初乳の摂取量が大切です。
さらにベルギーの研究では、生後24時間以内の初乳の摂取量は、子豚の生存率と生涯成績に関連することを示しています。2つの図に生時体重が重い豚(1.59キロ以上)と軽い子豚(0.95キロ以下)で生後24時間での初乳の摂取量による授乳期での死亡率と離乳舎(8週齢まで)での死亡率を示しています。生後早い時期に、ある一定以上の初乳を摂取させれば、小さい子豚も大きい子豚も死亡率は変わらないのです。
初乳の生後6時間以内の重要性
新生豚にとって、初乳はエネルギーと栄養素と免疫抗体摂取のために必須です。初乳は分娩後すぐに泌乳されるのですが数日後には普通の母豚のミルクになってしまいます。そして初乳は、新生豚の免疫系の発達とその後の成績にも非常に重要です。それで新生豚にとっては初めの6時間で初乳摂取量を最大にすることが重要で、理想として子豚生時体重1キロ当り最低150 ml以上を分娩後16時間までに哺乳させることです。例えば1.45キロの子豚生時体重だと、217.5 mlが最低量です。
分娩後24時間を超えると遅すぎるのです。新生豚の腸管はもう抗体の大きい分子量をそのまま吸収できないのです。どのケースでも、初乳は分娩後約12時間はよく利用でき、20時間を過ぎると必要な免疫物質が少なくなっているのです。
初乳の摂取量
摂取量は大きくバラツキ、平均的な子豚で1頭当り200から450グラムと言われています。そして子豚の吸う能力と母豚の泌乳能力が大切です。影響する因子としては、母豚の産次、栄養、子豚数、生時の子豚の元気さがあります。とくに小さく生まれた子豚で初乳が十分に飲めないものは、生存率が低下し、生存しても肥育成績が悪くなります。
初乳の欠乏にならないためのポイント
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新生豚にとって、初乳の量とタイミングは、健康に育つため、そして肥育成績にとっても非常に重要です。
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初乳の摂取量は分娩後早く最適量までもっていくべきです。
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分娩後6時間すると腸管は閉じ始め、24時間後には免疫グロブリンは腸管から吸収されなくなります。
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もし十分な初乳が得られないと、新生豚は病気になりやすくなります。
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最低の初乳必要量は未定ですが、子豚体重の最低キロ当たり150から280グラムが推奨されています。
英国流の管理ガイドライン
<初乳を増やす>
初乳を多くする因子は未定ですが、若雌候補豚の育成法、各種ワクチンの接種、農場の衛生状態や馴致が初乳の免疫グロブリンの構成に影響すると言われています。よい母豚管理が、多い初乳量に影響するといわれています。例えば、分娩前後のストレスを少なくすること、充分な栄養を与えることです(繁殖サイトの実践繁殖も参考にしてください)。とくに強調したいことは、母豚は飲水器でいつも十分な新鮮な水が飲めるようすべきです。
<新生豚間での初乳摂取のバラツキを少なくする>
介助分娩
分娩中と分娩直後の介助は、乳頭への新生豚の早い吸い付きの確定を目指し、初乳の摂取量を確実にすべきです。忘れるべきでないことは、分娩後6時間たつと抗体を吸収する能力は消え始め、24時間後にはずいぶんなくなってしまうことです。小規模農場ではバッチ分娩をすることでバッチの母豚数が多くなり、介助分娩やクロス里子がやりやすくなります。しかしホルモン使用の分娩の同期化は農場担当の獣医師とよく話し合ってからにしてください。
クロス里子(Cross-fostering)
もし必要な場合は、クロス里子は分娩直後できる限り早く、理想は24時間以内、実施すべきです。難しければ、分割授乳法を使うべきです。できるなら余裕のある母豚から初乳を絞って、凍結保存しておき、必要な新生豚に使用すべきです。なお電子レンジでの解凍は免疫グロブリンを破壊する可能性があるので推薦できません。もし母豚の初乳がない場合は、牛の初乳も有効です。
ただし、農場によってはPRRSによる死亡率を少なくするための細菌感染をコントロールする管理(McRebel法)も考慮する必要があります。この場合はクロス里子の制限とオールイン・オールアウトの完全実施が柱です。現在McRebel法では、同室のみで実施し分娩後24時間以降の里子はしないことになっています。
分割授乳は、多くの子豚が生まれて、乳頭が不足している場合に使用できます。表も参照してください。これによって、以下ができます。
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新生豚に初乳を十分に飲ませられる
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新生豚の死亡率が減少
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新生豚の多数死亡による分娩舎スタッフのやる気喪失の防止
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新生豚に保温区域にいることの訓練
成功の重要ポイント
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分娩舎スタッフに初乳の摂取の重要性を知らせる
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空気の循環を良くして新生豚が熱くなりすぎないように
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すべての道具・器具はすぐ手の届くところへ
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とくに産次の高い母豚から生まれた子豚に使用する
