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米国における契約生産

今後日本でも盛んになる可能性のある契約生産について米国の事例を紹介します。アイオワ州立大学のローレンス博士らの報告とカンサス州立大学の資料を参考にしました。

  • 6​種類の生産形態

  • ​よい契約のために

参考アイオワ州立大学、https://swine.extension.org/producing-and-marketing-hogs-under-contract/

カンサス州立大学、https://www.uwagec.org/riskmgt/MarketRisk/ContractHogProduction.pdf

6種類の契約形態

 契約生産は米国養豚界では急速に拡散しています。インテグレーターと呼ばれる契約主は、契約生産で種豚ラインと飼料から肉販売までを含めて生産を繋ぐことができます。米国の約14-16%の生産は契約生産で、出荷豚の販売契約もあります。また、米国養豚産業界ではほとんどの大手食肉会社では、肥育豚に対する出荷契約をしています。

 豚の主産地である米国中西部では肥育豚の生産契約は新しく伸長しています。一方、米国南東部では、契約での肥育豚生産は広く行われていました。以下の形態があります。6契約生産形態は:1)肥育豚の特定食肉会社への出荷契約、2)肉豚出荷会社への肥育豚の出荷契約、3)出荷肥育豚の生産契約、4)肥育用子豚の繁殖生産契約、5)繁殖肥育一貫生産契約と6)繁殖豚リースです。

1)肥育豚の特定食肉会社への出荷契約(固定価格と相場価格)

 出荷契約は、食肉会社と生産者でなされ、生産者はある日付けで、決められた頭数を、決められた価格で販売するという契約です。契約価格は、一般的にシカゴ先物価格を参考に決められ、それより低くなります。一般的に、食肉会社は先物市場でヘッジします。契約の特徴は以下です。

  • 最低の契約量は、25頭から200頭

  • 日付けと出荷場所。出荷日は両者で相談となり、生産者は決められた日程のなかで出荷日を決めることができます

  • 食肉会社が受容できる生体重と格付け、上乗せ価格と格落ちディスカウントを含みます

  • 価格の決め方の記述(固定価格なのか公式を使った価格)、格付けと歩留まり率をベースにして生産者が有利になる契約が増えています

  • 出荷しない肥育豚と受理できない屠体の規定。食肉会社は受理できない豚やと体の価格については受理した豚のレシートからさし引きます

  • 食肉会社は生産農場を査察できるという規定

  • 契約違反への規定。生産者の契約違反の場合には、食肉会社が被った全被害に対して、生産者は責任を負います

 

 固定価格契約では、生産者は販売価格以外のすべての生産リスクを負います。しかし生産者は固定価格での出荷契約で、豚肉相場の上下変動によるリスクを避け、自分が売りたい価格に固定できます。ただし、豚相場が沸騰した場合の利益は失います。この経営判断は、生産者の相場の不確かさのリスクを負うことへの意思と能力によります。負債が少なく財務安全性が高い生産者は、相場変動のリスク耐えれますが、そうでない生産者は、固定価格を選ぶ傾向にあります。なお米国では、生産者も相場リスクをシカゴ先物取引でヘッジできます。

 シカゴの市場でなく、出荷時の相場価格で決められる方法もあります。生産者は決められた頭数を決められた日付けで出荷します。食肉会社は最低の固定価格を保証します。一般的に、生産者はその時の相場価格や固定最低価格よりは高い価格(ディスカウントで差し引きされ)で販売できます。固定価格での出荷契約は、相場変動のリスクを避けれますが、他の生産リスクは生産者が持ちます。