ある優良農場例 (生時体重による分割法)
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分娩が確実に終わってから、多い子豚(例13頭以上)リッターの豚を2グループに分割する。
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まず大きい新生豚を、クレートの前にある保温区域に置く
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その日のうちに哺乳パターンを確立させる
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夜中には子豚は自由にさせる
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3日間またはバッチ内のすべての母豚が分娩し終わるまで続ける
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代用乳を使うことも考慮する
米国DNA Genetics社の分割授乳法例 (出生順による分割法) by B McNeil & J Sonderman
新農場2500頭で全若雌農場での初産母豚での実例
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分娩子豚は、乾燥用材を振りかけてから乾いたタオルで拭く
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出生順で分けて、分割授乳を2回実施(待機する子豚は箱に入れる)なおカンサス州立大学の研究で、体重順と出生順での分割授乳による初乳摂取量の比較し、出生順がよしという結果あり
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分娩舎室温を冬だったこともあり25度から始めた
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午前1時まで介助
出生順に分けての分割授乳のSOP
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初めの8頭にマークする
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最後の子豚が生まれてから45分待つ
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初めのマークした8頭を保温箱に入れる
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後で生まれた子豚にまず競争なしで初乳を飲ます
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40-50分間隔で交代する、交代記録カードをつける
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それぞれ2回交代する
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その後すべての子豚を母豚にもどす
出典:https://drive.google.com/file/d/1t8SP8ZwJ8jji1ZEXyMC3mWyv2Qr4U6Kd/view
誕生直後の乾燥・保温の重要性
米国イリノイ大学のMike Ellis 教授は、分娩直後の乾燥・保温の重要性を研究で示しています(2019年)。「平均として新生豚は、分娩された直後30分で3度直腸温度が下がる。とくに生時体重が軽い子豚は、重い子豚より早く体温が下がる。例えば、1キロ未満の新生豚は誕生直後30分で体温が5度下がる。一方、2キロ以上の新生豚は、20分でも1.6度しか直腸温度下がらなかった。さらに誕生直後の乾燥・保温した新生豚は、分娩直後から10分で最低37.6度、そうでない新生豚は30分で35.2度まで下がった。誕生直後の乾燥剤と保温箱を使用した乾燥・保温の有用性が示された」と報告しています。これだけ数字ではっきりと乾燥・保温の有用性をしめされると説得力あると思います。とくに生時体重が軽い豚には有効と思われます。
米国ポーク生産者協議会(NPB)では、スタッフのプロ意識を刺激・インスパイアして、ポジティブなバーンカルチャー(農場文化: Barn-culture; 認め合い助け合う職場環境の伝統)を創造することを薦めています。その中で標準生産手順SOPの項目を紹介します。NPBのサイトは以下https://lms.pork.org/Tools/View/barn-culture
米国農場のSOP項目
種付けと妊娠部門
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母豚と若雌豚の人工授精
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雄豚への暴露
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ボディコンディションスコアと背脂肪厚測定
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繁殖豚の管理、雌豚の淘汰
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飲水器の確認
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発情の検出
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種付け豚と妊娠豚への給餌
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妊娠豚舎での豚の観察
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種付け舎と妊娠豚舎のそうじ・洗浄・消毒・乾燥
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妊娠鑑定法
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精液の取り扱い
共通部分
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動物処置- 筋肉注射のやり方
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安楽死用二酸化炭素ガス使用法
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安楽死用貫通型ボウルトの使用法
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施設の定期的チェックリストとハウスキーピング
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飼料の注文
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死亡豚の堆肥化処理法
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死亡豚の焼却処理法
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停電時の温度変動のアラームシステムのテスト法
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停電時バックアップ発電機のテスト法
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停電時非常用カーテンのテスト法
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死亡した離乳豚・肥育豚・繁殖豚の除去
分娩部門
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去勢のやり方
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導入前分娩舎のそうじ・水洗・乾燥・消毒
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分娩初日の手順 - 子豚用
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分娩初日の手順 - 母豚用
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分娩舎での観察
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母豚への飼料と水の供給 - 授乳期
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分娩室に雌豚を導入
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子豚の安楽死、脳挫傷法
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断尾法
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離乳法
離乳・肥育部門
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離乳豚の導入
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ヒーター管理
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豚舎に豚を導入する
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豚の日常的なケアと畜舎のチェック
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飼料フィーダー口の調整
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成長が落ちていく豚の発見と治療ペン管理
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肥育豚の出荷
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薬剤やサプリメントの飲水投与法
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肥育豚舎のそうじ・水洗・乾燥・消毒
その他(詳しくは健康ページの症状別病気タブを)
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健康問題 - 繁殖部門、問題症状観察(四肢障害、食欲不振、下痢、呼吸器病、直腸・子宮・膣脱、皮膚問題、流産・早産、MMA授乳障害)とチェック法と体温計使用、報告
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健康問題-離乳から出荷部門、問題症状観察(四肢障害、食欲不振、下痢、呼吸器病、直腸脱、皮膚問題、胃潰瘍)とチェック法と体温計使用、報告
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豚舎床下ピットそうじの注意点
H. 若雌豚保持割合を上げる10ステップ
カナダを本社とするFast Genetics 社の若雌豚保持割合についてのレポートを紹介します。https://fastgenetics.com