2)肉豚出荷会社への肥育豚の出荷契約

 子豚の肥育豚の契約は、出荷会社や農協と生産者との間で結ばれます。出荷する会社や農協は、手数料をとり生産して食肉会社へ出荷します。契約は以下の規定があります。

  • 生産者はすべての豚をその出荷会社や農協に出荷します

  • 出荷会社や農協は、生産者に対して従うべき生産方法を指導し、技術サポートもします。指導には出荷体重、健康状態、ワクチン接種などを含みます

  • 出荷会社や農協は、多くの生産者の肥育豚をプールして強い販売力を持ちます

 この契約では生産者は、販売力のあるエキスパートである出荷会社に出荷することで、販売力を上げることができます。

3)出荷肥育豚の生産契約

 米国の大手や中堅の生産者は、急速に生産拡大をするために、契約主またはインテグレーターとなり、農場や土地を持っている生産者を募集して生産契約をしています。その契約主は、生産リスクと必要資本額を下げることができます。投資家、飼料会社、農家やその他でも、豚の生産を広げたいが、働き手、土地や施設や設備が十分そろえるのが難しい場合にこの契約が使用します。契約主は、豚舎を持ち、固定給または利益の分配で、働いてくれる生産者を探します。この生産契約で生産者と契約者である豚のオーナー間でなされる契約は、多くのやり方があります。この生産契約は、若くて財務基盤が十分でない生産者や、使用していない豚舎をもつ生産者にとって魅力のあるものです。

支払額の実例1、カンサス州立大学の調査

 支払い額は、豚1頭当りのスペース当り年3000円から4000円としています。出荷豚1頭当りだと、900円から1200円です。1日1キロ増体当りだと、11-12円です。なお日米では生産コストが違います。米国の生産コスト11588円のうちの飼料費以外で金融・償却含む生産コストは1頭当り3776円です(参考:経営セクション表2)。カンサス州立大学調査では、契約生産での契約生産者への支払い1200円は、飼料費以外の生産コストの32%ということになります。

支払額の実例2、カクタスファミリー農場

 米国28番目の生産規模を持つカクタスファミリー農場は積極的な伸長を図っています。母豚35000頭を飼養し年間850000頭の肉豚を出荷しています。肉牛の契約生産会社が親会社です。アイオワ州に本社があり、従業員が100%の株を保有して、30年の契約生産の経験(生産指導、サポート、財務、認許可、豚舎建設、環境、法務と周囲との関係の問題)を持っています。24時間365日の生産サポート(飼料の注文、ピッグフローのスケジュール、豚の輸送、ワクチン接種やその他質問)をしています。ウィーン・ツゥ・フィニッシュの離乳肥育一貫生産での契約です。

 契約条件ついて、実例として新豚舎建設の場合は、負債返済に十分な12年から15年契約で、支払い額は、豚1頭のスペース当り年4400円を毎月支払いとウエブで公表しています。年2回転するとしたら1頭当り2200円となります。この場合は、上記の飼料費以外の生産コストの58%となり、上記実例1よりずいぶん有利です。カクタス社の事例は特別にいい条件と思われます。なお労働時間は約2400頭の豚舎で年間800から1000時間で日常業務、豚の導入と出荷、ワクチン接種、豚舎の清掃と修理メンテを含みます。標準豚舎はトンネル式換気の2485頭分の離乳肥育一貫豚舎です。すぐ使える状態で最新鋭の2485頭分の離乳肥育一貫豚舎で8600万円(写真1と2、1ドル=100円で換算)の投資ですが、20ヘクタールの土地担保と450万円あれば始められますとカクタス社ホームページで宣伝しています。耕種農家で土地はあるが十分な利益があげれてていない農家をターゲットとしているようです。息子や娘が故郷に帰ってこれる十分な利益をあげれると宣伝しています。米国でも日本と同様な後継者問題があるようです。写真はカクタス社のモデル農場です。(https://www.cactusfeeders.com/cactusfamilyfarms.html#download