Gilt Retention Rate若雌豚保持割合:更新用若雌豚が群導入され、3産次まで残っている割合で、70%超えることが目標です。2016-2020年で64%前後とされています。
1、農場の繁殖雌豚の死亡の主な以下の理由を調査し、その発生を最小限に抑えるため適切な是正措置が行われていることを確認する。
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四肢障害
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ダウナー(起立不能)
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直腸・膣・子宮脱
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潰瘍
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難産・周産期病
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母豚のボディコンディションが販売可能な品質基準ではない
2、自農場の保持割合の重要生産指標 (KPI) での数値と、産業界の標準値と目標値と比較し、自農場の位置を把握します。もし自農場が目標値より劣る KPI を特定し、問題点の解明と改善法の取り組みに重点を置く。以下の目標値も参考にしてください。
若雌豚保持割合での重要生産指標 (KPI)と目標値
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年間母豚死亡率(死亡+安楽死):9%未満
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年間淘汰率:41%
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年間更新率(死亡豚+淘汰豚):50%
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繁殖雌豚の淘汰・死亡産次:4産次超
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若雌豚使用割合(種付け若雌豚数÷導入若雌豚数×100):90%超え
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若雌豚保持割合(種付け若雌豚数÷導入若雌豚数×100):70%超え
3、高品質の若雌豚を選択し群導入する
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絶対の若雌豚の選別基準について農場スタッフを継続的な訓練をしましょう
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四肢・ボディコンなどの優れた形質の若雌豚のみを群導入しましょう
4、 成長中の若雌豚には、適切なフィーダーと水へのアクセスとともに、適切なスペースが割り当てられていることを確認する
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5.5 平方m以上のスペース
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ドライ飼料用フィーダーの1頭当り最小5 cm幅
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飲水用ニップルごとに 20 頭未満
5、初交配時に若雌豚の体重を最適な範囲である136 ~ 158 kgにする
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重すぎる (>158 kg) 種付け若雌豚は、四肢障害、難産・周産期病、生産性レベルの低下、および死亡率の上昇をもたらすリスクがあります
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初交配時で若雌豚が大きくなりすぎないように、群導入タイミングを調整するか、最終段階の若雌豚の配給量を増やします
6、目標とするボディコンディション(BC)レベルで母豚を繁殖させる
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過肥のコンディションの母豚は、四肢障害の発生が多くなり、難産・周産期の病気、生産性レベルの低下、および死亡率の上昇を起こすリスクが高まります
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母豚キャリパーや横腹周囲測定テープなどのツールを使用して、交配当日と交配後30日の状態に注目し、コンディションの状態をモニターし、スタッフは常に目をリセットしておきましょう
7、母豚の調子が悪くなりかけたらすぐに介入する
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毎日の動物の最適な識別と慎重なケアの重要性についてスタッフを適切に訓練しましょう。
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スタッフはすぐに利用できるツールを備え、良好なBCや健康状態にないと判断した動物には直ちに対応することを優先してください。
8、分娩クレートで妊娠若雌豚が飼料摂取したり飲水できるようにする
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クレートに入った若雌豚の 10~15% は、ニップル飲水器を見つけて飲水するのに苦労しています。
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ニップル給水器がアクセス容易に設定されていること、流量が毎分 1.8 リットル)であること、時間をかけて雌豚に飲水器を見つけるように教えることを確実にします
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水の消費は、授乳を成功させるための重要な要素です
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母豚は、自分と子豚の両方の必要栄養量摂取のための飼料を消費するために十分に水を飲む必要があります
9、出産プロセスをモニターする
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出産プロセスをモニターすることは、母豚と子豚の健康を維持する上で重要です
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分娩で緊張している母豚をタイムリーに助け、子豚の出産の最後に胎盤が完全に排出されていることを確認します
10. 農場群で良質の母豚のみを維持することを確実にするために、淘汰基準を決め、それを実行する
• 四肢の構造上の問題を持つ母豚、繁殖障害の母豚、または標準以下のレベルの生産性の母豚は、適時に群れから淘汰していくべきです。
• 若雌豚育成ユニット(GDU) の管理では、適切な量の高品質の若雌豚を生産することで、適切な時期に母豚を処分し、かつ繁殖上での目標を達成できます
成長不良豚発生を防ぐために
離乳豚には、急性、亜急性、または慢性疾患により、一般の豚の集団から除外される場合があります。 しかし、この豚集団は、跛行、やせた脇腹、荒れた毛並み、呼吸困難、力のない目、無気力な耳など、さまざまな臨床症状を呈する可能性があり、これらは身体的損傷、病気、飼料を摂取しないことなどのさまざまな症状の結果である可能性があります。飼料摂取量が少なく、一般集団と同様の肥育成績にならない豚は、成長不良豚(fallback pigs)と呼ばれます。
この反応は、特に胃腸系が大幅に成熟するべき重要時期での、離乳ストレスに対する豚の生理学的および行動的反応に基づいていると考えられます。 一部の豚が他の豚よりも離乳に適応するのが難しい理由は完全には理解されていませんが、成長不良豚が特定された場合に助けるための手順を整備することが重要です。したがって、ここで取り上げる戦略は、ストレスを軽減し、子豚の成長と発育を改善し、囲いの探索を促進し、離乳後の早期の飼料摂取を促進する実践的な方法に焦点を当てています。
なお栄養ページの離乳期の飼料摂取量低下を最小にする法も参照してください。
離乳前の戦略
肥育部門で、離乳から出荷までに起こる問題のほとんどは母豚農場に関連しているため、養豚場での成長不良豚を最少限に抑える戦略は離乳前に開始する必要があります。 母豚農場の健康状態と生産性の低さは、離乳から出荷までの高い死亡の発生と強く関連していることが示されています。 したがって、子豚が可能な限り健康に生まれ、離乳できるようにするためには、母豚群の健康管理と未経産若雌豚の導入手順を最優先する必要があります。
出生後最初の 24 時間以内(できれば6時間)に適切な初乳を摂取することは、短期的な生存、長期的な成長、免疫と健康にとって不可欠です。出生後の子豚の冷えを防ぎ、初乳の摂取を促進するには、室温(22℃)と換気の設定値、床材とヒートランプの適切な管理を通じて各クレート内に良い周囲環境を作り出すことが必要です。ヒートランプの位置が初乳の摂取量や子豚の生存に影響を与えることはまだ証明されていません。ただし、生まれたばかりの子豚を乳房の近くに置くと、誕生から初乳哺乳までの時間が短縮されます(Dr. Kara Stewart)。
初乳を確実に摂取するもう 1 つの方法は、分割哺乳です。これは、同腹子の中で最も重い豚、または同腹子で初めに生まれた半分の豚を、約2時間一時的に取り除くことでできます。これにより、多産子豚の時に各子豚が初乳を摂取する機会を増やすことができます。
クロス里子は、母豚の乳頭スペースを管理するために使用できるもう 1 つの戦略です。 ほとんどの研究は、クロス里子は、子豚が初乳を摂取する機会を得てから、乳首の順序が確立される前、出生後 12から24 時間以内に行うべきであることを示唆しています。クロス里子を行う場合、産子の数だけでなく、里子に出される子豚と受入れ分娩腹の子豚の両方の日齢と体重も考慮する必要があります。理想的には、軽量子豚 (< 1.0 kg) は他の軽量子豚と同腹 (< 9 頭) で育てられるべきですが、重い体重の豚はミックスとして育てることができます。同様に、子豚は哺乳活動の低下を防ぐために、同じ日齢のリッターで育てるべきです。
ただし里子に関しては、農場によってはPRRSによる死亡率を少なくするための細菌感染をコントロールする管理(McRebel法)も考慮する必要があります。この場合はクロス里子の制限とオールイン・オールアウトの完全実施が柱です。現在McRebel法では、同室のみで実施し分娩後24時間以降の里子はしないことになっています。
母親の飼料を通じてフレーバーを暴露し、分娩後、離乳豚のスターター飼料で同じフレーバーを再暴露することで、成長不良豚を最少限に抑える機会が得られる可能性があります。 一部の研究では、フレーバー味の学習が離乳後の固形飼料への嫌悪を軽減し、飼料摂取量を改善する可能性があることを示唆しています。しかし、同研究では豚の除去される割合への影響は判明していません。
クリープ給餌は、飼料摂取量を改善し、農場での成長不良豚を最少限に抑えることが証明されているもう 1 つの戦略です。 哺乳期にクリープ飼料を与えることで、母豚から母乳を摂取しつつ、子豚は安全で馴染みのある環境で固形飼料に慣れることができ、離乳後の固形飼料忌避を軽減することができます。 ただし、クリープ飼料用フィーダーは清掃やメンテナンスが難しいことが多いため、農場での使用は困難な場合があります。クリープ用フィーダーを使用するのではなく、クリープ飼料を分娩クレートの床マットに直接供給しようとする試みもあります。 例えば、クリープ飼料を分娩クレートの床マット上にペレット状のフェーズ1飼料を与えると、農場ベースでの肥育成績の向上が観察されました。なお雌豚の授乳飼料をクリープ飼料として与えると有益ではありませんでした。