支払額の実例3、ホールデン農場

 ミネソタ州にある農場で2つの農場の比較を紹介しています。2000頭収容の農場に対する契約です。契約は豚スペース当り年3800円(38ドル)です。年間(365.25日)だと豚舎当り760万円(76000ル)、1か月だと63万円(6333ドル)、1日当り20800円(208ドル)です。1農場の仕事量は2時間程度ですので、1時間当り10400円で、米国ではいい報酬です。これに飼料要求率の報酬やペナルティがあると思われます。​2つの農場の実例が紹介されていました。違いは管理している人の違いです。

肥育農場の基礎として要望されること:導入時ケアとしてエサ・水・空気(室温と換気)、日々のケアとして、エサ・水・空気のほかに、個々の豚の観察・処置、指導スタッフとのコミュニケーション、出荷時には体重の区別ソートです。

悪い肥育農場の特徴は、導入時の低い室温の豚舎、飼料フィダーが調整されていない、ケアが必要な個々の豚に必要なケアがされていない、必要でないケアが多い。出典:リーマン学会2023年 https://www.youtube.com/watch?v=jq4PFxJpHjc

契約生産

経営サブセクションの経営実例のシュワルツ農場の契約条件も参考にしてください。

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オプション2、農協や飼料ディーラーと生産者による肥育豚の指導付き出荷契約、この場合に契約主の目的は、飼料の販売額を増やし、計算できる飼料の販売先を増やすことです。

 契約主は、飼料と一定の管理の手助けを供給し、飼料の給餌プログラムを指導します。契約主は、肥育用の子豚を購入し、肥育豚を出荷して利益も得る場合と、または契約主が、生産者に肥育用の子豚を飼うためのお金を貸します。生産者は契約主から飼料とその他の関連サービスをすべて購入し、すべての生産のコストに責任を負います。そして生産者は、肥育豚の販売額から契約者から購入したものを差し引いた額を受け取ります。

オプション3、利益分配契約、生産者と契約主は、出したものに対する比率で利益を分配します。生産者は豚舎と労働、電気光熱費と保険をだします。契約主は、肥育用の子豚を買い、すべての飼料、獣医サービス、運送と販売経費を持ちます。契約主は飼料工場をもち管理の援助も行います。生産者は契約用の口座を持ち、その口座の販売額から契約主に支払った額が引かれていきます。ただし生産者には、利益の有無にかかわらずお金が支払われます。典型的には、死亡割合が3%以下だと1頭出荷当り5ドル、5%を超えると1頭当り3ドルくらいが、生産者に支払われます。契約主の利益は、肥育豚の販売から飼料、子豚やその他費用を差し引いたものとなります。

 この契約だと、生産者は大きな利益を得る可能性という不確かさの代わりに、安定した利益を見込めます。この契約は、十分な資本をもっていない人、または大きな投資をしたくない生産者にむいています。

4)肥育用子豚の繁殖生産契約

オプション1、原種豚以外のすべてを生産者が供給します。例えば1腹当り離乳頭数などの繁殖成績によって支払われ、ディスカウントやボーナスもあります。ほとんどの生産リスクは生産者がとります。

オプション2、契約主が、原種豚、飼料、豚舎と管理の手助けと監督を受け持ち、生産者に1頭当りで一定額の手数料を支払います。この固定額は、豚の体重や生産コストで変わってきます。この契約ではほとんどの生産リスクは契約主になります。

オプション3、契約主が、原種豚、飼料と獣医衛生コストを供給します。生産者は労働、電気光熱費、豚舎の維持修理費と糞尿処理を受け持ちます。生産子豚1頭当りの手数料、母豚と雄豚1頭当りの月額手数料が農場のマネージャーに支払われます。この契約は、農場オーナーがもう生産には直接かかわらないが、よいマネージャーがいるが、その人が農場を買うほど資本がない場合に使われます。

オプション4、利益とリスク分配契約、それぞれの参加者は、出したものに対する比率で利益を分配します。例えば、生産者は、豚舎と獣医医療費、電気光熱費、労働と保険を供給し、生産子豚1頭に対しての販売額から、一定のパーセントを受けとります。飼料ディーラーは出した総コストから、一定のパーセントを受け取ります。残りは、種豚会社や管理会社に行きます。パーセントは参加者がだしたものと、とったリスクで決められるます。