離乳前に離乳用飼料または離乳用飼料に類した飼料を提供することで、子豚の飼料摂取量と離乳後の成長に対するクリープ飼料の効果を最大限に高めることができます。大きな直径のペレットのクリープ飼料(12 mm)を与えることは、離乳後のクリープ飼料の消費量と摂取量を増やすもう 1 つの方法です。さらに大きなペレット (12.7 mm) を与えた場合にも、離乳豚の除去割合に対するプラスの効果が観察されました。
さらに、クリープ飼料の摂取量は離乳日齢に依存し、離乳日齢が上がるにつれて摂取量が増加することが観察されています。米国の最近の離乳日齢(約 21 日)を考慮すると、離乳前の最後の 3 日間までは、哺乳豚の餌の摂取量は比較的少ない(< 150 g)ままです。ただし、クリープ飼料を 3 日以上与え続けると、クリープ飼料を摂取する豚の割合が増加する可能性があります。したがって、クリープ飼料の給餌の期間は少なくとも 3 日間行う必要があります。しかし3日以上延長するかどうかは、クリープ飼料のコストと労働力に基づいて経済評価する必要があります。クリープ飼料を摂取する豚の数は、ホッパーまたは遊び具付きロータリーフィーダーでクリープ飼料を提供することによっても増やすことができます。クリープ飼料に加えて子豚用の飲水器を介して水分を補給すると、特に日齢の高くなるとさらなる利点が得られる可能性があります。
離乳前に分娩豚舎で哺乳豚をミックスすると、余分な周辺への探査行動が減少し、離乳後の飼料摂取量と体重増加が改善されることが示されています。 いくつかの事例では、離乳前のストレスの減少と病原体への曝露の増加により、離乳後の健康状態と生存率が改善されたことを示唆しています。
離乳日齢が上がると、豚の離乳準備が整い、離乳から終了までの成績が向上し、離乳豚の除去割合が低下する最大の機会が得られます。生後 24 日未満の豚の離乳は腸の透過性の向上と関連しており、これにより大腸菌などの健康問題が悪化する可能性があり、その後まで続く慢性的な繰り返しの下痢を引き起こす可能性があります。
注意)離乳日齢が1日延びると、母豚回転率が0.02下がります。しかし多産系母豚など分娩時生存産子数が増やせる場合には、離乳日齢延長による母豚の生産性の低下が相殺できます。なお分娩施設の増設も必要になります。
離乳後の戦略
豚舎環境は、豚が離乳後にどのように飼料を摂取し始めるかに大きな影響を与えます。 したがって、離乳豚の受け入れ準備が、離乳からの移行をより成功させるための鍵となります。 これには、ニップル給水器がオンになっていること、カップ給水器だと水が満杯であること、給餌器で飼料が利用可能であること、豚舎の温度 (23-29度) と換気が適切な設定値にあり、動物の寒さを避けながら適切な空気の流れが確保されていること、マットが適切に保たれ、補助的なヒーターが利用可能なようになっていることを確認しておきましょう。
種豚メーカーが豚の肥育成績で要求率を向上させることを選択しているため、新たに離乳豚を飼料の食いつきはより困難になってきています。したがって、飼料 摂取量が少ない豚では、離乳後の最初の 7-14 日間は、より高い温度設定値とより集中的なケアが必要になる場合があります。 同様に、使用される種豚ラインの予想される飼料摂取量と成長カーブを知っておくことは、飼育者が豚の状態をより適切に追跡するのに役立ちます。
豚が離乳豚舎または離乳・肥育一貫豚舎に到着したら、選別でグループに分ける離乳の移行を確実に成功させ、成長不良豚の発生を防ぐことができます。 体重の軽い豚(全体の約 10%)を均一体重のグループにし、残りの豚を混合グループに分類すると、体重の重い豚の初期の攻撃性が軽減され、体重の軽い豚に給餌の機会が広がります。
性別によるグループ分けも、混合時の攻撃性を軽減することが証明されているもう 1 つの選択肢です。 同様に、特に飼養密度が高い場合(15 頭/ペン)または床面積が少ない場合(≤ 0.25 平米/頭)、給餌器の穴あたりの豚の数を減らすと(約 3.75 頭)、給餌の開始がより迅速になり、離乳豚の発育不良豚が減ります。
フィーダーデザインの最も重要な要素は、飼料へのアクセスと管理の容易さです。 通常、離乳したばかりの豚には餌を摂取するのが難しく、餌皿に水が入りすぎることが多いため、湿式/乾式給餌システムは推奨されません。床とフィーダーのスペースに加えて、飲水器のスペースも考慮する必要があります。豚の住居および設備ハンドブックでは、ニップル型飲水器スペースあたり 10 頭の離乳豚を推奨しています。 ただし、ほとんどの生産農場では 25:1に近いです。若い離乳豚はニップル給水器を好みますが、水の無駄を減らし、肥育成績に影響を与えないレバープッシュ式のボウル給水器が推奨されます。
選別グループ分けに加えて、離乳豚の栄養要求量と消化能力に合わせた適切な段階給餌プログラムを確立することが重要です。予算給餌は通常、離乳時の豚の体重に合わせて行われ、重い離乳した豚は軽い離乳した豚に比べてスターター飼料の量が少なくなります。 これは、スターター飼料は飼料原料の複雑さのため、より高価であるためです。離乳年齢データは、消化能力は体重よりも豚の年齢と密接に関係しているため、スターター飼料予算を体重ではなく豚の年齢に合わせる方が有益であるといわれています。ただし、この仮説は検証されていません。
可能であれば、飼料効率を高めるためにスターター飼料をペレット状で提供するべきでしょう。 豚は粗挽きコーンや直径の大きいペレットを好みます。軽量豚や成長不良豚用のペンでは、早期の飼料摂取を促すために、スターター飼料の前にさらに嗜好性の高い成分を含む集中治療飼料を提供する必要がある場合があります。
マットや粥状飼料の給餌を通じて、飼料アクセスを増やすことも、成長不良豚を防ぐもう 1 つの方法です。
豚が生後 24 日前後で離乳する場合、これらの戦略はそれほど重要ではない可能性があります。しかし、幼齢(生後 21 日以下)または健康状態に問題のある個体の場合、導入後 10 日間までマットでの給餌または粥状飼料を1 日 2から4 回与えると、哺乳と同様の集団摂食行動が刺激され、周囲の探索と摂食活動が増加するはずです。
マット給餌は、フィーダーから 1から2 つかみの餌を取り出し、それをマット給餌専用に指定されたマットの上に直接置くことで実行できます。ヒーターの下で利用できる別のマットを用意しておくと、隙間風を最小限に抑え、豚に暖かく乾燥した休息場所を提供するのに役立ちます。 粥状飼料用フィーダーに水を加えて粥状飼料を与えることは、複数の飼料アクセスのもう 1 つの方法です。 粥状飼料の給与は、より液体の混合物から始めて、時間の経過とともに(離乳後3から10 日)徐々に乾燥した飼料に移行する必要があります。 給餌時間ごとに飼育スタッフが囲いに入るという行為は、1 日に 2 回以上豚を起こして観察する機会にもなります。 これは、離乳後の最初の 3から10 日間に特に重要です。
成長不良豚の特別ケア
成長不良豚の発生を完全に防ぐのは困難です。したがって、成長不良豚が特定され、一般集団から排除された場合に適切に対処する方法を知ることが重要です。 早期の特定が鍵となります。集中治療ペンには、豚を暖かく乾燥した状態に保つためのヒーターが装備されている必要があります。 これらのペンへの風を制限することも重要であるため、壁のファンや天井の吸気口との関係で集中治療ペンの位置を考慮する必要があります。
通常、これらのペンは外壁から離れた部屋の中央に配置することをお勧めします。場合によっては、過度の隙間風を防ぐためにペンのフェンスラインにしっかりとした仕切りを追加する必要がある場合もあります。このため、ピットの隙間風を減らしながら豚にしっかりと眠る場所を提供するマットも重要です。プラスチックのカバーや防水シートを使用して、ペンの背面に微環境を作り出すこともできます。 さらに、満腹が観察され豚が回復ペンに移されるまで、この豚群にマットと粥状飼料を長期間与える必要があります。
これらの管理法はいずれも、豚が利用する場合にのみ成功します。したがって、特に大型ペンにおいては、豚が飼料、水、またはヒーターを見つけるために遠くまで移動する必要がないようにすることが最優先されます。 これには、ペン全体の異なる場所に複数のリソースを配置したり、大きなペンを複数の小さなペンに分割したりする必要がある場合があります。 一日を通して集中治療用ペンを頻繁に観察することが優先事項であり、飼育スタッフは豚を起こし、餌や水の方向に移動させることに集中すると同時に、必要に応じて適時に安楽死が適用されるように動物の経過を観察する必要があります。
熱ストレス母豚の発見と対応法
出典:C. Johnson(Carthage system社)、AASV2023, Pre-conference seminar, Improving Pig Survivability through Research and Industry Collaboration. https://piglivability.org/conference-recordings
熱ストレスで、母豚の死亡が増え、死産子豚数も増え、母豚の発情の弱く短くなり、非規則的になります。授乳期の飼料摂取量が減り、母豚の体重減が増え、授乳子豚の増大量が減り、離乳後の発情回帰日数が延長します。
母豚が熱ストレス状態であること早めに知る必要があります。熱ストレス時には、体温だと38℃から39.4℃です。体温測定がいやがる母豚もいます。体温を測るのもいいのですが、1分間の呼吸数を測るのが簡便です。母豚の正常での呼吸数は、1分間に15-25回です。もし1分間に60回も呼吸数があるようでしたら、母豚は精一杯で、危ない状態です。
対処法:水と空気で母豚を冷やしましょう。まず水滴を肩に垂らすドリップ法がおすすめです。また小型換気扇の風を直接あてるのも方法です。分娩舎の換気システムが正常か確認しましょう。クールセルなら400 fpmまで可能なこと。細霧装置や水滴ドリップクーラーが正常に動いているか確認。その他の母豚で熱ストレスの母豚はいないか。とくに最近、分娩舎に導入され、活動的な母豚に注意。
米国の豚生存率向上プロジェクトでの主な成果、すべきこと、無駄なこと
米国は母豚死亡率、哺乳中死亡率、離乳・肥育期死亡率を下げようとしています。出典:Jordan Gebhardt, Tokach et al, https://doi.org/10.54846/am2024/s5-9
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母豚死亡率を減らすためするべき戦略
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妊娠後期中の雌豚のボディコンスコア(BCS)をモニタリング。痩せた雌豚は、正常な雌豚や太りすぎの雌豚と比べて膣・子宮・直腸脱(POP)を起こす可能性が高くなる
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バンプフィーディング戦略(妊娠後期に飼料量を増やす)を使用すると、ボディコンスコアが低い雌豚の妊娠後期に、バンプフィーディング戦略を使用しない農場と比較して、膣・子宮・直腸脱(POP)の発生率が低くなる
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膣・子宮・直腸脱POP の発生率は種付け時の雌豚のサイズと相関しており、種付け時の雌豚サイズが軽かった農場 (胴囲で測定) は 膣・子宮・直腸脱POP の発生率が高い
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四肢障害豚の早期発見と治療 - 四肢障害がある豚を常に探し治療など、雌豚を毎日モニターして、治療が必要な豚をより迅速に特定し、治療などを行うと、試験された農場における雌豚の年間死亡率は相対的に25.4%減少した
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分娩前の給餌戦略、雌豚に0.7キロの飼料を4回与えると、分娩前の3~5日間自由摂取させた場合と比較して分娩介助が減少した。