5)繁殖肥育一貫生産契約

 繁殖肥育一貫生産での契約は、参加者(生産者、種豚会社、飼料ディーラー、生産管理会社、パートナー会社)のだしたものをベースに粗利益からの受取パーセンテージが決められます。

オプション1、生産者が豚舎、労働、獣医ケア、電気光熱費、保険を供給し、そのコストから粗販売額からの一定パーセンテージを得ます。飼料ディーラーは、飼料と標準的な抗生剤添加飼料を供給し、販売額から先に決められていた受取パーセンテージを得ます。出資したパートナーと種豚会社も一定の受取パーセンテージ額を得ます。管理会社も、コンピューター記録管理とコンサル指導を供給しているので、一定の受取パーセンテージを得ます。

オプション2、その時の豚在庫は、あるパートナー会社にすべて買い取られます。その会社が以後の繁殖用若雌の更新豚を供給します。生産者は、豚舎、労働、電気光熱費、獣医医療費、修理費を供給し糞尿処理も担当します。飼料ディーラーは飼料と標準的な抗生剤添加飼料を供給します。管理会社は生産と出荷販売の指導を行こないます。それぞれの参加者は肥育豚が販売されお金になった時に、一定のパーセンテージを得ます。さらに、残りはパートナー会社やパートナー契約の管理会社にもパーセンテージ手数料が与えられます。

オプション3、契約主は、原種豚、飼料と管理システムマニュアルを供給します。生産者は、豚舎、労働、電気光熱費、獣医医療費、修理費を供給し糞尿処理も担当します。生産者は、出荷1頭当りまたは出荷体重当りの手数料をえます。そして繁殖分娩成績や飼料効率で追加ボーナスを得ます。

実例、カンサス州立大学の調査では、肥育用の子豚1頭当り2000円としています。米国の生産コスト11588円のうちの飼料費以外で金融・償却含む生産コストは1頭当り3776円(参考:経営セクション表2)で割ると53%となります。肥育生産者が32%、繁殖生産者が53%のコスト分をえるという計算になります。残り15%にコストが契約主ということになります。

6)繁殖豚リース

 繁殖豚リースの使用は非常に低下しています。多くのリース契約主は、繁殖母豚群のケアに満足していません。生産者から使用料金も収集できていないリース主もいます。

よい契約のために(肥育契約を例として

 生産契約における生産者と契約主の関係は、肥育豚の出荷契約より複雑です。まず生産者は契約主の財務や過去の業績など調査をすべきです。例、契約主は何年のビジネス経験があるのか、財務状態、契約生産のビジネス経験、その契約主は他の生産者と契約期間を終了できているのかなどです。多くの契約では、年間何回転などをはっきりしています。さらに契約主から提示される実例についての、キャッシュフローと生産者の純利益をよく見るべきです。また投資を必要とする場合には、計画通りに利益が得られなかった場合のキャッシュフローと負債の返済への影響をシミュレーションすべきです。豚導入頭数・在庫頭数・死亡ロス数・出荷頭数などの記録も定めるべきです。またビジネスや法律の専門家にも相談すべきです。さらに契約では以下を明らかに記述すべきです。

  • 生産者と契約主の正式名

  • それぞれの権利と義務、例えば契約主はいつでも豚をチェックできる

  • 契約する豚の頭数

  • 契約期間

  • お金の支払い方法とタイミング

  • 肥育豚出荷のタイミング

  • 生産者と契約主がそれぞれ払う費用

  • 使用する飼料とサプリメントの商品名

  • ボーナス支払いと割引発生の場合の明瞭な定義

  • 健康的でない豚はどのように扱うべきかの明瞭な記述

  • 生産成績がどのように計算されるかの定義

  • 生産者と契約主がそれぞれどのように契約を止めることができるか

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