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分娩前に分娩箱で 1 日あたり 2.3キロの給餌していた農場では、1 日あたり 2.3キロ以上与えていた農場と比較して、POPの発生率が高くなった
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膣・子宮・直腸脱POPのリスクがある雌豚を見つける法、分娩前の外陰・肛門部スコア評価、スコア 3 (突出度、中程度から重度の外陰部の腫れ) を持つ雌豚は POP を発症する可能性が高いことが判明、これらの雌豚のPOPを防ぐ法を開発する必要がある。ゲノムデータにより、POP には中程度の遺伝性があり。膣と糞便のマイクロバイオームは、POP のリスクに関してはまだ不明。
雌豚の死亡率を低下させないことが判明したもの
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飼料および飲水で投与したメチレンジサリチル酸バシトラシン(BMD)は雌豚の死亡率を低下させない。がBMD の使用により、POP のリスクが高い雌豚の死産子豚の発生率が大幅に減少した
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妊娠後期にアンピシリンを膣内注入しても、POP の発生率は減少しなかった
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哺乳中子豚死亡率を減らすためするべき戦略
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初乳の適切な摂取、新生豚の生存性を向上させるためには、初乳は子豚あたり 300 ~ 350 グラムである必要がある
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エンリッチメント用ロープ効果あり(右図)、哺乳子豚の死亡率は、母豚から離す効果で、期間中のロープに乳状チーズの添加により減少した。さらに誘引剤添加は離乳時の死亡率が低かった
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分娩前の母豚への給餌、分娩前に雌豚に0.7キロの飼料を4回与えると、分娩前に自由に与えた雌豚に比べて子豚の死亡が減少した
離乳前の死亡率を低下させないことが判明したもの
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授乳中の雌豚の必須脂肪酸(EFA)摂取は、同腹子の生存率やその後の母豚繁殖成績に影響を与えない
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分娩誘発は、生存産子数、死産子豚数、ミイラ子豚数、分娩時に介助の必要、胎児の血中酸素濃度には影響を与えない
3. 離乳・肥育期の死亡率を減らす戦略
2,568グループでの離乳・肥育一貫飼育を分析し以下がわかった
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雌豚農場の健康状態と生産性の向上は、離乳期から肥育時期の死亡率の低下と関連していた。たとえば、分娩率が高いこと、離乳前の死亡率低いこと、離乳年齢高い農場は、離乳から肥育での生存率が高い
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離乳から肥育出荷までの死亡率の増加は、連鎖球菌、ヘモフィルス性肺炎、PRRSV、マイコプラズマ性肺炎およびPEDVと関連
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離乳後のストレスと成長に対する遺伝的影響あり。早期に成熟したデュロック種からの豚は、ストレスが少なく、飼料摂取量が増加し、離乳後の体重減少率が低く、離乳期間中の体重増加率が高い
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エンリッチメント用ビスケット(日本未発売、下図)により、給餌場での豚の関心が高まり、動物福祉が向上した、離乳後の豚にエンリッチメント用キューブを提供すると、離乳後に体重が減少した豚の割合が減少(3.8% vs 15.5%)。
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ペレットのサイズとマット給餌、授乳期に大きなペレットのクリープ飼料を給餌すると、ペレットでないクリープ給餌と比較して、離乳豚の成長が改善され、成長不良豚率が減少した。マット給餌は、マット給餌を行わなかった場合と比較して、死亡率と淘汰・死亡率を減少させた (9.3 対 8.0%)
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粉末誘引剤(日本未発売)、離乳の前後に誘引物質の粉末を豚に与えると、離乳後の最初の 3 日間で体重が減少した豚の割合が約 20 パーセント ポイント減少した
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飼料中の必須脂肪酸、リノール酸:リノレン酸の比率は未経産豚の成長に影響を与える可能性があり、さらに低エネルギー飼料の使用は関節の炎症を軽減するようである
離乳期から肥育出荷期までの死亡率を低下させないことが判明したもの
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離乳前後に液体の誘引剤の効果は限定的であった
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リノール酸:リノレン酸の比率が 4:1 の餌を豚に与えても、関節の炎症は変化しない
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マット給餌の頻度を 1 日 2 回から 4 回に増やしても、離乳舎での死亡率は減少しない